27 砲撃は引越しの合図
地下室へと避難する三人。地下室は酒やら保存食やらの置き場用途の設計みたいだが、まあ見事に何も無い。空の樽と空の棚ばかりが並んでいる。
避難後も砲撃は物凄い勢いで立て続けに行われている。
「こういう時のために地下に抜け道がありますから、それで脱出しましょう」
棚の一つをズラそうと力をこめるディーグル。
「そんなもんあったのかよ」
棚があっさりと横にスライドし、言った通り、棚があった裏から通路が現れた。
「この館は、葉隠市で要人暗殺が流行った際に作られたものでして。この仕掛けもその時代の名残ですよ。ところで……何故結界を張るのを止めたのです? 地下室に走るまでの間に砲弾の直撃を食らったらどうするつもりだったのです?」
咎めるとか責めるというのではなく、純粋な疑問として、俺に何か目論見があると察した上でディーグルは尋ねているようだ。
「バリアーとか張ったら、奴等も別な手段に訴えてくるかもしれないし、そのまま砲撃やり続けて無反応ならば、こっちがくたばったと油断してくれるかもしれないだろ。まあ、さっさとその抜け道から出よう。奴等が引き上げる前に、場所を突き止めて捕縛したい」
俺の答えに、ディーグルは感心したように不敵に笑った。
これは俺だからこその発想だ。俺を守護するのが役目のディーグルやゴージンは、例え同じことを考えても実行はできないだろう。主を危険に晒すより、守ることが優先なのだからな。
「歩きながら話すぞ」
明かりの魔法を唱えて前方を照らし、先に抜け道の中へと入る俺。
「抜け道を出たらすぐにレンティスを呼び出し、俺ら三人を乗せて飛ばせ。空から奴等の位置を探る。砲弾が連続で撃ちこまれてる所を見ると、大砲の数は一つや二つではない。そしてそんな数の大砲を町中に持ち込んでおけるとしたら、場所も限られてくる。館の近くに、丘や林なんかの人気のつかない場所が幾つかあるよな? おそらくはその辺りだ」
「了解しました」
一箇所から撃っているわけではなく、数箇所から撃っている可能性もあるが、それならそれで虱潰しにしていけばいい。
しばらく進むと、砲撃の音が聞こえなくなった。終わったのか、それとも離れたせいで音が届かなくなったのか。
「何発くらい撃ちこまれたんだろうなあ」
歩きながら何の気なしに言う俺。
「数えていただけでも四十九発。抜け道に入ってから逃れた後はわかりません」
つーか途中まで数えてたのかよ。数える意味も不明だが。
「奴等本当にやること徹底してるな……」
誰の仕業かなど明白だ。乱す者だろう。七節戦線のこともあるし、奴等よほど俺が目障りらしい。手段選ばず本気で殺しにかかってきている感が凄い。
「結構歩くなあ。何でこんなに長いんだろ」
「急襲さレて抜け道に逃げ込んだとして、すぐ近くに出たのでは危なかロう」
俺のぼやきに、ゴージンが突っ込む。そりゃそうか。
「太郎は頭がいいのか悪いのかわかラぬな」
「回転はよいのですが、たまに詰まったり空回りしたりするタイプですよ。たまに鋭いけど、わりと抜けている」
後ろで好き勝手言ってくれる従者二人。
しかしあの家は結構住み心地良くて気に入ってたのになあ。乱す者共め。ふぁっくー。
次の住まいはアリアにお願いして、もっといい所に奮発してもらうとして、あの家はあの家で、短い間といえど、結構思い入れあったのになあ。それがブチ壊しにされたのは悲しい。
……って、よく考えたら、俺の絵の力で復元できるじゃないか。画板と筆使う方でな。
復元させるとしても、同じ場所だとまた襲われそうだし、どこか安全な場所は――と。うん、いい所があるな。あそこにしよう。
やがて突き当たりと、上へと出るはしごが見える。
「ついに我々探索隊は、洞窟の最深部に行き着いたのであったっ」
俺が某K探検隊のナレーション口調で冗談をとばしても、二人ともノーリアクション。くっ……日本人ならきっと笑っただろうに。
はしごを上って、蓋についているハンドルを回そうとしたが……硬くて動かないっ。子供の力じゃ無理っ。
「ディーグル、頼むわ。俺じゃ動かん」
「もう一度試してみてください。多分開きます」
ディーグルが言った。つまりこの蓋はロックされていて、下から開くように出来ており、そのロックを下から外したのか。
ハンドルがあっさりと回る。ギィィッという金属チックな高い音と共に蓋が開かれる。
「だっしゅー……つ」
外へ出て、俺は固まった。
こんな洋画のギャグシーンみたいな展開が、実際に起こるとは思わんかった。出た所は林の中で、俺ん家を砲撃していた乱す者達がいやがるの。二十人くらい? いや、それ以上だな。
んで、そこら中に大砲いっぱい設置していやがるの。すでに撃ってはいないみたいだがな。撃っていたら音でわかる。
気付いていないのが幸いだが、それも時間の問題。つーか、何でよりによって俺が先行してしまったのかっ。抜け道なんだし、その先は絶対安全だと頭から信じて疑っていない三人組だった。
「ディーグル……おい、ディーグル……早く来いよ」
はしごの下の抜け道に向かって頭を突っ込んで声をかける。するとゴージンの顔がドアップで俺の顔に迫った。
「ディーグルではなくてすまぬ」
「いや、お前でも全然ノープロだから、早く出てきて……」
乱す者達の背後に出たとはいえ、いつ気付かれるかわかったもんじゃない。
ゴージンが出てくる。これで安心。俺はスケッチブックを取り出し、奴等を拘束している絵を描きだした、ちょうどその時――
「ん……? お、お前はっ!」
丁度奴等の一人が振り返り、声をあげた。それに反応し、他の奴等も一斉に振り返り、俺とゴージンの姿を確認する。あちゃー……
最初に俺を見つけた奴が銃を撃ってきた。狙いは俺の手。鉛筆を持つ手を撃たれ、思わず鉛筆を消してしまう俺。
「奇跡の絵描きがこんな所に!」
「あいつに絵を描かせるな! 撃て撃て!」
乱す者達の何人かが銃を取り出して俺に狙いをつける。こりゃヤバい。いや、俺もペインに強い方だし、そう簡単には死なないだろうけど、敵の数が多すぎるし、あまり何発も食らったらその保障も無い。
続けざまに銃が撃たれる。それとほとんど同時にゴージンが俺に覆いかぶさり、代わりに銃弾を受ける。何発かが貫通して俺の体も貫く。
「ゴージン、その守り方じゃ駄目だ。俺が押さえ込まれた状態で、手が動かせなくて絵が描けない……」
俺が言ったその直後、ディーグルが地下から勢いよく飛び出してきた。
銃弾が飛び交う中、ディーグルは仁王立ちで呪文の詠唱を行っている。
「黒髑髏の舞踏」
ディーグルが呪文を完成させたその時、周囲一面が夥しい数の人骨によって埋め尽くされた。誇張ではない。通勤ラッシュレベルで、周囲が骸骨だらけになった。
しかもその骸骨ときたら、全て真っ黒なうえにつやつやと黒光りしている。
おまけに何かしら服を着ていて、その服装に統一性が全く無い。ファンタジー風衣装もいれば、肩衣袴のお侍様もいるし、王様っぽいゴージャスな服、ジャージ、チャイナ服、乞食のような汚いボロボロの服、特撮の戦隊ものっぽいスーツでヘルメットだけ無しとか、何でこんなにカオスなんだ。
俺やゴージンも驚いているが、突然自分達の周りを骸骨で埋め尽くされた乱す者達も驚いているし、それ以上に驚愕と脅威と恐怖を覚えているだろう。何しろこの骸骨の群れは、敵の術によって呼び出された物なのだ。
恐怖は二秒程で現実のものとなった。黒い骸骨集団は弾かれたように一斉に動き出し、乱す者達に襲いかかった。逃げ場は無い。ここいらの林一帯が何百もいそうなほどの黒い骸骨らであふれかえっている。
骸骨らの攻撃も凄惨かつ熾烈な代物だった。噛み付き、殴り、腕の骨を折りながら突き刺し、自分の体の骨を折ってそれで突き刺し、と。
一つ一つなら軽症で済むかもしれないが、波のように次々と押し寄せてくる骸骨集団が、次々にそれを行い続けているのである。そこかしこで乱す者達が断末魔の悲鳴をあげている。この世の地獄のような光景だ。いや、ディーグルがこの場に地獄を生み出したようなものか。
やがて骸骨らは消えていった。後には乱す者達の痕跡である服だけが残っている。一人残らず、彼等にとって居心地の悪いこの天国から解放され、刺激に満ちた地獄へと旅立った。
「殺すこともなかったのに。俺が無力化できたのに」
生誕初日に百人以上は殺した俺が言っても説得力無いかもだが。
「ええ、わかっています。しかし主を殺そうとした罪に、罰を与えたかったのでね。極めて私的な感情で、憂さ晴らしも兼ねて殺害させていただきました。申し訳ありません」
厳かな口調で堂々と言ってのけると、ディーグルは頭を垂れる。こいつにもそういう感情があるのか。ちょっと意外。
「ディーグルが頭を下げル事など無かロう。太郎よ、あの状況にてディーグルは最善の動きをしたゾ。殺生を好まぬ気持ちは我とて同じであルが、主を守ルために尽くした者に、そのような台詞を口にするのは不適切也」
ゴージン、明らかに俺を責める口調。うーん……確かにその通りだ。
「ディーグル、おかしなこと口にして悪かった。すまんこ」
俺はディーグルのほうに向かって素直に頭を下げて謝罪した。
「気にしないでください。太郎さんの優しさ故に思わず出た言葉でしょうし、例え敵とはいえ、君がなるべく殺したくはないという気持ちもわかっていますから」
柔らかな口調で言いながら、深々と下げた俺の頭を優しく撫でるディーグル。
「でも一つお伺いしたいことはありますね。あの状況でどうやって私は彼等を殺すことなく、太郎さんに安全に絵を描いていただくようにできたというのでしょうか? その方法があったうえで咎めるというのなら、わかるのですけどね」
柔らかな口調で言いながら、俺の頭に指を立てて力をこめて乱暴にもみ始めるディーグル。この野郎……。
「さて、これからどうしましょうか? 先日のテロ騒ぎで警戒されている中、堂々とこのような過激な手段を用いてくるとあっては、どこかに引越ししたとしても、また同じようなことをされかねませんよ」
「それに関してはもう考えてある。一番安全な引越し場所をな」
頭を上げてディーグルの手を振り払い、俺は歩き出した。
歩きだしてすぐ、足を止めた。
「今日はもう疲れたから空飛んでいこうぜ。レンティス呼んでくれよ」
つーかレンティス出さなくても、俺が空飛ぶ乗り物とか絵で描いて出して、それで飛ぶこともできるんだけどね。それでは味気ないし、せっかくだからレンティスで空のドライブ楽しみたい。
「了解です」
俺の要求に答え、札を取り出してレンティスを呼び出すディーグル。おお、相変わらず見事な女体っぷりだ。もちろんそれだけではなく、全てにおいて美しい。俺のアルーだって負けてはないけどなっ。
「つーか移動にレンティス使わないでいつも歩いているのは、健康のために歩いた方がいいとか、そういうこと?」
「ええ、それもありますし、レンティスには悪いですが私は歩くのが好きでしてね。たまに飛行を楽しむこともありますし、必要とあれば呼び出すのも躊躇いませんが」
なるほどなー。
***
そんなわけで市庁舎に来たわけだが。
「そんなわけで今日からここに住みたいわけだが。ここなら乱す者もそうそうテロることできなさそうだしな」
アリアに全ての事情を話し、最後に要望を述べた。
「んー、まあそいつはいいんだけどさー」
アリアが俺を半眼で見ている。何故かここに来た時からずっとそうだ。何か俺に言いたげというか。
「どうかしたのかよ。言いたいことあったらはっきり言ってくれよ」
俺の方から促す。
「あんたやっぱり、そういう趣味があったわけ?」
「へ? 何が?」
「その服、どう見ても女モンじゃんよ……」
ああ……それでか。自分でもすっかり忘れてたぜ。確かに上衣はゴージンと一緒に買ったあの服だ。特に水色にチュニックは完全に女の子用のものだ。
んー、どうしよう。迂闊な答えはできんぞ。せっかくゴージンが買ってくれた服なのだし。しかしちゃんと言い訳しとかないと、アリアに女装癖あると思われてしまうし、それもちょっとなあ。
「太郎さんは普通の人と相当感覚ズレていますしね。仕方ありません」
ディーグルがフォローの振りした嫌味を言う。つーか今の台詞で、何故かデジャヴに似た感覚が……
ていうかね、ディーグルの今の台詞はゴージンを侮辱しているようなものだから、早急にフォローする必要があるな。
「別に女装癖は無いけど、俺に似合うからいいだろう? ここにいるゴージンが俺のために目利きしてくれた服だし、俺は気に入っているから着ているんだ」
よし、最高の答えを返した。俺偉い。これならゴージンの顔も立てられるし、アリアに変な目でも見られないだろう。
ついでにディーグルへの当てつけも兼ねている。横目でちらりとディーグルを見ると、バツが悪そうな顔をしている。ふぁっきんざまー。
「つーか、自分は市長に全く相応しくない露出度高すぎる服来て、しかも映像でパンツモロ出しにしているくせに、人の服装にケチつけるんじゃねーよ」
さらについでに、言いたいことはっきりと言ってやった。俺偉い。アリアは憮然とした顔になっている。
「その言葉は余計ゾ。太郎とてアリアの服装を罵っていルことになルであロう」
ところが速攻でゴージンにたしなめられてしまった。ぐぬぬ……
「しかしせっかく気に入ってくレた服も、破レてしまっていルな」
と、ゴージン。さっきの爆風でか。すっかり失念していた。
「大丈夫」
鉛筆とスケッチブックを呼び出し、ちょちょいのちょいと書いて、と。書いた紙が光ってー、宙に浮いてー、はい、破れた服も元通り、と。
「ひゅー、相変わらず凄い力だねえ、それ」
口笛を吹いて感心するアリア。
「で、砲撃で壊された家も元通りにするから、屋上に案内してくれ」
「まさか屋上に住む気か?」
「屋上以外に元の家を再現できる場所無いじゃん。それともここの市庁舎は屋上に子供用遊園地でも作ってあるのか?」
「いいけどさ。貯水タンクがあったはずだから、そいつは残してくれよ。案内は部下にやらせるわ」
おっけーでた。つーわけで、今日から市庁舎屋上で暮らすぜー。
***
画板(水彩紙)と筆で、今まで住んでいた館を市庁舎屋上に再現したはいいが、水道の問題があった。まあそれは、市庁舎のを拝借させてもらおう。
ただし、完全再現ともいかなかった。貯水タンクのスペースだけは空けておかないといけなかったからだ。運が悪いことに俺の部屋だった。まあ、俺の部屋だけ二階に増設して解決したけどな。
ついでに、乱す者が空から攻撃してくることも考えて、対空ミサイルなども設置しておいた。十五階建てビルの上から葉隠市中央区を一望できるし、我が家も贅沢にパワーアップしたもんだぜ。




