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56 思いもよらぬ闖入者

「ディーグルのばーかっ!」


 叫びながら双眼鏡で鉄の釣鐘を確認する。巫女や神聖騎士が用いる奇跡の力の多くは、視認した対象でない限りは発動しない。つまりあの中にいる奴は、フェイクだったのか? 本物の幻術使いは別にいるってのか? でも鈴木はあいつだと断言していたし。


「ディーグルのばーかっ! わからんちんっ!」


 ムカムカが治まらないのでもう一度叫んでやる。滝澤とセラを失った悲しみを紛らわせる効果も狙っている。


「ディーグルのばーかっ! でかちんっ!」


 ていうか、暗くなってきたな。さっきまで晴れていたのに、急に空一面、真っ黒なで覆われているぞ。蛙達も激しく鳴きだしている。一雨くるってか。


「心がくじけそうになっていたのかと思って、渇を入れようとして、ついつい厳しい言葉をかけたのですよ。申し訳ありませんでした。それ以前に私だって、あんな言葉、口にしたくはありません」


 でかちんに耐えられなくなったのか、ディーグルが決まり悪そうに弁解してくる。


「太郎、ここが際だ」


 堀内が声をかけてきた。


「今回の戦闘、お前とディーグルと鈴木はできる限り温存しておくつもりだったが、そのいずれかを使うしかない。まず鈴木の探査魔法で幻術の使い手を見つける。どう考えてもあの鐘の下にいる者ではないだろう」

「鈴木の魔法じゃ無理だったろ。現にさっきは間違っていた。多分鈴木の探知魔法も捻じ曲げることができるんだ」


 俺が言ったが――


「嘘つきを割り出すことはできますけど? あの黒ずくめ野郎が囮だとしたら、騙している糞野郎がいるってことになる。そういう条件でしぼって探知が出来る。太郎のおかげで、それが可能になったのよ」


 珍しく優しい声音で鈴木が言った。じゃあもう一度こいつを信じて頼ってみるか。


「それで? 特定できたらどうするのです?」


 ディーグルが堀内の方を向いて尋ねた。直後、遠くで雷鳴が鳴った。


「鈴木を使うか、ディーグルを使うか、太郎を使うか、いずれにせよこちらの消耗も考慮したうえで、全速全開で敵を沈める」


 堀内が力強い口調で答える。


「一人だけなら絵の奇跡で殺しても、俺もすぐに行動不能にはならない……と思う。だから俺にやらせてくれ」


 バスの男まで温存しておきたかったが、滝澤とセラを殺した奴を俺の手で仇を討ってやりたいという気持ちにもなっていた。


「いえ、私が動きましょう。ゴージンさんをこちらに戻して太郎さんの護衛にあてます」


 ところが意外にもディーグルがそう申し出た。


「別に消耗などしませんよ。特定したら一騎駆けをして、幻術にかかる前に殺してみせます」

「わかった。ディーグルでいくぞ。鈴木――」


 堀内が鈴木を見ると、魔法で探している最中のようだった。


「大丈夫なのか? お前まで精神攻撃にやられたりしないだろうな」


 ディーグルの方を向いて尋ねる俺。


「これでも数百年この世界で生きていますし、精神攻撃を食らったこともありますし、過去のいろんなトラウマも克服済みです。保障はできませんが、他の方よりは――」


 喋っている途中、突然ディーグルの表情が険しくなり、凄い勢いで馬を走らせた。

 双眼鏡を覗く俺。ディーグルが何を見て、何でいきなり駆け出したのかを確認するために。


 すぐさまその理由を知り、俺は愕然とした。さほど離れていない場所で、うつ伏せで血まみれになって倒れているゴージンの姿がそこにあった。


「どういうことだ……?」


 その光景を目の当たりにし、堀内が呻く。完全無敵と言っても遜色無いほどの強力なペインへの耐性を備え、不沈戦士などという呼び名で呼ばれているゴージンが、倒されているという異常事態。


 堀内からすれば理解不能であろうが、俺はその理由がすぐにわかった。かつてネムレスが夢の中で俺に忠告していた。ゴージンのペインへの耐性は、トラウマの逆作用からきた異常体質であるが故、その心が揺らいだ時、彼女のペインへの耐性も消失すると。

 そして敵は精神攻撃の使い手。ならばゴージンのトラウマに触れることも可能だろう。それはトラウマをいじって混乱させるというだけではなく、トラウマを癒すことで、ゴージンをペイン耐性の異常体質から解き放つこともできるということだ。

 あの死亡フラグが今回収されようってのか? ふざけんじゃねーぞっ。


 ディーグルがゴージンを拾い上げ、戻ってきた。まるでさっき滝澤を拾って戻ってきたセラのように。


「ゴージンっ」


 馬から下りる俺とディーグル。ゴージンが地面に寝かされる。この世のどこも見てない虚ろな瞳。そして口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。


「はは……は……そうか、やはリそうであったか、全ては悪い夢ゾ。父上や母上が、我を生贄にすルはずなかロうに。」


 涙をこぼし、ゴージンが嬉しそうにそんなうわ言を呟いている。俺の予感的中だ。これはヤバい。ゴージン……嘘だろう……? お前まで……


「一族の皆が我を見捨てルはずが……こレかラもずっと、皆と仲良く……ローズナやエナイトとも……」

「ゴージン! 戻れ! まやかしだ!」


 怒鳴りながらゴージンを力いっぱいひっぱたく俺だが、所詮子供ビンタ。ふぁっく、こうなったら……

 俺は銃を取り出し、ゴージンの耳元に何発も撃った。音と衝撃波で正気に返そうとしたわけだが、変化は無い。


 そうこうしている間に、とうとうゴージンの体が透けていく。おい……やめてくれよ……待ってくれ……


「ゴージン、何をしている。情けない」


 俺が絶望しかけたその時、後ろから聞き覚えのある声がかかった。


「え?」


 消滅しかけていたゴージンが、怪訝な声をあげる。瞳に正常な輝きが戻り、表情も元に戻る。そのうえペインの限界を迎えて消滅死しかけていた体も、元に戻っていた。


 振り返ると、見たことも無い男が立っていた。

 全身黒ずくめ。黒いソフト帽を目深に被り、巨大な黒い羽飾りを右肩にあしらい、黒いローブに黒いズボンに黒い靴、さらに金属性の黒い杖を携えている。髪も黒だが、目は赤く、彫りの深い顔立ちはコーカソイドのそれだ。年齢はいまいち判別つかん。壮年といったあたりか? それともまだ青年でやや老けているだけなのか。

 暗い目つきをしており、表情も陰気で、あまり第一印象のいい男ではない。


「久しぶりだな。ネムレスの神聖騎士」


 男は俺と目を合わせ、奇跡の絵描きとは呼ばず、ネムレスの神聖騎士と呼んできた。いやいや、どちらさま? 確かに声は聞き覚えがあるが。


「フェンリル。また唐突に現レたものゾ。今度は如何なル用か?」


 ゴージンが身を起こして、男を睨みつける。こいつがあの糞狼? 言われてみたら、確かに声は同じだ。


「お前がゴージンを助けてくれたのか?」

「見殺しても寝覚めが悪いしな。それに、助けられるのに助けなかったら、余計に恨まれそうだ」


 俺の問いに対し皮肉っぽく笑って、人間形態のフェンリルは言った。


「俺は神とその下僕にとっての天敵であるが故、奇跡による状態異常の解除など朝飯前だ。どうやらここには、ネムレスの神聖騎士以外にも、神とその下僕二人がいるようだが……」

「お取り込み中みたいだけど、敵の位置わかったわ。今度こそ間違いじゃない。マーカーつけてあげる」


 鈴木が言い、早口で呪文を唱える。

 すると、空からピンクの光が降り注ぎ、奥で戦っている敵兵士の一人を照らした。つーか何でピンク……


 あいつこそが、幻術の使い手――バスの男の神聖騎士。兵士に混じって戦っていたわけか。御丁寧に囮まで用意して。探知魔法も間違うように仕掛けをしておいて。ひっかかっちまった俺も間抜けだがな。リザレならそこまで読めたかもしれんが……。リザレがこの話を聞いたら何て言うことやら……ふぁっく。


「食うぞ」


 フェンリルが一言呟くと、その体が急激に膨張しだし、瞬く間に巨大な黒狼が姿を現した。

 敵味方問わず一瞬動きが止まり、フェンリルの方へと視線が降り注ぐ。ピンクの光にあてられている神聖騎士も驚いている。


 猛ダッシュで駆け出し、兵士達の中へと飛び込んでいくフェンリル。その行き先は当然、バスの男の神聖騎士だ。


 双眼鏡を覗く俺。バスの男の神聖騎士がニヤリと笑う。自分が狙われているということを知りつつも、精神攻撃の幻術で撃退できるという自信があったのだろう。しかし……その笑みがすぐ引きつったものへと変わった。うん、明らかに効いていない。あるいは打ち消されたか。


 フェンリルが迫り、引きつり笑いのままフェンリルを見上げる神聖騎士。その頭から、フェンリルは瞬く間に丸呑みにした。そう、全く噛みもせずにごくんと丸呑みだ。

 その光景を見て、また敵味方問わず動きが止まる。乱す者側は一瞬ではない。頼りにしていた神聖騎士が食われたのだ。その衝撃は大きかろう。


「ごちそうさま。神の下僕であることが、あ奴の運の尽きよ」


 こちらに戻ってきたフェンリルが嘯く。バスの男の神聖騎士は、今後フェンリルの腹の中で糧となり続けるわけか……。バスの男が生きている限り。


「ちなみに俺に返ってきた呪いは、ネムレスに解いてもらった。故にもう、お前に危害を加えるつもりは一切無い。脅して動かそうとする気も無い」


 言いながらフェンリルは人間形態に戻る。


「使者ってお前かよ」


 夢の中のネムレスの言葉を思い出す。内心がっかりする俺。リザレかと思って期待したのによー。


「ああ。ネムレスからも言われていると思うが、この戦争が終わったら、今度こそ乱す者とのお遊びもこれまでだ。俺と共に神狩りに出発だ。できれば他に仲間も連れて来い。そこにいるゴージンや、神殺しのディーグルもな」


 結局それかよ……。しかし今度はネムレス公認だから、逆らうこともできん。


「どうやラお主に助けラレた様子。一応礼を述べておくゾ」


 ゴージンがフェンリルに向かって渋々といった感じで頭を下げる。


「謝意が欠片も無い礼なぞいらぬわ。それよりこの戦争でネムレスの神聖騎士がくたばるようなことにならぬよう、一応俺も力を貸してやる」

「新居太郎だ。太郎様と呼べ」


 改めて挨拶する俺。いつまでも名前で呼ばれないのも不快だしな。


「力は貸すが、兵士相手の戦いはしないぞ。面倒だからな。神か巫女が出てきたら相手をするといったところだ」


 面倒というだけではなく、こいつはゴージンと同じで人殺しはしない奴だったっけかな。

 しかし思わぬ心強い援軍ではある。バスの男の巫女の対策には頭を悩ましていた所だが、こいつは神々の天敵とも言うべき力をいろいろ備えているようだから、巫女の相手を任せられそうだ。神聖騎士もあっさり倒してくれたしな。


***


 バスの男の神聖騎士が倒された事で幻術は解け、乱す者の士気もあからさまに落ちた。

 ここぞとばかりに、温存していた鈴木の魔法攻撃のラッシュで追い討ちをかけ、そこからどんどん崩れていく。いかに改造強化しようがペインの耐性をつけようが、流れが変わってしまえばどうにもならない。しかも奴等は元々数が少ない。


 やがて敵兵達は北へと退散していった。葉隠の損害も大きかったが、乱す者はもっと大損害だ。


「私……いつの間に、あんた達の仲間になったのかな」


 いつもの面々プラス1マイナス2と共に食事をしていると、隣にいた鈴木が物憂げな顔でそんな台詞を口にした。一人だけ、食事に手をつけていない。


「セラや滝澤が死んで、凄く悲しかった。私はただルヴィーグア様の命令で仕方なくここにいるって、そういう意識のつもりだったのにな。陳腐……陳腐な仲間意識。人ってくだらない。そんなものが安易に出来てしまう。私ってくだらない。こんな感情、私に備わっていたなんて。こういうの、馬鹿にしていた私こそがくだらない」


 何やらぶつぶつ呟いていたが、言いたいことは何となくわかった。

 俺はチーズを手にとって鈴木の口元へとやる。


「デリカシーの無いガキね。もう少しマシな気遣い方できないの? まあ、太郎らしいけど」


 そう言って微笑むと、鈴木は手を使わず顔だけ前にせり出して、ぱくりとチーズを食う。ここでタイミング合わせて手を引っ込めると面白かったかもしれない。


「醜態を見せし我こそくだラぬ存在ゾ」


 ゴージンがひどく険のある表情と口調で吐き捨てた。こちらはちゃんと食事を取っている。流石に歴戦の兵だけあって、どんな状況や状態にあろうと、食事と睡眠だけはしっかり取るようだ。睡眠と食事は、人を心身ともに正常に保つための何よりも大事な条件だからな。


「しかもフェンリルに助けてもラうとは……情けなや」

「お前が情けないのは確かだとして、俺の目の前でそういう言い方はないのではないか?」


 そう言ったのは黒ずくめな人間形態のフェンリルだ。こちらは食事を取ろうとはしない。腹の中の神々とその下僕達で栄養は間に合っているのだろうか?


「万が一の時は俺がゴージンを助けるつもりだったが、俺はそれも出来なかった。危うく死なせる所だったよ。精神攻撃の使い手が現れた時点で、ああなることも察してゴージンを呼び戻すべきだったのにさ。本当馬鹿だわ、俺は」


 失態を悔いる俺。フェンリルが来なかったらどうなっていたことやら……


「私も同罪ですよ。太郎さんの話を聞いておきながら、私も気付かなかったのですから。もちろんゴージンさん本人もね」


 と、ディーグル。三人揃ってうっかりトリオか。リザレならば、絶対に見落としたりはしなかっただろうがな。


「さっきこいつが喋ってたこと、近くにいたから聞いちゃったんだけどさ」


 ランダがフェンリルを指して口を開く。


「この戦闘が終わったら、太郎達は軍を抜けてどこかに行くつもりかい? 神狩りがどうとか言ってたね」


 今その話題するのかー? 今の戦いの方に集中しておきたいんだが。まあでも、はっきりさせておくか。


「すぐにってわけでもない。でもネムレスから正式なお呼び出しのお告げがあったら、その時はお別れだ」


 うつむき加減になりながら答える俺。


「そうかい。寂しくなるね」


 言葉少なに答えるランダ。


「ずっとワシらと共に戦えたらよかったんじゃがのー」


 ザンキがストレートに言う。


「俺にもその気持ちはあるけど、しょーがないさ。つーか戦いはもうすぐ終わるだろ。そうすると俺は……きっと何でもない俺になっちまうし、それにも耐えられない。ネムレスの呼び出しが無くても、俺は葉隠を去ったかもな」


 アリアの相方になるのも、刺激のある生活として魅力的ではあったがな。まあそれは鈴木の手前、触れないでおく。


「本来の役目に戻るわけだな。それでよかったんだ」


 と、堀内。そういや堀内はずっと、神聖騎士である俺が戦争に参加していることに対し、疑問を抱いていた感があったな。


「む、振ってきたよ」


 ランダが空を仰ぐ。黒い雲で覆われた空からぽつぽつと落ちる雨粒。

 まだ小雨のようだが、いつ本格的に降りまくるかわからない。雨中での戦闘とか面倒だな。俺のスケッチブックは雨に濡れるこたーないけど。


「報告します! 乱す者が全集結して黒馬森林を出て、南下中! 間者からの情報によると、総力戦をかけてくるとのことです!」


 伝令の報告によって、休んでいた第十八部隊に緊張感が走る。


「いよいよ最後か」


 ザンキが唸る。


「最後になるとも限らんが、そのつもりで気を引き締めていくとしよう」


 堀内が言う。


 総力戦ということは、やはりあいつも来るわけか? 今度こそ決着がつけられるか?


***


 小雨はいつしか本格的な雨へと変わり、雷まで鳴り出した。

 そんな中、葉隠軍も残った部隊全てが集結し、敵の侵攻に備えて待ち構える。地の利はこちらにあるので、今回もそれをフルに活かす方針のようだ。


「相当激しき戦いになロうな。こレほど大規模な戦闘をしたことは、我も過去二度しかなし」


 隣にいるゴージンが言った。


「二度あるからこそ、激戦になると予測できるのでしょう」


 と、反対側の隣にいるディーグル。


 第十八部隊は最前列のすぐ後ろくらいに待機している。最前列の部隊が敵とぶつかった際に、銃や魔法による遠隔攻撃や俺の奇跡で補佐する形だ。ここからでも最前列での戦闘の様子はわかる。

 もちろん近接歩兵が消耗したら入れ替えも行うが、池や木々に挟まれて狭い道を行き来するのはしんどいので、スムーズに入れかえるために、俺の絵で予め橋を何本も作っておいた。

 乱す者が正面からのみ攻めて来た場合、池に阻まれ、奴等は小出しにしか兵を出せないうえに、遠隔攻撃の雨あられを受けることとなる。まあ奴等も馬鹿じゃないから、すぐに迂回しようとするが、それもこちらは予測済みで、弓兵銃兵を大量に潜ませて、迂回路で狙い撃ちにする算段だ。


 しかしそんな目論見が、戦闘開幕早々あっさりと崩れ去ることになった。


「様子が変だよ」


 ランダが言う。変どころか異常事態だ。敵の軍が見えていないというのに、遠くから断続的に悲鳴があがっているぞ。おそらくは葉隠軍のもの。襲撃されている? 敵は見えないのに。


「強い魔力の働きを感じるわ。しかも暗い波動。私、魔法の使い手の精神状態もわかっちゃうのよね。特に暗い情念で満たされている人のはわかりやすい。近親憎悪」


 鈴木の言葉に、思い当たる人物は一人。魔力という時点であいつしかいない。


「報告しますっ! 敵、一名。シリン・ウィンクレスが迂回路左翼の伏兵達を酸の魔法で攻撃し、すでに半壊とのことっ!」


 俺の予想は当たっていたが、一人で無双しているとは思わなかった。しかもこの雨の中で酸攻撃かよ。恐慌状態も引き起こせそうだな。


「敵影確認」


 望遠鏡を覗いていた兵士が告げ、俺も双眼鏡で確認する。木々の間に、乱す者達の騎馬隊の姿がちらほらと見える。それはどんどん増え、やがて肉眼でもわかるくらい近づいてきた。

 敵騎馬隊は当然のことながら、シリンが暴れた左翼方面へと迂回する。たった一人の強兵のおかげで、こちらの布陣は滅茶苦茶か。ゲームや漫画みたいな話だぜ。


「カンナエの戦いのローマのようにならないといいがな」


 騎馬隊が迂回して回りこもうとする様を見ながら、堀内がぽつりと呟いた。


「大丈夫とは言いがたいが、少し時間稼ぎくらいならできる」


 スケッチブックに絵を描きながら俺が言った。そして奇跡発動。


 騎馬隊の前に高い壁が幾つも連なって出現する。それだけじゃない。道は泥沼と化した。騎馬隊の足が止まる。

 左翼迂回路に配置された生き残った射撃部隊が、足の止まった敵騎馬隊めがけて攻撃を開始した。


「さらに敵影」


 報告を受けて双眼鏡を覗くと、さらに敵部隊が木々の間に姿を現した。

 凄い偶然だったと思う。俺は敵兵士達の中に、見知った顔があったのをすぐに見つけてしまった。

 黒く禍々しい法衣をまとったバスの男と、革鎧で武装したドワーフの少女の姿を。

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