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混沌世界の夢の果て~神々の中にひとりだけ混じるって、めちゃくちゃキツイだろうなあ(他人事)~


 経験値を付与された朝の女神は元の力を取り戻し――。

 むしろ前よりさらにレベルが上がった影響か、世界に更なる春を与えて輝きだす。

 ……。


 って!

 しまった! 元の状態の朝の女神でさえ顕現しただけで周囲を圧倒していた。

 目視すらできぬほどのレベル差のある人類が、そんな光を浴びたらまずい!


 緊急転移させようと思った、その時だった。

 天から声が響きだす。


『ふふ、妾のマカロニも存外にうっかりやじゃな。ペルセポネーのレベルを戻す後始末もちゃんとできたようなので、褒美じゃ』


 アシュトレトだろう。

 彼女の宣言と同時に僕の周囲の空間が歪み、しゅん!

 空中庭園から伸びた転移の光が、人類の精神を壊す前に僕らを天へと運んでいたのだ。


 飛ばされたのは朝の女神を中心に、僕とアランティアとメンチカツ、獣王ベヒーモス。

 そして今回の件の当事者の一人である”呪われし侍傭兵ギルダース”である。

 獣王や神の僕らとは違い、純粋な人類のギルダースにこの場はかなり重いらしい。


 それもそうだろう。

 この場は空中庭園でもおそらくもっとも重要な場所。

 最高神であり主神レイドの玉座の間だった。


 姿を現しているのは、主神とアシュトレトの二柱。


 顔を上げられずに脂汗を滴らせるギルダースの肩に心配するなと一瞬、フリッパーを当て。

 偉そうに玉座で座っている主神レイドに僕は言う。


『うっわ、朝の女神も巻き込んだ空間転移かよ……あんたらはあいかわらず半端ないポテンシャルだな』

『お久しぶりですマカロニさん、羽毛をモフモフさせていただいても?』


 無駄に神秘的に、キラキラキラ!

 にっこりと胡散臭いスマイルを浮かべる、美形エルフ顔の主神に僕は、あぁん!?

 メンチカツのメンチ切りをコピーし使用。


 あぁん!? あぁん!? と睨みをループさせる僕にすら癒しを感じるのか、実に満足そうな鼻息を美貌から僅かに漏らし、主神レイドは言う。


『はは、あなたも相変わらずのようで安心しましたマカロニさん。女神を倒すほどの実力をまさかこれほどの短期間で身に着けるとは、さすがに想定外でしたよ。さて、そうですねまずはペルセポネーの件にて、あなたに礼を。ありがとうございます、とても感謝しておりますよ』


 こいつはどうも胡散臭いから信用できない。

 悪意がなさそうな所が厄介なのだ。

 僕は目線をそのまま横に逸らし、夜の女神さまは――残念ながらいないので水の流れがする空間に問う。


『女神ダゴン、どーせあんたもそこにいるんだろう? あんたらが今回の件にどこまで関わってたのか詳しく聞きたいんだが、構わないか?』

『んな……っ!? これレイド――! なーぜ! 妾はふつーにそなたの前に顕現しておるのに無視をするか!』


 腕を上げたアシュトレトがぷんすかぷんすか、コミカルに怒っている。

 それを穏やかに見守る主神の顔が、もうなんつーか……こいつら仲いいなあ。

 いや、まあ実際に分類するならば夫婦神なのだろうが。


 ともあれ――いつものやり取りだが、どーしても言ってやらないと気が済まない。


『自分の胸に手を当てて考えて――いや、なんかこのパターンは前にやって辟易した記憶があるが! とーにーかーく! 主神とあんたと地の女神の言葉に信用度がないんだっての!』

『そーはいうが、妾はおぬしにはそこまでやらかしておらんじゃろう!』

『あぁぁぁぁ! 話が逸れるからもうパスだ! パス! ただでさえ聞かないといけないことが渋滞してるんだよ!』


 クワワガァガ、ペペペ!

 主神たちのプレッシャーに負けなくなった僕に続きメンチカツも、ふんと腕を組んでゴムクチバシをクワ!


『ダゴンさんよ、オレの方も聞きてえな。これはいったいどーいうことだ? なぜ相棒は生前の記憶を失っていやがる。事と次第によっちゃあ、オレはあんたでも裏切るぜ』


 僕たちの声に反応し、玉座の横の空間から滝が流れ始め。

 さぁぁぁぁぁぁぁ!

 神聖さと邪悪さを併せ持つ清流と共に、女神ダゴンが顕現する。


 聖職者の異装を纏う淑やかな美女は、うふふふふっと頬に手を添え。


『どういうこと、と言われましても――あたくしが仕組んだことでもないので』

『ほぅ? なら何も知らねえと?』

『知らないとは申していませんでしょう? ただ正直、ここまで完璧に勝利するとは思っていなかったものですから、あたくしも少し戸惑っているのです。ペルセポネー、まさかあなた、手を抜いたのでしょうか?』


 振られた朝の女神はダゴンの言葉に振り向き、ふふっと微笑でベールを揺らす。


『否、其れは観戦していたうぬらが一番理解しているであろう』

『そうですわね――はぁ、困りましたわ。どこからどう説明したらいいのか……』

『なあ、夜の女神様はいないのかよ』


 クチバシを挟んだ僕に、ダゴンは眉を下げ。


『彼女は今、空中庭園で保護した人類を戻している最中ですのよ。このまま空中庭園に留まらせていては、彼らの精神が壊れてしまうだろう――と、ガサツで粗暴な見た目とは違ってあの子はとても優しいので』


 ……。

 この腹黒女神、今さらっとガサツで粗暴って言いきりやがったな。

 僕が信用しているのはあの女神さまぐらいなのだが――。


 まずは今この状況に戦々恐々としている、人類代表ギルダースをどうにかするべき。

 そう考えたのか。

 ベールの隙間から女帝の瞳を覗かせた朝の女神が、ギルダースを眺め告げる。


『さて――ギルダース、朕に勝利せし人類の刀よ。勝利者たるそなたには、東大陸を沈めようと想いに至った朕を斬る権利もあろう。如何するか』


 跪いているギルダースは言葉を告げることができなかったようだ。

 隣でホケーっとしているアランティアが言う。


「あの、代理で会話しますけど元はといえば人類同士、特に王権争いで起こった騒動であって……ぶっちゃけ朝の女神さまを失望させたことを詫びたい……みたいな感じっぽいっすけど」

『そうか、通訳を済まぬな――箱から零れし魔術より生まれしダリアの娘よ』


 ん?

 今、なんかしれっと爆弾発言をしなかったか?

 今の言葉はどっちにかかっていたのかは分からないが。


 僕は黄金の飾り羽を震わせ驚き、ペペペ!


『は?! 箱から零れし魔術より生まれって、アランティア! おまえ、まさか神話にある猫がひっくり返した封印された魔術的なアレなのか!?』

「はぁぁぁ?! え? いや、何言ってるんすか! そんなわけないっすよ!?」

『いやいやいや! 朝の女神はうちの女神(アシュトレト)とは違って、まともだろう? くだらない嘘をつくタイプじゃないんだよ。その女神さまが、箱から零れし魔術より生まれしダリアの娘って』


 近代史に何度も名を出す雷撃の魔女王ダリア。

 彼女自身が神話にある世界に零れた魔術の化身なのか、あるいはアランティア自身がそうなのか。

 どちらにせよ、ネコが開封してしまった魔術と関りがあるのは間違いない。


 神話の秘密を聞いてしまったギルダースが、目を回転させ。

 なぜワイがこげん話を聞かされちょるんじゃぁぁぁぁぁ!

 と、ぷるぷる涙目で唇を震わせているが……。


 あまり気にせずアランティアが主神に向かい言う。


「え? これ、ガチで知らないんすけど……どーなんすか?」

『あなたの母君は確かに代々、”箱より零れた魔術を受け継ぐ存在”の一人でした。そしてあなたはその娘。当然、あなたもその中の一人。あなたが生まれた際に”あの時の魔術の始まりが”継承されていますので、現在の後継者はあなたですよアランティア』

「うへぇ……まじっすか」


 うわぁ、こいつ。

 こんなぶっとんだ小娘のくせに、結構大物だったんだな。

 こいつに女神属性が発生していたのは、戦闘時には気付いていたのだが……。


 主神が続けて言う。


『決して開けてはいけない箱、その中に眠る人類には扱いきれない世界を書き換える力――それが魔術。人類は魔術を自分たちに与えられた希望といい、私たちは魔術を人類が取得してしまった呪いと呼びました。それらの神話が結び付き、あの日、この世界には七柱目の女神が誕生したのです。天より零れた魔術を人類に運ぶ者、人類に魔術をもたらした神話が伝承により形となった女神――あなたは今、この世界ではこう定義されています』


 後光を纏い、赤き瞳を細め創造神は告げたのだ。


『善も悪も関係なき自由な神性――<希望の女神>と』


 なかなかどうして、皮肉な名前である。

 希望が叶うかどうかは別。

 希望が大きければ大きいほど、叶わなかったときには反転し絶望となる。


 希望とは決して前向きな言葉というわけでもないのだ。


 しかし。

 どーしよ、これ。

 話を聞いているギルダースがどんどん、あわわわわわわ……ってなり始めちゃってるよ。


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