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チョコレート・ハウス1  作者: 猫又


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デートの誘い

 金曜日の午後はとても忙しかった。ショッピングセンターでの買い物帰りの人、幼稚園に迎えに行った帰りの子連れの主婦軍団、学校帰りの女学生達、会社帰りのOLなどが寄るのだ。 

 ケーキとコーヒーで際限なく続くおしゃべりには何か意味があるのだろうか。

 二時半から五時半まで働くと、休憩が三十分ほどある。休憩には入れたてのコーヒーか紅茶を飲んでもいい事になっているし、藤堂や林の作った試作品というケーキやクッキーがいくらでもあるのでそれを食べてもよいと言われている。美里はチョコレート以外は食べないので、コーヒーをブラックで飲み、自腹で買ったチョコを一個だけ食べることにしている。休憩所で休んでいたら、ドアが開いて藤堂が入って来た。

 藤堂はコック帽を脱いではあっと大きく息をした。

 乱暴にパイプ椅子に座ると、腕をぐるぐると大きく回した。

「お疲れさまです」

「今日、暇じゃない?」

 と突然に藤堂が言った。

「はあ?」

「店が終わったら、食事でもどう?」

「え……」

 美里の頭の中をたくさんの言葉が駆け巡った。

 今日は笹本シェフにるりかの目玉デザートを献上すると言ってたではないか。

 人肉料理店での晩餐なんて冗談じゃない。

 早く、断らなくては。

「いえ……結構です」

「はははっ」と藤堂が笑った。

「心配しなくても、普通の食事を出してもらうよ」

「でも笹本さんの所でしょう?」

「笹本さんに連れておいでって言われてるんだ。あの食材がどんな料理になるか興味ない?」

「いえ、別に」

「ふーん、そんなもんかな」

「デザートを届けるんですか?」

「そう」

 と藤堂がうなずいた。

「デザートはうまく出来た。笹本さんのとこのお客さんは結構うるさくてね。今夜は市長夫妻が来る予定だから、笹本さんもがんばってるんじゃないかな。新鮮な食材が間に合って助かったって笹本さんが言ってたよ」

「はあ……っていうか、市長夫妻が食べるんですか?!」

 ちょっと胸が苦しくなってしまった。

「そう。常連さん」

「……」

 あまりに美里が目をまん丸くして藤堂を見ているので、

「そんな顔するけどさ、西条さんもどうなのって人種だろ」

 と言った。

「初めてじゃないだろ?」

「……」

「去年、S百貨店でスイーツフェアをやった時に、うちの店も出したんだけど」

 その時の美里の顔はまったく馬鹿面を下げていただろうと思う。

 ぽかんと口を開けて、藤堂の顔を見上げていた。

「ああいう場所でやるのはどうかな。迷惑を被った人も結構いたんだろう?」

 クスクスと笑う藤堂の目は猫の目のようで、意地の悪い光をたたえていた。

「あれは……」


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