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11 ネムレスを紹介

 都市間で勃発した戦争は、慈愛の男神ヌプヌプの巫女の乱入により、未然に防がれた。

 この話は両都市においてはもちろん、近隣の町村集落、さらには大都市にまで広まりまくったようだ。


 そんな形で戦争が終結した事に、シャンペニアとブランデリスの首脳部は頭を痛めたが、実際に兵士達が戦闘放棄し、指揮官も撤退命令を下してしまったのだからどうしょうもない。


 もう一度戦争しろというムードにしないために、あたちはシャンペニアで、そしてラッセルは引き続きブランデリスで、情報工作に勤しむ。マリアの偉業を称える路線で。

 両方の都市にて、マリアに演説させるのも忘れてはいない。彼女の人気を少しでも上げないと。


『元気ですかーっ! 元気があれば子作りもできるっ。我が主ヌプヌプは、この世の全てを慈愛とにゃんにゃんで乗り切れば、真の平和があると説いていますっ。はっきり言いましょう! 私が二つの都市の戦争を鎮めた理由は、ヌプヌプ様への布教でもあると! そういう下心も確かにありました! 正直に言いました! 凄い! 偉い私! ついでにエロい! んでも、実際に戦争を止めたいという気持ちがあってのも超事実!』


 マリアはあたちが予め書いて渡した演説原稿を完全に無視して、自分の言葉でもってノリノリで演説していた。お馬鹿全開で、聞いてて頭の痛くなる演説ではあったが、逆にそれが好感度へと繋がったようだ。


 両都市共に、ヌプヌプの巫女をシンボルとした都市という扱いになる決定がなされた。ブランデリス市民は歓迎してこれを受け入れ、シャンペニア市民は半数が歓迎して半数は渋々受け入れた。この辺は、都市の性格の違いがよく現れている。


 発端となったカクテロ遺跡の件は、そもそもブランデリス内部に、強奪しようとした勢力がいたのが悪いという、無理矢理な結論になった。

 あたちが煽って計画も立てて準備もさせたのだが、シャンペニアの外交官が暗躍していたというのは誤認であり、略奪を企んでいた首謀者は行方知れずという扱いにしておいた。これまた無理矢理というか無茶苦茶だが、戦争終結ムードなので、そうした方がいいという話になって、受けいれられた。


 マリアは基本的には政治に介入はしないが、また両都市が争いになりかける等、有事の際には両都市に干渉するという形で、話はまとまった。だが実際には相当強い発言権を得たことになるし、両都市の中枢の力をかなり引き出せる。

 当初の計画とは大分違ったが、落とし所はこれでよしとする。


「これで支配したことになるの?」


 シャンペニアにて、聴衆の中に混じってマリアの演説を聴きながら、隣にいる優助が尋ねてくる。


「なるれすよ。これで二つの都市は、実質あたちの言いなりになったのれすから。マリアの存在が無ければ、また戦争起こりかねないれすし、マリアをシンボル化することで、二つの都市を抑えるという形になったのれす。なので、どちらの都市においても、マリアの発言力と影響力はこのうえなくでかいれす。表向きは政治にできるだけ介入しないということになっているれすが、それはあくまで表向きの話れす。一度象徴化してしまえばこっちのものれす」


 とはいえ、あたちがマリアにわざわざ口出しさせて、二つの都市を動かそうということは、滅多に無いとは思う。

 ようするにあたちの、ブランデリスとシャンペニアの二つの都市へのスタンスは、君臨すれども統治せずに近い状態だ。しかしいつでも干渉できる状態を万全に維持してもいるわけで、実質的な影の支配者にもなっている。


 マリアの背後にあたちのようなものが存在しているなど、そしてそうするために戦争を起こしてマリアをシンボルとして据えたなど、普通は気付かないだろう。市政に滅多に干渉もしなければ、余計にわからない。


「姫じゃなくてマリアが天皇陛下みたいなポジションなのに、姫に支配権があるってのがわからないなあ」

「天皇ほど実権無い象徴的存在ってわけれもないれすよ。何度も言うれすが、マリアがその気になれば、影響力も発言力もちゃんと伴います。そういう形に仕向けたのれすから。で、マリアのものはあたちのもの。太郎さんのものもあたちのもの。ネムレスのものもあたちのもの」

「そ、そうかなあ……」

「もちろん優助のものもあたちのもの。しかし調停した後に、さらにしっかりと体制を固めるために、ヌプヌプ本体を倒して恩を売って、事情を説明してシャンペニアに来てもらった方がいいれすね。マリアだけじゃなくヌプヌプも揃えば、より磐石れす」


 マリアもヌプヌプの件をせっついていたれすし、少し落ち着いたら、ヌプヌプ討伐といくれすかね。


「ブランデリスは納得したようれすが、シャンペニアの半数くらいは巫女の干渉を快く思ってないれすし。ヌプヌプにはシャンペニアに腰を落ち着けてもらって、信者獲得して、支配力を高めて……いや、そうするとまたブランデリスが嫉妬しそうれすから、両都市をいったりきたりで信者獲得という路線がいいれすかねえ」


 正直ヌプヌプという神は、話を聞く限りあまり仲間にしたいとは思わない。

 いっそマリアにはこの後もあたちに同行してもらう形で、ヌプヌプにマリアの役割の引継ぎをしてもらうのがいいか。

 ヌプヌプの解放がうまくいったら――の話ではあるが。


***


 戦争未然終結から二週間ほど経過した。


 あたちはマリアとヨセフと優助と共に、喫茶店である人物が訪れるのを待っていた。

 マリアが蛇の使い魔であるガブリエルと戯れているのを見て、使い魔の存在を思いだした。帰りにあたちと優助の分ももらってくるれすかね。


「いつまで待たせるんだ?」


 一時間が経過しようとした所で、ずっと腕組したままの姿勢で座っていたヨセフが文句を口にする。


「待たなくてもいいんれすよ? そうすればヌプヌプ討伐は、あたちとマリアとヨセフの三名で行くことになりますれす。神とその神聖騎士相手に、巫女二人と暗殺者一名という対決構図になるれすが、それで絶対に勝てると考えるのであれば、これから来る心強い助っ人は抜きでいくのれす。ていうか、待っているのはあたちも一緒れしょ? あたちの下僕の分際で、多少待たされたぐらいで真っ先に文句言っちゃらめえ」


 調教はしっかりしとかないといけないと思って、態度の悪い下僕を叱りつけるあたち。ヨセフは無表情のまま押し黙る。


「一体どんな助っ人がやってくるのですかあ? 興味津々でわくわくです」

「ふっふっふっ、それは来てからのお楽しみれす」


 まあネムレスなんれすけどね。まさかあたちの主神で、あの超メジャーな邪神ネムレスが、助っ人にくるとは思わんれしょうし、サプライズにもなるれしょう。


「マリア、ここずっと大変だったね。お疲れ様」


 優助がねぎらいの言葉をかける。


「いやいや、貴重な経験をさせていただきましたです。いろいろ面白かったですよ~。こんなことプロデュースできるリザレちゃんはすごいと思いましたまる」


 お世辞だけでなく、これはマリアの本心だと思う。連日ノリノリで演説しまくっていたれすしねえ。


「本当にそう思ってるならいいけど、この先も姫はガンガン振り回していくと思うよ?」


 冗談めかして言う優助の頭を、軽く小突くあたち。


「マリアはあんたと一緒で、あたちに振り回されてもそれを楽しみに変えてるから、問題無いのれすよ。問題はこいつれす」


 と、あたちはヨセフを指す。


「奇跡の力で無理矢理支配下にあるし、マリアもお前に協力的だから、問題視することもないだろう」


 ぶっきらぼうな口調でヨセフが言った。


「愛想無しなのはしゃーないとして、たまに反抗的な態度があるのは問題れす。あたちは下僕とも楽しくやっていきたいれすからね」


 あたちの言葉は嘘ではない。ウイルスで強制的に服従させているとはいえ、下僕にその事実を感じさせず、楽しませたいとあれこれ思慮はしている。

 正直こんなことわざわざ口にしたくもないのだが、何を考えているかわからないヨセフを見ていると、あたちの本心を口に出して告げたくもなる。


「お前は案外見る目が無いな」


 小さく息を吐いて、ヨセフは言った。


「俺はちゃんと楽しんでいる」

「全然そう見えないれすよ」


 意外な言葉であったが、あたちは思ったことを口に出す。


「いちいち口に出して楽しいと言わなくては伝わらないのか? いちいち笑顔を作らないとわからないのか? ならば観察力が鈍いと言わざるを得ない」

「マリアはわかるのれすか?」


 納得いかないあたちが、マリアに問う。


「そりゃ付き合い長いですもの、もろみえですよっ」

「付き合い長いと、変化がわかってくるものなのれすかねえ。具体的にどの辺りでわかるれすか?」

「オーラですね。わりといつもずっしーんと暗いオーラだったヨセフですが、最近はパパラパーって感じで、明るいですよ」


 マリアに聞いたあたちが馬鹿だった。


「ま、楽しんでるならそれでいいのれす。無用な心配れした」


 呆れながらあたちが言った直後、喫茶店のドアが開き、よく知る人物が現れた。

 凝った刺繍入りの純白のローブをまとった、黒髪ロング女顔の美少年。ネムレスだ。


「おいでなすったれす」

「あれが助っ人か?」


 ネムレスの方を向いて、特に驚いた風も無くヨセフが言った。マリアも彼がネムレスだとはわからないようだ。

 あ、そうだ、うっかりしてたのれす。ネムレスは本などで載っている顔とは違うんだった。あまりに有名になりすぎて、外を歩くと声かけられまくりで面倒なので、奇跡の力で容姿そのものをいじって微妙に変えたという。


「お初に御目にかかる。僕がリザレの主たる神、ネムレスだ」

「えーっ!? ほほほほ本物のネムレスぅっー!?」


 あたちらの座っているテーブルを前にして、丁寧にお辞儀をするネムレスに、思った以上に大袈裟なに驚きまくるマリアだった。


「本や像で見る顔とは少し違うな。しかし確かに有力な助っ人だ」


 観察するかのような目でネムレスを見つめ、冷静な口調で述べるヨセフ。


「ヌプヌプの巫女マリア、最近の君の活躍は聞き及んでいる。リザレの教唆もあろうが、見事と言っておこう」

「教唆とは言ってくれるれすね」

「光栄ですっ。感激ですっ。実物は美術館の石像よりもずっと綺麗ですねっ。石じゃなくて生身だからやっぱり綺麗ですねっ。つるつるのぷにぷにって感じーっ」


 苦笑するあたちと、わけのわからん感激の仕方をするマリア。


「流石はヌプヌプの巫女だけあって変わり者だ」


 ペースを崩す事無く、優雅な仕草であたちのとなりに座るネムレス。


「ヌプヌプ様と面識があるのですかー?」

「随分と昔に、一度だけな。まだ彼がマイナーな神であった頃だ。ぬぷぬぷしようと誘われたが、当然断った。非常にクレイジーな神であったな」

「ええ、凄くクレイジーですよ。くるくるぱーまんです」


 遠慮の無いネムレスの言葉に、マリアは誇らしげな笑顔で肯定する。


「しかし個性的でもあったが故、心を失うとも思えなかったが。さて、助けに行って間に合うかどうか。本人の自我の強さ次第、時間の経過次第だな」

「時間は……かなり経っています」


 マリアの表情が曇る。


「助かる見込みがあるとしたら、ある程度ペインを与えれば、正気を取り戻すというのか?」

「うむ。だがそれだけではない。言葉で呼びかけることも重要だ。他にも、正気を取り戻す要素なる刺激を与えるのも効果がある」


 ヨセフの質問に、ネムレスが答えた。


「時間の経過と共に心の喪失は進んでいく。地獄の病で例えるなら、ボケの進行のようなものに近いな。最後はただのプログラムと成り果てる。信者達が求める神の理想像を振舞うだけの、心の無い、数字の反応のような存在にだ。何度も見てきたが、何度見てもおぞましきものだ」


 ネムレスの顔に微かに憂いの色が浮かぶ。かつて弟神のユメミナをその手にかけた事を思い出しているのだろう。その際、前世のさらにまた前世のあたちと太郎さんが、ネムレスの傍らにいて、共に戦ったという。その時の記憶は、あたちにはないれすが。


「マリアよ、ヌプヌプの奇跡と、ヌプヌプの神聖騎士の奇跡が如何なる物か、教えたまえ。ヌプヌプは神ゆえに一発屋能力持ちではないが、それでも好みの傾向はあるだろう?」


 ネムレスがマリアの方を向いて尋ねる。


「イエスは――ヌプヌプの神聖騎士は、受けたペインでパワーアップするマゾっ子君です。もちろんペインはペインだから、ペインの上限に達すれば死んじゃいますが、死の直前ともなれば、どえらい力を発揮します。ヌプヌプ様は奇跡で強力なマジックアイテムを作るのを得意としていますし、私の持つ鎌もヌプヌプ様に作っていただいた逸品です。イエスは多条鞭が武器ですね。これは私の鎌同様、幾条もの鞭が伸びたり増えたりする代物です」

「ペインでパワーアップする前にふるぼっこがいいのかな」


 優助が言うものの、敵の性質上、ペインの見切りでもって死なないように留めて戦闘不能というのも、難しいのではないかとも思う。ペインで気絶させるということもしにくいし。


「他にヌプヌプの特徴は知らないか?」


 ネムレスが続けて問う。


「ヌプヌプ様ともイエスとも、共に戦ったことは一度しかないんですよねー。結構昔に対立した飽食の邪神ゲルマッチョとその神徒が相手でしたが。ヌプヌプ様は奇跡を用いずに肉弾戦を得手としていました。あるいは奇跡の力で、純粋に肉体をもりもりずんずんパワーアップさせていたのかもしれませんねえ」


 一回だけか。いや……神もその下僕も、共に戦という状況はあまり無いのかもしれない。やたら他の神々と戦っていた私やネムレスが、異端なのは確かだし。


「ヌプヌプの居場所は?」

「ウォッカード近くの山中の神殿にいると思われます。きっとイエスと一日中ぬぷぬぷしています。不潔ですっ。私、BLって大っ嫌いなんですっ」


 お前はガチレズらと、ヨセフが言ってたのれすが……


「そんなことは聞いていない。まあ、事前に知ることのできる情報はこれくらいか。明日にでも出発したい所だが、不都合のある者はいるかね?」


 すっかり仕切り出しているネムレス。


「いないなら決まりだ。明日の朝十時にこの喫茶店で待ち合わせとしよう」


 そう言うとネムレスは、あたちの方に顔を寄せる。


「ではな、リザレ」


 優しく微笑みかけると、あろうことか皆のいる前で堂々と口付けてくるネムレス。ああ、こりゃヤバいれす。


「何をするんだっ!」


 ネムレスとは反対側にいた優助が大声をあげ、あたちの前をまたぐ格好でネムレスな飛びかかって胸倉を掴んだ。


「君こそ何だ?」


 怒り狂う優助の視線を受け止め、堂々と問い返すネムレス。嗚呼……超修羅場。


「何だ、じゃないでしょう? 自分のやったことを何とも思わないんですか?」


 明らかに責める口調でそう言ったのは、マリアだった。優助もあたちも驚いてマリアの方を見る。


「優助君がリザレちゃんに片想いしているのを知っていながら、見せ付けるかのようにキスするなんて、あんまりですっ。意地が悪すぎますっ! 私はもうね、ぷんぷんですよー」

「え……?」

「え?」

「んん?」


 あたち、優助、ネムレスが一斉に表情を変え、怪訝な声をあげる。今マリア、凄く変なこと言ったのれす。


「二人が恋仲なのは仕方ないとして、神様ならもっと気遣いするべきですっ。いえ、それ以前に、優助君みたいな奥手で純情な子をからかうなんて、悪意の賜物でしかありません! 私は断じて許せません!」

「別に僕は、彼がリザレに惚れていたなんて、今の今まで知らなかったぞ。それ以前にリザレ以外の全員と初対面だ。何故知っている前提で、しかも知ってて悪意の元に彼を挑発したという話になっているんだ?」


 冷静に言い返すネムレスの言葉を聞いて、マリアの顔色が劇的に青ざめた。ただの思い込みで暴走していたようだ。


「それはそうと、優助といったか。すまなかった。君を怒らせるつもりはなかったんだ」


 優助の方を見てリザレがあっさりと謝罪する。

 優助は無言で、決まり悪そうにネムレスを掴んでいた手を話したが、直後、ネムレスの方が優助の背に手を回し、しっかりと抱きしめて顔を引き寄せる。


「こうすれば解決だな」


 言うなり優助の唇を奪うネムレス。あたちの時はソフトキスだったが、これは明らかに舌を入れたディープキスだ。しかもキステクの限りを尽くしている。


「ふ、不潔ですーっ。BLは嫌いだと言ったでしょーっ」

「何も不潔なことはない。今の僕は女になったからな」


 目を白黒させている優助から唇を離し、喚くマリアのほうに向かって、ネムレスは自分の胸を指して微笑む。そこには今までに無かった膨らみが存在していた。


「そういえばネムレスは女にも男にもなれる神だったな」

「うむ。彼に悪いことをしたと思って、女になってお詫びをした」


 ヨセフが言い、ネムレスが頷いた。


「何だったら優助、これからリザレと僕を交えて3Pしてもいいぞ。僕は君を一目で気に入った」

「ちょっとちょっとネムレス……その子には刺激が強すぎるから、そのくらいにしてほしいのれす」


 優助に顔を寄せ、その頬をなでるネムレスに、あたちが言う。


「ふむ。そうか。そのうちパライズも混ぜて4Pもいいかと思ったが。そうだな……リザレの貞操は譲ってやろう。近いうちに男にしてもらえ」


 ネムレスが一方的に言うと、固まってどうしたらいいかわからなくなっている優助から離れ、立ち上がる。


「いやいや……何でそういう話になるんれすか……」

「リザレちゃんの貞操……それは……私が……」


 何かマリアが小声で怖いことを言ってるような……


「ではまた明日」


 ネムレスが去った後、微妙な空気が流れて、四人ともしばらくの間沈黙していたのは言うまでも無い。


***


 宿への帰路。ヨセフとマリアは買い物をしてから帰ると言い、別方向へ行ってしまったので、帰りはあたちと優助の二人になってしまった。気遣ってくれたのかもしれないが、逆効果だ。


「姫はあれが好きなの? 太郎さんが好きだったんじゃないの?」


 肩を並べて無言で歩いていたが、やがて優助の方が口を開く。


「あれとか言っちゃらめえ。あんなんでも、あたちにとっては大事な奴なのれすよ。一応あたちの主神れす。前世でもずっと一緒れしたし、記憶はないけどそのまた前世でも一緒れした」


 しまった、あたちもあんなんとか言っちゃった。


「太郎さんもいろいろひどかったけど、あれはもっとおかしいよ。姫って、おかしな男が好きなの? じゃあ僕もおかしくなれば好きになってくれるの?」


 挑みかかるような口調で優助。あたちは足を止めて、大きく溜息をついた。自然、優助の足も止まる。


「優助は優助のままでいればいいのれす。女を惹くために変人になるとか、有りえんのれす」

「変人ってのは認めてるのか」


 優助がおかしそうに笑う。いや、だって確かに変人らし……


「優助、あたちとネムレスと彼は、一緒にいる時間が長すぎたのれす。それで自然とそういう仲にもなったのれす。他人から見ると歪かもしれないれすが、あたちはどー思われても構わんれす。ただ、言っておくれすが、あたちは別に変人好きってわけれもないれすし、そういう部分に惹かれたわけれもないれす。だから優助はそのままでいろれす」

「じゃあ……僕もずっと姫と一緒にいれば、いつかは僕のことを認めてもらえるってことも、有りうるのかな」

「そりゃ当然有り得るれしょ」


 自信無さげに言う優助に、あたちは即答する。


「ただし、あたちは弱い男には惹かれないれす。うじうじしている男はもっとらめらめれす。今の優助は異性としては見られないれす」


 希望を与えた所で、残酷な現実も突きつけておく。まあこれは言うまでも無く、優助だってわかっていたことだ。だからこそ優助は冥府に来てから、必死に自分を鍛えている。変わろうと努力をしているのはわかっている。


「ネムレスや太郎さんのことが気に入らないなら、それらを越える男になればいいのれす。それだけの話れすよ」


 そんな単純な話でもないが、優助みたいな真っ直ぐな子には、こう言っておいた方がいい。この方が伸びる。そういうタイプだ。


「それはわかってるけど、でも姫って平然と二股とかかけられるタイプなのかって……それが心配なんだよね」

「いや、だからさっき言ったように、一緒にいる時間が長すぎてれすね……。あー、もうビッチ扱いでも何でもいいれすよ。ビッチが嫌ならあたちは諦めろれす」


 まあ優助の感覚が普通なのだろう。あたちやネムレスの方がおかしいのだし、もうこれはどうしょうもない。

 そしてこんなやりとりしていたおかげで、あたちと優助の使い魔貰うのをすっかり忘れていたのれす。

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