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10 必殺! 九条ばりあーっ!

 ネムレスに会いに図書館へ行く前に、あたちは下僕である副市長を訪ね、無理矢理同行させた。

 優助は今回置いてきている。ネムレスとは二人きりで会いたい。もちろん副市長も途中でバイバイだ。


「図書館の館長に話をつけてほしいのれす」

「何の話だね?」

「ある人物が図書館の奥の秘匿領域にいるようなのれす。あたちが押しかけて会わせろと言っても、会わせてもらえるとも思えないので」

「なるほど」


 あたちの言葉に副市長は納得した。

 図書館に着くなり、副市長名義で館長を呼び出し、現れた館長にあたちは告げた。


「ネムレスのいる場所に案内してほしいのれす」


 あたちの言葉を聞くなり、館長の顔色が変わる。副市長も驚いている。


「ネムレスの巫女リザレが来たと伝えて欲しいのれす。それで通せと言うはずれす」

「わかりました」


 館長が引っ込む。


「君はネムレスの巫女だったのか……。奇跡を用いるから巫女か神であることはわかっていたが」

「このことは内緒にしとくのれすよ」

「しかしネムレスと会うのにわざわざ私の立場を利用するというのも、奇妙な話だ。長いこと離れていたのか?」

「まあ、そんな所れす」


 その後、副市長としばらく雑談をしていると、館長が戻ってきて、奥へと案内してくれた。副市長の役目は済んだので、ここで帰ってもらう。


「ここです」


 かなり奥まで歩いた所で、館長が扉の一つの前に立ち止まって告げると、恭しく一礼して、去っていった。

 ノックをすると、内側から扉が開かれ、そこに懐かしい顔が現れた。

 胸に熱いものがこみあげてくる。十六年ぶりの再会れすか? ヤバい……あたちともあろう者が、視界が歪んでいる。


「おかえり、リザレ」


 エルフが好んで着そうな、薄緑のヒラヒラした服を着た黒い長髪の美少年が、あたちを見てにっこりと笑う。

 堪えきれなくなって、夢と同様に、あたちは彼に抱きついた。


「ネムレス……全然変わってなくて何よりれす」

「君の容姿は変わってしまったがな。それでも僕は同じリザレとして見る。いや、見える」


 あたちのことを抱き返しながら、ネムレスが耳元でそう囁く。


 そしてあたちの体を少し離したかと思うと、電光石火の早業であたちの顔に顔を寄せ、あたちの唇を奪う。

 いや……ちょっと……別にネムレスとは初めてではないれすが、いきなりすぎれすよ。

 それだけではなく、ネムレスはあたちを部屋の中に引き入れ、あたちの体をあちこちまさぐりだした。


「ぶっ……。ま、待って……」


 強引にキスをふりほどいて、ネムレスから離れようとするが、ネムレスはあたちを抱きしめる腕に力をこめ、離そうとしない。


「待てると思うか? 君もパライズも僕のものだ。僕が自由に扱う」


 静かだが有無を言わせぬ口調で宣言すると、ネムレスはあたちの体を抱え上げ、室内にあるベッドまで連れて行こうとする。


「らめらめらめっ! あたちの初めては彼にっ……太郎さんにっ、パライズにあげたいのれすっ。ネムレスはその後にしなくちゃらめえっ」

「前世だって君の処女を奪ったのはパライズだろう。今回は僕でもいいと思うのだが? そもそも前世の記憶があるのだから、肉体的には処女であっても、頭の中は処女とは言えまい。僕やパライズと目合った記憶だってバッチリ残っているのだからな」

「そういうことわざわざ言葉にして言うなれす。とにかく嫌れすっ」


 あたちが本気で嫌がっている声を出したので、ネムレスは申し訳なさそうにあたちから離れ、あたちの頭をぽんぽんと軽く二度叩く。彼なりの謝罪の仕方といったところか。


「僕の方から会いに行くと言っておいたのに、そちらから来るとはね。用件を言ってみたまえ」


 ベッドに腰かけ、腕組みしながら促すネムレス。


「実は慈愛の神ヌプヌプの巫女を仲間にちたのれす。彼女の主神が心を失くしたので、討伐の協力を約束するという話で。まあ、できれば殺さずに、心を取り戻させたいれすが」


 あたちは起き上がり、ネムレスにぴったり寄り添って、いや、しなだれかかって彼の膝に手を置きながら話す。やる気満々だった所にお預けを食らわせたのは、申し訳ないと思っているし、あたちだってネムレスに気持ちが無いわけではない。それを示すための密着でもあった。


「神殺しが果たされるか、神の心を取り戻すかは、ヌプヌプ次第といったところだな。まあ断る理由は無い。心を失ってしまった神々の解放は、僕の大きな目的の一つでもあるから」


 予想通り、ネムレスはあっさり了承してくれた。


「君が今やろうとしていることは……しばらくは目を瞑ろう。だが頼むから、僕を敵に回すような真似だけはしてくれるな」

「夢の中では、ネムレスの気に障ることは一切やるなと言っていたれすが」

「僕が気まぐれなのも忘れてしまったのか? 気が変わった。それだけのことだ。君の振る舞いもある程度は認めてやることにする。ただし、僕の逆鱗に触れるような真似をしたら、たとえ君でも敵として認識する」

「大丈夫れす」


 ネムレスの頬に自分の頬を軽くこすりつけ、あたちは言った。


「そうはならないと、約束するれす」

「君の心を僕は覗き放題だから、それが本心なのはわかっているが、それでも心配だ。君も気まぐれだしな。それはいいとして……丁度いいタイミングで来たものだな。今夜予定を早めて、君を訪ねるつもりだった。伝えなくてはならないことがあってね」


 予定を早めてまで伝えなくてはならないこと? 何なのだろう。嫌な予感がする。


「パライズがこちらに来た」

「は? え……えええーっ!?」


 ネムレスの言葉に一瞬呆けたあたちだが、すぐに驚いて大声をあげる。


「放置して君のように好き勝手やられてもたまらんから、生誕後早めに声をかけておいた。しかし……見境い無しに奇跡を使用して、現在昏睡状態にある。下手すればあのまま死んでまた地獄行きかもしれん。全く……ある意味君以上に厄介な奴だ」


 パライズが――太郎さんが、ここにいる。ってこたー、つまりあれだ。あっちで死んでしまったということだ。


「彼は……どうして死んだのれすか? まさか自殺?」

「違う。通り魔から子供を助けて、刺し違えて死んだ」


 自殺じゃない分、良かったかもれすが、何というか……彼らしい死に方というべきれしょうか。複雑な気分れす。


「サラマンドラ都市連合にいるようだ。まあ、地獄の地球という惑星の日本という国で死んだ者は、大抵あの辺に生誕する。君は僕の縁に引っ張られて、この辺に来てしまったのかもしれないな。で、どうする?」


 どうする? の意味がわからないわけはない。


「すぐ会いに行く……という事は無いれすよ。あたちらってやりたいことがあるれすし。それに、彼はあたちと違って前世の記憶が無いのれす。それが当然れすけどね」


 会いたい気持ちはすごくある。ネムレス以上に、会って抱きしめてキスしてギシギシアンアンしたいに決まってる。その後もずっと一緒にいたい。しかし――


「彼には彼の生誕後の人生もあるれすしね。まあ、ネムレスの下僕っつーことで、完全なフリーダムではないれすが、それでも尊重したいのれす。あたちやネムレスのやることに付き合わせるのは、しばらく時間置いてからのがいいのれはないれすかねえ。その間に、彼もこっちでいろんな体験を経て、縁を作り、力を得ていくと思うれすから」

「豚は太らせて食えというわけか」

「そんな言い方しちゃらめえっ。まあ、そういうわけで、太郎さんと――パライズと会うのはお楽しみにとっておくのれす」


 それに加え、あたちのやってることを彼が知ったらどう思うのか考えると、その辺が怖いというのもある。あと、優助が一緒にいるのがややこしい。

 ネムレスには優助の存在もバレているだろうが、ようするにいろいろ厄介要素もあるので、落ち着くまで後回しにしておきたいという気持ちだ。


「じゃあ、あたちはそろそろお暇するれす。ヌプヌプの件はよろちく頼むれす」

「待ちたまえ」


 立ち上がったあたちの体を、ネムレスが引き止める。


「んぐっ」


 思わず間抜けな呻き声を漏らしてしまうあたち。またネムレスがあたちの体を抱き寄せ、キスしてきた。

 もー、何度も何度も……。あたちもHな気分に……もとい、離れ辛くなっちゃうじゃねーれすか。


***


 ネムレスと会った四日後、ブランデリスがあっさり宣戦布告してきて、シャンペニアもこれに応じた。冥界でも珍しい、都市と都市の戦いの火蓋が切って落とされた。


 両都市とも、魔雲から出てくる魔物の掃討があるため、軍の備えは万全であるし、実戦経験もそれなりにある。


 あたちとマリアと優助、それに戻ってきたヨセフは、シャンペニア軍に同行して、戦地へと向かった。なお、念のために指揮官及び参謀を事前に服従ウイルスで支配済みなので、軍を動かすのもあたちの思いのままだ。あまり無茶なことはできないし、する気も無いが。

 ブランデリスは軍の戦力の九割以上を一度に投入してきた。で、シャンペニアもそれを受けるだけの戦力で迎えうつという形で、初っ端から総力戦になってしまった。


「ねえねえ姫、好奇心で尋ねるけど、このまま戦争を放っておいたら、どちらが勝つかな?」


 馬に乗って移動しながら、優助が尋ねてくる。


「ブランデリスはシャンペニアより魔雲に隣接している分、兵士達は精強れす。士気も高いれしょう。兵士の質ではブランデリスが上れすね。しかし兵士の数はシャンペニアに劣り、装備の質も劣り、何より物資の問題があるのれす。シャンペニアに頼らずには生存できない都市が、そのシャンペニアに矛を向けるわけれすから、彼等の戦い方は一つに限られてくるれす。電撃戦れす。戦場一つとっても、戦争全体をとっても、それ以外の戦い方はできんのれす」


 だからこそ、ブランデリスはいきなりほぼ全軍で押しかけてきたのだ。あの都市からすると、戦争を始めた瞬間、背水の陣で戦うに等しい。


 シャンペニアはこれに対して、有効な策はいくらでもあるはずだ。ブランデリスのペースに付き合わず、長期戦に持ち込んでもいいし、部隊を二つに分けて、もう一つが本隊の時間稼ぎをしている間に、もう片方でブランデリスの都市を攻めてもいい。

 しかしシャンペニアはあえてそれらの策をとらず、正面から受け止めるという戦法で臨んだ。正々堂々と叩き潰すことで、戦争後の外交でブランデリスに対しての抑止効果を強める狙いだそうだ。


「あたち達が何も干渉しなければ、ブランデリスが負ける可能性が高いれす。シャンペニアに有利な条件があまりにも大きいれすし」

「干渉するんだよね?」

「当然れすよ。あたちはこのまま戦争でも構わんれすが、貴方とマリアがうるさいれすしね。若干一名以外、血を流すことなく終結させるれす」


 そして口には出さなかったが、ネムレスの目も気になるし、太郎さんに知られたら嫌だなという気持ちも強い。


「若干一名?」

「まあ見てのお楽しみれすよ」


 訝る優助に、あたちは曖昧な答えを返す。事前に全て口で語るより、実際に見た方が楽しめるというものだ。


***


 翌日、シャンペニア軍は平地にて、ブランデリス軍と向かい合っていた。

 双方共視認できる距離に入っても、すぐ動くようなことは無かった。相手の出方を伺っているのだろうか? まあ両都市にしてみても、ここいらじゃ乱す者との戦も無いし、都市間での戦争など初めての体験であるから、慎重にはなるだろう。


 あたちは優助やヨセフと共に、最前線に配置されている。戦うためではない。これから起こることを間近で見届けるためだ。そしてもしも失敗した時には、速やかに対処するためでもある。


「さて、どうしてくれるのか、お手並み拝見だな」


 ヨセフがいつも通りの無愛想っぷりを発揮しつつ、皮肉を口にする。


「マリアの姿が無いのが気になるが」

「おっと、ヨセフには言ってなかったれすね。マリアが計画のキモなのれすよ。彼女にこの戦争を止めてもらうのれす」

「何だと?」


 ヨセフの表情が若干険しくなる。


「まあ見てるがいいのれす。おっ、そろそろ始まるれすか」


 ブランデリスの軍が動き出した。

 当然、シャンペニア軍も動こうとするが、シャンペニア陣営から一騎の馬が全速力で駆け出し、ブランデリス軍へと突っこむ。


「何やってんだ? あれは」


 近くにいる兵士が訝る。多くの者がそう思っただろう。


「あれ、マリアじゃない?」


 双眼鏡を手に優助が告げる。うん、マリアれす。どちらかの軍が動き出したら、全速力で両者の間に入るようにと、伝えてあるれすし。


『はいはーい、皆さーん、戦争とかもうやめやめ! すとっぷすとーっぷ! 犠牲が出る前に速やかに解散しましょーっ!』


 馬を降りて、馬をシャンペニア側へと下がらせたマリアが、性能抜群のマジックメガホンを片手に、叫びまくる。

 よしよし、この音量なら一番後ろの部隊まで届くれすね。


『えー、私は慈愛の神ヌプヌプ様に仕える巫女、マリアといいまーす。はい、ブランデリスの人達―、これから私がお話しますから、ちょっと止まってー』


 神と巫女の名を出され、どよめくシャンペニアの兵士達。ブランデリスも同様だろう。双方の足が止まった。


「本当に止まった。シュールだな……」


 優助がブランデリス軍とマリアを見ながら呻く。これも計算どおり。いきなりこんな闖入者が現れれば、そりゃ一瞬は動きを止める。ま、あくまで一瞬れしょうが。


『この度はブランデリスとシャンペニアの両都市が、何だかよくわからない理由で殺し合いするとか聞いて、いてもたってもいられずにカカッと止めに来ちゃいました。そんなわけでー、何だか理由もわからず殺し合いとか、ナンセンスだからやめてくださあいっ。死ねば今までの記憶もぱぱーんと失くなって、ここより嫌な世界である地獄にずどーんと落ちちゃうんですよっ。誰だって死にたくないでしょ? それなのに殺し合いして、誰かを死なせていいわけがないっ! 私は断固として認めませーんっ。ぷんぷんですっ!』


「アホ丸出しで頭痛がしてくる……。こんな説得で戦争が止まると思っているのか?」

「これだけじゃ止まらないれすね」


 ヨセフの言葉に、あたちは微笑みながら言った。


「するとやはり、狙いはあれか」


 マリアと付き合いの長いヨセフは、見抜いているようだ。


『さあ、私が怒らないうちに、さっさと帰りなさーいっ』


 マリアの説得も虚しく、ブランデリスの進軍が再開した。ま、予想通り。

 シャンペニアは意外にも様子見だった。いや、この場に留まり、射撃部隊に攻撃指令が入った。


『やはり口だけではわからないようですねっ! ならば実力行使! 九条ばりあーっ!』


 叫ぶマリア。


「九条ばりあーって……」


 あたちの方を見て、反笑いになる優助。


「九条ばりあーとは何だ?」


 優助が知っているようなのを見て、ヨセフがあたちに問う。


「あたちがマリアの奇跡を命名ちてやったのれす。あたちと優助が生誕する前の地獄の、日本という国では、周囲をろくでもない国ばかりに囲まれていながら、絶対戦争はちないという、けんぽー第九条なるものがあったのれすよ」

「何だその馬鹿な国は」

「しかしそんな馬鹿な憲法が機能していたから驚きれす。おかげで何十年も戦争無しな状態れしたから」


 呆れるヨセフに、あたちは言った。実質アメリカの植民地だったおかげとか、そういう事情は面倒なので説明しなかった。


 ブランデリスの兵士達が迫る。矢が、銃弾が、魔法が双方から飛び交う。


『いったあああああーーいっ! あ痛たたたたたた! うがーっ! 超痛い! 超痛い! 生理の百万倍痛―――――い!』


 倒れてのたうちまわりながらも、メガホン片手に苦痛に満ちた絶叫を喚き散らすマリア。この世界じゃ生理も妊娠も無いれしょ……

 同時に、双方の軍は異変に気がついたはずだ。敵の遠隔攻撃を何百人という兵士が食らっているにも関わらず、一切のペインが生じていないという異常事態を。


「姫、まさかこれ、マリアが全てのペインを吸い取ってるの?」

「まさかではなく、そうれすよ」


 優助の問いに、あたちは答えた。


『無駄ですよーっ! 私のこの奇跡、九条ばりあーは、戦争を起こさない力! 貴方達が互いの敵をどんなに攻撃したところで、そこに生じるはずのペインは全て私が肩代わりするのですっ! 痛い痛い! 私が喋ってる間は攻撃しないで! ちょっとストップ! 痛いってのーっ! やめてやめて! イクイクいっちゃう! いや、イカないけど、とにかく喋らせて!』


 マリアの訴えが届いたのか、あるいはこの異常事態に恐れをなしたのか、両軍の攻撃が中断した。ブランデリスの進軍も止まる。


『いくらこの先戦闘しても、全部無駄無駄ですからねっ! 私が全てのペインを吸い取り、たった一人であろうと死人は出しません! たった一滴の血も流させません! いくらでも戦い続けてください! どんなに戦ってもペインが生じなければ、戦争として機能せず、決着はつきませんからねっ! もちろん私のこの奇跡の力も有限です。私の心がぺインに耐え切れなくなったら、私は朽ち果てるでしょう』

「ええええ、それは言わないでおいた方がいいんじゃないの?」


 優助が驚いてあたちの方を見る。


「いいや、あたちが言えとマリアに指示しておいたのれすよ。これでいいのれす」


 優助が何を言いたいかはわかる。マリアのペイン身代わりにも限界があると知られれば、その限界が来るまで狙ってひたすらボコスカやればいいのだし、マリアも無駄死にして、戦争も引き続き行われるではないかと。しかし――


『しかぁぁしっ! 私は絶対に死にまっしぇーんっ! 耐えてみせますッ! 皆さんを誰一人として死なせないために、私はこの戦場でこれから発生する全てのペインを耐え切ってみせます! 命は尊いんです! その尊い命をしょーもない憎しみのために失わせるなど、私は断じて見過ごせません! 許せません! 慈愛の神ヌプヌプ様の名にかけて! ぬぷぬぷしてナニかけて! いや、ナニを言ってるんだっ、私は! とにかくっ、皆がヘトヘトのクタクタになって疲れて諦めるまで、私はこの場を動きません! ペインの肩代わりを続けますからねーっ! さあっ、どーんときてみんしゃーい!』


 マリアは叫び終えると、大の字になって寝転がる。


『あ、ペインの肩代わりはするけど、私にHなことしようとするのはやめてくださいね。そんなことしたら、いくら私でも反撃しますよ。巫女だから一応強いですよ、私』


 せっかくのいい所だというのに、私の指示に無かった余計なことを口にして、緊張感を無くしてくれるのはマイナスポイントれすね……


「こんなチープな猿芝居でうまくいくのか? 構わず戦い続けるという可能性も十分あるぞ」


 呆れきった様子でヨセフ。


「うまくいくれすよ。すでにシャンペニアの総指揮官及び参謀を服従ウイルスで支配済みれすから。シャンペニア側からは、戦闘の終了を訴える手はずれす。それに、周りを見てみろれす」


 あたちの言葉を受け、ヨセフと優助は周囲にいるシャンペニアの兵士達を見る。

 見事なまでに、全員戦意を失っている。中にはあからさまに感動してマリアを見ている者もいる。攻撃の手だって完全に止んでいる。


 身を投げだし、死の覚悟も承知のうえでの制止行動。これが必ずしもうまくいくという保障は無い。興奮しまくっていれば、構わず戦い続けるだろう。しかし心のどこかで嫌がっていたり、戦闘や虐殺行為に後ろめたさを感じたりする兵士には、効果覿面だ。かの天安門事件の無名の反逆者のエピソードから、あたちはこの作戦を思いついた。

 もっとも天安門事件で戦車の前に立ちふさがって、戦車を止めたという人の行動に、果たしてどんな意義があったか、正直あたちにはよくわからんのれす……。当時の人達はとにかく勇敢だということで、話題にしていたようれすが、中国共産党の前時代的で土人丸出しの支配体制も覇権主義も、その後全く変わっていないのれすし。


「こっちの総指揮官もそろそろ空気読んで、戦闘中止命令を出し、停戦を訴える頃れす。そういう指示を予め出しておいたれすからね」

「こっちは皆戦意を無くしたみたいだけど、ブランデリスの方はどうなんだろう?」


 優助が疑問を口にする。


「多分大丈夫れしょう。こっちと同じく兵士達が戦意を失っているれしょうから、向こうもきっと同じれす。で、シャンペニア側が、マリアの身を投げうった慈愛の心にうたれて戦いをやめると宣言したら、向こうも体面上の問題もあるから、やめざるをえないでしょ。ま、渡りに船という面もあるれすが」


 ブランデリスという都市の人達の気質を考慮しても、こちらより効果がデカいとあたちは思う。シャンペニアの人らはドライだが、あっちは対照的にウエットだし。


「これでマリアが調停したから、どうなるというんだ?」


 冷めた眼差しでヨセフが言う。


「この後は、シャンペニアとブランデリスの双方でマリアの偉業を褒め称え、マリアの存在を両都市の和平のためのシンボルに祭りあげるのれす。そしてそういう路線にもっていきやすくするため、両都市でまた情報工作れす」


 今後のプランを話すあたちだが、この時点では口で言ってもピンとこないだろう。

 何度も思うことだが、こんな面倒なことをするより、てっとり早く本気で戦争させた方が、あたちは両方の都市の支配がやりやすかったんれすがね。

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