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13 イエスとヌプヌプ

 あたち、ネムレス、優助、マリア、ヨセフの五人組がヌプヌプ神殿に到着したのは、夕方頃だった。

 山の中に建てられた神殿は、思っていたより巨大だった。ドーム状の屋根を持つ、円錐状の建物である。おそらくは山もかなり切り崩して建てられたのだろう。


 ヌプヌプ信者達と共に馬車の荷を下ろし、神殿の中へと入っていく。入り口からしてでかい。幅も広いし、天井もやたら高い。巨人が神の神殿だから、必然的にそうなるわけか。

 神殿の中は非常にシンプルな造りだった。そのまま巨大な広間で、部屋の区切りも無ければ当然廊下も無し。


 神殿内の前の光景を見て、マリアから聞いて予め知っていてなお、あたちと優助は引いてしまっていた。

 何十人もの信者達の裸の絡み。男もいれば女もいる。男同士、女同士という組み合わせもある。一番奥には、アヘ顔ダブルピースをしたまま胡坐をかいて鎮座した巨人の姿。間違いなくこいつがヌプヌプだろう。ヌプヌプの体からは何本もの触手が伸び、信者達を絡めとり、貫いている。


 先にいた信者達の喘ぎ声が響き渡る中、物資を運んだ信者達も皆裸になり、乱交現場へと飛び込んでいく。


「誤解しないで欲しいのですが、ヌプヌプ様は最初からああいう神様だったわけではありません。そうなら私も巫女になりませんからねっ」


 マリアが嫌そうな顔で言う。


「信者達の解釈によって信仰が捻じ曲がるケースであろう。よくある話だ。しかし、信仰心目当てにそれを受け入れてしまった神にも責任はある」


 ネムレスが解説する。あたちやネムレスは、そういった神々を散々見てきた。


「ただ、この神の場合は信者の理想形へとなろうとしているものの、肝心の信者の数が少ないが故、信仰心の獲得もいまいちであるな」

「まだ……助けられますか?」


 ネムレスに向かって恐る恐る尋ねるマリア。


「うむ、大丈夫だ。まだ完全には染まりきってはいない。しかし進行度は楽観できるものでもない。放っておけば早ければ半年後、遅くても三年後には、心死せる神となっていたな」


 触手うねうねアヘ顔ダブルピースの巨人神を見つめ、ネムレスは言った。


「どいつがイエスれす?」


 マリアに問う。


「いませんね……。おかしいです。どこかにこっそりひっそり潜んでいるかも」

「イエーッス!」


 マリアが言った直後、頭上から叫び声と共に一人の男が降ってきた。


「正気をまといし者の接近を感じ取り、警戒してみれば、マリアちゃんじゃねーかよ。アハハハ~ッ!」


 突然あたち達の前に降ってきた上半身裸の男が、甲高い声をあげる。信者の何人かが行為を中断して、こちらに注目した。構わずへこへこ続けている奴もいるが。


「君がイエスか」

「イエス! イエスイエス! オーイエスッ!」


 問うネムレスに、ノリノリのハイテンションで、何度も首をブンブンと縦に振りながら、男は答えた。

 汚らしいボサボサのロンゲ。髭面にグラサン。だらしなく緩んだ口元。引き締まった筋肉をあらわにした、陽に焼けた上半身。ボロボロのハーフパンツ。そして裸足。見た目のインパクトは十分すぎる男だ。


「助っ人を引き連れてきたのはわかるが、よりによってネムレス神を連れてくるとは恐れいるねえ、マリアぁ」


 一目でネムレスの正体を看破し、耳障りな甲高い声で、ヌプヌプの神聖騎士イエスはマリアに声をかけた。

 マリアは憮然とした表情でイエスを睨み、何も言い換えそうとはしない。両者の関係がよろしいものではないという事が、一目でわかる。互いにたっぷりと敵意を抱いているようだ。


「オォ~、マリアぁ、何とか言ってくれよぉ」

「あなたの悪行もここまでですよ、イエス」


 ひどく怒りに満ちた声を発し、マリアはイエスに向かって鎌を突きつける。


「人のいいヌプヌプ様をかどわかし、このように貶めたあなたを、私は許しません。断じて許しません。謝っても許しません。死んでも許しません」


 ほほう……こいつが諸悪の根源れしたか。


「そういう大事な情報は先に言わなくちゃらめえ。それによってプランも変わるかもしれんのれすよ」

「うっ……ごめんなさいっ」


 呆れ顔で指摘するあたち。申し訳無さそうに会釈するマリア。


「ヌプヌプ様は元来、慈愛と変態を司る神でした。そして慈愛の象徴の巫女として私を。変態の象徴の神聖騎士としてイエスを選んだのです」


 マリアもかなり変態っぽいからそれはおかしいと思ったけど、突っこまないでおく。


「しかしイエスの変態性に毒され、ヌプヌプ様は慈愛の心を失くし、ただただひたすらヌプヌプするだけの変態神に――」

「ヘイ、そいつは間違いだ。ヌプヌプ様は俺のせいでああなったんじゃないぜ?」


 マリアを指差し、彼女の言葉を遮るイエス。


「というか、俺は乗っかっただけだ。ヌプヌプ様がああなってる方が、俺にとって都合がいいしな。ハッハーッ。それをマリアは誤解しているだけだ。ハッハーッ」

「つまり、ヌプヌプをおかしくした奴が他にいるというわけだな。大体見当はつくが、ここで現れるとはな」


 ネムレスが言い、あたちを一瞥する。


 あたちもその時点で思い出した。神を狂わす神の存在。あたちとネムレスが散々やりあってきたあの悪神のことを。


「しかもすぐ近くにいるぞ。気配を感じる」


 ネムレスが奥のアヘ顔ダブルピースに向かって、おもむろに歩き出す。その前にイエスが立ち塞がる。


「どけ。君の遊び相手は後ろの三人が努める。僕は奥の担当だ」


 イエスを睨み、ネムレスがいつになくキツい口調で言い放つ。件の悪神が関わっていると知り、機嫌が悪いようだ。


「マリア、ヨセフ、いくれすよ」


 ショートソードを抜き、声をかけるあたち。


 あたちの隣を突風が吹きぬけた。目で確認しなくても、ヨセフだとわかる。

 風をまとったヨセフが、正面から高速でイエスに突っこむ。暗殺者らしからぬ戦い方だが、イエスの奇跡の特性が、自らがペインを受ければその分パワーアップするという代物らしいので、速攻で倒す必要があるし、ちんたらしていられない。


「イエーッス!」


 上空から繰り出されるヨセフのダガーを、イエスは素手で防ぐ。いや、防げていない。風をまとったダガーの一撃は手をズタズタに切り裂いて、かなりのペインを与えている。

 ヨセフに少し遅れて、あたちとマリアが左右から仕掛ける。あたちがショートソードを振るう。

 イエスはあっさりとあたちの攻撃をかわしたが、回避直後のタイミングを狙って振るわれた、マリアの刃いっぱいの鎌が、イエスのドテッ腹に食い込む。

 さらにイエスの腹の中で、鎌の刃が巨大化し、イエスの胴体をズタズタに切り裂いた。


 下半身と上半身を分断されて、床に倒れるイエス。


「イエエェェェェッス! すげえ! こんなすげえペイン久しぶりぃぃぃ! さっすがマリア!」


 致死量と言ってもおかしくないペインであるにも関わらず、イエスは全く堪えてない風で、喜悦の叫びをあげている。


 あたちが短い呪文で攻撃魔法を唱える。炎柱がイエスの体を包む。


「イエエェェェス! 熱いよ熱い! ハッハーッ! ま、こんくらいでいいかなあ?」


 不意に落ち着いた声を漏らし、炎に焼かれながら、胴体を繋げたイエスがむくりと立ち上がった。

 ここまでやっても、行動不能にまで陥れることができないとは……正直たまげたのれす。


「不味いです。早く仕留めないと」


 マリアが焦燥気味の声をあげる。


「ヒャハハハハハッ! もう無理~っ!」


 イエスが甲高い声で笑い、股間に手を突っこんで何かを取り出して振るう。


「あぐっ!」


 多条鞭での攻撃をもろに食らい、マリアが悲鳴をあげる。


「イエェエェェェェッス! 女が苦痛に喘ぐ声は俺の大好物だァァァァッ! オラ、もっと叫べえぇええぇ!」


 手の動きが、鞭の動きがほとんど見えない。しかしマリアが滅多打ちにされているのはわかる。

 ペインでパワーアップするとは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。マリアを助けねばとは思うが、近接戦闘では明らかにあたちでは勝てないのもわかっている。助けにいったところで、今度はあたちが成す術なく滅多打ちにされるだけだ。


 しかし――


「この変態! マリアから離れろれす!」


 頭ではわかっていたけど、あたちは叫びながら、躊躇せずにイエスに飛びかかっていた。


「両手に花あああぁぁ!」

「ぐっ……!」


 たちまちイエスの多条鞭の連続攻撃があたちに降り注ぎ、想像以上に強烈なペインを受けて、あたちの動きが止まる。見た目は軽い感じの多条鞭だが、実際はとてつもなく重い。しかもそれが何条もあるので、強烈なペインとなる。


「リザレ!」


 優助が叫ぶ。あたちが優助を睨みつけ、こちらに来ないように制する。もし優助が来たら、たちまち殺されてしまう。


 こいつ、思っていた以上に、かなりとんでもなくヤバい奴だ。ペインでパワーアップという特性を持つ者を力で強引にねじ伏せてくるのも見越し、ペインへの耐性も相当なものに仕上げている。イエスを力押しで倒すのは至難。ネムレスと担当を逆にすればよかったれす。

 正直かなりピンチ。ネムレスがさっさとケリをつけてこちらに来てくれないと、犠牲者が出かねない。


 不意に、鞭による攻撃がやみ、あたちは顔をあげた。


「おっおっおっ!? い、今の俺の速度についてこれるとは!」


 見ると、ヨセフがイエスに堂々と近接戦闘を仕掛けていた。イエスの両腕の肘の裏にダガーが突き刺さっている。

 イエスと遜色無い速度、さらにはそれを上回る技量で、ヨセフはイエスを圧倒している。イエスは明らかに狼狽していた。

 ヨセフめ……あたちと戦った時より、相当パワーアップしているじゃないれすか。あたち達に隠れて、相当修行を積んでいたのれすね。


 多条鞭を振るっても、ヨセフの体より生じる突風に弾き飛ばされてしまう。あの多条鞭とて魔具であるし、見た目ほどヒョロくはなく、生半可な風で吹き飛ぶような代物でもないというのに。


 あたちとマリアが起き上がり、再び左右から攻撃を繰りだす。マリアの一撃は避けたが、あたちの剣はイエスの口の中に突き刺さった。


「ガッ!?」


 イエスの口の中に突き刺した剣を鋸のように、引いたり押したりを繰り返して、ヨセフの口に地道に嫌なペインを与え続けてやる。

 今までのペインも積み重なり、ようやくイエスのペインが戦闘不能となるほどに至った。そして――あたちの奇跡が発動した。


「ノオオオオォォオォオォオォ!?」


 心臓への激痛を受け、胸を押さえてのたうちまわるイエス。


「あたちの奇跡、服従ウイルスれす。あたちに心からの服従を誓えば、そのペインは解けるれすが、少しでも叛意を持とうものなら、ペインがお前を蝕むれす」

「ハッハーッ! 恐ろしい奇跡だねっ! しかし俺の魂は俺のものだ!」


 凄絶な笑みを浮かべ、イエスがあたちを睨みつける。


「このまま死ねばお前の思い通りにはならないって話だねーっ! イエーッス! イエスイエス!」

「いや、イエス。そんな意地を張って死ぬとかお馬鹿さんですよ。私やヨセフもリザレちゃんの服従ウイルスを受け入れましたが、奴隷扱いされているわけでもないですし、普通に対等の仲間として、エンジョイしてますよー? リザレちゃんはいい子です。それに、私達はヌプヌプ様を救いにきたんですよ?」


 マリアの説得に、イエスは意外そうな顔になり、彼を蝕むペインが解けた。あたちへの服従を受け入れたのだ。


「エンジョイしてるってことは、つまりお前はその女とヌプヌプかっ!?」

「いえ、それはまだですよー。でもそろそろですよー」

「まだとかそろそろとか、今後ずっと有りえねーれすよ」


 イエスの問いに恐ろしい答えを返すマリアに、あたちは突っこんだ。


「マリアが嘘ついているとは思えないし、それなら意地張っても死に損だよなー。じゃあ、あんたの部下になろう」

「そろそろは嘘れす」


 納得顔のイエスに、さらに突っこむあたち。


「あっちも終わったようだ」


 ヨセフが神殿の奥を向いて言う。


「何あれ……」


 側によってきた優助が、ヌプヌプの身に起こっている光景を見て呻く。


「ノォ~~~……」

「えー、な、何ですか、あれは……」


 イエスとマリアも顔をしかめている。久しぶりとはいえ、あたちにとっては見慣れた光景だ。


 ヌプヌプの巨体及び触手の至る所から、器官という以外に形容しがたいものが生えていた。それは様々な種類で、チューブのようなものであったり、内臓のようなものであったり、露出した筋肉のようなものであったりと、とにかく生物の体の中身のようなもので、ヌプヌプの体が覆い尽くされている。

 そのヌプヌプの前方上空を軽やかに舞うネムレスの背中からも、それは生えていた。臓物じみたものが重なって形作られた四枚の巨大な翼。


「あれがネムレスの神殺しの奥義、神蝕れすよ」


 下界じゃ声に出して言っても、漢字がわからなくて通じない単語ではあるが、この世界ではちゃんと意味まで通じる。

 詳しい原理はあたちにもわからないが、ネムレスの翼と同様のものに体内から侵蝕され、じわじわとペインを与え続けるものらしい。


「そちらは済んだようだな。リザレ、トドメを刺せ。服従ウイルスで支配するために」


 あたちの方を向いて言うネムレス。


「気遣いありがとさままま」

「トドメはやめてくださいよーっ! リザレちゃん風に言うとトドメ刺しちゃらめえええっ!」


 ヌプヌプの方に歩いてくあたちを、マリアが後ろからあたちに抱きついて制する。


「こら、離せれす。ていうか、どさくさに紛れておっぱい揉むなれすっ。トドメは言葉のあやというか、あたちが最後の一撃って意味れすよ。服従ウイルスで支配するためれす。そっちは聞いてなかったのれすか」

「あ、そうでしたか。うっかりすっかり揉んだりしてました」


 言いながらもあたちから離れようとしないマリアを振りほどき、あたちはヌプヌプへと近づく。途中、ビビって震えている信者達がいたが、何事もなく素通りする。


「マリア、ヌプヌプに正気に戻るよう、呼びかけ続けるのれす」

「はいっ。ヌブヌブ様―っ! 元の優しいヌプヌプ様に戻ってくださーい」


 あたちに言われ、マリアが後ろから叫ぶ。

 全身怪しい器官まみれで、アヘ顔ダブルピースのまま固まって動かない巨人の脚のつま先に剣を突きたて、切り裂いていく。


「ぬぷぬぷぬぷぬぷぬぷーっ!」


 奇怪な叫び声をあげ、ヌプヌプが胸を抑えて苦しみだしたが、あたちが奇跡の解説をする前に、ペインが収まった。

 さらには、全身から生えた臓器群が急速にしぼんでいき、ヌプヌプは元の正常な姿へと戻った。どうやら正気を取り戻したようだ。


「あ……ありがとう……。君達がオイラを解放してくれたんだね」


 涙を流しながら、感謝の言葉を述べるヌプヌプ。


「まだ終わっていないぞ。ヌプヌブを狂わせた黒幕がいる」

「イエッス!」


 ネムレスが言い、イエスも腕組みして力強く頷く。


「さっさと出てきたらどうだ。本当は出てきたくてうずうずしているくせに」

「ほいいいぃいぃぃっ! ほいほいほいほいっ! はああぁえええぇぇやあああぁぁああ!」


 ネムレスの言葉に呼応するかのように、奇声とともに、そいつはヌプヌプの影の中から飛び出てきた。


「懐かしい顔があるあるあるあるあるじゃねええぇぇえかっ! うっひょおおぉぉ! お前えええぇえ! ネムレスうぅぅ!」


 喚くと同時に、そういつはひっきりなしに踊り狂っていた。

 褐色の肌をあらわにし、ペニスケースだけをつけてほぼ全裸に等しい格好。全身に施したペインティング。さらには体中何箇所も太い釘や鎖を貫通させるという、異様な姿。


 怪異なる姿のこの男の正体は、狂神ピレペワトだ。

 逸話が多いので名前だけは有名だが、信仰している者は少ないので、神としてはかなり弱い方だと伝えられている。しかしその弱神が、信者が多くて神としては相当な格の持ち主であるネムレスと不倶戴天の敵同士として、長年に渡って争いを続けている間柄でもあるという不思議な事実。


「どうも、彼がオイラに寄生していたようだね……」


 自分の前で踊り狂うピレペワトを見て顔をしかめ、ヌプヌプが言った。


「あの変なのがヌプヌプを操っていたってこと?」


 優助が尋ねる。


「そういうことだな。あまり知られていないことではあるが、ピレペワトは神を狂わす神であり、神に取り憑く神であり、神の信仰を奪う神でもある」


 ネムレスが頷き、一般的には知られざる真実をさらっと口にする。


「狂わすとか取り憑くとか……それだけでもどひゃーって感じなのに、信仰を奪うって一体何なんですか」


 マリアが驚きに目を見開く。


「奴を信仰する者はあまりいないが、奴は他の神に憑き、その信仰に狂気が生じた場合、その狂気にまみれた信仰心のみを己の糧として奪うのだ、そうして己の力として蓄えることができる。故にこいつは――信者の数だけならばマイナー神であるが、知名度だけならば僕と比肩しうるメジャー神となった。実際、実力も拮抗している」

「そのとおぉおおぉぉぉり!」


 ネムレスの解説に、ピレペワトは唾を撒き散らしながら叫んだ。


「ネエェェエムレェェェス! 俺をっ、俺をっ、俺の邪魔をしたお詫びにっ、お礼にっ、恨みにっ、いや、何だ? えーと……御褒美? わかんねえぇえぇぇえぇけどぉおぉぉおっ! とにかくいいこと教えてやる! 俺の神聖騎士、こっちに来てるぞぉおおぉぉ! お前達を散々手こずらせたあいつがなあぁぁあぁ!」


 ピレペワトに告げられた言葉を耳にして、あたちは固まった。

 前世で太郎さんを殺し、あたちと刺し違えたあいつが、すでにもうここにいるだと?


「驚いてる奴がもう一人いるうぅぅ! そこの女! お前!」


 ピレペワトがあたちの方を見る。


「お前パライズだなあぁあぁあぁぁ!?」


 勘違いしているようだが黙っておく。


「君は本当に馬鹿だな、ピレペワト。その事実は、黙っておいた方がよかったのに」

「お前の驚く顔を拝みたかったあぁああぁんだぁああぁあぁぁぁぁぁあ!」


 冷めた声で言うネムレスに、ピレペワトは踊りながら叫んだかと思うと、その姿を消した。


「で、終わりか?」


 ピレペワトが消え、タイミングを見計らったかのようにヨセフが問う。


「ああ、この件は終わりだな」


 ネムレスがあたちの方を見た。


「あとはリザレ、君の好きなようにまとめるといい」

「言われんでもそのつもりれす」


 動揺を表に出さぬようにと、鎮めようと苦労しつつ、あたちは言った。


***


「マリア、オイラがあんな風になっちゃって、心配かけたね。それにいろいろ苦労もさせちゃったみたいで」


 信者達が去り、後にはイエスとヌプヌプを含めた七人が神殿に残った。今いた信者達は、ヌプヌプの変態性に惹かれ、ずーっと乱交していたかったというだけの不届き者であり、ヌプヌプが正気に戻ったらもう不要ということなのだろう。


「いえ……ヌプヌプ様がこうして正気に戻ってくれるなんて、夢のようで……今私は猛烈に感動していて、その気持ちを言葉に表しきれませんっ」


 泣き顔でぐちゃぐちゃのマリア。


「イエス、君は神聖騎士を解任した方がいいかな?」


 ヌブヌブが大きく溜息をついてそう言ったが、イエスは肩をすくませてみただけ。敗北した時点でそうなる覚悟も出来ていたようだ。先程もそうだが、意外とこいつは潔い性格のようである。


「ちょっと待つのれす。イエスもヌプヌプも、今後もあたちの下僕として働いてもらうのれすから、イエスの力を取り上げるなんてらめえ」

「オイラに何をさせたいんだい?」


 あたちに制止され、ヌプヌプがあたちの方を見て尋ねる。


「二人にはシャンペニアとブランデリスという都市に行って、マリアの代役を頼みたいのれす」


 それからあたちはこれまでの経緯を説明した。


「というわけで、戦争を止めて両都市の危機を救ったのは、ヌプヌプの指示ということにしてほちいのれす。んで、ヌプヌプは両都市のシンボルとちて君臨し、信者を集めまくってくださいれす。イエスはその手伝いをしろれす」

「イエーッス、中々面白そうな話じゃないか、それ」

「ふむ。どんなとんでもないことさせられるのかなーって、ビクビクしていたけど、全然悪くない話だね。オイラは新たに信者を獲得できるし」


 ヌプヌプもイエスもあたちの命令に乗り気だった。


「あのー……そうなると私はどうなりますかね、これ」


 マリアが不安げな顔であたちに尋ねる。


「マリアは引き続きあたちと行動れすよ。あんたとヨセフはセットみたいなもんれすし。ブランデリスとシャンペニアの民には、マリアはヌプヌプの命令で別の仕事をしにいったということにしてくれなのれす」

「やったーっ。リザレちゃんとまたずーっと一緒!」


 ばんざいして喜ぶマリアの熱っぽい視線を見て、あたちはただならぬ気配を感じ、ドン引きしていた。

 こいつもあたちと引き離して、シャペニアとブランデリスの管理担当にした方がよかったれすかね……

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