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6 汚い奴等は汚い手で潰してやればよい

 ラッセルの予想通り、あたち達のカクテロ遺跡掘り返し作業を目撃した冒険者達は、ブランデリスへと入っていった。


 あたちとラッセルと優助、そして先に後を追わせた手下二名の計五名は、引き続き目撃者の尾行をして、彼等がまずどういう行動に出るかを確かめる。彼等の行動次第で、あたち達のその後の行動も変化する。

 彼等がお上に言いつけるつもりなら、あたち達も目撃者としてお上に取り入り、見張り役を買って出る。

 お上には黙っておいて、手勢を集めて横取りをしようとするのなら、あたち達も噂を広める。そして彼等だけでは独占できない状態にしておく。もちろんそうなるとお上も介入してくるだろうから、目撃者としてお上に取り入ることも忘れてはならない。

 後者の方が面倒臭いが、おそらくは後者になるだろうと予想。


 何とかして、あたちは山賊のお宝横取りプランのメンバーの、中核とならねばならない。


 百人近くの山賊相手に、お宝の横取りをしようというのだから、それなりの人数が必要であろうし、作戦も練らねばならないし、いろいろと準備も必要となってくる。それもあたちが進める。わざと遅らせるためにだ。

 宝を掘り終えた後で襲撃するならともかく、万が一にも掘っている最中に襲われたら、非常に面倒臭い。マリアとヨセフとあたちがいるから、撃退することは容易だろうが、犠牲者もかなり出るし、犠牲者が出た分、作業も遅延する。それは避けたい。


 で、やはり彼等はお上には訴えず、冒険者の同士を募って、山賊達を襲撃する方向になったようだ。


「急いで街中に噂を広めるのれす」


 下僕達に命ずるあたち。

 優助、ラッセルと共に、あたちは山賊達がカクテロ遺跡を掘り返している噂をバラまいた。優助と手下二名は街の各所にある掲示板に書いていく。あたちとラッセルは酒場等で直接話して広めている。


「姫、一体どういうつもりなの?」


 掲示板に書く作業を終えた優助が戻ってきて尋ねた。あたちの計画の全容は、まだ誰にも教えていない。


「これでいいのれす。まずは噂を広めることれす。目撃者は自分達主体であたちらのお宝を横取りしようとしていたれすが、噂を広めたことでそうもいかない状況にちたのれす。それからお役所にも介入させれば、第一発見者がお宝の優先権主張など、できなくなるのれす。加えて、あたちらが役所に先に取り入れば完璧れす」

「だからそれがわからないよ。わざわざ広めて、役人まで呼んでどうするのさ」


 うーん、こいつとは付き合いが長いのに、あたちのやろうとしていることが見抜けないとは情けない。彼なら一発で見抜くだろうに。


「もちろん彼等にあたち達の作業を邪魔させないためれすよ。ま、他にも狙いはあるれすがね」


 ボロを出されても困るので、今は全て教えない。


 そんなわけで、あたちらは噂を広めてから、ブランデリスの市役所へと向かった。

 市役所の受付にてあたちは、役人相手にカクテロ遺跡を山賊団が大人数で掘り返している話をする。話を聞き終えた役人はお偉いさんへ報告しに奥へと引っ込む。


「どうぞこちらへ」


 しばらくしてから役人が戻ってきて、あたちらは役所の建物の奥へと通された。

 応接室にて、お偉いさんと思しき若い男が待ち構えていた。男は己を市議だと名乗った。


「始めまちて。あたちは古代文明の研究をしてさすらう学者、メグミという者れす」


 偽りの自己紹介をしてから、改めて事の次第を説明し、要望を伝える。名前だけは偽りではないけど。


「あたちの目的は遺跡にある知識であって、お宝ではないのれす。遺跡に記された文献をあたちに譲渡ちてほしいのれす」


 ようするに、うまい話もってきてやったんだから、分けても問題無い部分だけ独占させろという要望。


「それなら山賊と交渉してみてもよかったのでは?」


 市議が、冗談めかしてそんなことを言う。


「そんな危険なことしたくはないれす。それにもうすっかり街中で噂になっているれすし、冒険者達が有志を募って出発しようとするれす。彼等に遺跡の知識だけでもいいからくれと言っても、きっと法外な値段を要求してくるはずれす」


 真面目に答えるあたち。


「たがら我々主導で管理してほしいということか。まあ、当然の成り行きになるのではないかな。財政難のブランデリスとしては、財宝があるなら是非とも欲しい所だ。どのくらいになるかはわからんがね。それに、冒険者主導にするには話が大きくなりすぎているし、敵の山賊団も数が多いうえに、中々優れた指導者がいるようだから、犠牲も多く出てしまう。市が軍を動かすのは必然の流れと言えるし、こちらにまず頼ってきた君は中々の慧眼だな」


 社交辞令の域を出ぬ称賛をかますお偉いさん。あたちは確かに慧眼れすが、お前の目は節穴れすがね。


「問題は、だ。カクテロ遺跡そのものは中立地帯であり、下手に軍を動かせば、シャンペニアの神経を逆撫でするということだが……」

「その心配は無用れすよ。山賊達は遺跡を掘り返した後、ブランデリスに来るれすから。領地内に入った所で御用にすればいいのれす。あらかじめ兵士や冒険者を待機させておいてね」

「どうしてそう言い切れるのかね?」

「まずシャンペニアの方が遠いということもあるれすが、それ以前に決定的な理由が二つあるれす。実は数日前、採掘用の機材を大量に購入していった、武装した一団がいるのれす。販売者に聞き込みをした所、全く見慣れない客だったという証言があるのれす。買い付けたのは、間違いなく今採掘している山賊団れす。ここで準備をしたからには、彼等が掘り起こしたのを売るのも、この都市れしょう。彼等はこちらの都市の方が明るいようれすしね」

「もう一つの理由は?」

「彼等のなりだと、ブランデリスの方が、居心地が良いれしょう。シャンペニアのようなお高くとまった都市に、わざわざ行きたがるとは思えんれす」

「なるほどな……」


 あたちの言葉に、市議はようやく納得したようだった。


「彼等の輸送ルートとなりうる道で張り込んでおいて、犠牲はなるべく出さないように、入念に罠を張るのがいいとおもうのれす。あ、一応あたち、乱す者との戦争したこともあり、雇われ軍師もしていたんで、対人戦は慣れているれすよ」


 これは嘘ではない。前世の話ではあるが。


「まあ、どこの馬の骨ともわからんあたちに、任せてくれることを期待もちていないれすが」

「いや、プランだけでも聞こう」


 市議が手を組み、真剣な眼差しであたち見る。目は節穴だけど、話はわかる人のようれすね。

 あたちは冒険者達も兵士と混ぜてまとめあげ、大部隊で山の街道で待ち構える作戦を提案した。地図も開いて、どのように罠を仕掛けるか、どう配置するかも細かく説明していったが――


「ちょっと待った。今ここでそんな作戦の説明をされても困る。準備がいいのには感心するが、こちらも私の独断ですぐには決められない。市長や他の市議らとも話してから決めるので、明日、また来てほしい」


 確かに今ここで決められることではないし、その理屈もわかる。


「了解れす。明日また来るのれす」


 役所を後にする三人。


「今の市議、そこそこ頭は回るようれすが、真面目人間すぎるれすね。あたちのこと全く疑ってなかったれすよ」


 曖昧な笑みを浮かべて、あたちは言った。あたちはよく人を騙すが、騙しやすい人間を騙すのは、あまりいい気分ではない。


「でもまあ姫様のやろうとしていることはわかった。山賊討伐チームの管理を姫がすれば、俺達を無事とんずらさせることも可能ってことだろ」

「そういうことれす。しかし、それだけじゃないれすがね」


 あたちの方を見てにやにや笑うラッセルに、あたちは曖昧な笑みから不敵に笑みへと変化させる。


「他にも狙いがあるって言ってたよね」


 優助が言い、あたちは頷く。


「これだけ事を大きくしたからには、この状況を他にも利用できそうなもんれしょ。とはいえ、不確実な木の苗でしかないれすがね。木に育ち、実をつけるかはまだわからないのれす」


 一応あたちの中でシナリオは出来ているが、理想通りに進むかどうかは定かではない。運良くこういう展開になればいいな程度の期待に留めている。


***


 その日の晩はブランデリスの宿に泊まり、翌日また市庁舎へと赴き、昨日会った市議の前で山賊のお宝横取りプランを述べまくった。

 先行投資で資金を出すよう要求し、冒険者と軍人とで山賊達の三倍の兵力を投入し、街道に仕掛ける罠も図に描いて提出する。


「仕事が早くて素晴らしいね。君のような有能な人材は、是非うちの役所に勤めてほしいものだ」


 冗談とも本気ともつかぬ言葉で市議は言った。

 その後、ブランデリス軍のお偉いさんとも接触し、作戦の概要を直に伝えた。


「どこの馬の骨ともわからんあたちが指揮執るのもおかちいので、以後の指揮はお任せするのれす。あたちの作戦が気に入らなかったら、無視してくれても、叩き台にしてくれても結構れすし」

「いや、文句は無い。よくできている。本当に君は戦の経験が有るようだな」


 私のプランが書かれた用紙に目を通しながら、軍人さんは素直に感心していた。


 その後、軍人さんにも市議にも、直に現場に行って様子を確かめ、山賊達の動きを伝書鳩で逐一報告すると告げ、あたち達はブランデリスを後にした。

 疑われて尾行されていないかと気にかけ、後方を何度もチェックしたが、その気配は全く無し。うまくいきすぎて拍子抜けれす。


***


 カクテロ遺跡に戻ると、発掘は相当進んでいた。宝らしきものもすでに掘り返されてある。


 気がかりだったのは、古代の知識を記した文献の存在だ。下僕達がその価値に気付かずに見過ごすことのないよう、掘り出されたものはどんなものでも宝と同等に扱うよう、口をすっぱくして言い残しておいたものの、やはり不安だった。

 掘り出された宝をあたちはチェックする。古代の文献はその中には無くて、軽く落胆。金銀財宝も多少はあるが、遺物そのものにも高い価値がつく。


「すっごく深くなったねえ。穴の広さも増したし」


 掘り広げられた穴を見下ろし、優助が感嘆の声をあげた。大きく拡張された穴の底は平地にされていて、テントが張られている。遺跡そのものの穴が深すぎるので、作業用及び生活用のスペースを掘り返したのだ。


「このままいけば山一つ入る穴が掘れそうだ」


 そう言ったのはヨセフだ。


「おや、意外れすね。あなたもそんな冗談言うんれすか」

「冗談かな?」


 からかうあたちに、ヨセフは一瞬だが微笑をこぼす。


「あ、リザレちゃーん。おかえりなさーい」


 縄梯子を上ってきて笑顔を見せるマリアの姿を見て、あたちは絶句した。全身泥と埃まみれ、来ている服もぼろぼろになっている。


「何やってるんれすか、あんたは……」

「いやー、魔物が出てくるまで何もしないでいるのも暇だから、皆と一緒にえっさほっさ作業してたんですよ。私のほりほりスキル、かなーり上がったと思いますよー」

「せめて作業服に着替えろれす。何でその格好のままやってるんれすか」


 せっかくの可愛い服が、無残な有様だ。スカートの裾も泥だらけなうえにほころびまくりだし。


「えー、でも私、この服お気に入りだからいつも着ていたいですし」


 マリアがボロボロのスカートを両手でつまんでみせながら、笑顔でズレたことを言う。


「お気に入りなら大事にしろれす」


 あたちが言うが、物を大事にするという文化が無い所で育ったなら、考え方がズレていても仕方ないかもしれないとも思う。


***


 結局、遺跡の掘り返しに三週間ほどかかった。予想していた以上に難航したが、その分、価値のある宝や遺物にありつけた。犠牲者も無し。


 遺跡の財宝の中でも特にあたちが欲していた、古代に関して記された文献だが、幾つか発掘することができた。

 特に、古き神々にまつわる文献が欲しい所だが、果たしてそれがあるかどうかは、今の所謎。解析にかけてみないとわからない。


 古き神々にまつわる記録は、万年単位という、相当昔の遺跡からではないと出てこないと思われるし、超絶レアーだ。このカクテロ遺跡、そこまで古い遺跡では無いと思われる。せいぜい数千年単位。しかしたまに数千年単位での、比較的新しい遺跡でも、痕跡が見つかることはあるので、淡い期待を抱いておく。

 ネムレスもあたちがこの世界に不在だった十五年間、きっと古き時代の知識をあっちこっちで調査していると思われる。とはいえ、あたちとネムレスでは、古代の知識を求める動機が全く違うのれすから、ネムレスがあたちに古代の知識を教えてくれるとは思えんれすが。


「これが文献? ただのプレートのような……」


 皆で掘り出したお宝の整理をしている際、数枚のプレートを見て、優助が尋ねる。


「この中にデータが詰まっているのれすよ。解析魔法で取り出す必要があるれすね。シャンペニアなら優秀な解析魔法の使い手もいそうれすし、そこで依頼するのれす」


 そう、あたち達はこれからシャンペニアに向かうつもりなのだ。

 発掘作業を終えて荷物の準備が出来た所で、ラッセルに伝書鳩を飛ばしてもらった。鳩の行き先はもちろんブランデリスのお役所だ。山賊達の発掘が終わったと書いてある。


 向こうに情報が届いた時点で、ブランデリスの兵士と冒険者達は大人数で移動を開始し、あたちが指定したポイントで、遺跡を掘り起こした山賊の到来を待つであろう。あたちの指示に従い、念入りに罠も張りながら。

 それ以前にあたちが合流する予定になっているので、いつまで経ってもあたちが来ないことをまず不審がられるかもしれない。


 ブランデリスがあるのはカクテロ遺跡から北側。シャンペニアがあるのは南側。


 ま、騙されたと気がつくのは最短れも一週間後れしょうし、うまくいけば気付くのにもっと時間かかるかもれす。正反対のルートを進んでいるれすから、お宝を抱えたこっちの足が遅くても、そうそう追いつけはしないれしょう。

 また、たとえ追いかけてきたとしても、あたち達がシャンペニア領域にいれば、ブランデリスが大人数の兵士達を送ることなど不可能だ。シャンペニアにおかしな誤解を受けかねない。

 よって、さっさとシャンペニアの近くまで移動すれば、あたち達はとんずら成功ってことれす。


「ブランデリスの人達、騙されたってことで、凄く怒るよね」


 優助が不安げに言う。


「騙まし討ちはお互い様れす。火をつけたのはあたちれすが、相手ものらなければ済んだ話れす。金目当て、やっかみ動機に、人が努力して得たものを横取りちよーとしたわけれすから、当然の報いれす。あたちの良心はちっとも痛まぬのれす」


 嘲りと共に言ってのけるあたち。


「しかしこれで俺達、もうブランデリスには行けないぞ。絶対に目つけられる」


 苦笑しながらラッセルが言う。


「俺達みたいなのには、あの町を拠点にする方がよかったんじゃないか?」


 ヨセフが意見する。


「いいや、これでいいのれす。いずれあの都市もあたちの支配下れす。これはその時のための苗を植えておいたようなものれす」


 あたちは言った。あたちがブランデリスの役所に押しかけて横取りプランを立ててきたのは、横取りしてくる奴等に一杯食わせるだけではなく、ブランデリスを支配下に置くための布石でもある。

 何せこれからあたち達は、シャンペニアに行くのだから。ブランデリスとは仲の悪い、しかし切っては切れぬ関係の都市へ。

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