47 茶番劇の終幕
翌日俺等七人は市庁舎前にて、新市長様(予定)のブラッシの演説を聴いていた。凄まじい人ごみだが、魔法とか奇跡とかでいろいろいけないことして、最前列でブラッシの犬面を拝むことができた。
すでに市議を辞めていたブラッシなのに、強引に次期市長候補にまつりあげた形にした時点で、市民をなめきっていると俺は思う。よほどの馬鹿でもない限り、これを信用するとは思えん。
いや、案外そんな馬鹿の方が世の中多いかもな……。
『アリア元市長はかつて木村元市長が葉隠市を裏切り、乱す者と内通していたと言った。しかしこれは真っ赤な嘘だ! 本当に乱す者と内通していたのはアリア元市長の方だ! その証拠もある!』
ブラッシの発言に、どよめく聴衆。
うわあ……こりゃひどい。やられたことをそのまんま意趣返しかよ。芸が無いこともひどいが、捏造されたことに腹を立てて、自分も捏造で仕返しとかもうね……
しかしこれ、アリアもやった事だからな。どっちもろくでもねー。どっちもろくでもねーんだが、アリアが木村を貶めた時より、今回の方がずっとムカつく。
『彼女の目論見はこうだ。乱す者を過剰に暴れさせ、それを討伐するためという名目で軍国主義を強めていき、そのうえで独裁者となり、圧政を行うつもりだったのだ。そのうえアリアは乱す者も利用するだけ利用し、独裁政権を立てた後は自分の人気取りのためだけに、彼等を殲滅するつもりだった。だが我々がそれを防いだ! その証拠に、我々は乱す者と和睦を結んだ! アリアの野望が何であるかを彼等に話したら、彼等はわかってくれた! もう乱す者に脅かされることも無い! 武器を捨てることで、我々は平和を勝ち取ったのだ!』
当たり前だが、こいつは乱す者に見放されたことを知らないな……。ひょっとしたら、山本が捕らえられたことも知らないかも。
「無理があるでしょう。これは。乱す者はずっと昔から存在して、我々を脅かしていたというのに。これではアリア一人のせいで乱す者と戦っていた話になってしまっていますよ」
呆れきった様子でディーグルが言う。
「木村が市長の時だって、ずーっと乱す者と戦争していたわけだしなあ。ここでいきなり和睦と言われても、信じられんだろうな」
その証拠に聴衆はざわついているものの、歓声で答えるような真似はしない。ずーっと乱す者と戦っていたのに、『全てアリアのせいだ』だの『武器を捨てたら向こうも争うのを辞めた』だの、とても信じられるわけがない。こいつは一体何を考えているんだろう。
『信じられないか? 無理もない。しかしもうすぐ信じざるをえなくなる。もうすぐ乱す者の代表が来る手筈になっている。それで証明される』
力強い口調で断言するブラッシの言葉に、さらにざわめく聴衆。少し心が揺れているな。まあ、来ないと思うけどなー。
『かつて木村元市長は、市民の安全と平和、何より人権を重視し、誰もが心地よく住みやすい葉隠市を目指した。しかしあのアリアは己の権力欲のためだけに、乱す者と手を組み、都市を危険に晒し、兵士達を死地へと追いやり、その罪を木村元市長に着せた、最悪のペテン師だ。それどころか乱す者の幹部を色香でたぶらかすという、はしたない真似までした形跡すらある』
うわー……意趣返しにしても、ここまでやるとドン引きだわ。
ふと、殺気を感じ取る俺。つーか殺気どころか、鈴木が呪文唱え始めてる。
「何やってんだい! あんたがここで切れたら、アリアのしようとしたことが台無しじゃないかいっ!」
ランダが怒鳴り、鈴木が呪文を中断した。つーか、ランダの声がでかすぎて、壇上のブラッシが一瞬こっち向いたのがウケる。
「うぐぐぐ……わかっている。わかってはいるけど、あいつ殺したい。うぐぐ……」
「殺すのは不味いが、キレてもいいと思うぞ」
俺が静かに言い放ち、スケッチブックと鉛筆を呼び出す。正直俺もキレた。
アリアも木村を貶めて罪を捏造するという下劣な行為を行ったので、ある程度は我慢していたが、これ以上は我慢の限界だ。
「目立つことになるが、全員協力してもらうぞ」
スケッチブックに、演壇の前方上空に透明の板を描き、そのうえに俺ら七人が立っている様を描く。で、発動、と。ついでに俺はマイクを持った状態で、俺のマイクも電波に割り込みして放送されるように設定、と。
『なあっ!?』
いきなり前方上空に七人の男女が出現し、ブラッシは素っ頓狂な声をあげた。
『よー、随分好き勝手言ってくれてるじゃねーか』
ブラッシを睨みつけ、マイクを手に取って俺が話しだす。よし、ちゃんと音出てるな。
『何者だ!? お前達は!』
『ラクチャのじっちゃんが言っていた奇跡の絵描きと、その愉快な仲間達だ。アリア派の残党とも言うな』
「おい、本当にいいのかこれ? アリアの計画無茶苦茶にならねーか?」
滝澤がマイクに入らないよう、声を潜めて尋ねてくる。
「いーんだよ。そもそもあいつだって俺達に手の内見せなかったし、結構行き当たりばったりっぽいから、俺らも俺らで好きなようにやっちまおう」
「俺らじゃなくて、あなたが……じゃない」
鈴木が突っこむが、俺は無視した。
『山本啓一郎はすでに捕縛済みだ。乱す者もお前らを見捨てた』
淡々と告げた俺の言葉に、ブラッシは犬面を青くする。やっぱり知らなかったか。
『乱す者はお前らにつく気は最初から無かったけどな。障害となるアリアさえ引きずり降ろし、名ばかりの和睦を結んで時間を稼ぎ、力を貯めたらまた攻めこむ気でいたが、お前らみたいな無能じゃあ、その時間稼ぎさえもうまくできないと判断して見限ったよ』
嘘は言ってない――と思う。脇坂はきっとそういう判断だろう。うん。多分。
『う……嘘だ……』
『嘘だと思うなら、さっさと乱す者のお偉いさんをここに呼び寄せたらどうだ? それと山本は? ま、どっちも来るわけが無いさ。俺の言ったことこそが真実なんだからな。つまり、乱す者との戦争は今後も続くってことだ』
あからさまにたじろぐブラッシと、堂々たる態度で喋る俺を見比べて、さらに俺が口にした内容を聞いて、聴衆達がさらにざわつく。どちらが嘘を語り、どちらが真実を語っているかは、一目瞭然の構図だ。そもそもブラッシの演説自体に現実味が無かったしな。
『言っておくが、お前が新市長になるってんなら、この奇跡の絵描きの新居太郎様は、一切力を貸さないぞ。つーか、葉隠市から出て行くわ。無能に仕える気は無い。頑張って乱す者と戦ってくれ』
最早冷淡といっていいほどの口調で、トドメをさす俺。ブラッシは今にもその場にへたりこみそうなほどの動揺っぷり。つーかね、こんな小物がよくアリアに楯突いて市長の座に就こうとしたもんだよ。そこがちょっと不思議でもある。大した度胸も無さそうだし。
「ブラッシさんっ!」
演壇に手下が血相を変えて駆け寄ってくる。
「姿をくらましていたアリア派の議員が全員、市庁舎内部に現れました。アリアもいます!」
『はあっ!?』
おいおい、その素っ頓狂な声はマイクの音声に入ってるぞ。なんつー無様さだ。
『姿をくらましていたアリア及び、アリアのパンモロ拝むのが好きな議員が全員、市庁舎内部に現れましたー。アリアもいますー、だってさ』
報告の内容を俺がマイクで復唱し、葉隠市中に伝えてやる。あー、俺って親切だなー。
「し、しかも、旧木村派議員が捕縛されています。反アリア派の構成員も大半が捕縛されてしまいました」
『旧木村派議員が捕縛されていますー。反アリア派の構成員も大半が捕縛されてしまいましたー。だってさ。よーするにアリアは死んだと見せかけて、反アリア勢力を表におびき出して、そこで御用とするつもりだったんだよ』
それだけ言うと俺はマイクを捨て、スケッチブックと鉛筆を手に取る。やることは決まっている。
絵の奇跡発動。ブラッシと報告に来た手下が拘束されて転がる。背後にいる滝澤やランダを一瞥し、転がっている二人を指す。滝澤、ランダが透明の板から演壇に飛び降りて、拘束された二人を担ぎ上げる。
再びマイクを手にとってカメラの方に向くと、俺はこう叫んで締めくくった。
『これにて、一件落着!』
よし、決まった。BGMが欲しい所だぜ。ちゃーらぁららー、らららららぁららー。
「私達はここに上がる必要なかったんじゃないの? ランダ達はともかくとして」
セラが言った。
「いや、部下を何人も引き連れているように見せた方が、絵としてはインパクトあると思うぜ。その中には顔の広いディーグルだっているしな」
と、俺。
「それよりも俺達の働き自体が何だったんだと問いたいわ。アリアが死を偽装して敵を一網打尽にする予定だったなら、俺らの働きは微妙じゃん」
「そんなことはないわっ。私達はきっと重要な役割を担った。きっとルヴィーグア様がそれを今から教えてくれる。きっとよ」
「奴等を弱体化するための間引き、気を引くための囮、もしもの時のための保険。この程度だろ。あー気にくわねー。絶対アリアに文句言ってやる。あの薄い胸揉みまくりながらな」
そして誰も何も言わないが、これは俺しか気がついていないのか?
「一つ、大きな矛盾と謎が出来たな」
「ええ」
「ですね。私達を白傘区で襲撃するように指示したのは何者でしょうか」
「ブラッシが、山本が捕縛さレし事を知ラぬは妙也」
俺の言葉に、セラ、ディーグル、ゴージンが一斉に反応する。
「皆も気がついていたか。鈴木は?」
「何のことよ……」
こいつわりと頭の回転鈍いんだな。魔法使いのくせして。
「俺達が白傘区で襲撃されたのは、俺達の存在に気がついたブラッシの指示だと思っていたら、ブラッシは山本が捕縛された事すら知らなかった。つまりブラッシではない別の誰かってことだ」
「誰なのよ、そいつは……」
鈴木が問う。
「わからないけど、おかしな話だ。何者かは確実に俺達の動きを知っていて、俺達を襲撃した。普通に考えれば脇坂の可能性が高いけど、あいつはそういうことしそうなタイプでもないしなあ」
俺らの中に裏切り者がいる……ってのは、いくらなんでも有りえんな。そんなことして何の得があるってんだ。この中にアリアを憎むあまり、己の身を危険に晒してまで、暗殺者に襲わせるような真似をする奴がいるなんて、流石に想像しがたい。
と、そこでようやくアリア登場。聴衆がどよめく。
演壇の方にやってきたので、俺らも空中の板から下りる。つーか、この板も消しておかないとな。
アリアが俺ににっこりと微笑んだ。まるでよくやったと言わんばかりに。
対して俺は、思いっきり変顔してアリアに向かって中指をおっ立てておいた。面食らうアリア。こいつ、何で俺が怒っているのかわからんのか?
***
あの後、アリアがまたくだらない演説を始めたが、大して重要なことは言わなかった。ただのおびき出し作戦でしたー程度のことと、反アリア派の行為への苛烈な批判だけ。
正直聞いても時間の無駄だったと思う。まだケリはついてないっつーのに、アリアはもう全部ケリがついたと思っているような言い草だし。
俺は従者ズと共に、捕縛されたブラッシの元へと訪れた。どうしてもこいつに聞きたいことがある。
「糞っ、あいつの掌で踊らされていたなんて……。木村さんの仇を討ちたかったのに……。あいつは木村さんを殺したうえにあることないこと罪を着せて貶めた。あまりにも木村さんが報われない。断じて許せん!」
俺を前にして、無念と怒りを露にするブラッシ。
「別にアリアが木村を殺したわけじゃないし。捏造の件は俺も知ってるし、それに関してはすでに俺が仇を取っておいた。木村もきっと満足するような形でな」
「仇だと? アリアの子飼いのお前が?」
意外そうに俺を見るブラッシ。
「絵の奇跡で巨大ウンコを出して、その下敷きにした。その後で30分ほど巨大洗濯機の中で回してやった。それでもなお不満か?」
俺の言葉に、ブラッシがわんこマウスをあんぐりと開ける。
「嘘だと思うなら本人に聞いてみろ。いや、ここにいるディーグルも見ていたぞ」
「太郎は中々拷問が達者であルな」
本気で感心している様子のゴージン。
「それより聞きたいことがある。俺達はお前が、山本らが捕縛されたことを知っていて、逃げたのかと思っていた。でも山本達が捕縛されたことをお前は知らなかった。なのにそれを知っていたかのように、二つのアジトが空だったし、俺らを待ち構えて襲撃まであった。お前以外にも司令塔となる人物がいるのか?」
「私は昨夜ずっと中央区にいたし、拠点の二つが空なのも当然だ。配下の多くも中央区にいたからな。だが襲撃とは何のことだ?」
ただ単に留守だっただけか。だが襲撃の理由は、やはり説明がつかない。
「何者かが俺達の動きを読んでいた。二つのアジトを制圧し、山本達を捕縛したことを知っていた。で、白傘区のカルペディエム暗殺教団がアジトに張り込んでいたんだ。あの暗殺教団をお前以外に動かせる奴を教えろ。いるんだろ」
「海藤草一郎という名の男だ。彼がカルペディエム暗殺教団を手配するように薦め、彼等に依頼していた。我々をまとめあげ、計画を練っていたのも全て彼だ。不思議な男だよ。アリアのやり方に反対する思想の持ち主であるとは口にしていたが、素性はよくわからん」
実はそいつが黒幕ってか? しかし一体何のために反アリア派をまとめあげたのだろう。
「よくそんな素性のわからない男の話にのったもんだな……」
「彼の言葉にはいちいち説得力があったし、組織を作る力や手際も中々のもので、その行動力は大したものだった。それらに牽引されていたと言える」
「ふむ……で、自分は表には出ず、陰から全てを操る感じですか」
ディーグルが言う。
ただの反アリア思想の持ち主なのか? それとも、反アリア派を操って別の何かを企んでいたのか? 独断で俺達を襲撃し、俺達の動きをブラッシにも報告をしなかったことを考えると、
後者な気がするぜ。
「捕らえられた反アリア派にそいつがいるかどうか確認しよう」
俺が言ったが、もし後者であるのなら、そいつが捕らえられていることは有りえんだろう。とっくに見切りをつけて逃げているはずだ。
むしろ後者である方が助かる。前者であるなら、またそいつによってアリアが狙われ続けるんだからな。
***
結局、反アリア派の黒幕とも言える海藤草一郎なる男は、捕らえられてはいなかった。やっぱりすでに逃げていたか。
で、俺は一段落ついたアリアの元へと赴く。今回共に戦った六人の仲間と共に。
市長室の前に立って、ノックをしようとするディーグルを押しのけて、俺はドアを蹴り開けて中に入る。俺の行いを目の当たりにして、ディーグルゴージンランダ鈴木セラ滝澤が後ろで三点リーダー出して呆然としているような気がしたが、気にしない。
「おっ、来た来た。随分お怒りのようだな」
お怒りの俺を笑顔で迎えるアリア。
「お前は俺が何で怒ってるのか、わかってないのか?」
「いや、さっき見て考えて大体わかったよ」
「敵を騙すからには味方からって言うが、そういうのは他に手のうちようがなくなってからやれよ。命張って戦う者に対して失礼じゃないか?」
俺の問いかけに対し、アリアは困ったような顔になる。
「アリアのやり方はそりゃ褒められたもんじゃないけど、そこまで怒ることもないんじゃないかい?」
ランダがなだめる。
「厳しいこと言うけどね。そもそもあたし達は戦うのが仕事だよ。命令の内容なんて兵士はいちいち知らなくてもいい。言われたことを体張ってするもんだ。そこで怒るのは筋違いってもんだよ」
ランダにしては柔らかい口調だったが、いや、だからこそ俺は言葉に詰まる。ふぁっく、反論できん……
「そうですよー。太郎さんは甘いんですよ。まあ、兵士になって日が浅いから仕方無いとも言えますが、この辺りは見た目通りのお子様ですよね」
物凄く小気味良さそうな口調で、ランダの言葉に便乗するディーグル。この野郎……
「浅くもねーけどな。ああ、俺が甘かったよ。俺が個人的に勝手にアリアに仲間意識持って、それでこんな扱いされたことに一人で腹立てたんだよっ。悪いかっ」
いじけた口調で俺。もっとも腹立てている理由は、それだけじゃないんだけどな。
「あんたの言うことはわかった。ちょっと皆席を外してくれ。こいつとサシで話したい。連絡事項も特にないしな。作戦の遂行は御苦労だった」
アリアの発言に、一同に微妙な空気が流れるも、素直に従って退席する。
で、市長室に残されるは俺とアリアの二人。
不意にアリアが身をかがめて中腰になる。
「ほれ、これでどーだ? あんたでも殴りやすいだろ。機嫌を損ねたってんなら、思いっきり殴っていいぞ」
ニヤニヤと笑いながら挑発気味に言うアリア。はっ、そうきたか。
俺は無造作にアリアに向かって歩み寄る。アリアはその様子を笑顔でじっと眺めている。
アリアの間近まで迫ったところで、俺はアリアに飛びつき、首根っこにぶらさがるかのようにして抱きついた。
「馬鹿ったれが。心配させやがって」
耳元で優しい声音で囁いてやる。
「何だよ……。殴られるよりこっちの方が堪えるぜ……」
アリアがそう言って俺の体を力いっぱい抱き返す。
「怒ってる理由ってそれだったのかよ」
「鈴木がすぐに教えてくれたけど、それでも一瞬だけガーンってなったし、それだけでも十分に腹立った」
俺の言葉を受け、アリアの手にさらに力がこもる。
「鈴木以外で、誰かに真剣に心配されたことなんて無いから、どうにも照れくさいね」
「お前が俺のこと気に入ってくれているように、俺もお前のこと気に入ってるからな」
臆面も無く言ってやる。今がいい機会だしな。
「この体じゃなかったら、ここぞとばかりに押し倒してHしまくってやる所なんだけどなー」
自虐もこめて言う俺。俺が呪われた時にこいつが見舞いに来た際、俺が大人ならどうこう言ってたから、こいつだってまんざらじゃないと思うんだが。
「んー、そいつは無理かなー。たとえあんたが大人でもさ」
が、アリアのその台詞にがっかりする。いや、愕然とした。俺に気があるんじゃないかと思っていたのは、俺一人の思い込みだったのかーっ!?
「理由を見せてやんよ」
アリアが俺から離れて、いきなりスカートの中に手を突っ込み、パンツを脱ぎだす。おいおい……
さらにスカートをめくりあげて俺に中を見せる。何だこの痴女はーっと思ったのは一瞬だけ。露になった下腹部を見て、俺は固まった。
何も無い……。つるんとした素肌だけ。毛も生えていない。
いや、全く何も無いわけではない。尿道口っぽいものだけは一応あるが……排泄の無いこの世界では意味が無いな。
こういう身体的欠陥を持つ女性がいるってことは、聞いたことはあるが、冥府に来てまでそれが残ってしまっているのか?
「お前、死ぬ前もこんな体で、死んだ後もこうなのか?」
聞いた話によると、下界で障害などを持っていた者は、こちらに来れば大抵健常者になっているらしい。だが下界で障害を気にしていなかった者は、生誕してもそのままというケースもあるとか。
「さーねー。覚えてないよ。私、記憶が無いから」
あっけらかんとした顔でアリア。
「気がついたら、シリンやディーグル達が側にいた。あいつらがまだ冒険者していた頃な。ディーグルは仲間からデッドと呼ばれていた頃さ。あいつらは私が記憶失う前の事とか、何かいろいろ知ってそうなんだけどさあ、誰も口にしようとしないし、どうもろくでもなさそうなことだから、私も聞くのが躊躇われてね」
「何でこんな話を俺に? いや、何でそれを見せた?」
俺の問いに、アリアは何故か寂しそうに微笑み、俺の手をとって強く握る。
「ある意味同じだろ? あんたと私はさ。肉体的には繋がれない同士って奴だ」
いや、お前はその気になれば別の穴使えるじゃん……と思ったけど、流石にそんなこと言ってムードをブチ壊しにはしない。
俺が絵で描いて作ることもできるけど……本人どうでもよさそうだしな。迂闊なこと言わないでおこう。
「それだけじゃない。会った時から何となく感じてたんだ。ああ、こいつ私とよく似てるな。似たモン同士だなってさ。気に入ってたし、気になってた」
しっとりとした口調で言いながら、ゆっくりと顔を近づけてくるアリア。
「お、俺……一応好きな女いるんだけど。どこにいるか知らないけど、ここに来ているみたいだし。これ以上は浮気になりそ」
相手のほうからアプローチされて、何故か俺はそんなことを口走ってしまう。
「何を今更尻込みしてんだ? つーか何言ってるの? 前にもキスしたし、今こうして手繋いでるし、私の重大な秘密まで見たし、もうこれだけで立派に浮気してるぜ?」
そ、そうなのかなあ……まあ確かに、リザレには見せたくない場面ではある。
「それどころか、ほんの少しでも私に気持ちがあるなら、それだけでもう十分浮気なんじゃない? つーか、先にあんたからアプローチしてきたんじゃないか」
「ま、ハーレム作りたいとか考えていたくらいだし、今更浮気どーこー気にするのもあれだな」
ああ、言っちゃった。でもこいつになら言っても平気な気がした。
「ふむ。ハーレム大いに結構。強い雄が多くのいい雌を独占てのは自然の摂理だし、それでいいじゃんよ」
「お前は俺のこと、一人の男と見なしてくれるのか?」
俺の問いにアリアは言葉では答えず、さらに顔を寄せて、そっとキスをしてくる。
舌は入れず、唇だけでほんの数秒間の感触の確認であったが、顔を離したアリアは、満足そうに無邪気な笑顔になっていた。
「何だかさー、女の子とキスしてるみたいだぜ」
と、思ったらこんなこと言いやがった。むう……やはり男は見なしてくれんのか。
「男の証を確認してくれてもいいんじゃよ?」
冗談めかした俺の言葉に、アリアは遠慮無く股間に手を伸ばして触れてきた。
「本当に確認するなよ……」
「いや、いいって言ったじゃん」
苦笑する俺に、アリアは無邪気な笑顔のまま俺を抱きしめ、もう一度口付けてきた。




