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終章

 アリアとのデートを終えた四日後、俺は従者二名を従えて兵舎を訪れた。最後のお別れの挨拶のためだ。

 最後はダセー軍服を着てやった。これで最後だと思うと、アリアのせいで着ることになったこのダセー軍服も感慨深い。でも絶対もう着てやんねーけどなっ。


 堀内のはからいで、第十八部隊は今日の午後は訓練無しで、俺の送別会にしてくれた。で、真っ昼間から始まるドンチャン騒ぎ。

 夜に送別会するんじゃなくてわざわざ昼だったり、わざわざ訓練場で行ったりするのは、種族の事情とか、軍の経費の問題とか、軍のあれやこれやとか、いろいろあるらしい。ついでに言うと、俺が市民を攻撃した件も響いているらしいが、考えないことにする。


 俺は酒を与えられずにジュース……。つくづくこのお子様ボディーが呪わしい。まあ肉体年齢的にも、酒飲むとヤバそうではあるけどさ。


「ネムレスってのは律儀な神なんだね。太郎がここでの戦いを終わるまで、しっかり待っていてくれたうえで、呼び出すんだからさ」


 ランダがそんなことを言っているが、そもそもここで戦うよう俺に命じたのも、ネムレスなんだがなー。

 俺が葉隠で乱す者と戦わせたのは、俺のレベルアップを計るためだと、ネムレスは言っていた。だがそれは理由の一つに過ぎず、もう一つ狙いがあるとのことだ。そのもう一つが何だったのか、未だ明かされてないんだよなあ。今度聞いてみよう。


「本当に戦争を失くしちゃうなんてねえ。私には太郎ちゃんが天使に見えるわ」


 特別参加っぽい扱いの小百合さんが笑顔で言う。これでろくでなしの旦那の安否を気遣わずに済むな。とはいえ堀内のことだから、俺みたいに別の戦場を求めて旅立つ可能性も、無きにしも非ずなんだがな。ここに来る前も別の都市で戦っていたらしいし。


「君があの戦場に現れてから今日という日までの間、君と過ごした時間、まるで夢の中にいたようだった」


 珍しく上機嫌な様子で、堀内が語る。


「一方的に不利だった乱す者との戦いだったのに、勝利に次ぐ勝利。信じられなかった。しかもそれが、こんなチビっ子の力でなあ」


 酒が入っているせいか、いつになく堀内は饒舌だ。小百合さんの前というせいもあるのかな?


「単に奇跡の力だけではない。君からはいろいろと学びもした。何しろうちは話せる参謀ポジションがいなかったからなあ。まともに意見を伺える相手がいたのは実に心強かったよ」

「こら堀内、ワシじゃ頼りなかったのかっ」


 ザンキが笑いながら突っこむ。まあ副隊長はご覧の通りの突っ走り脳筋だったからなあ。


「俺も上官が隊長みたいな人でよかったと、いつも思ってたよ。たまに融通利かない時もあったけどさ」

「そレは太郎が暴走すルかラであロう。堀内は融通の利く良き上官ゾ」


 俺の言葉に真顔で突っこむゴージン。こいつは俺と堀内の対比としなると、必ず堀内はいい奴俺悪い奴論調になるな……。納得いかねー。


「太郎と一緒に作戦の打ち合わせをしたり、太郎の頭にげんこつできなくなったりと思うと、寂しいものだよ。殴りやすい頭していたしなあ」


 堀内が笑いながらそんなことをほざく。しかし今日の堀内は本当に御機嫌だ。いつもこんなに笑顔を見せる人ではなかったのにな。


「ねえねえ、太郎ちゃん。葉隠に帰ってきたら、うちの養子にならない?」


 小百合さんの突然の言葉に、口にしたジュースを吹きそうになる。


「こっちじゃ子供作ることもできないでしょう。その代わりと言ったら気を悪くするかもしれないけど、太郎ちゃんがうちに来てくれたら、私もこの人も嬉しいわー」

「やめた方がいいですよ。このちんちくりんのワガママっぷりには、ほとほと手を焼かされます」

「同感。考えを改めるべき。隊長も隊長の奥さんも市長もどうかしてるわ……。こんな性格悪い糞餓鬼に熱を入れるなんて。私には理解不能……」


 小百合さんに向かって、ディーグルと鈴木が続けざまに言う。


「そりゃ俺が養子にしたいくらい魅力的なのはわかるし、誘ってくれるのは嬉しいけど、それをやっかむチンカスマンカスがいるのもわかるけど、いきなりすぎてちょっと……考える時間てものが必要かなあ」

「何を本気にしてるんだい。冗談に言ったんだろうに」


 俺が真顔で返答していたら、ランダがそんなことを言ってくる。いやー、冗談ではないと思うぞ。俺、叔父夫婦にも養子に来いといわれたことあるし。わかるんだよね。


「あらランダさん、私本気だったのよ? まあ突然すぎたとは思うし、旅をしながらゆっくり考えてちょうだい」

「そうだったのかい。そいつはすまないね。しかし小百合さんはともかくとして、こいつのことよく知っている隊長は、それでいいのかい?」


 ランダのおばちゃんまで俺をディスってやがる。ふぁっく……


「逆に考えれば、思う存分性根を叩きなおせる機会と権利を得るということだ」

「ほっほー、なるほどなー」

「流石は隊長ゾ。調教も捗ルという事か」


 堀内の一言に、ザンキとゴージンが感心する。いやー……そんなこと言われると養子行く気は失せるぜー。


「そもそもこいつ、いつまた帰ってくるっていうの……? その間ずっとルヴィーグア様に寂しい想いをさせるとか、許しがたい……。呪われろ……」


 心中複雑と思われる鈴木の呪詛に、俺も複雑な心境になる。つーかアリアを引き合いに出すのはやめてくれと思うぜ―。


「別に帰ってこなくても、あたしらと一緒に過ごした思い出はなくならないさね。後ろ髪引かれることなく、思う存分旅しておいで。ただ、旅先でたまに思い出してくれればいい。あたしらだけじゃなく、死んじまった奴等のこともね」


 笑顔で言うランダ。そんなこと言われるとしんみりしてしまうぜー。


「帰ってはくるさ。つーか帰る場所として決めるなら、ここがいいよ」


 俺も笑顔で言った。皆の手前だけでそう言ったんじゃない。相性のいい土地ってのはあるもんだ。刺激は足りないが、腰を落ち着けて生活するには、葉隠市は凄くいい場所だと思っているからな。


 ドンチャン騒ぎが終わった後、酔っ払った第十八部隊全員が一列に整列し、俺はその前に立つ。最後に無言で敬礼しあって、それでお開きとなった。

 特に言葉は無く、敬礼だけしてお別れってのはいいね。まあ、堀内にそうしてくれるよう伝えたんだがな。最後に何を言っても、安っぽくなっちまう気がしてな。

 別れの言葉は、心の中で伝え合えばよい。さようなら、葉隠軍第十八部隊。


***


 三日後、俺とディーグルとゴージンは、毎度おなじみのジェット飛空船で北上していた。ちなみに葉隠を飛び立ったのは二日前、第十八部隊に別れを告げた翌日だ。

 結構なスピードで空を飛んでいるというのに、未だ魔雲とやらは見えてこない。どんだけこの大陸広いんだよ。地球面積より広い大陸だってことは知っていたが、それにしても広すぎるわ。この大陸はユーラシア大陸みたいに東西にすげー長い大陸という話だが、南北の長さも中々のもんだ。


「サラマンドラ都市連合から馬車で数ヶ月はかかりますからね。しかしこの船の速さも中々ですよ。もう半分以上の距離は過ぎました」


 船長室で下の風景を眺めながら、ディーグルが告げた。


「つーことは、もう半分過ぎたわけか。馬車の速度とか、道中の寝泊りとか考えると……この船の速さは……つまり、魔雲の地とやらまでの距離は……」

「太郎、お主は左脳の出来がすこぶル悪いのだかラ、無理な計算はせぬことだ。お主の本領発揮は右脳の閃きに依ル」


 もっともなことを言うゴージン。俺のことをよくわかっているな。


「しかし空を一気に飛びぬけルは味気ない旅ゾ。退屈に感じルも道理。定期の馬車に揺ラレながラ山岳や森の景色を楽しめず、街道の宿場にて旅人同士で語ラいあうことも無い。宿場の名物料理も楽しめず、時折乱す者の山賊と遭遇してこレを打ち倒すことも無い。速いだけで、旅の浪漫、風情、楽しみがまルで無い」

「うーん……確かにな」


 ゴージンもディーグルも久しぶりに旅に出るのを楽しみにしていたからな。なのにお空を高速飛行なもんで、ちょっとがっかりしているようだ。


「よし、降りよう。降りてフツーに旅を楽しもう」


 そう言って俺は飛空船を降下させる。


「急ぎの旅では無いのか? 我が文句や我侭を口にしたような形になっておル。すまぬ」

「いーんだよ。急いで来いとはネムレスに言われてないし、普通の旅も楽しんで、いい思い出作ろうぜ」


 申し訳無さそうな顔になるゴージンに、微笑みかける俺。


「おや、少しは心の器が広がりましたか。以前の太郎さんなら我侭ばかりぬかすなと、あっさりキレていた気がしますが」


 ディーグルが意地悪い口調で言う。


「うん、ゴージンの発言だから頭にもこないし、旅を楽しみにしていたのにすまないことをしたとさえ思うが、もし同じ発言をお前がしていたら、お前の言うとおりあっさりキレてたわ」

「なるほど、全く成長していないと申告しているわけですね。わかりました。残念ではありますが、今後もそのように認識したうえで、太郎さんのことを扱います」


 互いに作り笑いを張り付かせて言い合った直後、船は地上に着陸した。


第一部 終

第二部は充電&書き溜めして、八月くらいには再開しようと思います。

間に短編挟むかもです。

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