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4 世界学習タイム

 ひゃっはーっ、昨夜はよく泣いたもんだ。おかげで今朝はすっきり快適な目覚めだぜー。


 その日、俺は朝から生誕者用のマニュアルを読みふけり、この世界の知識を吸収する作業に没頭した。

 神に捨てられた地で死んでこちらに来たばかりの者は、生誕者と呼ばれる。こっちの世界の法則をさっぱり忘れているので、ちゃんとマニュアル本が用意されているってわけだ。


 ディーグルが言っていた通り、この世界は基本的に平和であり、下界――神に捨てられた地以上に平和が好まれる。何しろこの世の法則そのものが、争わずに済むように出来ているのだ。

 だからこそ、死ぬ前にいた世界は地獄とまで呼ばれている。そりゃまあ確かにそうだな。あっちは弱肉強食で奪い合い貶めあい前提の、ふぁっきんな世界だもんよー。

 でもこの世界は違う。まずこの世界の全ての生物に、寿命というものが無い。ペインを受けて死なない限りは、永遠に生きていける。死ぬと記憶の大半を失い、ふぁっきんな地獄へと落ちる。そりゃ死が忌み嫌われ、平和が求められるはずだわな。


 人々は肉も魚も食わない。あらゆる殺生が禁止。果物野菜穀物が主食。動物もこちらで死ぬと、畜生道の輪廻でもって、神に捨てられた地へと生まれ変わるが、この世界でならずっと平和に生きていけるのだから、動物の殺生も厳禁というわけだ。

 動物から皮を取る際は、殺す事無く、魔法で皮だけコピーするという。便利なこって。

 動物さえも殺生を犯さない。あっちで肉食獣に相当する生き物は、こっちでは肉性植物という凄く硬くてムチムチした植物を食らうそうだ。植物だって一応は生きていると思うんだがな……その辺はどーなのやら。

 ただし、乱す者達の一部は肉も食うとか。


 この乱す者という存在を調べていくと、俺の最初のイメージとは大分違う存在であることがわかった。

 確かに彼等はこの平和世界にとっては悪となる存在だ。しかし彼等は彼等でポリシーがある。ただ単に暴れたくて暴れているだけの粗暴な輩もいるようだが、真剣に考えたうえで、この世界の法則に逆らう者達もいる。

 平和であるが故にこの世界は刺激が少なく、変化も乏しい。文明の発展も遅れている。神に捨てられた地から文明が持ち込まれる事はあるが、多くは拒絶されている。特に科学文明の多くは、人々を堕落させるだの世界を汚すだのと言われて、忌み嫌われている。

 そんな停滞した世界を悪として、刺激と変化を求める者達。それが乱す者だ。乱す者全てが争いを起こしているわけではない。一部の過激派が軍隊を組織したり、テロを行ったりしている。

 戦いがあるからこそ、この世界もある程度発展したという側面もあるんだとさ。だがそれさえも、この世界の価値観では忌むべき事なのだそうだ。変化自体が悪とまでされているきらいさえある。


 それを知り、俺は乱す者が必ずしも悪とは思えなくなってしまったのだ。平和だが変化の無い世界。そしてそれが延々と続く世界。それはそれで確かに辛そうだわ……。

 どっちも極端だなー。うまく間を取って調和を図るという事はできないのかよ。


 この世界とあっちの世界の関係性、それにこの世界の有様を見て、俺は考えた。

 あの世は天国でこの世こそ地獄、この世は試練の場という考えは、宗教上はよくありそうな代物だが、それがわりと当たっている。

 んでもって、神話やらゲームやら漫画やらラノベやらで、使われまくっているファンタジー世界、それが今いるこの世界に相当している部分がある。人間以外の伝説上の種族がいることや、魔法が存在することなどが正にそれだ。さらには神様もいる。


 こっちの記憶の大半は、神に捨てられた地にはもっていけないというが、記憶の奥底におぼろげながら存在しているからこそ、誰かの記憶の断片が、向こうの世界にもファンタジーな妄想という形で現れて、伝わっているのではないだろうか。

 ディーグルにその話をしたら、興味深そうに聞き入っていた。そして一方で俺に警戒を示してもいた。


「どうも太郎さんは、乱す者寄りですね。思考回路が革新的というか、刺激を求める側です」


 神妙な顔つきになってそんなことを言った。その時のディーグルは、ちょっと怖かった。彼は乱す者に対して良い感情が無いようだな。


「俺は人を傷つけてまで我を通したいとは思わんぞ。相手が糞野郎だったら話は別だけど」

「もちろん乱す者にならなくても、刺激を求める人達はいますよ。主にそういう人が兵士になり、乱す者と戦いますしね。あるいは冒険者とかね。乱す者にはなりたくはないですが、私も刺激を求める者です。刺激は求めるが死の危険は御免だという方は、諦めて日々悶々と過ごすしかありませんけどね。でも今の言葉を聞いて安心しました」


 最後にディーグルはにっこりと愛想よく笑った。


***


 さて、俺の置かれている状況だが――


 葉隠市の市民になれたものの、どんな神様に仕える神聖騎士だかわからんので、ディーグルの監視下にある。これから本格的に、乱す者対策の戦力としても組み込まれるようだ。

 俺がいた豪奢な洋館は、そのまま俺の家として住んでいいとの事だ。生活費もたんまりある。

 随分と気前のいい話であるが、それだけ俺に価値があると見なされているって事ね。ピンチだった戦場で文字通りの奇跡を起こして、一瞬で相手を撃退する力を見せたのだから、当然とも言えるか。


 この世界は元いた地球よりずっと広いらしい。で、国という境界ではなく、主に都市連合という区分けのようだ。地方によっては例外的に国家もあるらしいけど。人も多く都市もやたらでかくて、一千万人規模の大都市も珍しくない。

 まあ死人が滅多にでないから、人が多いのも無理はない。老化することもなければ、命に関わるような病気も無いとのこと(風邪クラスの病気はあるらしい)。おまけに人間だけではなく多種族の死者もこっちに来るとあれば、人が多くて当然。

 死因の多くは、乱す者のテロ行為によるものか、乱す者との戦争だとさ。

 しかしその理屈だと、こっちで死人出なければ、あっちでの誕生も無いわりには、下界での人口がやたら多い気がするが。


 俺が意識を取り戻してから四日目、俺はディーグルと共に市庁舎に呼び出された。用件は行く前からわかっている。


「ある時を境にしての、神に捨てられた地の人口爆発は、この世での乱す者の活性化が原因です」


 葉隠市の市長である木村龍之介という男が言った。背広姿の中年男だ。この世界で中年の見かけというのは珍しいが、都市の市長ともなれば、見た目の威厳としても年齢が高い方がいいのかもしれん。

 でもこの市長、見た目は人の良さそうなおっちゃんで、威厳は欠片も見受けられない。親しみやすい感じは凄くあるけどね。


 ちなみに木村市長の使い魔は小象だった。こりゃまた可愛い。世話大変そうだけど。

 そういやディーグルは使い魔がいないみたいだな。


「こっちで死人が多いから、地球人口も増えちゃってると?」


 すげー無理があると思うんだが、その理屈は……。普通に文明が発展して、死亡率減ったからだろうに。


「地球だけではなく、他の惑星もですよ。神に捨てられた地は、宇宙全体を指します」


 そういやそうだった。エルフとかドワーフとかゴブリンとかは、こっちで死ぬと別の星に転生するんだとよ。ファンタジー世界の亜人獣人の正体が宇宙人とか、もうね……


「こっちの世界の法則に準拠する形で、宇宙が変化しているのかよ。あっちの人口が数十億単位で急激に増えるほど、こっちに人いんたですかね?」

「こちらが基本世界ですからね。当然でしょう。この世界はとてつもなく広く、人の数も多いのです。全体の把握はされていませんが、人口は垓を越えているとも言われていますしね」


 と、木村市長。


 垓……か。兆の次の単位が京で京の次が垓だから、すげえ数字だ。とはいえ、地球上の人間だけではなく、他惑星の別種族も混じったうえでの数字だけど。


「んじゃー、仮に地球人が核戦争起こしたりして、地球が人の住めない星になったらどーするんです? こっちで死人でたら、その魂はどこに行くのかな?」


 好奇心で市長に尋ねる俺。


「そうなったら、別の惑星が自動的にカスタマイズされて、生命及び知的生命が発生するように出来ているそうです。時間圧縮されて、数十億年の時間の流れが数秒とせず行われます。神々に見放されて捨てられる前に、あちらの宇宙は神々によってそういう具合に設定されてあるのです」


 あうう……神々の力ってのも相当なもんだな、こりゃ……


「話を戻しますが、乱す者と戦う戦力は少しでも欲しい所です。神聖騎士の助力があれば、これほど心強いことはありません。現在、戦況が芳しくない我々からすれば、喉から手が出るほど欲しいと言っても過言ではない」


 神妙な顔で頭を下げてきて、俺の顔色を伺うような姿勢で、市長が言う。

 こういうさー、やたら自分を不利に見せて、やたら持ち上げ、へりくだるような話をする奴って、俺は絶対信じない事にしてるんだよねー。


 だが俺の答えは決まっている。俺の力が求められる。それによって誰かを救えるとあれば、応じる。

 あっちの世界にいた頃、ボランティアなんかもやっていて、しかもそれをいろんな理由で中途半端な所で辞めてしまった事がある。非常に嫌な思い出だ。今度はちゃんとやり遂げたいわ。

 いや……理由はそれだけじゃない。乱す者達と戦わないといけない理由は他にもある。


「おためごかしはいらねーよ。俺はもうやると決めてますからー」

「おお、ありがとうございます。ありがとう……。君の決断のおかげできっと、これから多くの人が救われる事となるでしょう」


 おためごかしはいらないと言った側から、堂々とおためごかしをぬかして、俺の両手を取って、力強く握り、泣きそうな顔を作ってみせて何度もペコペコと頭を下げる。

 こういうタイプは手強い。典型的な狸野郎だ。


「ディーグルはこの先もずっとお目付け役として俺についてくるの? 俺と一緒に戦うわけ?」


 市長の部屋を後にして、市庁舎の廊下を歩きながら、背後斜め四十五度、距離わずか20センチほどの位置を常にキープして歩くディーグルに向かって、俺は訊ねた。


「もちろんです。私は太郎さんの従者でもありますから。ずっと、ずっと、ずーっと一緒ですよ」


 突然俺の前方に回って振り返り、俺の顔を上から覗きこみ、笑顔をドアップで近づけながらディーグルが強調する。この野郎……


「ちぇんじっ、ちぇんじっ、美少女とちぇんじっ」

「諦めてください。市長からの要請を待ちましょう。その間に太郎さんは、この世界の見聞を広げるなり、力を磨くなりしましょう。もちろん私も御付き合いします」


 ふぁっくー。諦めきれるかーっ。野郎なんかより美少女の従者の方が絶対いいよー。


***


 この世界、あの世であるにも関わらず、科学文明はあまり発達していない。が、代わりにエコロジーな魔法文明が発達している。力の依り代が人の内の魔力なので、環境破壊等にも繋がらないからだとか何とか。

 マニュアルに、生誕者用の簡単な生活魔法の使い方も載っていた。ほとんど日常生活用のものばかり。灯りとかは、皆個人の魔法でまかなっているようだ。俺もすぐ覚えた。

 もう一つ覚えたのは移動魔法だ。街中に配置されている特定の場に行くと、かなりのスピードで自動的に移動する。エスカレーターやエレベーターや動く歩道を利用するための魔法って感じだね。かなり速いから、こっちのが便利。


 見聞を広めるため、俺は街をぶらつく。街並みは……建物は日本の住宅街とあまり変わらないんですが……。ただし一軒家ばかりで、マンションの類は皆無。

 洋風な建物や、もっと未開の地の民族が立てたような住居もちらほらとある。これは人間以外の種族が暮らしている家のようだ。俺が寝かされていた館も洋館だったな。

 繁華街には大きな建物が無い。ビルなど一つも建っていない。高い建物が禁止されているのだろうか。市庁舎は一応ビルだったけどね。

 昔の下町風な個人経営の店ばかりって感じだね。俺的にはこうしたごちゃごちゃした下町の雰囲気、実に好みだわ。都市開発でビルディングばかりになった繁華街なんて、味気なくていかん。


 下界と比べると随分と活気があって、人々は明るい気がする。

 葉隠市及びその周辺都市や村や集落は、人間の95%以上は日本人とのこと。エルフやゴブリンやドワーフも、同じような氏族や人種が同じ個所に集まるんだとさ。


 服装はすげーカオス。ファンタジーっぽい服の人もいるが、洋服の人や和服の人もいる。現世の時代の移り変わりと、多数の惑星文明が混じりあって、こんな風になったのだと思われる。

 人間は主に洋服や和服が多い。和服なのは昭和初期以前に死んだ人達かなー。亜人達はわりとファンタジーっぽい服装多め。当然か。

 ちなみに俺が今着ているのは、腰を太い紐で巻いた、子供用の簡素なチュニックだ。古代ギリシャやローマの人が着ている、あの貫頭衣と大体似たような代物。裾は太股まで伸びて隠れているが、下が下着だけで生脚露わになるのも抵抗があるので、ゆったりとした長ズボンをはいている。洋服でもよかったんだが、せっかくだから控えめコスプレ気分で着てみた。


 人によっていろんな使い魔を連れている。ファンタジーな生き物も多数だ。たまに見かけるロバだのアルパカだのも、使い魔なのかな? それともただの労働用の家畜なのか。


「つーか、人間はほとんど若者ばかりだなあ……」


 オープンカフェでくつろぎ、周囲を見渡しながら俺は言った。気になったのはそこだ。街を行き交う人、皆若いんだ。老人なんか皆無だぜ。流石にドワーフはおっさんや爺ばかりだけどさ。


「多くの人は、神に捨てられた地において、自分が最も輝いていたと思う年齢の姿になります。自然とそうなるのです」


 ディーグルが教えてくれた。死んだ時の姿が維持されるとあれば、あの世はジジババばかりになってしまうし、ジジババの姿のままずっと生活ってのも嫌だし、そういう仕組みの方が理想的ではあるな。うん。

 しかし……俺が自分の一番好きな時期は小学生だったのか……? いや、信じられん。せめて美少年だった十代半ばから後半にしてくれよ。何よりこの体じゃHできないじゃん。今から変更する方法は無いのかよ。


「つーか、俺みたいな美男子ならともかく、自分の顔が嫌いなブサ男だったらどーすんだよ。好きな姿の年齢も糞も無くね?」

「さあ……それは諦めるしかないでしょう」


 何かというとこいつは、諦めろ諦めろと……。俺の一番嫌いな言葉なんだぞ。


「あるいは中年や老人になって誤魔化すって所か。ま、中年も多少はいるな。若者の方が多いけど」

「そりゃ中年の頃の自分が好きという人も多少はいるでしょう。老人がいいという人もたまにいますよ」

「なあ、本当に基本世界ってこっちなのかねえ……。俺は逆な気がするんだけど」


 唐突な俺の質問に、ディーグルは少し間を置いて、思案してから口を開く。


「そう思う人もいますね。どちらが本体、どちらが基本という考えを否定する人もね。しかし私はやはりこの世界こそが『この世』であり、神に捨てられた地は『あの世』以外の何物でもないという認識です」

「でもさー、精神的な成長だって人格形成だって、下界に大きく影響されてるじゃねーか。それでこっちの世界に来てそれらを引きずっているのに、こっちが基本てのは、やっばりおかしいだろ」


 なおも異を唱えた俺に、驚いたような目でディーグルは俺を見ていた。


「太郎さん、その考えは目から鱗でした。しかし……言われて今更気が付いた私も、どうかしていると思えてしまいました」


 ふむふむ。自分の考えに固執しないタイプか。


「まさか太郎さん如きがこの私を唸らせる真理を述べるなんて……。いえ、私は太郎さんを見くびって見下していました。ここで謝らせてください。申し訳ありません」


 唸るのも見くびるのも見下すのも改めるのも勝手だが、わざわざ口に出す必要あるのか……?


「俺と同じく、子供もいるんだな」

「子供なのは、子供の時に地獄で死んだケースが多いです。あるいは珍しいケースですが、精神年齢がいつまで経っても幼い方でしょう。太郎さんは後者ですね」


 あう……ドポロロも同じようなこと言ってたな……


「ぶっとばされてーのか? つーか、それなら赤ん坊で死んだらどーすんだ」


 ぶっとばせるわけがないんだけどね。エルフとは言っても、ディーグルは相当鍛え上げている。無駄な肉が一切無い細マッチョ体型だが、筋肉の引き締まり方が尋常では無い。で、こっちは子供の体ときてる。喧嘩で勝つのは無理ゲーすぎ。


「自我の芽生えていない赤ん坊の状態で死ぬと、すぐまた地獄に逆戻りしてしまいます。こちらには赤ん坊という存在はいませんね。少なくとも人間には」

「で、子供はずっと子供のままなのか?」


 一番聞きたかった質問をぶつける。成長できる方法は無いのかねー。


「大抵はそうですね。しかしごく稀に成長するケースもあります。その法則は未だ研究中でよくわかっていないので、期待せず諦めた方がいいかと」


 ディーグルの答えに、がっかり半分、希望半分。


「そういや俺、最初来た時に裸だったんだけど、何で?」

「裸で死んだんですか? 大抵は死んだ時の服装のまま生誕しますが。お風呂の中で滑って転んで頭うって死んじゃいました?」

「ちげーよ」

「じゃあ、人妻といけないことをしていたら、亭主が帰ってきたので、慌てて裸で飛び出したら階段を滑って転げ落ちて、そこにやってきたトラックに轢かれたとかいう、愉快な死に方です?」

「人の死に方を勝手にあれこれ想像するな。しかもろくでもない死に方ばかり……」

「ふーむ。では単純に子供になっていたから、服があわなくて脱げたのではないでしょうか。そして気が付かなかったと。いずれにせよ、大人から子供になるケースは稀ですから、よくわかりませんけどね」


 釈然としないが、そういうことにしとこう。


 オープンカフェでのお喋りを終え、買い物に行ってみる。ちなみに葉隠市の通貨は円。物価は下界に比べると安い。冷却効果があるというマジックシートの上に並べられ、無人販売されているジュース瓶が、一本80円。カフェでのコーヒーが一杯で150円だった。

 まず本屋。漫画があったので嬉しい。ラノベはあったが、ファンタジー題材の本が見事に無い。ここがファンタジー世界そのものだからか? 漫画の単行本は新書サイズで320円、B6サイズでも400円と、これまた安いね。雑誌に至っては170円だ。俺が下界で子供の頃の値段だぜ……。200円のお釣りで駄菓子買ってたもんだ。

 ゲームショップは無い。この世界では電子機器を作らない方針だとさ。最悪だわ。もちろんテレビやパソコンや携帯電話も無い。


 夕食の買い物に八百屋へ行く。八百屋の店員のねーちゃんがポニーテールでやたら可愛く、サービスもよかった。


「あらあら、買い物の手伝い? 偉いねー」


 すごく小さい子供をあやしているように接してくるのが気になった。頭撫でてくるし。そこまで幼児なわけじゃないのにな。九歳か十歳くらいの見た目だろ。


「ちょっと待ってて。これつけてみて、どう?」


 初対面なのにえらく俺のこと気に入ったようで、何故か頭にリボンつけてくれた。男の子にリボンつけないだろフツー……


「この世界は子供自体が多くないですからね。男女の間に子が生まれるという事もありません。そのため子供が好きな人からすれば特に可愛く見えて、仲良くしておきたいといった所ではないでしょうか」


 八百屋のねーちゃんの可愛がり方が尋常ではなかったので、ディーグルにその話題を振ったら、そんな答えが返ってきた。


「ま、可愛がられて悪い気もしないし、役得なのかなー」


 俺もあの八百屋のねーちゃんは気に行ったわ。よし、あの店を贔屓にして、また可愛がられに行こう。


「地獄で精神年齢が低い状態で死ぬことに、メリットもあるという事ですね」

「絶対それ違うっつーの。きっと何か深い理由があるんだっつーの」


 笑顔で嫌味を吐くディーグルに、口調こそおどけていたが結構本気で否定する俺。


 夕飯買って買い物終了。あとは帰宅だ。


「せっかく家を用意してもらったのですから、インテリアなど揃えたらどうです?」


 帰宅しようとした俺に、ディーグルが提案する。


「すでに一式揃ってたじゃん」


 わりと広めの家をぽんとプレゼントされた。中には家具も用意されていたし、その必要も無いと思うが。


「与えられた物だけで満足なのですか? やはりそこは自分の好みで色を変えるなり、飾り付ける方がよいと思われますが。では、よろしければ私の分を揃えるために、御付き合い願えますか?」


 え……ディーグルの分?


「まさか、お前も俺の家に一緒に住むってこと?」

「従者だから当然でしょう? これからもずっと、ずっと、ずーっと一緒ですよ」


 呆然として問う俺に、ディーグルが涼しい顔で答える。


「ちぇんじっ、ちぇんじっ、美少女とちぇんじっ」

「諦めてください」


 両腕を横に振って駄々をこねる俺に、ディーグルはにっこりと笑って言った。嗚呼……

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