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チョコレート・ハウス1  作者: 猫又


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ケーキ屋さん

 美奈子にはハローワークに日参とは言ったが、実際は四日に一回くらいだった。そんなに急いで仕事を探しているわけではない。のんびりとしている。すぐに食うに困るというほどでもないからだ。

 小さい犬から剥いだ毛皮はそんなに分量がなかった。先に作ったポーチと小銭入れの他には小さい巾着のような物が一つ作れたのだが、あのるりかとお揃いなんて美奈子が嫌かもしれない。それにまた取り上げられるかもしれないなぁ。

 美里はそんな事を考えながら、自転車を走らせていた。

 手芸用品を買いに近所のショッピングセンターまで来たのだ。次は何を作ろうかなと考えるのは楽しいが、白い犬の毛皮が品切れだ。残念、綺麗な毛皮だったのに。

 手芸用品店と日曜大工店をひやかして、夕食の食材をスーパーコーナーで買った。店の外へ出た時に一階にケーキ屋があるのを発見した。

「これは、買ってみなくちゃ」

 美里はチョコレートには目がないので、さっそくケーキ屋に入る。

 店舗内ではショーケースの中にチョコレート系のケーキがたくさん並んでいたし、生チョコや、一粒三百円もするような高級チョコレートの詰め合わせも販売していた。

 奥には喫茶室もあり、ティータイムも楽しめるらしい。

 チョコ以外のケーキも種類多く販売していたが、ガトーショコラと、チョコレートムースを一個ずつ買った。販売員の女の子に注文を告げ、お金を払っていると、

「あら、美里さん」

 は? と顔を上げると美奈子が奥の喫茶室から出てきた。可愛らしいメイドさんのような制服を着ている。

「あら、ここで働いてるの?」

「ええ、バイト」

「働き者ねえ」

 と美里が言ったので、美奈子はばつの悪そうな顔になった。というのは、美里の情報収集によると、大家宅では、若奥様の美奈子が料理を、その他の家事を大家の奥様、つまり姑がやっているらしい。美奈子の夫は家業の貸しビルとかアパート経営を父親から教えてもらっている最中。とはいえ、自分たちの洗濯や住居の掃除は自分たちでやるだろうから、美奈子はほとんどフルで家事をこなしていると言えるだろう。あのるりかの食事も作っているらしいし。その上、まだ外でバイトまでしているのか。だが、その方が気晴らしになっていいかもしれない。

「ええ」

「こんなおいしそうな職場、いいわね」

 美里はケーキの箱をもらってからじゃあねと店を出た。

 自転車のかごにケーキの箱を入れてからゆっくりと歩き始めた。

 ケーキが箱の中で飛び跳ねて破損しないように。

 無職の日々の楽しみは食べる事だ。美里はチョコレートに目がない。それ以外の菓子は食べないのだが、チョコレートだけは我慢できない。目についたら片っ端から買う、そして食べる。素晴らしく甘く、苦いチョコレートは芸術だとも思う。実は一粒で五百円もするチョコレートの二十個入りを買い置きしてある。何かの時にご褒美として食べるつもりなのだが、今日はハローワークへ行ったから、とか、今日は履歴書を出したから、とかしょうもない理由で衝動食いしては猛烈に反省する日々だ。


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