15 何の脈絡も無く現れた宿敵と唐突にラストバトル?
以前ヨセフに、マリアがガチレズで、なおかつあたちにホレていると警告された。
言われるまで気がつかなかったが、言われてからは、そういう気配をプンプン感じるようになった。そしてとうとう今夜、夜這いをかけにきたというわけれすか。
「あたちはネムレス以外の女とは交わらんのれす。お引取りどうぞれす」
冷めた声であしらおうとするが、マリアは全く引く気を見せない。あたちに覆いかぶさったまま、じっとあたちを見つめてくる。
あたちは目を逸らさず見返しているが……正直どうしたものか……。
二人して硬直したまま、時間が流れていく。実際には一分も経っていないだろうけど、とんでもなく長い時間に感じられる。
「あたち、寝たいんれすよねえ。拒否されたのれすから、潔く身を引くがいいのれす。今日のことは無かったことにしてやるれす」
「無かった事にしてほしくはありません」
身を起こし、真摯な口調でマリアが言った。
「本気ですから。本気で好きですし、必死な想いでここに来たのですから、無かったことにはしたくないです」
うーん……異性だったら、こういう押し方には弱いあたちだけど、同性相手では……
「何を言われても、期待には沿えないのれす」
「私が女だからですか?」
「そうれす。レズるのはネムレスだけで沢山れす」
「何でネムレス様はオッケーなのですか?」
それを説明すると凄く長くなるし、説明したくもないのれすが……
「あれは特例れす」
「私も特例にはしていただけませんか?」
「らめえ」
「じゃあ……私が男なら候補になりますか?」
まさか……実はオカマとかいう展開……なワケないれすね。両性具有かもしれないれすが、振る舞いや仕草を見た限り、ベースはどう考えても女れす。男が女装していても、あるいは性転換していても、あたちは見抜けるれすし。
「えっとれすね……。あたちにはすでに好きな人がいるのれす」
「優助君……ではない雰囲気ですよね。どう見ても。優助君はリザレちゃんにベタ惚れですが」
「ネムレスの神聖騎士れすよ。縁に引かれたのか、地獄でも一緒らったのれす。今は離れ離れれすが……」
会いたいという気持ちと、会うのが怖いという二つの気持ちがあると、再び意識する。あたちが冥界征服を目論んでいると知ったら、どんな顔をするのかと。
「そうですか。うーん……でもやっばりダメみたいです。あははは、それを聞いてもなお諦めきれないんです」
哀しげな笑みがマリアの顔に張り付いている。
片想いの辛さは、あたちにはわからない。経験したことがないから。しかし物凄く苦しそうなのはマリアから伝わってくる。
「私も普通に男の子が好きになれればよかったんですけどねー。私と同じように、女の子を好きになる女の子で、しかも互いに相思相愛になるとか、中々見つからないんですよねー、これが。あはは……」
根っからの同性愛者の苦しみも勿論あたちにはわからない。物凄く苦しそうなのは以下略。
あー、もう……放っておけんのれす。またあたちの悪い癖が出てしまうのれす。
「諦めろとは言ってないのれす」
「え?」
あたちがぽつりと漏らした言葉に、マリアが期待いっぱいの笑顔をあたちに寄せてくる。
「貴女が超頑張って、あたちを惚れさせればいいらけの話れす。他にライバルもいるけど、それはもう死ぬほど頑張ればいいらけの話れす」
こんなお情けみたいなこと言わず、すっぱりと切り捨てた方が互いのためとはわかっているが、ついつい情けをかけてしまう。こういうのがあたちの凄く悪い所だ。
「そんなお情けをかけてもらって、私が喜ぶ女だと思いますか?」
マリアがどことなく冷めた口調で言う。いかん、プライド傷つけてしまったか?
「超喜びますがっ。ひゃっはーっ」
嬉しそうに言って、再び覆いかぶさって、今度はモロにあたちに抱きついてきた。こいつ~……
「もうどこまでもついていきますがっ」
「お情けかけたのは、貴女をあたちの言いなりにするためかもしれないれすよ」
「リザレちゃんはそういった、人の気持ちまで計算して利用をする子じゃないとわかっていますし、そんな気だったら、わざわざ口にしません」
甘い甘い。あたちはかなり計算する。わざわざ口にしたのだって、相手がそこまで考えると計算して、油断させるため。
「マリアは何で巫女になったのれす?」
かけ布団の上からあたちに覆いかぶさったまま離れようとしないマリアに、脈絡の無い質問をぶつけるあたち。
質問してから気がついたが、仕える神であるヌプヌプから引き離して、あたちの言いなり第一にしちゃっていいのだろうか。マリア自身は何とも言わないが。
「特に深い理由は無いっていうか、互いにフィーリングがあったっていうか、酒場で出会ってそのままノリノリで語り合い、巫女にスカウトって感じでした」
眩暈がするような答えが返ってくる。酔っ払って行きずりの男にホテルに連れ込まれる馬鹿女のような。
「あたちは前世のそのまた前世に巫女になって、記憶が無いのれすが、かなり複雑な事情のようれす。大陸の東側――侵入困難な不毛の大地手前は、王国があるのは御存知れすか?」
「ええ、話で聞いたことはありますね。この世界では珍しく、王制とか国家という形式を取っている地域が、東の方に幾つもあると」
「何百年も昔から、地獄の古めかしい文化をこちらにまで持ち込んだ連中の住む所れす。そしてそこでは、地獄の愚かな信仰やしきたりまで持ち込んだ、ひどい国もあるのれすよ。で、あたちはその国の姫として生誕したのれす」
全部ネムレスから聞いた話で、記憶は無いのだが。
「その国は地獄でも当然王制れしたし、地獄の悪しき文化をこちらにまで持ち込んでいたのれす。即ち――王族の長女を架空の神に生贄として差し出すという文化を」
「ひどい……何ですかそれは。ぞっとしましたよ」
マリアが顔色を変える。確かにひどい。前世の前世なので、あたちの記憶にはないはずだが、その時あたちはどんなに絶望していたか、わりと容易に想像つくのは、ほんのわずかに記憶の断片が残っているせいだろうか?
「あたちは地獄でも生贄として殺されてこちらに来て、さらにこちらでも同じ運命を背負わされたのれす。いや、あたち以外の王国の長女は皆二度生贄として捧げられ、殺されていたようれす。あたちは絶望と悲嘆に暮れていたのれすが、そんな時、ネムレスとその神聖騎士が現れ、助けてくれたのれす。ついでにその王国も滅ぼして。これが、あたちとネムレスの関係の始まりれす」
「どうしてそんな話を?」
「同じ巫女という立場らから、気を許しただけれす。いつまで乗っかっているのれすか。重いから離れてほちいのれす」
正直こんな話振らなければよかったと、マリアのしょーもないエピソード聞いて思ったあたちであった。
マリアがようやく離れるが、部屋から出て行こうとはしない。もう寝たいんだが……
「いつまでそうしている気れすか」
「あ……はい。おやすみなさい」
名残惜しそうに、何度もあたちの方を振り返って部屋を出るマリア。
何もしなければ今夜は一緒に寝てもいい――と言おうかと思ったけど、思いとどまった。いくらなんでもそこまでお人好しになれない。
いや……そんなことを言おうとした時点で、思い浮かんだ時点で、すでにお人好しなのかもしれないが。
***
朝、寝坊していたあたちはノックの音で起こされた。
一体誰が? いや、そもそもあたちをこんな風に誰かが起こしにくるという時点で、嫌な予感がする。
「誰れすか」
「僕だ。おはよう」
ネムレスだった。声音に少し真剣味がある。やはり何かあるれすね。
「ピレペワトが街の中で堂々と暴れている。僕と君がここにいると知ってのあてつけか、他に狙いがあるのか知らんが」
「何れすって……」
あのキチガイ神とはかつて散々やりあったが、街中で暴れるなんてことは初めてだ。
「どういう風に暴れてるいのれすか」
「天下の往来で、素っ裸で踊っている」
確かに暴れてはいるが、人を傷つけるような真似しているわけではないようだ。
「あたち達へのあてつけってのは、ちょっと違うんじゃないれすか? 何か別の目的か、さもなきゃ目的自体存在していないような気がするのれす」
「それにしても放ってはおけないだろう。できればここで引導を渡してやりたい」
「そんなに簡単に仕留められるなら、とっくにやっているれしょ。まあ、すぐ着替えて歯磨いてシャワー浴びて朝食とって、現地に向かうれすから、ネムレスは先に行ってて見張っているといいのれす」
「うむ。早くしろよ」
許可が出た。まあ裸踊りしているだけじゃ実害はないだろうし……
一通り済ませて準備してから、あたちはネムレスと共に現地へ向かう。
大通りの交差点。何人もの野次馬の中心に、本当に一位と纏わぬ姿のピレペワトが、奇声を発しながら、高速で奇怪な踊りを披露している。こないだはペニスケースをつけていたが、今回はそれすら無い。中にはシャンペニアのお偉いさん達や、さらにはヌプヌプまでもが来ていた。
「やあ、ネムレス、リザレ」
ヌプヌプが困ったような顔をこちらに向けてきた。
「オイラ一人じゃ手に負えない相手て、困っていたんだよ」
「任せろ。だが君も協力してくれたまえ。いくぞ、リザレ」
ネムレスの背から翼が生える。あたちがショートソードを抜き、ヌプヌプもファイティングポーズを取る。
今は踊っているだけで害は無いが、今まで散々ろくでもないことをしまくってきたし、今後もするだろうから、見逃すことはできない。
「うっぴゃああああっ!」
「あへえぇぇ~~~っ」
「おぽおぽおおぽぽおぽおぽおぽっ」
ピレペワトに向かって駆け出したその時、数人の野次馬が突然奇声を発し、狂気に憑かれた顔で、あたち達に向かってきた。
神も含めて他者を狂気へと導く奇跡、実に厄介だ。もちろん無条件で発動ということもないし、相性の問題もあれば、相手によって時間がかかることもある。あたちやネムレスやヌプヌプが、この力ですぐに狂気に走ることはないだろうが、野次馬達が超邪魔。
「ふむ、オイラのようにピレペワトの奇跡で、狂わされたのか」
ヌプヌプが呟くと、両手の掌を合わせて祈りだす。
正気を失った野次馬達が、即座に正気を取り戻した。ヌプヌプの力であろう。
その後も狂気に憑かれた野次馬が続出するが、ヌプヌプが片っ端から正気に戻している。
見方によっては、これでピレペワトの力の一部を封じているとも見えれば、ヌプヌプの動きそのものを封じているとも見てとれる。
「この露出狂、くたばるがいいれす」
忌々しげに呟き、剣を振るう。もうあたちは体術だけなら全盛期並のコンディションを取り戻している。
あたちのことをなめくさっているのか、ピレペワトは避けようともしない。あたちの剣が奴の肩から胸にかけて、袈裟懸けに深々と切りつけた。
「何をするうううぅぅぅ! 俺は挨拶にきただけだってのにいぃい!」
そこでようやく踊りを止め、ピレペワトはあたちに向かって抗議するように叫ぶ。
「君に戦う気が無かろうと、こちらにはある。君がこれまでしてきたことを考えれば、文字通り万死に値するぞ」
冷たい声で言い放ち、内臓っぽいもので形成された翼が、ばらばらになって一斉にピレペワトへと襲いかかる。
奴の言う挨拶とやらが何か、気になると言えば気になるのれすが。
何百という内臓器官がピレペワトを覆い尽くす。普通ならこれで勝負がついている。ネムレスより放たれた器官が神の体と同化して、内外よりペインを与えるおぞましき奥義――神蝕。それをあれだけ食らって生きていられるはずがない。
「あがあああああっ! 死ぬ! これは絶対に死ぬうぅぅうぅぅ! お前の力で助けない限りはああああぁ!」
ピレペワトがわけのわからない叫び声をあげる。
「そんな余計なことに俺の力を使わせるのやめてくれよ。結構消費するんだから」
ピレペワトの方に一人の少年が歩み寄り、うんざりした様子でそんな台詞を吐いた。丸顔で、どことなく猿のような印象のある顔つきの人間だ。日本人にも見える。
こいつ……どこかで会ったか? 第一印象だけで、何だか物凄く嫌なイメージがある。
「まさかお前……」
堂々とピレペワトの側に歩み寄っている時点で、気がつくべきだったが、とにかくあたちはそいつの正体がわかった。このタイミングでこんな現れ方をするのは、どう考えてもあいつしかいない。
「リザレ! そいつを殺せ!」
ネムレスが鋭い声を発する。言われなくてもそうするつもりだ。こいつはピレペワト以上の脅威だからだ。
あたちが猛スピードで丸顔の少年へと向かい、剣を振るう。おそらくあたちは、鬼気迫る形相であったことだろう。その男に対する前世の怒りと恨みと憎しみと危機感は、未だ冷めやらぬ。
丸顔の少年はあたちの顔を見て笑った。嫌な笑い方だった。見るだけで吐き気を催す笑み。ああ、やっぱりこいつはあいつだ。前世であたちと太郎さんを殺したあいつ。ピレペワトの神聖騎士だ。
「はい、嘘です」
男がぱんと手を叩き、そう告げる。
「……」
あたちは周囲を見回す。ピレペワトなどどこにいるのだろう? 野次馬は集まっているようだが、どこにもその姿は無い。
「ピレペワトなんてどこにいるんだ?」
あたちと同様の疑問を野次馬も口にした。
「ピレペワトはいないが、ヌプヌプ様とネムレス様がいるぞ」
「僕達は奴が市内にいると聞いて討伐しにきたのだ」
野次馬の問いに答えるネムレス。ネムレスにピレペワトが街の中で、裸で踊っていると言われて、あたち達は来たわけだが、ピレぺワトなどどこにもいない。
すでにどこかへ消えてしまったのであろうが、しかし突然街の中に現れるとは、一体ピレペワトにどんな目的があったのだろうか。
「死ねえええぇぇ!」
え……?
間近であがった声。見るとすぐ側にピレプワトの姿がある。そしてあたちに向かって手刀を突き出した。
「ぐふっ……」
ピレペワトの手刀があたちの下腹を貫く。
「ひゃっはあぁーっ! この感触は何だ!? 胃か!? 膵臓か!? それとも子宮かあっ!? 子宮だったら大当たりいいぃぃ! レイプ! レイプ! 公開子宮握り潰しレイプ!」
「うぐっ! あああっ!」
腹の中をシェイクされ、あたちは苦悶に喘いだ――が、突然そのペインがかき消えた。
その時一体何が起こったか、あたちは二つの事を把握した。
突然現れたピレペワトによる攻撃。ペインの消失。ピレペワトに傍らで、疲労困憊といった感じで仰向けに倒れている丸顔の少年。
起こった出来事を人々の心から消失させてしまう奇跡。目の前にあるものすらも見えなくしてしまう力。狂神ピレペワトの神聖騎士が持つ奇跡。前世では散々煮え湯を飲まされ、散々苦労して、最後はあたちが刺し違える形でやっとのことで倒したのだ。
一度使用すると奇跡の規模に応じて激しく消耗するため、本人が攻撃してくることはないが、それでもほぼ無敵に等しい力である。第一、本人が攻撃してこなくても、近くに味方さえいればそいつが攻撃できる道理だ。今のように。
「狙うならネムレス狙えばよかったのにさあ……」
苦しそうに喘ぎながら、ピレペワトの神聖騎士が呆れたように言う。まあピレペワトに期待するのが間違いだろう。
「挨拶だからいいんだよおおおぉおぼッ!?」
わけのわからんことを叫ぶピレペワトの顔面に、あたちはショートソードを突きたてた。あたちのペインは消失している。
何が起こったかは理解している。マリアの仕業だ。野次馬の中に紛れていてどこにいるかはわからないが、あたちのピンチを見て、ペインの身替りの奇跡を発動してくれたのだ。
「俺のハンサム顔がああああっ! あがっ!」
ピレペワトの顔を切り裂いた後、あたちの腹を貫いている腕を切断し、あたちの腹から引き抜く。
その直後、あたちの頭上を突風が吹きぬけた。見上げたりはしない。何が起こったかはわかっている。
風をまとい、ピレペワトの上空背後に回ったヨセフが、ピレペワトの後頭部にダガーを突き刺した。
さらにネムレスが様々な器官を放ち、ひるんだピレペワトに神蝕をお見舞いする。
「リザレ、おそらくそこに倒れているその少年が、ピレペワトの神聖騎士だろう。そいつを先に仕留めろ」
ネムレスが告げる。言われなくてもそうするつもりだ。
こいつはどうやらすでに奇跡を使用したようで、へばっている。ピレペワトはさっさとこいつ連れて逃げればよかったのに、そうしなかった。頭イカれているこいつにそういう計算はできず、下僕の足を引っ張りまくった形になったが、こちらからすれば絶好の機会だ。
「さ・せ・る・かばっ!?」
ネムレスの器官に同化されて、苦痛に喘ぎながらもピレペワトがあたちに向かって攻撃しようとしたが、ヨセフが後ろから風をまとわせたダガーをピレペワトの膝の裏に放ち、両膝の部分を激しくえぐりぬく。立っていられずに、前のめりに倒れるピレペワト。
「死ね」
「嘘だろ……いや、嘘になってくれっ! もう一度頼むーっ!」
あたちがショートソードを奴の顔面に振り下ろさんとした時、奴は泣きながら叫んだ。
直後、ピレペワトとその神聖騎士の姿が消えた。
「二回連続使用れすかっ。一回しか使えないんじゃ……」
「完璧では無かったようだが、どうやら二回使えたようだな。僕らの記憶まで消すには至らなかったうえに、奴等を完全に認識できなくなったわけでもない」
そう言ってネムレスが頭上を指すと、半透明の状態で宙に浮かぶピレペワトとその神聖騎士の姿があった。両者共昏倒しており、その姿がどんどん薄くなっていっている。
ヨセフがダガーを投げ、ヌプヌプも手を伸ばしたが、どちらもすり抜ける。
「記憶の残滓が幻影という形で残っているだけで、本体は別の場所に転移したのであろう。不完全な形とはいえ、危機だけはのりきったというわけだ。だが奴もただではすまぬだろう。無理矢理な奇跡の使用で、しばらくは昏睡状態――僕らにとっては希望的観測になるが、死も有りうる」
ネムレスが渋面で語る。こんな顔のネムレスを見るのは珍しい。
そして、奴が奇跡を二回使用した反動だと思われるが、一回目で消えうせたはずのあたちの記憶が、全て蘇った。ネムレスやヌプヌプも同様だろう。
「リザレちゃん……大丈夫ですか?」
下腹を押さえて、マリアが野次馬の中からヨタヨタと歩いてくる。
「マリア、助かったのれす。ありがとさままま」
「いえいえ、ピレペワトが暴れているって噂を聞いて、ひょっとしたらリザレちゃん達もいるかなーと思ってスタコラサッサと来てみましたが、正解でし――」
言葉途中に、マリアの体をぎゅっと抱きしめて、御褒美をあげるあたち。あたちを救ってくれて、おまけに痛い目も味わったマリアなのだし、これはもう素直な感謝の気持ちでもある。
「ピレペワトは何をしにきたんだろうねえ」
ヌプヌプが疑問を口にする。確かに謎だ。挨拶とか言っていたが。
「奴は狂気の神。行動原理も常の思考ではないが故、考えるのは無為というものだ」
ネムレスが言った。ネムレスはそう言うものの、ピレペワトにも幾つかの行動原理は存在する。
ピレペワトの目的は、この世になるべく多くの狂気をもたらすこと。特に神々を狂気へと導き、その心を失わせることだ。だからこそ、神の心を救い、心を失われた神に引導を渡すネムレスとは激しく相対する間柄なのである。




