14 魔雲の地へのいざない
ヌプヌプ討伐後、あたちらはシャンペニアに戻ってあれやれこや工作し、ブランデリスにも足を運んでここでもあれやこれや工作し、ヌプヌプをシャンペニアに、イエスをブランデリスにそれぞれ置いて、信者を募った。
元々二つの都市に神がいなかったし、二つの都市の救世主のマリアの主神ということもあって、話はスムーズに進んだ。ヌプヌプには定期的にブランデリスに足を運んでもらうことにもなったが、嫌な顔はしなかった。
ちなみにずっとブランデリスに置いていたラッセル他数名の下僕も、シャンペニアに合流させることにした。イエスのイカれた性格は、ブランデリスの住人とはわりと相性がいいようであったし、彼に任せておけばいいだろう。
結構な時間がかかったものの、これで両都市のあたちの支配力は強まった。で、次はウォッカードの支配に行こうかと思ったが、そうはならなかった。
シャンペニアの解析士スプレーに任せておいた、カクテロ遺跡で発掘した古代文献の解析が完了したのである。
あたちは優助とネムレスを伴って、スプレーの元へと向かった。ネムレスには内緒にしておきたかったのだが、心も繋がっているし、ネムレスを出し抜くというのは不可能だ。
「解放の塔にまつわる記録を見つけるとはな。こちらに来たばかりで随分なお手柄だ」
シャンペニアにて、図書館に向かう途中にネムレスが言った。今日は少女の姿をとっている。
「古き神々が直接記した記録だと、解析士は言っていたのれす。うまくすれば解放の塔が神をどうやって作るかのシステムも判明し、神の量産もできるかもれすね」
「そんなことは絶対させんぞ。これ以上悲劇を繰り返さぬよう、解放の塔自体、破壊できるものなら破壊する」
キツい口調でネムレスが言う。
「神の心が死ぬようなことになるから、ネムレスは反発しているのれしょ? あたちだってそんな事態は嫌れすよ。そうはさせない前提で、あたちの下僕を全て神にして従えたいのれす」
「呆れたな。そんなことを画策していたのか」
あたちの言葉に、本当に呆れ顔になるネムレス。いくら心が繋がっているとはいえ、あたちの企んでいる事全てを知り尽くしているわけではない。が、ネムレスが知ろうと思えば、読まれてしまう可能性は大だ。
「ネムレスは神々の存在そのものを否定しているようれすが、それは思考停止れすよ。利用できるものは利用した方がいいのれす。危険物だからといって、存在そのものを悲劇の象徴として消し去るのではなく、慎重に、上手に利用すればいいのれす」
「一理あるが、しかし何のために利用するのかと言ったら、君の野心をかなえるためだろう?」
「それの何が悪いんれすか」
「君はその野心のために、人の命を犠牲にするつもりか?」
ネムレスが尋ね、足を止めた。自然とあたちと優助の足も止まる。
「この世界での命は、向こうよりもずっと重く尊い。乱す者等の闘争等で殺めるのであれば、それは致し方ない。しかしだ、君の野心のために関係の無い者の命が奪われるのは、見過ごせない。たとえ一人であろうとだ。シャンペニアとブランデリスの戦争も、マリアがいたおかげで犠牲者を出さず事前に止められたが、彼女がいなければどうだった? 君は犠牲を出す方法を用いたのではないか? 今後はどうだ? 君の支配のやり方は表立ったものではなく、裏や内部からじわじわと侵蝕していく代物ではあるが、その過程で出さずともよい犠牲を出してしまうのではないか? 僕はそれに反対しているのだ」
あたちをじっと見つめて語るネムレスの瞳は、哀しい光を帯びていた。
「姫、僕も姫が自分の目的をかなえるために人を殺すなんて嫌だよ。不可抗力とか、悪い奴が相手とかならともかくさ」
優助までもが、ネムレスと似たような表情で訴えてくる。
「わかったれすよ。絶対に犠牲前提の行為はしないと誓うれすよ。ただし優助の言うとおり、不可抗力とか、あたちと完全に敵対した者までは保障できんのれす」
「そこまで責めることはないさ」
うんざりした表情で誓うあたちに、ネムレスは相好を崩した。
「しかし覚えておくがいい。君の振る舞いは乱す者以外の何者でもない。今の君は乱す者そのものだ。僕はずっと危険視しているからな」
「はいはい。で、あたちが触れた解放の塔による神量産のプランれすが、これこそ平和的にあたちの支配を進められるものれすし、反対されるいわれは無いのれす」
「確かにそうだな」
顎に手を当て、納得顔のネムレス。
「どういうこと?」
理解できていない優助が尋ねる。
「あたちの下僕を神にして、世界中に放ち、信仰という名の元に、裏から世界をひっそりと支配していくプランれす。支配とは、支配者になるということは、何も名乗りあげて君臨することだけではないのれす」
「うーん……それならやっぱり、姫の服従ウイルスで各都市の権力者を支配していく方が、手っ取り早いんじゃない?」
「それはらめだと何度も言ったれしょ。実際そのやり方で失敗もしているれすし。勿論同時にその手も使うれすよ。ただし、服従ウイルスだけには頼らないのれす。シャンペニアのように、何人かの都市の有力者を支配下に置き、神も送り込み、多方面からの支配――合わせ技れすね」
「いまいちピンとこないなあ」
これだけ説明しても優助にはわからないのれすか。
「服従ウイルスは、人の心まで完全に支配しているわけではないのれすよ。しかも特定個人限定れす。崩されると脆いのれす。しかし――たとえ神を立てずとも、マリアのようなカリスマシンボルを立てて、人心を掴めることができれば、それは強みれす」
かつて服従ウイルスに頼りすぎて痛い目にあったからこそ警戒しているあたちだが、優助にはどうしてもわからないようだ。
***
図書館のスプレーの私室を訪れる。
「おお、来られましたか。って、ネムレス様もっ」
スプレーが興奮気味な表情で出迎えたが、ネムレスの顔を見て驚いていた。
「あたちがネムレスの巫女なんだから、別にネムレスと同伴でも不思議じゃないれしょ」
「え、ええ、確かにそうですね。この図書館内にネムレス様が長いこと滞在しているという話も聞いていましたが、実際にお見かけするのは初めてですし、何より私がネムレス様の信者ですので、出会えて感激です」
瞳をキラキラと輝かせ、熱っぽい表情でネムレスを見上げるスプレー。
「そうか。苦しうない、近うよれ」
「え……」
スプレーに近くに寄れと言いつつ、ネムレスの方からスプレーに近づいていき、そのプードルに似た頭を抱え込んで、胸の谷間におしつける。
「わわわっ!?」
「ふふ、コボルトは可愛いな」
わんこフェイスを胸に挟んで弄ばれ、動揺しまくるスプレー。
「スプレー、さっさと結果を報告しろれす」
「あ、はい。これはまさに驚天動地の発見です」
報告モードに入るスプレーだったが、ネムレスは解放しようとしない。
「まずこれまで、解放の塔があらゆる場所をワープして移動していると思われていましたが、これが違うということが判明しました。これだけでもとんでもない発見です」
「実際いろんな場所にランダムで現れる仕様だったが、それが違うと否定するのは、空が青いのも、太陽が眩しいのも、鳥が空を飛ぶのも、僕のおっぱいが美乳なのも、リザレのおっぱいが微乳なのも、下界の宇宙に空気が無いのも、全て否定するのと同じ意味なのだぞ?」
なんつーたとえをしやがるのれすか、ネムレスは……。つーかあたちの胸の形、そんなに悪くも無いし、サイズが小さいのは年齢の問題れしょーに。まだ成長期なんれすし。
「いえ、違います。あれはワープしてはいません。空間を歪ませて一時的に入り口を各所に開けているのです。逆に言えば、空間の歪みをランダムに飛ばしているのです。解放の塔そのものはペインの深淵に立ったままです」
スプレーの解説はダブルの意味で衝撃であった。が、後者の衝撃の方がでかかった。
ワープしていない理屈は理解できた。つまり解放の塔のある場所そのものは固定されているので、その場所に行けばいいだけの話になる。だがよりによってペインの深淵とは……
「ふむ。よりによってペインの深淵にあるとはな。ランダムワープを追うのと、どっちがマシだろうな」
「ペインの深淵て何?」
優助が質問する。ペインの深淵の存在は、相当博識でないと知らない単語であろう。
「ペインの深淵は、古き神々が創った負の遺産れす。様々なペインを背負わされ、ひたすら苦痛に耐える者達のふきだまりの地れす。もちろん、実際に訪れたことはねーれすが」
「魔雲の深部にあるという話だ。僕も行ったことはない。一説によれば、世界のほつれの中にあるとまで言われているな。あるいはその近くか」
よりによって世界のほつれって……もしもその中にあるのだとしたら、流石にお手上げだ。
「世界のほつれって、世界の端っこって言われてるあれかー」
流石に優助もその辺は知っていたようだ。
あたちも見たことは無いが、魔雲の最北部は空間が端々ちぎれた状態になっていて、その完全にちぎれた先は無明の闇が延々と広がっているという話である。多少ちぎれた闇に触れても何とも無いらしいが、完全に闇で満たされた領域に飛び込んだ者は、戻ってこられないという。
「私は世界のほつれの先にあるという説は、否定したい所であります」
スプレーが異を唱える。
「ほつれの先に行って戻ってきた者はいないのに、どうしてほつれの先にペインの深淵があるとわかるのですか。明らかにおかしいですよ。眉唾ものです」
「確かにそうだな」
ネムレスも認めて微笑をこぼし、スプレーの頭をいいこいいこするように撫でる。照れまくるスプレー。
「ネムレスはわんこ……コボルトが好きなの?」
「わんこが好きだ。にゃんこも同じくらい好きだがな。それぞれ良さがある」
訂正して聞きなおす優助に、ネムレスは遠慮なく堂々と答える。
「他にわかったこともあるのれしょう? これだけでもと言っていたのれすし」
「あ、はい。実はもっととんでもない情報があります」
またスプレーが興奮した口調に戻る。
「新たな神を作るためのメカニズムを知るためのコードとなる古代魔法言語が、その中に記されていたのです。解放の塔に行ってそのプレートに書かれている言語をうちこめば、神を作るための重要情報を知ることができますよっ」
「それは一番知りたかったことれすよ」
思わず含み笑いが出てしまうあたち。
「塔の中のペインを封じる方法は無いれすか?」
「それはありませんでした。しかし塔に行ってプレートに記されたコードをうちこめば、それらの情報もわかるかもしれません」
結局は解放の塔へ向かうしかないということか。
***
そんなわけで、ウォッカードの支配は後回しで、先に解放の塔に行くことにした。
スプレーを同行させて解放の塔へ行こうかなどという話も出たが、彼にはシャンペニアにて家族と暮らしているというので、危険な地への同行等という無理強いはできなかった。本人も残念がってはいたが。
代わりに、解放の塔で見つけたものはシャンペニアに戻ってきて、彼に解析してもらうということにした。もちろん土産話もする予定。
「てっきり姫、『家族なんかよりあたちの言うことを聞かなくちゃらめーっ』とか言って、服従ウイルスのペインで、スプレーさんを苦しめるんじゃないかって心配したよ」
「あんたはあたちのこと、何らと思ってるんれすか……」
帰り道、優助の言葉に愕然とするあたちだったが――
「冗談で言ったに決まってるじゃない」
と、爽やかに笑う優助。おのれー……
「これは冗談ではなく本気の提案だが、リザレよ、優助を僕の弟子としてしばらく預けてみないか?」
唐突すぎるネムレスの提案に、驚いて彼女の方を向くあたちと優助。
「魔雲は危険な土地であるしな。今のままでは、この子はどう考えても足手まといだ。君の指導もあまり褒められたものではないし」
「大きなお世話れすよ。ていうか、優助に素質でも見出したのれすか?」
「僕は素質だの才能だので人を見ない。そんなものは有っても無くてもいい。強いて言えば努力する才能くらいだ。本人に頑張る意志があるかどうか、ガッツがあるかどうか、ファイティングスピリットがあるかどうか。これだけだ。これに尽きるのだ。そしてこの子にはあると見た」
そう言って優助を見るネムレス。優助も真剣な顔つきになって、ネムレスの視線を受け止める。
「優助、ネムレスは確かに剣も魔法もその他の戦闘術もペインの寸止めも、指導者として優秀れすし、これは願ってもない話れす」
あたちが優助にこれを承諾するよう促す。
「床上手も忘れてはならない」
「それはらめれす」
ネムレスの余計な一言に、あたちはきっぱりとNGを出す。
「じゃあ、頼むよネムレス。いや、お願いします」
「うむ」
立ち止まり、深々と頭を垂れる優助。腕組みして偉そうに頷くネムレス。
「ネムレス様、少々お時間をいただけませぬか」
そこに、後ろから誰かが走ってきて、声をかけきた。
「どちらさまれすか?」
「僕が図書館にこもっていた際、世話になっていた司書だ。何の用かな?」
「実は先日、厄介な呪いにかかった者が、シャンペニアに運ばれてきまして。その呪いの解除に、多くの者が頭を悩ませている次第です。病院の方々が、図書館にも資料を探しに来ています。ネムレス様なら呪いを祓うこともできるのではと考えまして」
呪いとはまた珍しい……
「わかった。診てみよう」
ネムレスが承諾し、あたち達は司書の後をついていき、病院へと向かう。
病院のベッドの上で、瞼を閉じて苦しげに唸る男を見て、あたちは驚いた。そいつとは前世で関わりがある。
「フェンリル……」
「ほう」
あたちが男の名を呟くと、ネムレスが興味深そうな声をあげる。
「リザレか……そちらがネムレスだな。何と言う皮肉な巡り合わせ……くっくっくっ……」
人間形態のフェンリルが目を開き、真紅の瞳であたち達をそれぞれ一瞥し、苦しげな表情のまま笑う。
「面識があるのか」
ネムレスが問う。
「あたちと太郎さんが、前世でネムレスと別行動をとっていた際、彼と共闘したことがあるのれす」
神殺しの魔狼フェンリル。下界の伝説さながらに、主である神を丸呑みにした神聖騎士である魔物。心を失った神とその下僕を激しく敵視し、また己の力の糧とするために、食らってまわっている。
神とその下僕に対して絶対的優位に働く奇跡を多数行使できるため、仮に巫女であるあたちが彼を敵に回せば、非常に厄介な奴である。逆に言えば神殺しの際に仲間にできれば、かなり強力な味方となる。問題は適度に抜けている性格の持ち主という事だが。
「この者が今かかっている呪いは、太郎を無理矢理従わせようとして呪いをかけ、その呪いを返されたが故の状態だ」
「何れすってえっ」
ネムレスに言われ、あたちはフェンリルを睨みつける。
「んじゃ、このまま放っといて、とっとと帰るのれす。助ける義理はねーのれす」
「まあ待てリザレ。この者は使える。僕と目的が同じであるしな」
ネムレスの台詞は予想通りだった。それを見越したうえで、恩を売る演出の前置きとして、あたちは今の台詞を発した。
「フェンリルよ、君の呪いを解いてやってもいいぞ」
「条件は何だ……?」
ネムレスを見上げるフェンリル。
「新居太郎に助力して、彼が戦う乱す者との戦いの終結を早めてこい。そして太郎に伝えよ。乱す者との戦争が終わったら、神狩りのために僕の元へ来るようにと。もちろん僕の方でも伝えておくがな」
ネムレスが伝えた台詞に、あたちは少なからぬ衝撃を受けた。
「太郎さんを……呼ぶのれすか?」
「魔雲の中に入るのであろう? 彼も呼んでおいた方がよかろう。戦力としては非常に有力だ。それに魔雲の中には、夥しい数の心を失くした神々がいる。奴等は最早魔物と変わらぬおぞましい存在になりはてている。道中、それらも狩っていくとしよう」
あたちは優助を一瞥した。予想通り、うつむいて複雑な表情をしている。
嬉しい反面、この子のことが非常に気がかりでもある。うーむ……
「優助、太郎がリザレと惹かれあい、君の前でイチャついてラブラブになることを心配しているのであろうが、大丈夫だ」
ネムレスまでもがそれを見抜いて、意外な言葉を発した。大丈夫れすと?
「あ奴はこちらに来て、早速他に女を作っている」
「うわぁ……」
「相変わらずれすね……」
優助とあたちが同時にげんなりした顔になる。正直驚きはしない。あっちにいた頃からそういう人だったから……。ネトゲ内であたちに隠れているつもりで、♀プレイヤー口説きまくっていたれすし……
「しかも二人もすでにキープしているようで、そのうち一人は僕の弟子というから、驚くし呆れる。そのうえで、僕やリザレも含めてハーレムを築こうなどという、戯けた野心に取り付かれておる」
清々しいレベルの屑っぷりに、あたちは腹も立たない。ただただ呆れるというか、諦めているというか……
しかし優助やネムレスには悪いが、それでもあたちの気持ちが彼から離れるかと言われれば、そうでもない。屑なのはしょーがない。屑なんだから。
「そういうわけでだ、優助。僕は君を応援する。ガンガンリザレを口説け。僕が許す。君のものにしろ。僕の応援もあるから絶対に大丈夫だ」
優助の頬を撫でて、力強い口調で許可を出すネムレス。いや、何故ネムレスが許可を出す。
「わかったよ。ありがとう、ネムレス。頑張るよ」
優助の最後の頑張るの一声に、熱い響きがこもっていた。嬉しいやら切ないやら……
***
呪いを解かれたフェンリルは、すぐに太郎さんの元へと旅立った。
あたちはマリアとヨセフにも、魔雲の奥にある解放の塔を探しに行くことを告げた。もちろん彼等にも同行を願う。
「部下達はどうする?」
ヨセフが問う。元山賊の部下約百名の扱いが確かに困りものだ。魔雲の奥という危険地帯に連れて行くには、数が多すぎるし戦闘力も不安。
かといって、乱す者である彼等を長時間放置プレイというのは問題がある。彼等に刺激の保障もしたうえで、下僕にしたわけだから。
「ちょっと不安れすが、ウォッカードの暗黒街の住人となってもらうれすかね。魔雲から戻ってきた際に、あたちがウォッカードの攻略をしやすいように」
「悪くないな」
ヨセフは短くそう答えたが、正直いつ戻ってこられるかわからんので、やっぱり不安。まあ山賊に戻すよりはマシだし、似たようなもんではあるが。
「ラッセル他、頭領クラスの連中にうまくやるように指示が必要だ。魔雲にすぐに発つとなると、それができなくなる。多少の時間は要るだろう」
もっともなことを言うヨセフ。流石に頭領達のさらに上に立っていただけあって、人のまとめ方は上手いし、手馴れている。
「そうれすね。ネムレスにもそう伝えておくのれす」
魔雲の地に旅立つにも、いろいろ後始末や準備に時間がかかりそうだ。
***
ヨセフマリアの二人と別れ、宿の自室のベッドに寝転がりながら、いろいろ頭の中で整理する。
ネムレスが太郎さんを呼び寄せたが、正直な所、あたちは彼に会いたいという気持ちと、会いたくないという気持ちが同時にある。
会いたくないと思うのは、あたちが今こんなことをやっているからだ。どう考えても乱す者そのものなあたち。太郎さんはそれを知ったらどう思うだろうか?
つーか彼がこっち来て何しているか、ネムレスは知っていたようだが、何で何も教えてくれないのか……。太郎さんが乱す者と戦っていると聞いて、いろいろ考えてしまう。乱す者と対立するような何かがあって、乱す者も憎んでいたとしたら――いや、太郎さんはそんな融通利かない人ではないから、その辺は心配しなくてもいいと思うが……
一方で優助のことも気がかりではある。意識してしまう。保護者感覚ではあるが、あれだけあたちのことを慕って――好いてくれているのに、何も感じないはずもない。
しかし――異性として見るには、どうしても彼よりは大きく見劣りしてしまうし、気持ちのうえでもどうしょうもない。
「えへへへ……」
いろいろ考えていて、あたちは不覚にも、侵入者に全く気がつかなかった。
気がついた時には、彼女は笑いながらあたちの上に覆いかぶさっていた。
「何のつもりれすか……」
相手が何のつもりかは明白だが、あえて冷めた声で問う。
「それはもちろんこういうことですよぉ……」
あたちの頬に触れながら、あたちの顔に、うっとりとした顔を近づけてくるマリアだった。




