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チョコレート・ハウス1  作者: 猫又


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みどりちゃん

 生まれ育った街はここから遠く、そしてこんなにオシャレな場所ではなかったが、範囲的にはとても広い街ではあった。

 団地が建ち並び、商店で買い物をする客は皆が顔見知りだった。

 景気の悪い街だったと思うが、子供はたくさんいた。小学校はマンモス校で一学年に七クラスもあった。友達の中には兄弟や従兄弟がどの学年にもいて、さらに中学校にも高校にも兄弟が通うという者もいた。そんな子供はいばっていたし、兄弟が多いのをたてにして乱暴者だった。借りた物は返さないなんてことは日常茶飯事で、借りるというよりも略奪するに近い行為がまかり通っていた。彼らは悪ガキで威張っていたので手下も多く、手下にならない者はみな略奪される側だった。

 成績がいいか、学級委員になるか、スポーツで目立つか、お金持ちか、○○博士と呼ばれるような飛び抜けた知識があるか、それらの子供は被害を免れ、特にずば抜けた取り柄もない子供は皆、搾取された。

 みどりちゃんは悪ガキで泥棒だった。小学五年生ですでに喫煙者だったし、いつも誰かの悪口を言っていた。みどりちゃんは集団の中でも上位の悪ガキだったので、それに相づちを打つ手下が何人もいた。

 美里とみどりちゃんは同級生で家も近所だったので、特に搾取されるという事はなかった。

 学校というサークルの中では同級生が味方になり、同学年というサークルの中ではクラスで敵味方が分かれる。 そしてクラスの中では子供達は味方を地域で分類する。

 みどりちゃんと美里は街の中でも特に柄の悪い地域に住んでいた。

 ある日、美里はみどりちゃんを敵にしてしまった。

 自転車で走っているときに、みどりちゃんの妹分をひいてしまったのだ。

 飛び出してきたのは妹分だ。名前は思い出せない。彼女は転んで足に怪我をした。

 家の近所だったので、その場に大人もいたし、みどりちゃん達のグループもいた。

 大人が「大丈夫やろ、これくらい」といい、美里を帰してくれたし、その後家に文句を言いにきた人もいなかったので、怪我はたいした事がなかったのだと思う。

 だが、その場で美里が謝らなかったという事がみどりちゃんに火をつけたようだ。

 謝ったかどうか、自分でも覚えていない。

 心細くて、泣きそうになった場面は今でもはっきりと心に残っている。

 翌日からみどりちゃんのすさまじい攻撃が始まった。

 顔を合わせれば美里を責め立てる。合わせなくても美里の悪口を言いふれる。

 すれ違う瞬間に「あの子、死んだ」「怪我が痛くて、泣いてる」「足、腐って切った」「土下座して謝れ」と美里に囁くのだ。

「ごめんなさい」みどりちゃんに何度も謝ったが、彼女は絶対に許してくれなかった。

 大人になって冷静に考えてみれば、そんな馬鹿なと思う事だし、もし本当に足の怪我が酷かったのなら妹分の親が黙っていないだろう。

 みどりちゃんはただ格好の標的を見つけただけだった。


 美里は気の弱い人間だったので、本気で心配して、本気で自分が悪かったと思っていた。

 だから待ち伏せされていじめられても、黙ってうつむいていただけだった。

 夕暮れのトンネルの中、いつも酸っぱいような臭いのするみどりちゃんが真っ黒な手で美里の髪の毛を引っ張るのも、破れた運動靴で美里の足を蹴るのも黙って耐えていた。

 ただ、「犬のうんこ食べろ」と言われ、木の枝にささった糞を差しだされた時だけは頭がかっとなって何も分からなくなった。

 その枝を奪い取って、みどりちゃんの目に突き刺すのに三十秒もかからなかっただろう。

 みどりちゃんは美里をいじめるのに一人を選んだ。悪ガキみんなにいじめの楽しみを提供する場合もあったが、美里の時はひとりでいじめを堪能した。そんな時だけは手下をだれも連れてこない。最初から最後まで心ゆくまでゆっくりと美里をいじめるのだ。

 目を突き刺すとみどりちゃんは絶叫をあげたが、誰も駆けつけなかった。

 そこはいつもみどりちゃんが美里をいじめるのに使っていたさびれた神社のお堂の裏だったからだ。美里はみどりちゃんの体を突き飛ばして転ばせた。みどりちゃんは泣きながら目を押さえていた。木の枝の威力に驚いた美里がそれを取り除いてやると、つぶれてへしゃげた目玉が半分出てきた。このままにしておいたらもっと酷いことになる、と美里は思った。

 これを理由にまた明日からいじめられるという事実だ。

 なので蹲っているみどりちゃんの後頭部を石で何度も殴打した。

 みどりちゃんの小さい頭はこなごなになり、意外と簡単に割れるんだなと思った。

 白い骨がちらっと見えたが、汚い茶色いものがどろっと出てきたのでやめた。服が汚れると怒られると思った。

 うつぶせに倒れているみどりちゃんのスカートをめくってパンツをずらしておいてから、美里は家に帰った。糞のついた枝は捨てたが石は持って帰って、勉強机に飾った。

 みどりちゃんはすぐに発見された。

 みどりちゃんが住む地域には朝から晩まで酒屋の店先で飲んだくれているおっさんや、赤茶けたパーマをだらしなくかきむしりながら大勢いる子供をしかりつける母親達がたくさんいた。働いてない両親を持つ子供がたくさんいて、年中お腹をすかせては同級生にたかるか、隣町の店先から盗みを繰り返していた。そんな地域だから大人でも子供でも不審者や浮浪者は大勢いた。地域の中、全員がアリバイなどないに等しく、結局、みどりちゃんを殺したのは変質者という事になったが、誰も逮捕者は出なかった。



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