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7 ガチレズらしい

 お宝満載の馬車を連ね、あたち達は南下する。大荷物での山道の移動は神経を使ってキツかったが、ワインヌ山脈を抜ければそれも無くなったし、移動スピードも増した。


 シャンペニアの領土として指定された土地に入り、ほっと一息。もうブランデリスが追ってくることはない。あたちは大丈夫だと確信していたけど、あたちの下僕達はそうでもなさそうだったようだし。

 一面が草原のなだらかな丘を越えた所で、シャンペニアが見えた。やたら緑の多い都市であることが、遠目からにもよくわかる町並み。人口の半分以上がエルフの都市であるというから、それも納得できる。

 人口は六百万とのことで、ブランデリスの四倍にも及ぶ大都市だ。もちろんブランデリスだって十分すぎるくらい大都市れすが。


 魔雲に近いブランデリスほどではないが、ここも魔物の脅威に晒されている。魔雲から出てくる魔物は、時折この周囲にまで移動してくるとのことだ。そのため、乱す者は一部受け入れつつも、停まり人らとあまり良い仲では無く、小競り合いにもなるという。ブランデリスと比べると、やや排他的な傾向があるようだ。


 シャンペニアの中にと入ると、安っぽい武装をした小汚い格好のあたちら一団に、あまり好意的ではない視線が降り注いだ。こりゃ都市の噂になりそうれすね。まあそれはそれで構わんとして、下僕共は武装解除して服を変えてもらうのれす。


「木々の配置が面白いれすね」

「どういうこと?」


 あたちの言葉に、優助が尋ねる。


「エルフの都市というと、鬱蒼とした森の中の都市――森と同化した都市とかイメージしていたれすが、見た感じここはそんな感じではないれしょ。木が多いのは確かれすが、陽光を覆い隠さないよう、ちゃんと計算して配置されているのれす。人口の半数はエルフ以外の種族ということも考慮した結果なのれしょう」

「ふーん」


 昔からあたちの相槌係及び突っこみ係の優助が、どうでも良さそうに相槌をうつ。


「そこかしこに同じエルフの像があるけど、これはここの偉い人なのかな? エルフなのに腰に刀なんて差してるし」


 確かに優助の言うとおり、大小の刀を下げた同じ顔のエルフの像がよく目につく。


「神殺しの魔法剣士、ウインド・デッド・ルヴァディーグルれすね。高名な冒険者れす。幾人もの邪神をぶっ殺したという話れす」


 御目にかかったことは無いが、その名はあたちも当然知っている。様々な書物でもその名は記されているし、冥界において生ける伝説と化した存在の一人だ。


「こんなにあちこちに自分の像を建てるとか、あまりいい趣味じゃないよね。独裁者とかがやることだ」


 と、優助。


「自分で建てたとしたら最悪の趣味れすが、いくらなんでもそうじゃないれしょ。何か功績をあげて、それを称えられているのれすよ。多分」


 像を建てるというのも、エルフの趣味とは合わない気もするれすが、まあエルフも人間と一緒で、星や国や地方によって性質が異なってくるれすし。


「ヨセフ、宝物を全て売り払ってこいれす。下僕達は全てまともな服に着替えさせろれす。長期滞在できるいい宿も見つけておくのれす。しばらくはここを根城にするれすよ」

「ちっ、わかった」


 いかにも面倒臭そうに、露骨に舌打ちして返事をするヨセフ。ま、こいつはこれでいいのれす。どんなに反抗的な態度でも、仕事は決して手を抜かん奴れすし。

 ヨセフが下僕達を引き連れていく。あたちは別の場所に用があるので、一旦彼等とは別れる。優助とラッセルは一緒だが。この二人はもう、あたちの付き人として定着している。


 マリアだけ、ヨセフ達の後を追おうとせず、その場に留まっていた。思いつめたような顔であたちを見ている。


「リザレちゃん、これからどうするのですか?」


 マリアが尋ねてくる。


「あたちはこれから、こいつの解析を依頼してくるれす」


 と、マリアに背を向けて、背中の鞄に入れた古代知識が詰まったプレートを示す。


「いや、そうじゃなくて、この町に長期滞在して、私達がどうするか聞きたいんです」

「やることは沢山れす。シャンペニアかブランデリス、どちらかの都市をあたちの支配化に置きたいのれす。できれば両方欲しい所れすが」


 大雑把な答えを返すあたち。


「支配下に置きたいとか、さらっと言う時点でアレだな。でも姫様が口にすると、現実味があるから困る」


 ラッセルがおかしそうに言った。


「また、発掘された文献の情報の解析にも時間かかると思うのれす。解析の結果が出て、なおかつあたちの計画が固まるまでは、皆遊んでていいのれす」

「そ、そうですか」


 浮かない面持ちになって小さく溜息をつくマリア。この子が何を考えているかは、あたちには手にとるようにわかる。


「マリアの要望に応えるのはその後れす。神殺しに臨むには、まず確固たる力を手に入れてかられすよ」

「はいっ。そうですよねっ。リザレちゃんは不義理な子じゃないですものねっ」


 マリアが一転して声を弾ませ、顔を輝かせる。不義理って……この子は、何か過去に嫌な思い出でもあるんれすかね。


「その支配どうこうなんだけどさ」


 優助が口を開く。


「姫の力を使えば、支配下におくのも楽なんじゃない? どんどん勝負を挑んでいって、やっつけて、ウイルスに感染させればいいんでしょ?」

「そんなに楽にいかんのれすよ。あたちの奇跡は一度感染させれば永続するれすが、制限無く使えるわけれもないれすよ。奇跡だって、ある程度使えば消耗するのれす。特にあたちの奇跡は他者への影響が大きいから、消耗は激しいれすよ。それにあたちが直々、戦って勝たねばならないという大前提もあるのれすし」


 優助の疑問もわからんではないし、機会さえあれば、ガンガンこの奇跡に頼るつもりではいるが。完全に依存しきって、全面的に頼るわけにもいかない。


「頭を取ったとして――例えば都市の市長及びその周囲を全て服従させたからといって、それでうまくいくとは限らんれすよ。都市には人が沢山れす。あたちの傀儡と化していると気がつく者がいたら、またそれらにも対処せねばならんのれす。キリが無いれす。ま、前世でそういう失敗をしているし、頭を取るには、もう少し回り道をしないとらめなのれすよ。正面から堂々とやらず、影からこそこそとやらなくちゃらめれすし、能力のみに頼らず、足場と周囲をしっかりと整えなくちゃらめらめれす」


 能力一つに頼るとなると、そこを崩されればもろい。あたちの能力は絶対無敵なわけでもないが、脅威的な代物ではあるし、あたちがこの力を使って支配を行っていると知られれば、賢人が入念に対処してくる可能性もある。

 だからこそ奇跡だけに頼ることなく、支配をしなくてはならない。別の意味での――人としての能力でもって、それを成さねばならない。


***


 あたちと優助とラッセルは、プレートの解析をしてもらいに、図書館へと向かった。

 大都市にの図書館か学院には大抵、古代知識の研究室があるものだ。


「姫、ちょっと待て」


 図書館へと入ろうとした所で、後ろから意外な人物に声をかけられた。

 振り返ると、ヨセフが一人で立っていた。そしてあたちに側に寄るように指で招いている。


「ちょっと待ってろれす」


 優助とラッセルに命じると、あたちはヨセフの近くへと歩んでいく。何か他人には言えない深刻な話があるようだ。


「不本意ではあるが、お前は俺の主となった身であるし、お前のことは正直それほど嫌いでもない。だから警告しておこうと思った」


 回りくどい前置きをするヨセフ。素直じゃない奴れす。


「気付いているかもしれんが、マリアは同性愛者だ。そしてお前にホの字だ」


 はあ……?

 ヨセフが告げた言葉に、あたちの思考は一瞬停止した。


「いや……全然気がつかなかったれすよ。てっきりマリアはヨセフに惚れているとばかり思っていたれすし」


 あたちは全然気付かなかったれすが、ヨセフはマリアのことをよく観察していたってことれすよね。こいつはどんだけマリアに惚れているのやら。ていうか、マリアもヨセフのこと好きで、相思相愛だと思っていたのれすが。


「いつもお前のことを熱っぽい視線で見ていたぞ。せいぜい注意しろ。あいつは本気で、夜這いをかけるぞ。以前もそういうことがあった。相手はマリアのことを拒絶して、マリアの元を去っていったがな」

「あたちらって拒絶するれすよ……。まあ、警告ありがとさままま……」

「拒絶という言い方が悪かったな。マリアに組み敷かれた後、その女は俺達の下を去っていった。拒絶すればはいそうですかと引っ込む奴じゃないんだよ、マリアは。以前マリアに惚れられた女は、ほとんど強姦されるような形だったらしいぞ。無理矢理組み敷かれて、マリアに好き放題弄ばれたようだ」


 ヨセフの話を聞いて、あたちの顔が引きつる。


「あたちにも同じことをすると? 少しも反省はしていないのれすか?」

「してないと思う」

「ん~……。あたちの逆鱗に触れたら、マリアの望みも断たれるわけれすが」

「その辺を計算できる奴でもないんだよ、マリアは。見てわからないのか? 馬鹿なんだよ、マリアは。せいぜい良く言っても、目先の欲望に我慢できないタイプといった所だ」


 断言するヨセフに、思わず乾いた笑みが漏れるあたち。計算のできない直情的馬鹿というものが恐ろしいものであることは、あたちもよく知っている。実に厄介なタイプだ。


「ガードがきっちり固めるか、上手な対処方法を見つけるか、いっそ姫から先にマリアに仕掛けて、俺と同様に服従ウイルスを感染させても構わん」

「わかったのれす……」


 あたちが頷くと、ヨセフは立ち去った。

 三番目のウイルス感染が一番確実ではあるが、問題は、マリアの戦闘力が相当高いということだ。単純な数字の上下として比較できるものではないし、トリッキーな戦い方を仕掛けるヨセフとは全く異なるタイプであるが、マリアの魔物との戦闘の様子を見た感じ、ヨセフよりは強い。あたちと拮抗していそうだ。

 実力的に拮抗している時点で、自分から仕掛ける……というのは無しれすね。リスクが高いれす。口で何とか説得したいれす。仲間なのれすし。


 ったく……思いも寄らない角度から、厄介な問題が発生したものれす。


「姫、どうしたの?」

「姫様、顔が真っ青だぞ」


 戻ってきたあたちを見て、優助とラッセルが驚いている。そんなに顔色悪いかー。


「何でもない……ことはないれすが、気にするなれす。言っても仕方無いれすし、言いたくもないのれす」

「そんなこと言われても凄く気になるよ」


 優助が心配そうに、そして真剣な眼差しで言ってくる。真剣になられても困るんれすが……

 マリアがガチレズであたちが狙われてるとか、そんなこと話したくもねーれす。


 気を取り直して図書館の中に入り、司書に古代文献の解析を依頼する。

 しばらくすると担当者と思しき背の低いコボルトが、喜悦満面ですっとんできた。プードルによく似た顔をしている。


「古代の文献を発見したですって!? 本当の本当の本当ですか!?」


 図書館だというのに人目憚らず興奮して大声を出すコボルト。他の職員に睨まれ、慌てて口を押さえて会釈する。


「失礼、私はスプレーと申します。古代遺物の解析士です」

「このプレートを解析してほしいのれす」


 六枚のプレートをスプレーに手渡すと、スプレーはますます興奮した面持ちで、生唾を呑む。


「これは確かに……。新たな文献は久しぶりにお目にかかりますよ。とりあえず情報量を測ってみましょう。どうぞこちらへ」


 あたちら三人は、スプレーの私室と思しき部屋へと通された。チャンスだ。

 スプレーの部屋は、解析のためのマジックアイテムが一通り揃っていた。前世で幾度も御目にかかったことがあるので、大体どの程度の精度かもわかる。これなら安心して任せられそうだ。


「かなりの情報量です。難解ですし、時間がかかりそうですね。これは……凄い。これは初めて見ます。間違いない。古代の神々が記した知識ですよ」


 光る台座の上にプレートを乗せ、無数のライトで照らしながら、興奮しまくって振るえた声を出すスプレー。よし、ビンゴ。あたちの力となる知識かどうかまでは、まだ定かではないれすが。

 プレートの上で、無数の文字が踊る。さらには映像も時折浮かぶ。そしてその中の、見過ごせないものが一つ混じっていた。


「今のはっ!」


 スプレーに負けず劣らず、興奮した声をあげるあたち。


「ええ、今のは間違いありませんっ。それにこの文字は……」


 映像を撒き戻すスプレー。


「塔?」


 優助が怪訝な声を漏らす。そう、宙に浮かぶ映像は、山の中にそびえる高い塔だ。


「この文献は、解放の塔にまつわる情報が詰め込まれています。凄いですよっ。これは世紀の大発見ですっ!」


 両手を握り締めて叫ぶスプレー。大袈裟でもなんでもない。いや、世紀の大発見なんて表現では、まだヌルい。冥界の一大事と言っても過言ではない。


「解放の塔?」

「新しい神様を生み出す場所さ」


 まだこの世界の知識に疎い優助に、ラッセルが教えた。


「神様ってのは皆、元々は人なんだよ。解放の塔という場所で試練を受けて、その試練を乗り越えた者が神様になれるってわけさ。でも解放の塔はその場所さえも掴ませず、世界中をランダムにワープするから、見つけるだけでも一苦労って話だ」

「試練とは、ペインを受けることらしいれす。解放の塔は、存在自体が謎に満ちていて、何もわからない代物れしたが、その謎がこの文献に記されているというわけれすよ。これは本当に、とんでもない大発見れす」


 ラッセルの解説を引き継ぎ、あたちは震える声で言った。


「もしも全部解析できたら、解放の塔のワープ先の特定とか、中のペインを封じる方法、あるいは神を作る仕組みなんかも、解明できるかもしれないれすね」

「そんなことができたら、神を越える神になれますよっ。凄いっ。これは本当に――」


 興奮して喚くスプレーの言葉が、途中で止まった。あたちがショートソードを抜き、その切っ先をスプレーの鼻先に突きつけたからだ。


「おいおい姫様、何やって――」

「黙ってろれす」


 狼狽気味の声を発するラッセルに、あたちがにべもなく言い放つ。


「突然れすが勝負しろれす」

「え? どういうことですか……」


 唖然としている様子のスプレー。


「口封じれす。殺すれす」

「ええええーっ!?」

「ええーっ!?」

「えええーっ!?」


 あたちの宣言に、スプレーと優助とラッセルが続けざまに声をあげる。


「うりゃーっ!」

「ぎゃああああーっ!」


 容赦なくスプレーに斬りつけるあたち。悲鳴をあげるスプレー。

 本当に殺したりはしない。単にペインを与え、負かせたという事実さえ作ればいい。それによって、あたちの奇跡は発動する。


「ど、どうか命だけは……」

「殺すと言ったのは嘘れす。その代わり、あんたもあたちの下僕になってもらうれす。この知識を他に口外されても困るれすし、あたち達で独占するのれす」


 スプレーへの服従ウイルス感染は完了した。スプレーに服従ウイルスのことも教え、少しでもあたちの意にそぐわぬことをすれば、ペインを食らうことを伝える。


「解析はそのまま続けろれす。しかしこれを他所に発表とかは許さんのれす」

「そ、そんな……せっかくの大発見なのに……」

「知識を独占できることの悦びで満足しろれす。もちろん報酬も十分に払うれすよ」


 がっくりとうなだれるスプレーに、あたちは言う。

 もし解放の塔の仕組みが解き明かされたら、神になるための力も得られるかもしれないれすね。ま、うまくいけば……の話れすが。

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