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60 負け犬の聖戦

 下界の宗教の多くが、死後の世界の妄想を出汁にして信者を集めているわけだが、如何に宗教にドップリハマろうと、死後の世界そのものに来てしまえば、その教義も効力を失う。ここと下界のサイクルも判明しているうえに、神も存在して人と混じり合う世界で、下界のインチキなまやかしなど、崩壊して当然だ。

 もちろん下界で育んだ宗教観が根こそぎ失われるわけではないが、国や宗教によっては、ここに来て絶望する者も多いようだ。


 下界の宗教がこの世界に持ち込まれることはないが、この世界にも墓地はある。死者を弔うという習慣もある。

 祈り方は種族や星や星の中の国や民族や宗教によって様々だし、皆好き勝手な祈りを捧げるが、死者の弔い方だけに関しては、共通のやり方が用いられている。種族の隔たりも地獄の宗教を持ち込むのも、全て禁止されている。全て同じ方法で統一している。


 墓地は池だ。魔法がかかった池。周囲には常に淡い霧が発生している池。この霧も魔法によって、ムード作りのために生じさせたものらしい。

 池に向かって、死者を悼む。祈る。

 苦しみに満ちた、神に捨てられた地。地獄。そこに堕ちても、少しでも実りある人生を送れるようにと、苦難にも負けずに頑張れるようにと、生き続ける限り学び続け成長し続けるようにと、祈りを捧げる。応援する。

 池は意識だけが下界へと繋がる門であり、気持ちが届くという。ここで祈れば、祈られた者には、何かしらの形で力になることも有り得るのだそうだ。


 俺は下界にいる時、こちらで誰かの祈りを受けて生きていたのかな?


 その日、第十八部隊の面々は池に訪れ、池に向かって、これまでの戦死者への祈りを捧げていた。他の部隊も、部隊ごとに日や時間帯をずらして、それぞれお祈りに訪れている。軍隊が一度に全部来られても困るからな。墓地にそんなスペースが無い。


 いなくなった戦友一人一人を想い、俺も祈りを捧げる。


 ドポロロ、ここに来たばかりの俺に、いろいろとフォローありがとさままま。お前とはもっと長い間、一緒に戦いたかったぜ。

 滝澤、一見クールだけど、ええっかっこしいで先走りするタイプで危なっかしくて、お前はわりとアホだったな。娘を泣かす結果になって、余計アホだ。

 セラ、知的に見えてわりと感情的な部分もあったが、私服は胸の谷間が見えがちだったし、目の保養にさせてもらったし、その犬毛フサフサのおっぱいを心ゆくまで揉んでみたかったよ。

 ついでに脇坂、今際の際に変態っぷりを思いっきりさらけ出したお前のそのスタイル、俺は嫌いじゃねーぜ。俺のこと考えながらオナニーしていたかと思うと、怖気が走るけどな。

 もいっちょついでに、バスの男の巫女のドワーフの女の子。あんな糞野郎でも、君にとっては命がけで守りたい大事な存在だったんだな。でも機会があったら殺すから。悪いな。下界で一緒になれるといいね。


 よし、お祈り完了、と。俺はお祈り終わったし、こんな辛気臭い場所、さっさとおさらばしたいから、皆もさっさとお祈り完了してくれないかなー。さすがの俺も、ここで一人だけさっさと帰れるほど神経図太く無いしー。


***


 乱す者との戦いは完全に終わった。シリンは降伏宣言をし、葉隠市周辺の乱す者は完全に葉隠市周辺から退く事を表明した。今度こそ偽りは無いだろう。占領地の町村や集落全ても、完全に解放することとなった。最早彼等に抗う力は無いのだ。

 よって、乱す者の捕虜達も全員解放された。幹部格は処刑される予定だったが、それも不問という扱いになった。捕虜の解放には、市民からかなり反対意見も出たようだが、アリアが強引に押し切った。


 これで目出度し目出度しになるかと思いきや、そうもいかなかった。


『中央区南部で、乱す者の残党のテロが発生しました。南部の方々はすぐに建物の中に非難してください』


 墓地から帰る途中、マジックスピーカーより流れた避難勧告。


 シリンとは無関係な暴走なのだろう。乱す者は元々個人主義者が多いからな。降伏を不服として、勝てないとわかっていてもせめてもの道連れにと暴れるってわけか。

 例えばイスラエルによるパレスチナに対しての悪逆非道の数々を考えると、パレスチナがテロに走るのも当然と思えるし、俺はテロイコール絶対悪だなんてとても思えんが、乱す者のこのヤケクソテロには、わずかたりとも共感できんわ。


 第二十七部隊の活躍でテロはすぐに鎮圧された。乱す者は犯罪者として逮捕されて投獄された。幸いにも人死には出てないらしい。

 テロ実行犯の中には、バスの男の信者もいたという。テロを裏で指揮していたのはバスの男ではないかという説も出ていたが、俺にはそう思えない。

 ちなみに信者経由で俺は初めてバスの男の本名を知ったが、すぐ忘れた。今まで散々バスの男で通してきたし、今更って感じー。


 テロがあった日の夜、俺と従者二名はアリアに食事に誘われた。鈴木も同伴とのこと。


「御苦労だったねー。滝澤とセラは残念だった」


 高級料亭の一室にて、アリアが先ずねぎらいの言葉をかける。


「こっちの犠牲も多かったぜ。新兵大量投入は効果もあっただろうけど、兵の消費も激しかったし、辛勝って所だな」


 思ってることをストレートに述べる俺。


「でもその辛勝で、全ての決着がついたのよ」


 おそらくアリアをかばうニュアンスを込めて、鈴木が言う。


「確かにそうだが、しくじった点も多いだろうから、次回は同じ失態をしないようにしてくれよ」

「ああ、わかってるさ。今回はちと急すぎた」


 微苦笑を浮かべながらも、アリアは俺の言葉を受け入れる。


「次回って何よ。もう戦争終わったし、平和になったんでしょ」


 鈴木が不思議そうに言う。俺だけではなく、アリアまでもが、まだ戦争が続くかの前提で話しているのが、信じられないという風だった。


「まーね。乱す者の力が回復するまでは、確かに平和だろうな」


 と、アリア。


「私の見たところ、最低でも十年以上はこの平和も維持されると思うぜ。そんくらいあいつらの力は弱体化している。でもいつかはまた力を取り戻すさ。力を取り戻したら戦争再開。でもそうなるまでには時間がかかるよ。乱す者の数自体が少ないからね。生誕して乱す者になる奴が、比率的にそう多くは無い」

「釈迦に説法かもしれねーけど、かりそめの平和期間のうちに、乱す者が葉隠に喧嘩を売りにくくすることも、考えて実行しておくべきだぜ」


 そう言ってから俺は、そもそも釈迦に説法という言葉がアリアに理解できるのかと、疑問に思った。


「何かいい案あるのか?」

「奴等の要求も多少は受け入れてやることだな。全否定してたらそりゃ反発だってされるさ」


 アリアに問われ、俺は綺羅星町でのシリンの言葉の数々を思い出しながら言った。


「確かにその理屈はわかるけど、そいつも中々難しいんだぜ? 停まり人サイドからの乱す者への反発だってかなりのもんだ」

「そういう輩を抑えルは、アリアの得意とすル所であロうゾ」

「まーね。向いてはいるけどね」


 ゴージンの指摘に、気をよくしたように笑うアリア。


「それはそうと、バスの男とかいう邪神を討ち取れる機会があったのに、見逃したんだって?」


 アリアが笑顔のまま、触れて欲しくない話題に触れてきた。


「しかもわざわざディーグルにストップかけたらしいね。噂になってるぜ?」


 笑顔のままそんなこと言われると、嫌味にしか聞こえないぜ。


「ルヴィーグア様、私は太郎を見直したわ。人の心の闇を照らす光をこの子は持っている。あの行いは確かに不味いものかもしれないけど、それでも私は評価したい」


 と、鈴木。あの時もそうだったが、何故かこいつの琴線に触れたらしい。


「鈴木にも惚れられたか。これでハーレム三人目、と」

「突然何言い出してんの、この糞餓鬼は」


 俺の台詞に、鈴木の好感度が超下がったようで、おもいっきり軽蔑しきった声が発せられる。


「計算が合わぬゾ。鈴木も加えルなラ四人目であロう。我、ディーグル、アリアの三人がすでにいルのであルし」


 ゴージンが真顔でとんでもないことをぬかす。しかもしれっと自分も入れてるし。


「ですね」


 そしてこちらも真顔で否定しないディーグル。おい……


「まあそれはともかくとして、だ。凱旋最中に奇跡で市民を攻撃もしたそうだし、その二つのせいで、あんたの悪評、中々すごいことになっているよ?」


 未だ笑顔を崩さぬままアリア。


「どうせもうすぐ出て行くんだ。構わねーだろ」


 ちょっとヤケクソ気味に言う俺。実のところ俺の主義としては、立つ鳥跡を濁さずなんだがなー。


「私としては太郎が悪く言われるのは嫌だぜ? 葉隠のために粉骨砕身してきたあんただし、あんたがいなければこの戦争だって終わらなかったのにさ。愚民てのは、ちょっと人が失敗したり悪さしたりしただけで、それまでの功績見ずに人を悪者扱いするもんだからさ」


 そう言うアリアの顔から笑みが消える。うーん……確かに俺がアリアの立場だったら、同じこと思うな。むしろアリアこそが葉隠市でヒール扱いな側面があるし、俺がアリアに対して普段から同じことを感じている。


「市長、お食事中に申し訳ありません。緊急事態です」


 血相を変えた秘書だか側近だかが入ってきて告げた。


「乱す者の神――通称バスの男が、市庁舎前に単身で現れ、市長との対話を求めております」


 その報告を受け、俺は食事を運ぶ手が止まった。

 あいつが現れた? しかも一人で、アリアに?


「一人でってのがポイントかな。何か余程思いつめたことがあると見た」


 アリアが俺の方を向いて、意味深な口調と表情でもって言う。俺からすれば、アリアを指名という方がポイントに思えるがな。


「対話を求めているのは私でも、太郎が無関係ってことも無いと思うよ? 飯食うまで待たせておけ」

「はっ」


 報告してきた男が一礼して退室する。


「おやおや。あの時仕留めなかったのが、吉と出るか、凶と出るか、わかる時が来ましたね」

「それは嫌味のつもりで言ってるのかよ?」


 微笑みながら言うディーグルに、俺も冗談めかして言う。


「はい」

「はいじゃないが。まあアリアの言うとおり、護衛もつけずに堂々と乗り込んで来た時点で、何かしら覚悟を秘めた用件だし、生かして失敗だったという事に即繋がらないと思うけど、甘い考えかな?」


 この時点で俺は、バスの男が何の用で来たか、大体わかっている。俺を指名ではなくアリアを指名したとはいえ、間違いなく俺にも用があるだろう。

 バスの男の、俺に対しての用件が何であるかは、あいつの今置かれている立場や心境を考えれば明白だ。そしてそれは俺の望みでもある。


***


 予想通り、バスの男は覚悟を決めた面構えで俺達の前に姿を現した。戦闘も想定しているのか、市庁舎内の運動場へと通される。

 出迎えたのは俺とアリアとディーグルとゴージンと鈴木に加え、アリアの側近も他に二名ばかり。二人とも初めて見る顔だが、かなり腕が立ちそうだ。その側近二人を抜いたメンツだけでも、ルーキーな神一人くらいを抑えるには十分すぎる戦力なんだがな。


「俺の命と引き換えに、二つの願いを聞いてくれ」


 静かな口調で、バスの男は驚くべき台詞を口にした。


「一つは、三人の信者を含め、テロを起こした乱す者の兵士の捕虜を釈放してほしい。乱す者が崇める神の命と引き換えでも、足りないというなら仕方ないが、どうか頼む」


 頭を深く下げて嘆願するバスの男。こいつのこんな姿がお目にかかれるとはね……

 で、今日のテロはやはり、バスの男の指示ではなく、乱す者の下っ端の独断だったわけか。


「もう一つは?」


 アリアが問うと、バスの男は顔を上げ、俺の方を見つめた。


「奇跡の絵描き。お前に決闘を申し込む。誰にも邪魔されないタイマンだ。俺がここにいるのも、お前がここにいるのも、全ては俺とお前が始まりだろぉ? 決着をつけよーぜぇ? もちろん俺は、お前を殺して道連れにして死ぬつもりだがな。あっちではお前の道連れに俺は殺された。今度は俺がお前を道連れにして殺してやるさぁ……」


 バスの男の顔に笑みが浮かんでいた。口調は親しみに満ちている。まるで友人が遊びに誘うかのように。

 俺もつられて笑みが浮かんでしまう。上等だ。上等すぎる。神という立場と力を手に入れ、しかし大事な者を失ったこいつが、最期に俺との決着を望んできて、それで嬉しくないわけがない。


「一人で死ぬのは寂しいから、道連れに俺も一緒に逝って欲しいってか?」


 挑発気味に口を開く俺。


「タイマンつってもこいつ戦闘力はほぼ皆無なんだぞ」


 アリアが突っこむ。まあそりゃそうだし、絵一枚描くくらいのハンデはもらったうえでの決闘にしてほしいね。うん。


「それも考えたうえでの決闘の場を作る。綺羅星でやろうとしたら、スカされたがよぉ」


 バスの男が片手を横に上げる。するとバスの男の手の先に、真っ黒い塊のようなものが現れ、人一人が通れるくらいの大きさまで広がっていく。

 ああ、これはあれだ。俺とシリンが閉じ込められた暗黒空間だ。ここに閉じ込めたうえで、バスの男は何かしようとしていたな。


「ここは外部から隔絶された暗黒空間だ。どちらかが死ぬまで、どちらも外には出られない仕組みにした。そしてこの中では、ペインが如実に働くようにしてある」


 どちらも外に出られないって、俺は絵描く暇さえあれば出られる気がするけどね。こいつの決めたルールの能力が、完全無欠の絶対法則とは思えん。


「ペインは精神の苦痛でも死ぬ。また、想いがペインに乗る。その辺を踏まえて、この中では、物質的な痛みよりも精神的な痛みがダイレクトに相手に伝わるようにした。想いを込めて殴った時の痛みが、通常空間よりもはるかに強い。つまり、互いの心を削りあう殴り合いだ」


 なるほど……下界で負け組底辺だった俺らに相応しい、決着のつけ方だな。


「最も惨い拷問は何かって? そいつは俺の人生をそのまま味合わせることだ。しかも圧縮して続け様に心の痛みを味わえば、時間の経過や快楽によるストレスの緩和も出来ず、心の痛みが回復する余裕すらない。発狂死するぜぇ。すでにこの方法での決闘で、俺は何人も発狂死させてやったぞぉ?」


 にやにやと笑いながら語るバスの男。


「殺してやったのは皆自称強者。立派とされるお人。あっちで勝ち組とされた人間。俺みたいな底辺の人間の気持ちのわからない奴等。上から目線で人を見下し、蔑み、あるいはしたり顔で説教するようなクソカス共。弱者を食い物にしている奴ばかりだった。乱す者にはそういう奴等が多いんだ。だから俺とはそりが合わなかった。そういうタイプの奴をこっちで見かける度に、この方法で殺してやったよ。マジ笑えたぜえ? ただ運がいいだけで恵まれた人生送っていたような奴等が、俺の前で這い蹲ってみっともなくピーピー泣きながら助けを乞う最期はよぉ」


 何か以前のゲスモードに戻っているな、こいつ……。


「まず先にあいつらを連れてきてくれ。あいつらと話したいこともある」

「解放してやってくれ、アリア」


 バスの男と俺が、アリアの方を向いて言う。


「そいつがちゃんと説得しきれるかどうか、そこがポイントだよ? もしまた騒ぎを起こす可能性があるなら、受け入れられない」


 アリアの言葉を受けて、バスの男はしばし沈黙して思案する。


「俺の信者じゃない奴は説得できる自信は無い。俺の信者だけでも頼む」

「わかった。おい」


 アリアに促され、部下の一人が広間を出る。

 数分後、アリアの部下に連れられて法衣姿の三人の信者が運動場に姿を現し、バスの男の姿を見て、驚きと喜悦の声をあげた。


「宴は終わりだ」


 信者達に向かって、バスの男は告げた。


「俺の命と引き換えに、お前らを解放してもらった。そしてここからは俺の個人的なお願いだが、できればもう戦いはやめて、穏やかに暮らしてほしい」


 穏やかな口調で説得され、信者達は言葉を失くす。


「他の信者にも同じことは言ってある。これはあくまで俺のお願いにすぎない。命令じゃない。俺の命と引き換えのお願いなんかじゃ割があわねーってんなら、好きにしたらいい」


 己を投げ打って誰かのために。こいつは……本当の意味で神になろうってのか?

 信者を救うにしても、他にやりようはあるはずだろう。なのに、あえてこんな道を選ぶってことは、もうこいつは生きることに疲れているのかもしれないな。


「で、俺は今から、俺にとって最大の敵である奇跡の絵描きと決着をつけるからよぉ、よかったら俺の勝利を願ってくれ。誰かに応援してもらってると思えば、俺も燃えるしな」


 照れくさそうに笑いながらバスの男は言い、信者達から俺の方に顔を向ける。


「まだ確認取ってなかったなあ。どうする? 勝負を受けるか? 尻尾巻いて逃げるか?」

「ふぁっく。いいぞ、その勝負受けてやんよ。俺だってあっちじゃ負け組だったからな。悲惨な体験のなすりつけあいなら、負ける気はしねーよ」


 中指立てて威張る俺だが、威張っても虚しいことだとすぐ気づく。


「お待ちください」


 ディーグルが声をかけてきた。


「ディーグル、止めてくれるな」

「止めるわけないでしょう。男と男の戦いを止めるような無粋なこと、ここにいる誰もしませんよ。ただ、気合いを入れてあげようと思いましてね」

「いや……いらな……」


 どういう気合いの入れられ方をするか大体察しがついたので、拒絶しようとしたが、言葉途中にディーグルが俺の首を両手で掴み、そのまま高々と俺を持ち上げて締め上げた。どこの世界に、ネックハンギングツリーで気合いが入る奴がいるのかと。


「ゴージンさんも気合い注入どうぞ」

「応」


 吊り上げられている俺の尻に、ゴージンが蹴りを食らわす。こっちはまだわからんでもないが、ゴージンは俺の尻を絶品だ逸品だと褒めてたくせに、何故そんな粗末な扱いをするのかと。


「おいっ、私もやっていいか?」

「許可します。どうぞどうぞ」


 アリアが笑い声で名乗り出て、ディーグルが応じる。何の許可じゃあっ。


「降ろせ」


 アリアの命に従い、ディーグルが俺を降ろす。何をされるのかと身構えていると、アリアは俺に顔を寄せ。軽く俺の唇に唇をつけた。


「負けるなよ」

「ああ」


 静かに、しかし強い想いを込めてのアリアの一言に、俺も力強く頷く。頷いた後、俺の口元が綻ぶ。


「許可しない方がよかったですね」

「こいつ殺されてきた方がいいと思う。死ね……死ねっ。負けろ……負けろ……」


 舌打ちするディーグルと、呪詛を吐く鈴木。


「ゴージン、気合いってのはこういう形で入るもんだぞ。アリアを見習ってやり直ししろ」


 にやけながらゴージンの方を向いて言い放つ俺。


「ディーグル、もう一度気合いの注入が必要だと思わぬか?」

「そうですね。強めにいきましょう」

「私も参加させて……」


 ゴージンの言葉に応じ、にこにこ笑いながらディーグルが再び俺の首を絞めて吊り上げ、ゴージンが俺の尻に蹴りを入れ、鈴木が俺の手を取って指に噛み付く。こいつら……


「じゃれあってないで早く来いよ」


 呆れた口調でバスの男が促し、先に暗黒空間の中へと入る。信者達が声援を送りまくる。


「じゃあ、ケリをつけてくる」


 そう言い残して、俺も勢いよく暗黒空間の中へと飛び込んだ。

 中は真っ暗だ。闇だけで覆いつくされた空間。しかしバスの男の姿ははっきりと見える。何となくネムレスと出会う際の夢の中に似ている。


「さあ、最後の戦いだ」


 十二分に気合いを込めて言い放つバスの男。奴の意気込みの強さが、俺の魂の芯までびんびんと響くような、そんな錯覚にすら陥る。ふぁっく、気圧されてたまるかよっ。


「ふぁっく。最期の戦いになるのはお前だけだ」


 親指で首をかっきるポーズを取り、俺は傲然と言い放った。

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