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12 働かない者も、働こうが成果を出せない者も、食うべからず

 あたち、ネムレス、優助、マリア、ヨセフの五人は、シャンペニアを離れて、ウォッカードへと向かった。

 ウォッカードの近くの山に、ヌプヌプの神殿があって、慈愛の男神ヌプヌプはそこにずっとこもりっぱなしではないかと、マリアは推測している。


「あの神殿がヌプヌプ様の本殿ですし、あそこにずっと引きこもっていると思いますが、信者獲得のためにお出かけしている可能性も、無いとは言えません」


 マリアもその神殿にいるという確証は無いそうだ。よって、取りあえずはシャンペニアの南方にある大都市ウォッカードを訪れ、そこで軽く情報収集をする運びとなった。


 ウォッカードはシャンペニアの南方にある大都市。人口は八百万。ヌプヌプ信仰が強く、ヌプヌプのお膝元といった感じの都市だ。ここまでくると魔雲から大分離れているため、魔物に脅かされる事も無いが、代わりに乱す者に脅かされている状態であるという。

 シャンペニアやブランデリスのように特色のある都市でもなく、ごくごく普通の大都市。外縁部には田園地帯が広がり、さらに周辺には小さめの町や宿場町や村や集落が点在している。

 都市には軍隊がいて、乱す者と頻繁に小競り合いを続けているが、この辺の乱す者の勢力はさほど大きいものでもなく、近隣の町村が支配された事もないとのことだ。それでも脅威である事には違い無い。


 あたち達五人は都市外縁部の田園地帯を歩いていた。一面に広がる巨大麦畑。いや、畑も巨大だが、麦自体も人の背をはるかに超える巨大な代物だ。管理しているのは巨人族の面々である。


「ここら辺は巨人の居住区なの?」


 麦畑で働く巨人達を指し、優助がマリアに尋ねる。


「優助君は生誕間もないんでしたね。大体どこの大都市も、巨人族は都市の離れに住んで、農業を営むものなんですよー。建築業や道路整備に携わる人もいますけどねー」

「彼等は質素と清貧を好み、日々の真面目な労働を美徳とする。多少大食らいなのがたまに傷だがな」


 マリアの言葉を引き継ぎ、ネムレスが解説する。


「しかし――だ。ヌプヌプはそんな巨人の中でも異端と言えるな。神々は様々な種族が多いが、巨人の神は珍しい」


 ネムレスの言葉に、私は少しだけ驚いた。巨人の神とは聞いていなかった。


「ていうか、ヌプヌプって男色の神れもあるのれしょ? しかも神聖騎士であるイエスとぬぷぬぷしてるって、マリアが言ってたれすが、可能なんれすか?」

「可能なんですっ! それがっ! 何せヌプヌプ様は神ですから、奇跡の御業で種族感を越えたヌプヌププレイを可能にしてしまうんですっ。むしろそのために神になったと豪語しているくらいですしねっ」


 あたちの疑問に、何故かやたら力強い口調でマリアが答えた。


「よーするに慈愛の神っつーより、性と変態と倒錯の神なんれすね」

「しっ、失礼なーっ! 事実だけに失礼すぎますっ!」


 抗議しながらも認めるマリア。それは皆の前で事実を言い当てたのが、失礼という意味れすかねえ。


「まー、とりあえず各自聞き込みを開始するれすよ。ヌプヌプの最近の活動とか、ヌプヌプ信者の活動とか探れば、何か有用な情報があるかもしれんのれす」

「俺はそういうのは向いていない。パスだ」

「僕も地道な作業は好かん。そもそも下僕の分際で神である僕に聞き込み作業などさせようとするのは、如何なものかと思うぞ?」


 あたちの提案をあっさり拒否するヨセフとネムレス。こいつら……


「神様ってもっと偉ぶってるものだと思ってたのに、人間と変わらないんだね」


 ネムレスを見て優助が言った。


「君は生誕したばかりだから仕方ないが、人間という表現はここではやめたまえ。人なら構わんがな。種族全てひっくるめた共通認識として通じるが。人間は人の中の一種族だ」


 優助をたしなめるネムレス。


「そして神によっても異なると言っておく。僕はできるだけ人の中に混じるよう心がけているし、人と接する時も相手を下と見ることもない。僕のようなタイプの神もそれなりにいる。だが全ての神がそうではない故、それも気をつけたまえ。君のイメージ通りに偉ぶって、人との間に段差を設けている神も決して少なくない。そうした者に、僕と同じような接し方はしない方がよい。へりくだれとも言わんがな」

「う、うん」


 懇切丁寧に教えるネムレスに、優助は若干戸惑い気味に頷く。

 優助はネムレスに対してあまり良い感情を抱いていないようだが、ネムレスはそれを知りつつも、全くお構いなしにマイペースだ。


***


 我侭勝手言いくさったネムレスとヨセフは置いといて、あたちとマリアと優助は聞き込みを開始した。


 あたちは巨人区を担当し、マリアと優助は都市内部へと向かわせた。もっとも巨人区といってもとんでもなく広いので、正確にはその一部でしかない。珍しい巨人族の神ということで、巨人達の崇拝の対象になっていると聞いた。

 巨人達の半分くらいはヌプヌプを信仰しているようであった。これは結構多い数だ。最近ヌプヌプを見かけたかの問いにはノーの答えばかり。布教活動なども行っていない様子だという。

 一方、信仰はしているものの、巨人達はヌプヌプとは距離を置いてもいるという。ヌプヌプの慈愛の神としての面はともかくとして、性の神としての側面は受け入れがたいらしい。


「それさえ無ければ、オイラ達の中での信者ももっと増えたかもしれないのにねえ。あの神様は物凄く変わり者だよ」


 麦畑の隣にあった果樹園で働いていた巨人の農夫が、苦笑気味に言った。


 結局あたちの方は実のある情報は選られず、代わりに果樹園の巨人からお土産にと、スイカ並の大きさの巨大ビワの実をもらって、田園地帯にある宿へと向かった。

 あたちら五人が泊まる宿をチョイスしたのはネムレスだが、中々小洒落た南国風デザインの、良い雰囲気な宿だ。都市に着いた旅人が、疲れて都心部に向かうのが面倒になった際に泊まるというケースが多いらしい。大都市だし、都心部への距離も結構なものなので、都市の外縁部にも宿の需要はある。


 もらってきた巨大ビワを切り、五人に分けるあたち。


「これはどういうことだ?」


 皿に載せられたビワを見て、ネムレスが真顔で問う。ヨセフは何も言わず、与えられたビワをつまむと、口の中に入れた。


「働くもの食うべからずと言うれすが、あたちは慈悲深いから、お情けで欠片だけくれてやったのれす」


 ネムレスとヨセフには一口サイズ、あたちと優助とマリアにはスイカ四等分くらいに分け与えている。残り四分の一ちょっと欠けサイズは、宿の店主が気のいい人だったので、彼にあげた。


「あたちの方は目ぼしい情報が無かったのれすが、優助とマリアはどうれしたか?」

「安心してください! 私もさっぱりです!」


 あたちの方を見てにっこりと笑い、元気よく弾んだ声で言うマリア。それを見て、何か凄くイラッときた。


「ごめん、姫。僕の方もこれといった情報は……」


 申し訳無さそうにうつむく優助。


「ま、特に情報が無いということは、ヌプヌプの動きが無いということを示すということれす。何かを始める前に情報収集は基本れすが、必ずしも――」

「限られた数人の信者達が、定期的にヌプヌプ神殿へと足を運んでいるそうだ」


 あたちの言葉を遮り、ネムレスが言った。驚いてネムレスを見るあたち。


「おそらく献上という形で、食料や生活必需品を届けているのであろう。彼等に接触して話を聞いてみるもよし、彼等を尾行して様子を伺うか、彼等に混じってみるという手もあるな。その辺の判断はリザレに任せよう。一応、今は君が主導する立場であるからな」

「情報収集なんて地道な真似は嫌らと言ってたじゃないれすか」

「地道な聞き込み作業が好かんと言ったまでだ。情報を集めることを拒んだわけではない。繁華街の裏社会関係を当たって、情報屋を雇ったら、すぐに調べてきてくれた。物事は効率良く、だ」


 あたちの方を見て、勝ち誇ったように微笑むネムレス。ムカつくけど一理あるれす。むー……このあたちがそこまで気が回らないとは。いや、そもそも情報屋なんて気の利いた存在、あたちがこの世界にいた時はいなかったのれすが。


「ウォッカードは表面上こそ平穏な都市であるが、裏社会の勢力が強い。乱す者が都市内で息ずき、過剰な欲望を満たして生活している。乱す者で作られた町というものもあるが、都市の内部に自分達のテリトリーを形成するケースも、近年明るみになってきているのだよ。リザレは久しぶりにこちらに来たため、その辺の情報に疎かったようだな」

「なるほど……」


 面白い話を聞いた。ウォッカードの支配プランには、その辺から入ってみてもいいかもしれないのれす。


「そんなわけで、労働の代償を頂くとしよう」


 言うなり、ネムレスは凄まじい早業で、あたちの皿の上のビワを奪取した。


「ちょっ……!?」

「成果を出せぬ者も食うべからず。違うかね?」


 言うなり、ネムレスは凄まじい早食いで、あたちのビワを瞬く間に平らげた。有り得ない速度、奇跡の無駄遣いだ。


「うぐぐぐ……」

「姫、僕のを少し分けてあげるよ」

「私のもあげますよー。かぶりつきしたから、ちょっと唾液がついてますけど。うふふふ」


 唸るあたちに、心優しい優助とキモいマリアが、ビワを分けてくれた。


「本来ならその分も、唯一成果を出した僕が没収すべきであるが、君達の優しき心に免じて見逃してやろう」


 ネムレスが偉そうに何かほざいていたが、当然あたちは黙殺する。


***


 翌日、あたちはネムレスの言っていた、ヌプヌプの神殿へと足を運んでいる人達と接触した。


 ヌプヌプの巫女であるマリアがいたので、話はスムーズに済んだ。献上の際に同行する許可を求めたら、あっさり承諾してくれた。

 マリアがいなかったら拒否されていた可能性もあったし、拒否されたら、あたちが勝負を挑んで、服従ウイルスで支配しなければならなかった。


 正直あたちは、この奇跡の力を使わずに済むなら、できるだけ使いたくないのだ。いちいち相手と戦い、痛い目にも合わせなければならないのだから。


 さらに翌日に、彼等ヌプヌプ信者達と共に、ウォッカード西部にある山の中に建つヌプヌプ神殿へと向かう運びになった。


 一日空いたので、他四人に自由時間を与え、あたちはこの街についていろいろと調べていた。


 ネムレスの言うとおり、ウォッカードは都市内に多くの乱す者が潜み、巨大な裏社会を形成しているようであった。その力はかなりのもので、市政にまでも干渉し、影響を及ぼすとか。しかし犯罪を働きまくって治安を乱すような真似をしているわけでもなく、暗黙の了解として市民にも受け入れられているらしい。

 また、周辺の乱す者達との小競り合いにおいても、彼等はウォッカード側に立って積極的に戦うため、市民から敵視されることが無い。ちゃんとうまくやっている。

 その反面、博打だの売春だの薬だのといった、風紀を乱す行いは活発に行っている。停まり人も、それらの恩恵にあやかろうとする者がいるらしい。また、選挙においては政敵を貶めるために、彼等を利用する者が後を断たないとの話だ。


 一日で得られる情報など限られていたが、ウォッカードという都市にとって、裏社会が切りようのない存在であり、裏社会の実権を握ってしまえば、実質的な支配者となれると確信できた。

 問題はどういう支配体制を敷いているかだ。一つの巨大組織が存在し、一人の頭目が頂点に立って支配しているのであれば、話は簡単だ。そいつに戦いを挑んで、服従ウイルスで支配してやればいいのだから。

 しかし、複数の組織が存在し、それぞれが勝手にやっているのであれば、話はややこしい。あるいは複数の組織が民主的に方針を決める体制でも面倒臭い。それら全てを支配して回らねばならないし、あたちが目を離している隙に崩れだすと厄介だ。


 残念ながら一日の調査、あたち一人で、その裏社会とやらに踏み込むこともなく外部からだけでは、それ以上詳しいことはわからなかった。ヌプヌプをしばいた後に、腰を据えてと行わないと。


***


 さらに翌日、あたちら五人はヌプヌプ信者の人達と共に、ヌプヌプ神殿へと向かった。

 信者の人達は信者の人達で物資を詰め込んだ馬車を走らせる。あたち達も同行させてもらうのということで、大型の馬車をチャーターして物資も多少運ぶことになった。ま、無駄になるのれすが、気は心って奴れす。ヌプヌプ信者の人達も感謝していたれすし。


「ペインでパワーアップするイエスを先にふるぼっこ作戦でいくとして、ヌプヌプの力が不明瞭なのが気がかりれす」


 マリアもヌプヌプが持つ力を完全には把握していないようだ。マジックアイテム作りが得意という時点で、何をしてくるか想像もつかないが。

 そもそも神の持つ奇跡の力は、思ったことがそのまま現実に投影するという代物なので、マジックアイテム作りどうこう以前に、何をしてくるかわからない。とはいっても、神が完全に万能というわけでもなく、力に限界もあれば、得手不得手もある。普段から磨いた力でないと、あるいは思い入れのあるものでないと、奇跡の力の威力も弱い。


「イエスを袋叩きにするとしても、ヌプヌプが黙ってそれを見過ごすわけもあるまい。誰かがヌプヌプを抑えておかねばなるまい」


 と、ネムレス。まあその役目を誰が担当するかは、もう決まっているようなものれすが。


「同じ神同士で、ネムレスが担当れしょ?」

「うむ、それが無難であるな。よって、リザレとマリアとヨセフはその間に、イエスを倒すのだ。ペインでパワーアップするといっても、ある程度のペインを与えれば、途中でリザレが服従ウイルスを感染させることができよう」

「それは正直微妙れすがね。ペインの性質でパワーアップするマゾ奇跡が勝つか、それともあたちのウイルスが勝つか……」

「僕はウイルスの方が勝つと見ているがな。その奇跡の発動条件は、敗北に等しい量のペインという条件であり、相手に敗北を認めさせることが条件ではなかろう?」


 確かにネムレスの言う通りだ。敗北を認めることが条件なら、死んでも負けを認めなければ、あたちのウイルスは感染しないという話になる。ようするにゲームで表現すれば、残りHPの割合で発動する仕組みである。


「僕に何かできること……ないかな?」


 おずおずと口を開く優助。


「君に何らかの働きを求めてはいない。くれぐれもリザレにいい所を見せようとして、功を焦るような真似はするな。己をわきまえておくのだ」


 あたちが言おうとする前に、ネムレスがぴしゃりと断言してしまった。

 うーん……ただでさえ優助はネムレスに反感抱いているのに、ネムレスに言われたとなると、こじれそうな気がするのれす。


「優助、何故リザレが君を連れてきたかわかるか?」


 優助と向かい合い、真摯な口調でネムレスが問う。優助は何も答えず、リアクションも見せない。ただネムレスと視線を合わせて無言のままだ。


「君はこのメンツの中では一番弱い。戦闘で貢献できることなどない。現時点では荒事で活躍できることはないが、たとえ今役に立たずとも、いつまでも弱いままでいるつもりは無いのであろう? 見て学習することも大事だ。先のためにな。リザレはそう計算して、君を連れてきたのだ」

「わかった」


 ネムレスに諭され、優助は頷いた。


「いい子だ」


 それを見てネムレスは相好を崩し、優助の頭を撫でる。当然、優助は複雑な表情になる。


「ネムレス、今日のあなたは男なの忘れてるれすか?」

「おっと、そうだったな。うっかり御褒美のキスもするところだった。しかし面倒だから今日は男のままでいるぞ」


 あたちの指摘に、ネムレスは機嫌良さそうに言った。機嫌いいのは、優助が聞き分けたせいれすかねえ。

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