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閑話2 孤塁の魔法使い 前編

 俺とディーグルとゴージンの三人は、馬車に揺られながら大陸を北上していた。

 窓から外の景色を眺めながらの箱馬車での旅も、もう五日になる。

 最初は新鮮だったが、そろそろ飽きてきた。暇な時間の方が圧倒的に多い。


 ちなみに馬車の馬は俺が絵で呼び出したものではなく、街道沿いの宿場町で買ったものだ。俺が絵で描いた馬だと、俺がずっと操作しなくちゃならんから、しんどいという理由で馬を購入した。

 黒い大きな馬で、三人乗りの箱馬車でも一頭で大丈夫だと、馬売りが太鼓判を押してくれた。実際難なく走っている。


「魔雲の深部まで馬は連れていけませんし、その手前で売らないといけませんね」


 御者席のディーグルの言葉が気にかかった。


「魔雲の中ってそんなにヤバいのか?」

「馬車が入れなさそうな森林地帯や沼沢地帯が多いからです。馬が入るには適していませんよ。それに魔物も出ますし、馬と共に行くのはいろいろと面倒です」


 俺の奇跡の絵の力で、馬を改造すればいけるんじゃないかなー。例えば魔物が現れたら、二足歩行になって筋肉膨張して、魔物を撲殺できる馬にするとか。沼地では空中浮遊能力発動する馬とかさ。

 まあ、それはそれでまた別の問題が発生しそうなのでやめておく。こっちの都合でおかしな改造されても、馬が可哀想だしな。


 いっそ最初から、ロケットランチャーやレーザービーム搭載のメカホースでも作って走らせるとかでもいいか……? いや、それじゃ風情が無いし、だったら車でもいいって話になってしまう。


「魔雲の中に入ったらずっと徒歩か?」

「通常はそうであルな」


 俺の問いにゴージンが答える。


「知性を持ちし友好的な魔物に乗せてもロう事も稀にあルが、いつまでも乗せてもロうわけにもいかぬゾ」


 やっぱ魔雲の中とやらに入ったら、メカホースか何か作って、それで移動するかな……?


***


 この五日間、街道沿いに点在する宿場町から宿場町へと渡り歩く日々だ。比較的大きい都市に寄ったのは一度だけ。


 しかし今日は宿場町ではなく、街道より少し離れた場所にある集落に泊まることになっている。馬車でもって一日で行ける場所に宿場町が無いからだ。

 他の旅人達もきっとその集落に寄るのだろう。おそらくは宿場町のように、宿や飯屋や土産屋が並んでいるということもないと思われる。


 で、その集落に着いたわけだが。

 畑と果樹園がひろがる中に、一戸建ての古めかしい家々が建ち並ぶ。まさにド田舎の村って感じ。家の数からして、人口は二十人いるかいないか程度。


 集落に一軒だけある宿の中へ入る三人。古めかしい和風な内装。中は結構広いが、部屋の区分けがない。畳が敷かれ、そこかしこに旅人達が腰を下ろすか、あるいは寝転がっている。衝立も無いし、プライバシーもへったくれもないな。

 大きな囲炉裏に火がともり、大きな鍋には様々な野菜や穀物や肉性植物が入った汁が煮こまれている。鍋の前には、オークの女性が座って鍋の管理をしていた。オークの隣にはまだ煮ていない食い物が置かれている。


「子供かい。珍しい」


 オークの女性が俺を見て低い声で呟くと、にっこりと愛想よく笑う。


「地獄じゃあたしの子が好き嫌い激しくてね。頭にきて鍋の中に入れて煮殺してやったよ。あんたも好き嫌いぬかしたらこの鍋の中だよ」

「では今すぐ入れた方がよいですね。彼の好き嫌いの多さは呆れるほどです」


 笑顔で冗談を口にするオークに、ディーグルもにっこりと笑って冗談を返す。

 俺の頭の中では、この爽やかな笑顔で俺を鍋の中に叩き込むディーグルの姿が、容易に想像できちまうんだよなー……


 このオークの女性が宿の店長にして、集落の長らしい。名前をオンバといった。

 食事は好きな時に食っていいとのことだが、できればオンバが鍋の管理をしているうちに食えと言われた。深夜に集落に着く旅人もいるが、流石にオンバもそういう人達のために起きてはいられないし、勝手に飯を食ってもらう形になるとのことだ。


 腹も減っていたことだし、さっさと飯にありつくことにする。

 オンバの鍋汁は絶品だった。旅を始めてからの飯屋や宿の中で、一番美味い。


「つーか、宿場町じゃないから当たり前かもしれないけど、それにしても人が少ないな。ここ以外に泊まれる場所が無いんだろ?」


 宿の中を見渡し、俺が疑問を口にする。宿場町にいた旅人達の数から考えると、どう考えてもおかしな数字だ。他の旅人は野宿でもしてるのか?


「ここはあまり寄りたくない場所ってことで、貿易商達の間からは忌避されているんだよ」


 ゴージンの隣に座ったゴブリンの商人が、俺達同様にお椀と箸を手にして食事をとりながら、声をかけてきた。


「オンバさんの料理は最高なのになあ。勿体無い話だわ」

「まあ仕方無いさ。ここに来るのは、あまり旅慣れしていない者か、あたしらの素性を知ってなお、あたしの料理目当てに来る者くらいだろ」


 おだてるゴブリンに、オンバは寂しげな笑みを浮かべて言う。


「素性とは何ゾ?」

「あたしらは乱す者――元々盗賊なのさ。ここは元盗賊の集落なんだよ」


 うつむき加減になって語るオンバ。


「ある事件をきっかけに皆盗賊をやめて更生したんだ。被害を与えた人には、時間をかけて少しずつだけど、賠償し続けている。人殺しまではしたことがなかったから、お上もそれで見逃してくれた。でも一度悪さをしちまった以上、中々許してももらえないし、信じてももらえないもんだよ」


 こう言っちゃなんだが、面白そうな話だな。改心した盗賊団とか。


「何で改心したの? 盗賊団全員が改心して盗賊辞めるって、余程の事じゃないか?」


 一番興味を覚えた部分に触れる俺。


「あたし達とやりあった一人の魔法使いのおかげさ。たった一人で二十人近くいたあたしらを魔法であっさりねじ伏せた。しかも一人の死人も出さず、だ。あいつは命を助ける代わりに実験に付き合えと言ってきた。で、あたしらは盗賊を辞めてこうして静かに暮らしている」

「いや、話が間飛んでてわかんねーけど、その実験とやらのおかげで、盗賊を辞めざるをえなくなったと?」

「そういうことだね。あいつはとんでもない魔法を使ったのさ。あいつに言わせれば、心を鎮める魔法。または悪心を抑える魔法。でもそれは、人の心そのものを変えてしまうという、恐ろしい魔法だとも言えるね」


 悪者を改心させてしまう魔法か……。つーか、それはもう魔法の次元を超えている気がする。人の心を変えてしまうなど、ほとんど奇跡の領域だ。奇跡が必ずしも魔法に勝るというわけではないが、性質としての万能感や持続性は、どうしても奇跡に軍配が上がる。


「興味あるなー。そいつ」

「この集落にずっといるから、会いたければ会いに行ってみるのもいいかもね。ボッチだから、客人は歓迎するだろう。ただね、傲岸不遜で威張りたがりで口が悪いうえにすぐカッとなってメチャクチャする奴だから、気をつけた方がいい」


 と、オンバが忠告してくれた。なるほどなー、そんな性格じゃあボッチにもなるわな。


「まるで太郎さんのような人ですね。気が合うんじゃないんですか」

「こレは由々しき問題也。太郎菌がこのような僻地まで飛散していルという事ゾ」


 糞生意気な従者共が、それぞれ勝手なことをぬかしてくれる。


「でもその魔法使いのおかげで、この集落も守られてるんだろ?」


 ゴブリンの商人が口を挟む。


「守られているというか、お上を説得してくれただけだよ。賠償はし続けなくちゃならないし、おかげでギリギリ食っていける生活さ」


 オンバが答えた。


「そいつにちょっと会ってみようか?」


 従者ズに提案する俺。


「また始まりましたね、悪いちょっかい癖が。何と言って訪ねるのです? いかなる用で? 好奇心だけで見物しにきましたとでも言うのですか?」


 露骨に反対モードのディーグル。


「出会いは旅の醍醐味じゃねーかよ。好奇心で見物でも構わないだろ」

「構わんと思うよ。今言った通り、あいつはボッチだから客人は歓迎するよ。ただ、実験台にされないように気をつけるんだね」


 俺の台詞を後押しするように、オンバが笑いながら言う。冗談なのか本気なのかわからんな。実際この集落の元盗賊は実験台にされたらしいし。


***


 翌朝、集落に住む、話題の魔法使いとやらの家を訪ねてみた。魔法使いの名はルーターと言うらしい。

 江戸時代からタイムスリップしてきたかのような、和風の古めかしい木造建築の一軒屋。ただし、珍しい二階建てである。


「じゃあディーグル、呼び出して」

「太郎さんの興味で来たのに、私にその役目を言いつけるのですか?」

「たまには従者らしいことしろよ。つーか言われる前にやるべきだろ」

「それは従者というより召使の仕事でしょう?」


 どう違うんだと突っこむ前に、ディーグルがノックした。


「すみませーん、うちの愚昧な主がルーターさんに用があるみたいですー。お忙しいようなら無視して結構ですのでー。いえ、是非無視してくださーい」


 さらに扉に向かって叫ぶ。この野郎……


「あのさー、俺へのあてつけでやってるかもしれんが、それって会ってもいない相手に向かって、失礼千万だろう?」


 俺がわりと真面目に説教モードに入る。もう少しこいつは紳士だと思ったがなー。


「私もそう思いますが、変わり者で太郎さん並の困った人という話なので、構わないでしょう」

「構わなくねーよ。相手の前評判で初対面の相手に失礼な態度取るとか、ちょっとお前にがっかりしたわ」

「う……」


 ディーグルが言葉につまって呻く。別に俺は嫌味では言ってない。本気で呆れたのだ。


「申し訳ない。確かにふざけすぎたようですね。ついついノリに引っ張られてしまいまして……」


 素直に頭を下げて謝罪するディ―グル。でもその言い方じゃ、結局俺が悪いみたいじゃねーかよ。

 数秒後、扉が勢いよく開いた。


「失礼な呼び出し方をして申し訳ありま……」

「しゃーっ! この野郎! オラかかってこい、この野郎!」


 家の中から、鮮やかな青いトンガリ帽子を被り、帽子と同色のローブに身を包んだ、黒い体毛に包まれたコボルトの魔法使いが現れ、ディーグルの謝罪の言葉を遮って喚きだす。口の周りがまるで長い髭でも生えているかのようで、地球の品種で言えばスコティッシュ・テリアって所かな。


「どしたー!? ビビってんのか。おーい! かかってこいよーっ! 僕がルーターだコルァ!」


 ファイティングポーズを取り、両腕を前方から自分に向かって大きく抱え込むように何度も振って、挑発のジェスチャーをとるコボルトの魔法使いルーター。


「すみません、人違いでした。さあ、帰ろうぜ。ディーグル、ゴージン」

「だからいつも言ってるでしょう。好奇心で何でもかんでも首を突っこむなと」


 物凄く危ない気配を感じ、俺は背を向けた。ディーグルも背を向け、横で文句を言う。


「良かったな、ディーグル。初対面の無礼っぷりじゃ相手の方が二枚も三枚も上だった」

「何も良くありませんよ」

「あー、ちょっと待った待った! ごめん、行かないで! 久しぶりのお客さんなんで気合い入れて挨拶しなくちゃいけないと思ったんだけど、気合い入れすぎただけなんだ!」


 立ち去ろうとする俺達を慌てて呼び止めるルーター。


「君達あれでしょ。何か困ってる旅人で、僕の噂を聞いて助けを乞いに来たんでしょ? わかるよー、言わなくても」

「ちげーよ。ただ興味本位で見物しにきただけだ。盗賊団を丸々一つ改心するほどの魔法使いとか言うからさ」


 振り返って言い放った俺の台詞に、ルーターの愛想笑いが引きつった笑みに変わる。

 実を言うと他の確認もある。この男、魔法使いであると同時に、神聖騎士なんじゃないかと。魔法ではなく奇跡を用いて、盗賊達を改心させたんじゃないかと、俺はそう勘ぐっている。


「そ、そうかっ……。それでもいいっ。僕なんかに興味をもって訪ねてきてくれたんだっ。感謝しなくっちゃ! さあさあ、入って! 魔法でも魔具でも何でも見せるからっ」


 嬉しそうな笑顔に戻って、家に招きいれようとするルーター。よっぽど寂しかったんだな。


「あの……聞きにくいんだけど、集落の皆、僕の悪口言ってなかった?」


 居間に招き入れられた所で、ルーターが恐る恐る尋ねる。


「癇癪持ちで毒舌家で威張リん坊のロくでなしであルと聞き及んでおル」


 正直に答えるゴージン。それは言ってやるなよ……


「ああ……やっぱりね。僕だってわかってた。だから彼等を救ったにも関わらず、誰も僕のことを訪ねてこない。でも僕はもう孤独に懲りて改心したよ。何しろ僕自身に心を鎮める魔法を使っているからね」


 座布団を人数分用意しながら、ルーターはにんまりと笑う。


「それだ。盗賊達も改心させたって奴。それって本当に魔法なのか?」

「え? どういうこと? 何を疑っているの?」


 俺の質問に、キョトンとなるルーター。犬面なのに表情が目に見えてわかるのが、コボルトの面白い所だ。


「魔法じゃなくて奇跡なんじゃないかって思ったんだ。あんたは神聖騎士か、さもなきゃ神様なんじゃないかと」


 座布団に腰を下ろしていった俺の言葉に、ルーターはあんぐりと大口を開ける。いくらなんでもリアクション多彩というかオーバーというか、同じコボルトであるセラはもっと上品だったな。感情的ではあったが。

 まあこのリアクションからすると、違うってことだな。本当に魔法の力のようだ。


「こ、これは無礼と受けとるべきか……。それとも僕の力が魔法の範疇さえ越えて、奇跡レベルに至ったと喜ぶべきか。うーむ、悩みどころっ」

「後者でいいんじゃね? まあ違うならいいよ」


 内心ちょっと落胆しつつ俺は言った。神聖騎士か神なら、コネ作っておくのもいいかと思ったが。

 とはいえ、奇跡かと思わせるほどの魔法を編み出すほどの魔法使いなら、かなり強力な魔法使いかもしれないし、仲良くなっておくのも悪くないな、うん。


「私は奇跡ではなく、そこまで強力かつ永続する魔法を編み出したことの方が、脅威であり、称賛すべきことだと思いますよ」


 座布団の上に正座したディーグルが、俺の言いたかったことを俺に代わって言ってくれた。


「そ、そうかー。やっぱり僕は凄いんだ。あはははっ。い、いかん、もう慢心はしないと決めたんだっ。また嫌われちゃうからねっ。うん。もう嫌われるのは沢山だからねっ。うん」


 ディーグルの言葉に有頂天になりかけたが、急に表情を引き締めるルーター。


「いろいろ興味や疑問あるな。そんな凄い魔法使いが、どうしてこんな辺鄙な所にいるのかとか。どうしてそんな魔法を使ったのかとか」


 俺が言うと、ルーターは少し暗い面持ちになり、うつむき加減になる。


「昔の僕は、とても思いあがっていた性格で、プライドが高くて、すぐにカッとなって、それで周りとトラブルばかり起こしていたんだ。で……町にいられなくなって」


 わりとチンケな理由だった。


「で、盗賊に襲われたけど、凄い魔法使いの僕にかなうわけもなくて」


 まだ思いあがりはあるようだと、今の台詞を聞いて思う。


「返り討ちにしたんだ。で、嫌われ者の乱す者……嫌われ者の盗賊なら、僕とも友達になってくれるかもしれないと考えて、作りかけの魔法を実験してみたんだ。人の攻撃性を抑える魔法をさ。実験は成功したけど、この魔法は一日一回かけなおさないといけないから、僕はここから離れられなくなっちゃった。僕がいなければ、また彼等は盗賊に戻って、うおーっ、金をだせーっ、女はさらって売り飛ばせーっ、とかやるからさ。あとね……魔法かけて盗賊はやめさせたけど、僕が馬鹿馬鹿凄い馬鹿だったから、結局避けられて友達にはなってくれなかったよ」


 なるほど……凄い魔法だとは思ったが、永続しない辺りが魔法の限界だなー。


「家の外に大勢の者が集まってくる気配がします」


 ディーグルが静かに告げる。ゴージンもフェネック耳の毛を逆立てている。ヤバい雰囲気のようだ。


「狙われる心当たりあるのか?」


 ルーターに訪ねる俺。


「あ、しまった。また忘れちゃった。きっと盗賊達の魔法が切れたんだよ。で、僕をやっつけようと皆で襲ってきたんだ。毎日切れる前にかけなおししているけど、忘れっぽくて、しょっちゅう忘れるんだ。で、その度に僕を倒そうとしてくるしね。あはは」


 無邪気に笑うルーター。こいつは魔法使いとしては凄いが、頭の方は本当にアレだな。


つづく

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