44 脳筋属性は最初から話に加わる気があまり無い
そんなわけで反アリア勢力の奴等をとっちめるメンバー結成。で、ランダ、滝沢、セラ、鈴木の四名が我が家に集結した。
「市役所の屋上に家とか、シュールだな」
滝澤の第一声がそれだった。
「眺めの良さは素晴らしいわね。葉隠を何度も救った神聖騎士の特権といったところかしら」
リビングの窓の外を眺めながらセラが言う。ま、俺の部屋の窓からの眺めは最悪なんですけどね。何しろ貯水タンク。
「じゃあ、わかっている情報をまず伝えるわ」
アリアから送られた資料の束をテーブルの上に広げる。
「敵の首魁は木村の懐刀と言われていた男で、ブラッシというコボルトの男な。元市議だが、アリア就任と共に辞任。さらに木村の元秘書、山本啓一郎も共謀しているらしい」
「ふん、木村派の残党ってことかい。わかりやすいね」
ランダが鼻を鳴らす。
「アリアは木村の死後、木村派の政治家や木村の元秘書等の行動をずっと張っていたんだと。奴等も自分達がチェックされているのを承知して、できるだけ尻尾を見せないようにしていたんだと。で、木村派の残党の怪しい動きは前々からわかっていたが、つい最近、乱す者の幹部である脇坂祐二と接触している所を目撃し、捨ててはおけないとアリアが判断しんだと。アリア子飼いの特殊部隊で急襲をかけたが、取り逃がしたんだと。そんで奴等のあぶりだしも兼ねて、独裁宣言という流れに至ったんだと」
それにしてもまた脇坂か。あいつも懲りないな。次見つかったら捕縛もされず速攻で処分されるって知ってるのかねえ……。乱す者の幹部以上は、皆そういう扱いになる事に決まったのに。
「そんなことのために、独裁者やりだしたっていうのかい?」
呆れるランダ。
「ということは、独裁制度を敷く自体がフェイクの可能性もあるのよね。正直、フェイクであってほしいし、一段落したら撤回してほしいけど」
セラが言うが、アリアの性格を考えると、敵を誘き寄せるためのフェイクのためだけに、独裁者になると言ったわけではないだろうな。
「もちろん独裁宣言をそのためだけに行ったわけがないさ。一つの行動で、多数の効果を狙っている。アリアはそういう奴だ。実際今の葉隠の状況を考えると、あいつが独裁政治かました方がいろいろ都合はいい。独裁ってこと自体に、アレルギー反応持っている奴が多いから、それが最初は問題になるけど、いい政治してればそのうち市民も納得するだろう」
「これで発言ももう少し考えてくれればね」
「全くだよっ」
セラが溜息をつき、ランダも同意する。
「言いたい放題言ってくれちゃって……あんた達に、ルヴィーグア様の何がわかるというのよっ。あの方こそ闇を這いずる者達にとっての光っ、絶望の奈落を蠢く者達にとっての救世主っ、その偉大さが理解できないいなんてどれだけ愚かしいのっ。速やかに死んだ方がいいレベルよおっ」
「その、絶望の奈落を蠢く者とか闇を這いずる者って、お前のことだろ。いや、お前だけだろ」
怒りに声を震わせて喚く鈴木に、俺が突っこむ。
「話を戻すぞ。怪しいと目されている場所は、葉隠市の最西端に位置する青之丘区。逆心を抱いている奴が探知魔法に引っかかったのはここが多い。そのうえ、ブラッシと山元も頻繁にこの地区に足を運んでいるので、可能性はかなり高い。もちろん誘き出して襲ってくるつもりのフェイクの可能性もあるけどな」
とは言ったものの、フェイクなんてことは無いだろうな。わざわざこっちの刺客を誘き出すような理由が無い。
市長サイドの放つ刺客が、アリアにとって有用な駒である奇跡の絵描きであると、奴等が予めわかっているならその価値もあると思うが。
あるいは鈴木もそれに含めていいかもな。性格はともかく、こいつはマジ役に立つし、敵からすれば排除したい対象上位候補だろう。
「しかしいつも思うが、シュールだよなあ。八歳か九歳くらいの見た目女の子が、雁首揃えた大の大人何人も前にして仕切っている構図はさ」
滝澤が微笑みをこぼしながら関係ないことを言い、また話の腰が折られる。
「せめて九歳か十歳にしてほしい」
「丸坊主にすれば女の子と見られずに済みますよ」
俺とディーグルがほぼ同時に言った。やっぱりこいつ……俺のことを……。今後絶対髪切らせたら駄目だな。いつぞやはうっかり切らせちまったが。
「アリア政権が崩れても、すぐにどうこうなるってわけでもないか。そうなれば乱す者は敗戦続きで巻き返しに時間がかかるから、息を吹き返すための猶予を得るというニュアンスが強い。奴等にしてみれば、ここでアリアの独裁政権が樹立してしまい、葉隠の軍事力強化が加速したら、ひとたまりもないから、奴等にとっては瀬戸際って所か」
「いいえ、それは違う。乱す者にしても葉隠にしても、ここが瀬戸際になる。今の葉隠はアリア市長が力の象徴化してしまったから、崩れればこちらもひとたまりもないわ。弱体化の道が待っている」
俺の言葉にセラが異を唱えた。なるほど、そういう可能性もあるか。
「私は彼女が大嫌いだけど、この都市のことは真剣に考えている。反アリア派は自分達のイデオロギーのためだけに、葉隠に住む人達の命を危険に晒そうとしているんだから、こちらは完全に悪と断ずることができるわね」
不快感を通り越して、怒りを滲ませて語るセラ。
「乱す者が干渉している。ここが一番のポイントだと思います」
ディーグルが言った。
「その反アリア派の力は未知数ですが、葉隠にしつこく絡んでいる乱す者の力と性質はよくわかっています。彼等の後ろ盾がある時点で、乱す者との戦いと見なしていいでしょう」
「乱す者と繋がっているうちは、な」
ディーグルの発言を受けて、俺はあることを閃いた。脇坂も絡んでいるというし、うまくいかくもなー。でも今はこいつらの前では黙っておこ。
「乱す者も意地を張りすぎなんだよ。元々駒も足りてないんだし、不利になったらさっさととんずらなり和平交渉なりすればいいのに、そういう方向性にはもっていくことはしないのか?」
「乱す者の集団によるとしか言えません。葉隠を狙っている組織は、難しそうですね。最上級指導者の性格を考えると、和平交渉はしたがらないでしょう」
俺の言葉に、ディーグルはかぶりを振る。
「やっぱり乱す者の過激派はもう、乱す者にとっても不要な存在だろう。どちらも思想の一つとして認め合い、できるだけ干渉避ける形で和解すりゃいいのに。乱す者側からしてもそっちのがいいのにな」
「脱線しているので話を戻しましょう。それと乱す者の立場に立って考える必要はありません。何より、太郎さんはただでさえ乱す者に共感しがちですが、それをここにいる人達の前でも不用意にさらけだすのはどうかと思いますよ?」
厳しい口調でディーグル。目つきも何か怖い。
「いつも思うが、ディーグルは神経質すぎやしないか? 俺が乱す者になって悪さするかもしれないと思っているのか? しねーよ。少なくとも、崇高な理想だの大義だの抱えて、他人に迷惑かけるような真似だけはしねーよ」
しかし俺はひるまずディーグルを見つめ返し、かつ言い返す。
「申し訳ありません。かつての友人が、乱す者になってしまったものでして。彼も太郎さんと同様、元々乱す者寄りの考えが強い傾向にありましたもので」
「シリンのことか?」
「はい。とはいえ彼がおかしくなったのは、懸想していた女性が乱す者の穏健派で、あらぬ罪を着せられて殺された事がきっかけですけれどね」
奴の停まり人への憎悪がただならぬものだった理由はそれか。
「まあいいや……話を戻そう。えーと……何の話だっけ?」
「これからどうするかだけお言いよ」
退屈そうな口調と表情でランダ。
「これから皆で青之丘区に行って、反アリア派のアジト探しだな」
「最初かラそレだけでよかった気もしないでもないゾ」
「全くだよ。うだうだとどうでもいい話ばかりして、これのどこがミーティングなんだい」
ゴージンが突っこみ、ランダが同意する。おのれー、この脳筋コンビめ。ザンキもいれば脳筋トリオか。
「えーっと、その前にまだ打ち合わせもいるんだよ。どうやって調査するかだがな」
ふと思った。何で俺が作戦も考えて、仕切らなくちゃなんねーんだ。ディーグルかセラ辺りがやりゃいいのに。まあ俺も元々リーダー属性あるから、適任と言えば適任だけど。
「その前にまだ伺いたいことがあります。相手のアジトがわったところで、一箇所に集まることを避けようとしている彼等を一網打尽にする策はあるのですか?」
と、ディーグル。
「実際はアジトが見つからなくてもいい。奴等のメンバー一人でも接触すればいいんだ。俺が絵を描けるようにな。しかし理想としては、何人かが一度に集まるであろうアジトを見つけて、複数のメンバーを俺の視界に捉えられるのが理想だ」
「というと?」
俺はスケッチブックを呼び出し、絵を描いて、金属製の小さな虫のようなものを作る
「奴等を一人でも視界に収めた時点で、この虫型受信機を取り付ける。勿論、絵で描いて作り出した奴を個別にな」
問題はこいつを探ることが出来るかどうかだが。つーか、これの話をしようとした所に、ディーグルがいいトスしてくれた。
「うちらの星ではGPSってのがあってな。人工衛星を通じて居場所を特定できるって代物だ。人工衛星は無いから、鈴木の探知魔法でこいつを探ってもらう、と」
「それならただの探知魔法でも十分でしょう。探知魔法にもかからないよう、彼等は魔法でジャミングをかけているのですよ」
ディーグルがまたいいトスしてくれた。それもこれから言おうとしていた所だ。
「奇跡は魔法の上位に位置する存在だ。それを実証するため、鈴木に実験してもらおう」
俺が鈴木に虫型受信機を差し出す。
「鈴木、これを探知魔法で捉えられるか?」
「やってみるわ」
幾つかの魔法を唱える鈴木。探知魔法って一種類じゃないのか。
「なるほど……電波を受信できる機械なのね。これなら可能よ」
うまくいきそうだ。しかし一つどうでもいい疑問が。
「鈴木ってGPS知らないの? 結構ここに来て長いのか?」
「人のプライパシーに土足で踏み込もうとする奴は、苦しんで死ぬべき。そうは思わない?」
「すまんこ。しかし念のためもう少し実験したい。探知魔法のジャミングにもかからないかどうかを知りたい。そうでないと意味無いしな」
鈴木にジャミングの結界を張ってもらったうえで、探知魔法もかけた。奇跡によって生み出されたこの受信機は、魔法のジャミング結界をすり抜けて、鈴木の探知魔法に引っかかる。
「よし、実験成功。これならいけるな」
にやりと笑う俺。
「何やっているのか、さっぱりわからないね」
頬杖をついて、つまらなさそうにランダ。
「ようするに、普通に探知魔法をかけても妨害する結界に阻まれるけれど、太郎が作った虫をつけた相手には、結界の効果を無効化して探知魔法に反応するようになるってことよ。どうしてそうなるかというと、奇跡の方が魔法より強いからっていう理屈ね」
セラが簡潔に説明してくれる。
「そんな奇跡の力があるなら、敵発見装置をてっとり早く描けばいいんじゃないのかい?」
と、ランダ。
「俺の力はそんな万能じゃないし、そういう無茶苦茶はできないの。俺のイメージの領域内にあるものしか実現できないんだよ。ジェット飛空船くらいはできるけど、タイムマシンだの空間転移装置だのは無理」
とは言っても、空間転移自体は絵で可能だがな。視界に収めた範囲内に限るけど。
***
そんなわけで青之丘区とやらに来たわけだが。
葉隠市においてもかなり端っこで、片田舎といった感じだ。町というより村だな。一応は葉隠市内という扱いだけどさ。田畑が多く人家もまばらと、視界良好であるが故、怪しい者がいたら逆に目につきやすい。
そんな場所をアジトに選ぶってのもちょっと変かな。都市内部から離れているのは有利な点ではあるが。
全員固まって行動とか目立つし非合理的なので、二手に分かれて捜索。俺とディーグルとゴージンのいつものトリオ組と、滝澤セラランダ鈴木のあまり嬉しくないハーレム組という分け方。
セラのプビュウとゴージンのエナイトを使い魔交換して、連絡を取り合っている。よってゴージンの肩の上で、エンゼルフィッシュのプビュウが泳いでいる状態。
で、俺ら全員、奇跡の絵の力を用いて変装している。俺はゴブリンの変装。ゴージンはエルフの少女。ディーグルはダークエルフの老人。
ディーグルは注文通り。ゴージンはドワーフになりたいと言ったが、それだと変装ではなく変形になってしまうので却下。まあ、元に戻せるから変形でもいいが、体型まで変えてしまっては、いざという時にまともに戦うことが出来ないのではないかと懸念して。
「聞き込み調査とかもできればいいんだが、聞き込みした相手が反対派の一員でしたとかだったら洒落にならないな」
歩きながら俺が言った。たまにではあるが、農家の人達の姿がちらほらと見受けられる。
「どう見ても地元の農家の人とかでしたら、安全そうではないですかね?」
「そう見せかけて……ていう可能性もあるだろ」
口にしてから、しょーもないこと言ったと自分でも思った。そこまで疑ったらキリがない。
「しかし聞き込み無しで足だけ使って捜査では、埒が明かないでしょう。鈴木さんの探知魔法も大雑把にしかわからなかったからこそ、こうして我々が出向いているのですから」
「確かにそうだな……」
ディーグルの言うことももっともだと思い、聞き込み捜査を行うことに。
聞き込みはディーグルが請け負った。俺シャイだしねっ。
「ゴブリンらの集合住宅の方に、ここじゃ見かけん人等をよく見かけるよ。しかも使われてない住宅を出入りしているから、ここいらのもんの間じゃちょっとした噂になっているよ」
聞き込み一人目にしていきなりビンゴ。つーか敵が間抜けすぎる。いや、間抜けすぎるからまた、誘き寄せ説が俺の中で強くなってきた。
まあ罠があるにせよ行くしかないので、ゴブリンの集合住宅へと向かう。
地面に掘られた穴と下に続く階段が無数にある。使われていないものとやらはどれだ?
それもそこいらのゴブリンを捕まえて、ディーグルが聞いてくれた。で、あっさりと判明。奥のほうにある一つだけ離れた穴とやらだそうな。
「あれかー。どうしたものかな?」
ぽっかりと穴が開いていて、降りていく階段が見える。中に奴等がいるとしたら……迂闊に入るのも不味い。
「ちょっと離れた所で物陰から様子を伺って、誰か来たら予定通り虫型受信機を――」
話している途中で俺は、明らかにこちらに向かってくる数人組の姿を視界に捉えた。つーか、目が合ってしまった。完全にこちらの姿も向こうに見られている。
うまいことやりすごして、虫型受信機を取り付ければそれで済むか。しかし……こちらに向かってくる数人組み、明らかに俺達を怪しんでいる目つきだ。
「何だ、お前達は」
恫喝するような眼差しと口調で、先頭の人間の男が凄んでくる。下界ではともかく、軍隊生活しだした俺には、微塵も恐怖を感じない。
しかし困ったな。怪しまれるのも騒動を起こすのも不味い。やりすごしたい。
ここの様子は、プビュウの目と耳を通じて伝わっているはずだから、何かあればセラ達もすぐにこっちへやってくるだろうけど。
ああ……待てよ。いいこと思いついた。いちかばちかだ。
「脇坂の使いだが、ブラッシ氏か山本啓一郎氏はいるかな? この辺りと聞いていたんだがね」
凄んできた男を見上げ、俺は尋ねた。




