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5 百人以上でダンジョン攻略してみた

 ワインヌ山脈を抜けて平野を少し北に行くと、そこはもう魔雲に覆われた地となっているがため、魔雲の中に潜む魔物達が頻繁に出てきては、人々に被害を与えているという話だ。

 ワインヌ山脈の西端北側の麓にあるブランデリスという都市は、特に魔物の被害を受けている。人口は百五十万。魔雲の中から出てくる魔物を討伐するため、軍事力を拡大中。都市だけを守ればいいわけではなく、郊外にある村、集落、田畑、鉱山、街道も守らなくてはならないので、守護のための人手不足は深刻な状態だという。


 あたちは山賊達を引き連れ、このブランデリスへ訪れた。


 魔物の脅威に晒されているせいか、人口百五十万の大都市だというのに、あまり栄えているように見えない。都市全体に活気が無く、武装した者達の姿を頻繁に見かけるため、全体的に物々しい雰囲気に包まれている。まるで戦時下の都市だ。

 魔物討伐のために、この都市では乱す者さえも受け入れている。軍人以外にも武装した冒険者や、魔物専門の傭兵やハンターも多い。そのため、元山賊の面々が闊歩していても全く違和感がない。


 田畑は定期的に魔物に荒されるため、農業生産はいまいちで、輸入に頼らざるえない状況。ワインヌ山脈の鉱石を掘り返していて、それが主産業になっている。ある程度は自国で武具の製造を行うも、技術力が低い。魔具の類もあまり作れない。


 貿易の主な相手国は、ワインヌ山脈西端を抜けた南側にあるシャンペニアという都市だ。しかしブランデリス市民は、シャンペニアに強い反感を抱いている。理由は、自都市の弱みにつけこんだ不当な取引が多いことや、シャンペニアの民の中にある差別意識らしい。しかしそれでいて、シャンペニアにいろいろと頼らざるえないという、複雑な状況。


「全然天国じゃないと思うんだけど」


 町の中を歩きながら、ブランデリスの事情を聞いた優助が言った。


「この都市はそうれすね……。神に捨てられた地に近いというか、この世界にしてはかなり殺伐とちた都市のようれす。まあ他の都市も、乱す者との戦争を抱えている所もわりとあるれすし、完全な天国とも言いがたいれすよ。しかしそれでも、下界のような過度な競争社会ではないれすし、穏やかに暮らそうという気持ちの方が強いれすよ」


 あたちは地球という星の日本という国で生きている際、その人生の大半を病室のベッドの上と、ネットゲームの中で暮らしていたが、あの星のあの国は特にいろいろと異常だったことくらい、知っている。

 仕事のために生きるだの、人生厳しくないだの、実におかちな価値観れす。あたちが前世の前世で住んでいた星及び国は、日本ほどひどくなかったれすから。


「魔物が出るせいで国が住み心地悪いのなら、皆で出て行くってことはできないのかな」

「またそういう考え無しな台詞を言う……。大抵の人は、人が集まる場所でしか暮らせないのれす。気軽にほいほいと住む場所移動できる人らって、そりゃ少しはいるれしょうがね。それに、住んでしまうといろいろしがらみや、土地への愛着らってできるものれすよ。そういうのを無視した愚かな物言いはらめえ」

「そっか、ごめん……」


 あたちに諭され、優助は恥じ入るような面持ちでうつむく。


「とはいえ、ブランデリスを出て行く人も結構いるんですよねー。他の大都市と比べて人口少なめなのも、魔物が理由です。別に魔物にぱくぱく食べられちゃったというわけではなく、生誕してすぐにこの都市の住み心地の悪さに気がついて、他所の地にすこんすこんすこーんとお引越ししちゃう人、多いみたいですよー」

「引越しの擬音が、すこんすこんすこーんなのが謎すぎれす」


 解説するマリアに、突っこむあたち。


「他の連中にあれこれ買い物に行かせたようだけど、何おっぱじめるつもりなんだ?」


 ラッセルが尋ねてくる。


「だからカクテロ遺跡の攻略のための準備と言ってるれしょ」


 あたちが答える。


「それにしては買い物内容がいろいろとおかしいぞ。カタパルトだのバリスタだの長槍だの……。戦争でもおっぱじめるつもりかよ。いずれにしても、ダンジョン攻略のものじゃないだろう」


 と、ラッセル。ふっ、想像力の無い奴れす。


「ですよねー。長槍とかダンジョンで振り回したら、ごつんっ、あーっ、ごつんっ、あーっ、てな風になりますし」


 マリアが歩きながら槍を振り回したり突いたりするジェスチャーをし、『ごつんっ、あーっ』の部分で槍をぶつけるジェスチーの度に、泣き顔になってみせる。芸が細かい。


「買い物が激しすぎて、山賊業で溜め込んだ資金がほとんどパーだ。これで財宝を手に入れられなかったら、お前の世界征服の夢は悲惨な途切れ方をするぞ」


 それまで言葉を発さなかったヨセフが、暗い声音でケチをつけてくる。むっかー。


「あん? そうなったらてめーら全員また山賊やらせて資金稼がせるまでれすよ」

「ちょっと姫……。それは良くないことだと思うよ」


 言いにくそうに注意してくる優助。


「元山賊に、生きるためにしゃーないから山賊戻っておけと言うのが、何が悪いんれすか。くだらんモラルをあたちの前で説いちゃらめえっ」


 反発するあたち。まああたちも本心を言えば、彼等をまた山賊なんかに戻したくはない。それに、今からやろうとしていることは、うまくいくであろうとあたちは確信している。


***


 あたち達はブランデリスで買い物を済ますと、買った物を馬車に詰め込み、またワインヌ山脈へと戻った。目指すはカクテロ遺跡。


「改めて見ると、ものすごい大荷物ですね……」


 馬車の中から頭を覗かせ、山道を何台も連なって走る後方の馬車群を見て、マリアは言った。荷物の移動のために馬車も何台も買ったのだ。もちろん食料も大量に詰め込んである。百人分の食料、一ヶ月近く食える分だ。


 そんなわけであたち達はカクテロ遺跡へと着いた。

 さーて、こっから忙しくなる。荷物と山賊達の配置を決めなくてはならないし、これから何をやるかを指示し、役割分担も決めることになる。


 カクテロ遺跡は話に聞いていた通り、地下に埋もれているタイプであった。岩壁の穴が開いている。階段も坂も無く、穴が口を開いているだけ。入るときは縄か縄梯子で下りるしかないが、もうその時点で危険だ。もし入り口に魔物が待ち受けていたら、格好の的になる。深さもわからないし。


 ラッセル、ヨセフ、それに元山賊団の各首領達に、あたちは指示を出していく。これからあたちがやろうとしていることの全容を聞いて、ヨセフ以外の首領達は目を丸くしていた。


「面白そうだ」


 ヨセフだけが驚きもせず、小さく笑っていた。


 作業は早速開始された。ブランデリスは鉱石の採掘が主産業という話なので、採掘のための道具は比較的簡単に手に入った。

 つるはしだのといった原始的なものだけではなく、ちゃんと文明レベルでの採掘機械の数々が揃っている。電話や自動車すら無いほど、機械文明の受け入れを拒むこの世界でも、都市によってはある程度は導入している。特にブランデリスのようないろいろと切羽詰った事情のある都市もあれば、尚更だ。

 石切機、砕岩機、ショベルカーもどき、ベルトコンベアーなどを組み立てる下僕達。そして配置を完了し、あたち達は近代的なダンジョン攻略にとりかかった。そう、ダンジョン自体を大人数で掘り返していくのである。


 遺跡の穴の周囲をどんどん掘り、穴自体が拡張されていく。そのペースは中々のものだ。


「魔物だーっ! 避難しろーっ!」

「魔物出現! 魔物出現! タイプはD。ただちに対処―っ!」

「網を放てーっ」


 半日ほど掘った所で、魔物達が群れを成して中から沸いて出てきた。穴掘り作業が中断し、怒号と警報が飛び交う。

 現れたのは大型のトロールであった。武装しているうえに非常に数が多い。周囲を掘り返された穴の中へと何十匹も沸いて出ている。住処を荒された事に怒り狂ってもいる模様。


 しかし速やかに避難がなされ、穴の中のトロールめがけて、幾つもの大きな網がかけられる。

 動きが鈍ったところに、カタパルトによる投石と、バリスタによる投射で、一方的にトロール達の数が削られていく。それでも上ってこようとする者には、幾本もの5メートル近い長槍で集中的に串刺しにする。

 一人の犠牲者をだすこともなく、トロール数十体は駆逐された。落とされた岩やバリスタの矢もちゃんと回収した後、再び穴掘り開始。


「びっくりするほどうまくいったね」


 その光景を眺めていた優助が呻いた。ラッセルとマリアも唖然としていた。


「こちとら98人パーティーれすからねー。ノリとしてはレイドって感じれすが」

「レイド?」


 マリアが訪ねる。


「ネトゲにおける集団戦とれもいうれすかね。複数のパーティーが組んで、超大人数で同時バトルすることれす。と、解説してもネトゲやってなきゃわからんれしょうが」

「私の星にもネットゲームはありましたよー。廃人とかいう人達がいて、人生なげうってピコピコとか、凄いと思います」

「ピコピコって……うちらの星じゃ、老人がゲーム指して言う擬音れすよ」


 ひょっとしたらマリアも、死んだ時は婆だったのかもしれないすが。


「そういやこの世界の魔物って一体何なの? 僕達の世界でファンタジーとして伝わってる魔物がそのままいるみたいだけど」

「それが不明なのれすよね」


 優助の質問に、あたちは言った。


「魔物にせよ、エルフやドワーフやゴブリンといった亜人にせよ、下界に伝わっているのは、転生しても魂の中にイメージとして残っていた者達がいたから……という説が濃厚れすが、彼等は基本的にあたちら人間と同じれす。種族が違うらけの、別の星の知的生命体れす。同じ人間種族れも、地球外の人間というものがいるれすし、あたちの前世の前世も地球ではない星の人間れした。しかしこの世界にのみ存在する魔物という存在が何なのかは、マジで謎れす。いや……下界に存在する魔物もいるので、一部ややこしいのれすがね。そういうのは動物という区分けれす」


 一部のワイバーン、トレント、グリフォン、一部のスライムなどは、魔物というより動物の分類で、下界のどこかの星に生息し、稀に使い魔として使役している人もいるようだ。しかしトロールやオーガはこの世界原産の魔物だ。


 ちなみに魔族やドラゴンや巨人は、私達と同様に知的生命体に分類されている。その中でもドラゴンは、大陸の東の果ての地にしか存在しないという話である。大陸東の地に延々と続く地獄のような大地を越えて、竜族が住む都市があるという伝説だ。しかし東の地を越えた者などいないので、作り話だと疑う者も少なくない。


 そういった話を優助に聞かせてやっているうちに、また魔物が出現した。

 次現れたのは、獅子と雄山羊の頭を持ち、尻尾は蛇の頭という魔物、キマイラだった。それも二匹。

 これは不味いれす。毒液や魔法といった飛び道具があるれすし、手下共に犠牲が出かねないれす。


「いくれすよっ、ヨセフ、マリア」

「はいなーっ!」


 あたちが叫び、ヨセフは無言で、マリアは元気よく返事をして、穴の中へと飛び込む。あたちもショートソードを抜いて続く。飛び道具等を持ち、手下に犠牲が出そうな魔物が現れた際には、少数精鋭のこの三名で対処する手はずになっていた。


 ヨセフが風の魔法で、蛇の頭が撒き散らす毒液を弾く。


 マリアは刃が幾つも様々な方向に不規則に飛び出た黒い鎌を両手で振り回し、キマイラの獅子の頭を切り裂いた。太郎さん――いや、パライズがかつて使っていた剣を髣髴とさせる。あれで斬られたら相当なペインを食らいそうれすが。

 マリアの一撃でひるんだキマイラに、風をまとったヨセフが急降下し、ナイフを二本投げる。風の力を帯びた投げナイフが二本共キマイラの頭部から腹部にかけて貫通する。

 とどめはあたちの攻撃魔法だった。五つの光弾がキマイラに降り注ぐと、ペインの限界値に達したキマイラの体が消えていく。


 残ったもう一匹のキマイラは、一瞬にして片割れを殺されたのを目の当たりにして、あからさまにひるんでいた。

 その隙を逃さず、マリアが追撃にかかる。見た目こそ普通の女の子だが、流石は巫女だけあって、戦闘者として相当鍛え上げているようだ。


 何枚も横に重なり、何枚もいろんな角度に飛び出た痛そうな鎌が、キマイラの胴体を横薙ぎに引き裂く。


「くらえーっ!」


 マリアがいきなり叫んで再度鎌を振るう。胴体に鎌の刃が根元まで食い込む。


「死ねーっ!」


 ノリノリな楽しそうな笑顔で叫ぶマリア。何なんれすか、こいつは……

 すると胴体に食い込んだ全ての刃が伸びて、キマイラの体を内側から突き破った。ほほう、中々面白い魔具れすこと。


 キマイラの体が崩れ、薄れていく。マリア一人で倒しちまいやがったれすよ。


「どうですか!? リザレちゃんっ!」

「何がれすか……?」


 得意満面の笑みをこちらに向けるマリア。言いたいことはわかるけど、あえて問い返してみる。


「私、強いでしょう!? お役に立ちますよ~ッ!」

「そうれすね。とても頼もしいのれす。今後ともあたちのために、馬車馬のように働いて欲ちいのれす」


 ドヤ顔のマリアにあたちは棒読みで告げる。マリアの笑みが引きつった。


 まあこんな感じで穴掘りは続いていくが、このまま順調に何事もなく終わるとは思っていない。あたちの予想では、必ず招かれざる客が来る。そのお客さんのチェックもちゃんとしていた。


***


 大人数での遺跡発掘作業――またの名を人数機材ゴリ押しでダンジョンほじくり返し作業が始まってから四日後、あたちが予想していた事態が発生した。


「姫様、冒険者らしき奴等に見つかった」

「わりと早かったれすね」


 ラッセルの報告に、あたちはにやりと笑う。


「冒険者共が妬んで、お上を動かして取り締まろうとするかもな」


 ヨセフが言う。


「てことは、ダンジョン発掘だけではなく、軍人らと争いになるの?」

「元山賊ということで、難癖つけられるだろう」


 優助の問いに、ヨセフが答えた。


「えー、そんなのひどいですよ。私達だって頑張ってほりほりしているのに。しくしくです」


 泣き真似するマリア。


「こうなることも予測済みれすし、計算通りれす。そいつらの後は尾行してあるれすね?」


 ラッセルの方を向き、あたちが確認する。


「もちろん、言いつけ通りに。でもありゃ多分ブランデリスを根城にしている冒険者だぜ? 装備が安物だ」


 意見するラッセル。まあ地理的にもブランデリスの方が近いれすし、来るならそっちだろうと思っていたれすが。


「あたちとラッセルと優助も準備して、そいつらの後を追うのれす。ヨセフ、マリア。留守は任せたれす」

「いってらっしゃーい」

「そのまま帰ってこなくてもいいぞ」


 マリアが愛想よく微笑みながら手を振り、ヨセフはどうでもよさそうにそっぽを向いて呟く。

 馬に乗る三人。尾行している連中と早いところ合流し、遺跡掘り返し現場の目撃者の行く先を確かめると同時に、あたち達も同じ町に入らないと。

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