8 オークの接吻
乱す者とバスの男の襲撃があった翌日、俺はディーグルの協力も得て、絵の奇跡の実験を幾つか試みた。ペインを与える奴だ。それで俺の体力の消費を量る。
さらに使い魔を隠す魔法を習う。使い魔を一時的にお札の中に封じる魔法と、呼び出す魔法だ。生活魔法ばかりどんどん覚えていく俺。戦闘用の魔法は一つも覚えてないぜ。まあ、戦闘用の魔法は相当高度なので、習得は困難という話だが。
余った時間は銃の訓練に費やした。一応護身もできるようにした方がいいと思って。近接武器よりも、明らかに扱いの習得が早い銃が一番良いという選択だったが、ディーグルはいい顔をしなかったうえ指導もしてくれなかったので、葉隠軍兵舎の射撃訓練場に行って指導を仰いだ。
ディーグル自体は銃を使えんわけでもないが、嫌っているようだ。
「安易な武器で満足しちゃうあたりが太郎さんの悪い所ですね。鍛錬すればするほど己の技が強力なペインへと繋がる刀こそ、至高の武器です」
ディーグルがそんなことをほざいていたが、無視。俺の一番の武器はお絵かきなんだからさー。銃はあくまで非常用だ。それも遠くの相手を撃つためではなく、近くに迫った相手への緊急用の対処としてだ。
そのため、遠くの物を撃つ訓練よりも、抜く、構える動作はとばしてさっさと撃つ、という二つの動作を重点的に行った。それならナイフの方がいいんじゃないかって? バスの男を思い出すからナイフだけはありえねーよ。
***
さらに翌日、とうとう市長からの呼び出しが来た。いよいよかー。
市庁舎へ向かう。もちろんディーグルも一緒である。家の中と兵舎の訓練場以外で、こいつが俺から1メートル以上離れる事はほとんど無い。
「おお、太郎君、一昨日は大変でしたね。何でも街の中で乱す者に狙われたとか」
オーバーな口調でふぁっきん社交辞令をかましてくる木村市長。あうう、こういうのめんどくせー。
「敵にも太郎君の持つ凄まじい力がバレてしまっているようですね。今後とも狙われるかもしれません。太郎君が重い宿命を背負うハメになったこと、遺憾に思います。この天国のような世界で、平和に暮らす事が理想であるはずなのに」
「いや、もうそういうのいいから、本題に入ってくだせーな」
心底面倒臭くなって、身も蓋も無く俺は市長の話を遮ってみたが……
「力を持ったばかりに、平穏を許されない。何たることか。しかし太郎君の安全はきっとディーグルが守ってくれます。先日は一度太郎君が攻撃にさらされるという失態もあったそうですが、今後そのようなことはありませんよ。なあ? ディーグル」
俺の言葉を平然と無視し、自分が用意したであろう社交辞令を続ける市長。しかもディーグルに嫌味をぶつけるおまけつきときた。
「返す言葉もありません」
胸に手をあて、恭しく頭を下げるディーグル。大人な対応ですこと。俺には無理だわ。
「巻き添えで市民が犠牲になったのは残念でした。もし市井に太郎君の存在が知れ渡れば、太郎君が謂れなき迫害を受ける可能性もあります。ですが万が一そうなったとしても、この木村が全力で太郎君を擁護する所存なので、どうか御安心を」
言わなくてもいいことまでペラペラ言ったうえで、味方面で恩の押し売り。いや、違うか。一種の遠回しな脅迫みたいなもんか? 問題起こしてもかばってやるのは自分しかいないんだから、自分の言うことはちゃんと聞いておけ的な。
いずれにてもこの市長、社交辞令の会話からして打算だらけ、念押しばかりな気がしてならない。
「よっしゃ、帰ろうかディーグル。いい加減こいつウゼーし」
「大人になりましょうよ。ね?」
市長の前で堂々と不快さを露わにして言い放ったが、ディーグルが柔らかい口調でたしなめた。
「まず、太郎君の要望通り、葉隠軍第十八部隊への配属を決定しました。同時に第十八部隊の戦力の増強を図り、それなりに困難な任務へと就いていただきます。もし今回の任務で戦果を上げれば、太郎君の奇跡を軸に、第十八部隊にさらに人材の投入と兵を増やし、葉隠軍の主力にしていこうとすら考えています」
この方針の決定は市長が判断を下したものなのか、軍の上層部によるものか、それとも優秀なブレーンによるものかわからんけど、まあ悪くない。
この市長のことだから、俺を立てておいてやる気ださせようって魂胆っぽいけどな。
「で、任務ですが、我々の間者が乱す者の重要施設の情報を入手しました。葉隠市の郊外にある彼等の拠点の一つで、何と戦闘用の魔物の飼育を行っているというのです。君を含めた第十八部隊には、この拠点を攻略していただきたい。ここの長の討伐と、育成施設の破壊、魔物の無力化、この三つが重要ミッションです」
「今思ったけど、そんなのは部下を通して第十八部隊の隊長に言えばいいことだよね。何でわざわざ俺に直接?」
「今後はそうしようと思います。ですが私が太郎君を運用していくかどうかを決める、大事な分岐点でもあるので、こうして直に会って、君にお願いしたかったのです」
俺の問いに、意外な答えが返ってきた。
会った時といい、今日のやりとりといい、市長は俺を取り込もうとしているし、あれこれ釘を刺してもいる。だからこそ自分の時間を割いてまで直に接しているわけか。それだけ俺を重要視してもいるわけだ。
こいつは政治家というよりは商売人に近い奴だな。無論、政治家という立場になるためだけの、政治屋でもない。
保身と権力欲しか頭にない政治屋なら、保身のために面倒な俺を封殺してそれで終わりだった可能性もあるし、そうでなくても部下任せにしているだろう。
なのに直接俺とのパイプを築こうとしている。俺に相当な利用価値がありそうだと踏み、危険性も考慮したうえで、俺を利用できるかどうかまず試そうという、慎重さと計算高さが見受けられる。もちろん手に余ると判断した時は、あっさり切り捨てにかかるだろうけどな。そういうタイプだ。
権力に執着しているわけでもないのなら、この男が何故市長をしているか、それも明白だ。こんなんでも真剣に葉隠市の事を案じている人物という事だ。そうでなけりゃ、一都市の長などという面倒な事をするわけもない。
都市の平和のためなら自ら悪にもなり、必要とあらば大を生かすため小を切り捨てるような、そんな奴だ。今までの台詞を振り返って、俺はそう判断した。
「それともう一つ。魔物育成施設のある拠点には、あの不沈戦士ゴージンが雇われているとのことです」
「フチンセーシコーチン?」
「金さえ積めば、そしてある条件さえ呑めば、相手が誰だろうと仕事を引き受ける凄腕の傭兵とのことですよ。今まで北の土地を拠点としていたので、その詳しい実態は定かではありませんが、最近こちらに来て仕事をこなすようになりました。わかっていることは、その呼び名の通り、どんなにペインを受けても死なずに戦い続けるということです」
俺と同じで痛みに耐えられるのか、あるいは痛みに対して鈍いのか。
つーか、この理屈だと無痛症の人とか、この世界では無敵になるな。
***
ふぁっきん市長から解放された俺は、葉隠軍兵舎へと向かった。第十八部隊の人員も増えているとの事で、顔見せした方がいいかなと思って。
第十八部隊専用の屋内訓練場まで与えられるという厚遇っぷり。他の部隊かの妬みとかもありそうだなあ。作戦に失敗したらやべーぞこりゃ。
「他の部隊から優秀な兵士が何人も引き抜かれてうちにきたッス」
まずドポロロが声をかけてきた。ディーグルは珍しく俺と離れ、副隊長のザンキと向こうで会話している。
「この部隊が葉隠軍の主力になるかもしれないんスね。ワクワクっスよ。これも太郎君のおかげっスね」
「急激な変化を煙たがってる人もいるんじゃないか?」
ドポロロの前でそういった心配を口にしても、あっさり平気っスよーという言葉が返ってくるかと思いきや――
「そりゃいるっスよ。でもうちら軍人っスよ? そんな文句は口にはできねーっス。そういう人がいても、なるべく意識せず前向きに頑張ると思うっス」
想像していたより素晴らしい答えが返ってきた。
「それはそうとね、第十八部隊では女性隊員が入るって噂でもちきりなんスよ」
「ひゃっはーっ、そいつは嬉しいなっ」
美少女だといいなあ。そしてさっさと俺に一目惚れするといいなあ。あ……でもこの体じゃHできない。ふぁっくー。何とか成長する方法を早く見つけないと……
「皆期待しちゃってるんスよー。女性の兵士は大抵、女性専用の部隊ってのに配属するんスが、特に優秀な人は、別の部隊に単独で移籍するってこともあるっスからねえ。女性でこの部隊に来るからには、きっと相当な女傑っスよー」
しばらくドポロロと会話した後、俺は堀内隊長の元へ顔を見せにいった。報告しなくちゃいけない事もあるしな。
「てなわけで、俺の絵の奇跡も万能じゃなかったという話です」
「そりゃあなあ……最初に使った時にブッ倒れていたし、そのまま一週間も昏睡していたと聞いたから、万能の能力でないことはわかっていたさ」
申し訳なさそうに報告する俺に、堀内は微苦笑を浮かべて言った。
「今回の作戦がうまくいけば、俺も正式に第十八部隊の兵士として配属が決定するみたいだし、そうしたらこの隊で今後も乱す者と戦っていく気です」
意気揚々とそう告げた俺だが、堀内はいい顔をしなかった。あからさまに笑みが消える。何でそんなリアクション? 不都合があるのか?
「一時的にしておきたまえ。神聖騎士という立場の者が、ずっとそんなことをしているわけにもいくまい。神聖騎士が力を振るうのは、仕えるべき神のためにであるべきだろう」
堀内は俺の立場を気遣ってそう言ってくれたんだろうが、実際にはその神様に、しばらくは乱す者と戦ってろと命令されたんだけどね……
夢の中で意味不明なことを他にも口にしていたな。神と落ち合った先にあるのは、三人で旅? もう一人は巫女か? しかもその目的がまたスケールのでかい話だ。神々を討伐するって……。一体何のために?
「俺が仕える神様が何であるかもわかんないしさー。しばらくは俺が望むことをしますよ」
神の命令だけで動くわけでは無い。バスの男を見つけだし、絶対に殺してやる。そのためには乱す者と戦い続けるのが近道だろう。純粋に自分の力が求められ、誰かの役に立つのが嬉しいという気持ちもあるけどね。
「君なら大丈夫だと思うが、くれぐれも力を過信したり溺れたりするなよ。確かに神聖騎士と巫女は、常人を超越した力を持っている。魔法の域を超えた奇跡を起こせる。だが人の間にも神聖騎士や巫女に匹敵、もしくは凌駕する者もいるぞ。あるいは神々さえも。だから過信はしない方がいい。あの神殺し――ウィンド・デッド・ルヴァディーグルがまさにそうだ」
神殺しだと……。只者じゃねーとは思ったが、そんなに凄い奴だったのか。
しかしなるほどな。だからこそあいつが俺の御目付け役に選ばれたわけね。
「ゲームで言うとディーグルは、レベルマックスでラスボスも余裕クラスな極まった奴か」
「悪いが私はテレビゲームとやらができる時代より前に、こちらに生誕しているので、その例えはよくわからん」
「いつくらいに死んだの?」
「昭和二十年だ。インドネシアで命を落とした。あっちでも兵隊だったから、こっちでも兵隊ってわけさ」
心なしか自慢げに隊長が言った。それからずっとあの世で戦っているとしたら、歴戦の兵どころじゃねーな。
「そういや、ここに女性隊員が入るって聞いたんだけど」
「ああ、皆浮かれているようだな。楽しみにしておけ」
俺が女性隊員の話題を出すと、堀内がにやりと笑った。これは期待してもよさそうだなー。ふっふっふっ。
それからしばらくの間、第十八部隊の先輩らに体術の手ほどきなどをしてもらいながら、時間を潰していると、噂の女兵士が訓練場を訪れた。
「専用訓練場を与えられるとは、破格の扱いじゃないか。何様だって感じだねっ」
入ってくるなり、訓練場中に響き渡る大きなダミ声が響く。全員の注目の視線が降り注ぐ。
次の瞬間、俺含めて第十八部隊が失望と絶望によって包まれた。何人かは露骨に顔を歪めている。
「ランダさんですか。第二十六部隊で幾度となく目覚ましい活躍を見せた女傑ですよ。私も肩を並べて戦った事が幾度か有ります。第二十六部隊は女性専用部隊で、市内に現れたテロリストの鎮圧が目的の部隊ですから、一緒になることは多かったですね」
動じた様子の無いディーグルが、いつの間にか俺の側にやってきて、現れた女性の解説をした。
「何だい? 何固まってるんだい? オークの雌がそんなに珍しいか? ああっ?」
一同をギロリと睨み据え、凄味の効いた声を出すランダ。そう――本人の言う通り、女は女でもオークの女だった。しかもすげー怖そう。いや、怖そうじゃなくて怖いんだ。
腕の太さがディーグルの二倍はある。超ムキムキ。おっぱい超でかいけど、首から上は完全に豚だ。オーク以外の何者でもない。しかも頬に刀傷まであるし。年齢の判別は難しいが、少女でないことだけはわかる。
堀内……散々前もって期待させといて、こりゃねーだろ。つーか最初から身元もちゃんと明かしておけばいいのに、女が来るとだけ言って、皆の期待を膨らませた後に落胆させる気でいたな? あの人、こんな悪戯心があったんだな……
「こうなったらさあ、もう太郎を女の子と思いこむことで間に合わせないか?」
「うん、それでいいよ。口開かなければ、見た目は女の子だしな。太郎がうちらの紅一点ってことで」
側にいた兵士達が俺の方を盗み見て、恐ろしいことをひそひそと囁きあっていた。聞こえてっぞ……
「急造で部隊強化とか人事異動とか、全く気に入らないねえ。その理由は怪しげな奇跡の力とやらを持つ、神聖騎士が配属されているからというじゃないか。ハッ、どんな御大層な御方か知らないけど、そいつを中心に据えて作戦を展開するだけの価値があるかどうか、あたしの目で品定めさせてもらおうじゃないかっ」
鼻の上と眉間にしわをいっぱい作り、怒りまくった形相でランダは、他の兵士全員に聞こえるような大声で宣言する。あうあう……こりゃ怖いわ。気が強いなんて次元じゃねーよ。
どうか俺に気が付きませんように……と祈ったものの、バレるのは時間の問題だから、意味の無い祈りだな。
祈った直後、ランダの視線がこちらに降り注いだ。モロに目があった。げーっ、早速かよ。
「あれれ? 何でこんな所に人間の子供なんかいるのさ」
ランダの表情が劇的に和らぐ。俺の方を向いて、今まで怒りに歪んでいたそのブタ顔が、綻んだ笑顔へと変わる。
うわー……しかもこっち来た。こっち来たよ、おい。やべえっ。
「んまー、可愛い子だねえ。お嬢ちゃん、こんな所に何の用だい? 何か事情があるならおばちゃんが話を聞いてあげるし、力になってあげるよ」
うぎゃー、しかも俺のこと女だと思ってるし、しゃがみこんで頭撫でながら顔寄せてきた。間近でブタっ鼻がふごふごいってるよぉーっ。
でも最初の怖そうなイメージが綺麗さっぱりどっかに吹き飛んで、すっかり優しい人になっちゃってるけどね。
「お久しぶりです。ランダさん。えっとですね、その子が話題の神聖騎士殿です」
ディーグルがすげー余計なこと言ってくれた。隠していてもどうせバレるとはいえ、こいつの口から暴露されると、他意を感じずにはいられない。
「なんだってっ……」
ランダが唸る。また険しい顔になっている。うわあ……どうなっちゃうんだ俺……
助けを乞う視線をディーグルに向けると……にやにや笑っていやがる。ふぁっく。つーか、こいつが事態を悪化させたのに、こいつに縋ろうとした自分に腹立つわ。
「そうかい……こんなお嬢ちゃんが、大きな力を持っちまったばかりに、戦場に駆り出されるなんて。酷い話さね。ごめんよ、お嬢ちゃん。怖がらせちゃったろう」
しかしすぐに優しい表情になって、俺の頭を掴んで引き寄せ、その豊満な胸の間に抱え込んで押し付けた。
うぐぐ……苦しい……。しかし……柔らかいし気持ちいい。でもいまいち嬉しくない。何だこの複雑な気分……。
「あのですね、その子、見た目は女の子ですが、実は男の子なんですよ」
また絶好のタイミングでディーグルが暴露した。こ、こいつ……
「何だってっ……。こんな可愛い子が男とか、信じられないね。どれどれ」
ぎゃーっ! 俺の股まさぐってきたっ。しかもモロに掴まれた。イヤーッ、ヤメテーッ!
「おや、本当についてるよ。んー、何だか複雑な気分だね。取ってしまいたいような、これはこれでいいような」
ランダが俺の股間をもみもみしながら怖いことを口にする。今の俺の方がよっぽど複雑な気分なんですがーっ。
「何にせよ、可哀想だし、腹立たしい話だよ。神聖騎士だからって、子供を戦場に送るなんてさ。許せないね」
でもやっぱりいい人っぽいな、ランダおばちゃん。
「とはいっても、彼は地獄にいた頃は子供では無かったようですよ」
またまたまたディーグルの余計な一言。しかしだ、ここまでこのドS野郎の狙いは全て空転している。きっと今度も……
「ディーグル、あんた何言ってるんだい。ていうか、あんたはこの子の何なのさ?」
責めるような眼差しでディーグルを睨むランダ。
「一応彼の従者の役目を仰せつかっておりますが……」
「はっ、呆れたね。どの口が従者をほざくか。死ぬ前に大人で今は子供の姿ってことは、この子は生前、大人になってもずっとオツムの中は子供のまま、成長しなかったってことだろ? だから死んでここに来た今、ありのままの真実の姿になってるってことじゃないか。きっと神に捨てられた地にいる時は、ずっと辛い想いをしていたはずだよ。それがわからないのかいっ」
あうう……おばちゃん……全力でフォローしてくれているつもりなんだろうけど、そのフォローの仕方は嬉しくない。嬉しくないよ……ランダのおばちゃん……
「エルフの癖に頭が悪いというか、想像力の働かない奴だね。本当どうしょうもない奴だよ。ディーグル、あんたみたいなウスラトンカチじゃ従者なんてとても務まらないね。やめちまいな。おっ、そうだ」
俺の方に顔を向けて、何かを思いついたようで、表情を輝かせるランダ。うん、嫌な予感しかしない。
「このトーヘンボクの代わりに、あたしがあんたの従者になってやるよ。うん、それがいい、そうしよ? ね? そうしなよ。んーっ」
そう言ってランダは、ブタっ鼻を俺の頬に押し付けてきた。無駄な知識としてこれが何を意味するか、俺は知っていた。オークは鼻でキスするんだ……
「ランダさん、すまんこ……。俺はディーグルに世話になっているから、そうほいほいと従者チェンジはできないよ」
魂が真っ白になりかけたが、何とか正気を保ち、俺はきっぱりと拒否した。
これは単に、ランダが従者とかたまらねーというだけではなく、ディーグルを信頼しているという、本心も込めた台詞だった。ただし、新従者候補が美少女だった場合は話が別になるがなっ。
「あとさ、無理矢理戦に駆り出されたわけじゃないぜ。俺の意志で決めたんだ。いろいろとわけありでね」
「ふーん、あんた……結構しっかりした目で物を語るじゃないか」
俺の目をじっと覗きこんで、ランダは感心したかのように言ったかと思うと、俺の体を下ろしてやっと解放してくれた。
「悪かったね、お子様扱いして。今、しっかりとした男の目をしていたよ、あんた。本来ならオツムが子供のままなのに、子供のままだけではいられない事情があったんだね」
どういう語り草だよ……。いや、何となく言いたいことはわからなくもないが。
「ディーグル、あんたも少しこの子を見習った方がいいよ。この子から学ぶつもりで、しっかりと仕えな」
「はい……」
呆然とした表情になり、かすれ声で返事をするディーグル。流石のこいつもたじたじか……
いやあ、俺もげっそりなんだけどね。体重が300グラムくらいは減った気分だよ。はあ……




