初日の終わり
自転車を押して歩きながら店の前を通りかかった時、美里はウインドウの前にるりかの姿を見つけた。
時計は九時に近く、ショッピングセンターの駐車場ももう車も人影も見えない。まだ中には従業員が多数残っているだろうが、外灯も一斉に消えた駐車場は薄暗くなっていた。
「あんた……」
とるりかが美里を素早く見つけて走ってきた。すぐにきびすを返して逃げようとしたが、巨体の割に素早い動作でるりかは美里の肩をつかんだ。自転車ががしゃんと倒れた。
「やめてください。八つ当たりも迷惑です」
「何がよ!」
「あなたが店で雇ってもらえないのはあなたの問題でしょ。私がバイトするのと関係ないでしょう」
「うるさい! うるさーい!」
批判は耳に入らないらしく、るりかは子供のように耳をふさいだ。
ぎゅっと目をつぶって、頭を振った。
長いばさばさの髪の毛がおおきく揺れて、獅子舞のように宙を舞った。
美里は倒れた自転車を起こそうとしたのだが、るりかが車体を足で踏んづけた。
「やめてください!」
この町へ来て買ったばかりのぴかぴかの自転車だ。美里はるりかの体を突き飛ばそうとしたが、巨体はびくともせず、逆に腕をとられて引っ張られた。体勢が狂って足がもつれ、自転車の上に倒れ込んだ。手が車輪の間に落ち込みひねってしまったし、膝をコンクリートで打ち付けた。
「痛っ」
るりかは美里を見て笑った。そして太い足で車輪の間に落ち込んだ美里の手を何度も踏んづけた。慌てて手を引っこ抜いた。るりかの足はやむことがなく、美里の自転車をがんがんと蹴り続ける。
「あ」
後輪のスポークが一本折れた。
確かにショッピングセンターで売り出された時に買った自転車なので高価な物ではない。
だが、逆恨みで人の物を足蹴にするなど許される事ではない。
「ここでずっとバイトするって言うなら、あんたの体もこうしてやるわ! あたしはこの町じゃ何しても許されるんだから!」
美里ははねて飛んだスポークを拾うと、るりかを見た。
るりかは鼻でふふんと笑った。
「あ、藤堂オーナー」
と美里がるりかの背後に視線を外すと、るりかは慌てて後ろを向いた。
その瞬間。
握りしめたスポークをるりかのうなじに突き立てた。
ずぶずぶずぶと肉肉しい食感が手を伝った。
脂肪のかたまりのような体だが思ったよりも簡単にるりかの肉に突き刺さり、るりかは声も出さずにその場へ倒れ込んだ。




