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終章

 あたちはヨセフとマリアを交え、かつてのヨセフの山賊団の首領格を全て集め、最終調整を行っていた。あたちが魔雲の地へと行っている間、彼等にはウォッカードの裏社会に根を張ってもらうためである。

 刺激を求める乱す者である彼等を、放置しておくわけにもいかないし、かといって連れて行くには大所帯すぎる。彼等には彼等に適した活動をしてもらうことにする。


「あたちがいなくてもしっかりやるのれすよ」

「うるさい姫様がいなくなって伸び伸びできるよ」


 念押しするあたちに、ラッセルが冗談を飛ばす。いや、冗談か?


「こんなこと聞くのもなんだが、もしもヨセフや姫達が帰って来なかったらどうするんだ?」

「そんなふざけた事態になったら、もうこの世界が存続する価値は無いのれす。あとは勝手にしやがれれす」


 ラッセルのたわけた質問を一蹴するあたち。


「魔雲の中に行きたいという希望者も結構いるんだが、連れていってはくれんかね?」


 別の頭領が伺ってくる。うーん、気持ちとしては連れていってやりたいものだが。


「何人までならいい? 一人も駄目か?」


 ヨセフもお伺いしてきた。うーん……


「じゃあ三人までおっけーってことで。できれば腕の立つ者にしてほしいれす。指導者的立場の人はNGれす」


 腕が立とうと、戦力的にはあまり役に立たないと思うが、パシリ要員としてくらいなら役に立つだろう。

 そんなわけで、あたちとネムレスと優助とヨセフとマリアに加えて、下僕のパシリを加えた八人の大所帯で、魔雲に覆われた大陸北部へと向かうことになった。


***


 二台の馬車が北へ北へと走っていく。馬は魔雲の下には入れないので、ブランデリス発の魔雲探索冒険者用の片道馬車に乗せてもらっている。


「見えてきたぞ。覚悟はいいか? 各々方」


 御者が脅かすように言うが、あたちがそんなもので怖がるはずもない。優助でさえも、わくわくしている様子だ。

 馬車が止まり、あたち達八人に加え、他に乗っていた冒険者が五人降りた。バスはUターンしてブランデリスへと帰っていく。


 道中一緒だった冒険者達は、あたち達に別れを告げ、先に魔雲の中へと進んでいった。


 あたちらはどうしたものか……入るにしても、入る場所の候補が幾つかある。


「地平の果てまで真っ黒い雲と青空が、綺麗に分かれてるね。風は吹かないのかな?」


 目の前に広がる光景を見て、優助が興味深そうに言う。


「風は吹いているし、魔雲の地とて、たまに雲が晴れることもある。だが大抵は雲に覆われたままだ。あの雲が何であるかは謎だが、ただの雲ではあるまいよ」


 と、ネムレス。


「中はどんくらいの広さなの?」

「正確に測った者などいやしないれすが、判明している距離だけ見ても、どんなに小さく見積もっても、間違いなくユーラシア大陸二つ分以上の面積はあると思うのれす」


 優助の疑問に、あたちが答える。


「私も魔雲の中には入ったことがないですから、ちょっとワクワクしてますよ~」


 本当に浮かれた表情のマリア。


「中には魔物がいっぱいれすし、心を失った神と遭遇したら倒すか解放するという目的もあるれすから、大変な旅になるれすよ」


 ネムレスはきっとそちらの方をメインにしたいのだろう。魔雲の中には心を失った神々が半ば魔物と化してうじゃうじゃいる。


「二手に分かれよう」


 ネムレスの唐突な発言に、あたち達は驚いて彼女の方を見る。


「僕と優助の二人、リザレ達六人という分け方だ」


 しかも何れすか、そのアンバランスな分け方。


「どういうことなの?」


 あたちを一瞥してから、ネムレスの方を見る優助。


「君はリザレに依存しすぎて甘ったれているから、しばらくの間彼女とは離れた方がいい。そして僕がつきっきりでしごいて、リザレの恋人として相応しい男に鍛えあげてやる」


 あー……そういうことれすか。もうネムレスは徹底的に太郎さんの浮気性に愛想つかした感じれすね。そのわりには自分だって、前世であたちにも彼にも手を出していたくせに……


「うん、わかった」


 覚悟を決めた顔で頷く優助。そしてあたちの方を見る。


「姫、行ってくるよ。ネムレスの言うとおり、必ず姫に相応しい男になって見返して、惚れさせてやる。太郎さんから奪ってやる」

「その意気だ。君ならできる。真の男たる者、君のように誠実で純粋でなくてはいかん」


 熱っぽい眼差しであたちを見つめて宣言する優助に、ネムレスがエールを送る。


「くれぐれも無茶はするんじゃねーれすよ。命あっての物種れす。ま、ネムレスがついていれば大丈夫だとは思うれすが」


 あたちは優助の両肩に手を置き、おでことおでこをこつんとぶつけて告げた。


「うん」


 笑顔で頷く優助。

 男の旅立ちか。何かいいものれすねえ……。だからといって、来世は男に生まれたいとは思わんれすが。


 魔雲の中へと進んでいく八人。しかしネムレスと優助は、あたち達と別方向に向かっていく。あたちは何度も優助の方を見たが、優助は一度もこちらを振り返ろうとはしなかった。逞しくなったのか、それとも泣いているのか。


「心配しすぎだ。ネムレスが優助を引き離したのは、リザレの過保護も見抜いてのことだろうな」


 何度も優助の方を見るあたちに、ヨセフがそう指摘して、恥ずかしくて顔が熱くなる。


「何のかんの言って、リザレちゃんは優助君のこと大事に想っているってことですね。羨ましくて妬けます」


 マリアがからかってくる。そういうこと言われると、あたちは返す言葉に困る。あたちの優助への気持ちは、恋心とかそういうんじゃなくて、保護者的な心情に近いと想うから……うん、多分そうだ。


「ま、あたちとネムレスは精神が繋がっているれすし、魔雲の中だろうと、必要であれば再会もできるのれす。解放の塔――ペインの深淵に差し掛かる前には、合流するれしょ」


 そしてその時にはおそらく、太郎さんもいるはずだ。ネムレスは彼も呼んだのだから。


「とりあえずは魔雲の中を冒険といった所れす。んじゃ、いくれすよ」


 あたちが先陣切って歩き出し、マリアとヨセフ、そして下僕三名が後に続き、六人は黒い雲に覆われた禁断の土地へと、足を踏み入れた。



第二部 終

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