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26 ティーセレモニー

 結局五日目の朝には呪いは解けていた。


 ラクチャの所に耳なし芳一になりに行くのも一回で済んだし、予想していたよりかなり早く呪いが解けたようだ。これも皆の献身的な介護のおかげか。ありがたやありがたや。

 厳密には呪いが解かれたというより、あれやれこやいろいろして呪いを破ったという形なので、あのふぁっきん狼に呪いが撥ね返ったはずだ。呪いってのはこの世界でもそういうものなんだと。


「フェンリルって、俺の呪いが解かれる事を考えていなかったのかねえ」


 すっかり元気になって、自分で朝食を作りながら俺は何の気無しに言う。今頃あの糞狼が俺と同じ苦しみを味わっているかと思うと、スカッとするねっ。


「恐ラく考慮せず。彼奴はそういう奴ゾ」


 フェンリルといろいろ因縁がありそうなゴージンが言った。

 俺の体も後遺症など全く無く正常に動くようだし、早速次の任務――ではない。今日は祝日なので、第十八部隊はお休みだ。


「というわけで、今日は太郎さんとゴージンさんには、私の趣味に付き合っていただきます」


 食卓に三人揃ったところで、ディーグルが笑顔でそんなことをぬかした。


「何の脈絡もなく、そんなこと言われてもなあ」

「伺いも立てず断定とはこレ如何に」


 微妙な表情で顔を見合わせる、俺とゴージン。


「えっとですね……。その……私、太郎さんの従者になってからというもの、全く休暇が無いのですよねえ……」

「ゴージンがいるから、お前は一人で遊んできていいぞ」


 一転して言いにくそうに喋りだすディーグルに、俺が有難い言葉を浴びせてやる。


「それならそれでよいのですが、せっかくですから御二人にも、私の趣味に付き合ってほしいかなーなんて、思ってみちゃったりしたわけです、はい」


 柄にもなく照れくさそうな表情になるディーグル。誘うのが恥ずかしいような趣味なのか? あるいはこいつのイメージとは全く外れた趣味とか。


「面白そうではあルが、その趣味とは何ゾ? 先ずそレを語ルべきであロう」

「茶道です」


 うつむき加減になって小声でぽつりと答えるディーグル。


「別にそれ、恥ずかしがる趣味でもないだろ。何でそんなに躊躇ってるんだよ」


 と、俺。むしろ立派な趣味じゃないかと。そもそも自分の趣味を恥ずかしがっちゃいかんぜ。俺なんか「趣味は?」と人に尋ねられたら、堂々と「漫画とゲーム」と答えてたし。


「柄では無いとからかわれるのが怖くて……。私にしてみれば、とても思い入れのある趣味ですし」


 なるほど、気持ちはわかる。


「とはいえ、それに俺らが付き合うってのはちょっとなあ。作法とかいろいろ知っておかないといけないんだろ? 全く知らない俺らを連れていってどうする気だよ」

「実はすでに私が懇意にしている先生に話をつけております。友人を連れていくので、一日体験させてはいただけぬかと。先生は喜んで承諾してくださりました」


 用意周到だな……こいつ。


「初めての人が作法を知らないのは当然ですし、前もって初心者とわかっていれば問題はありませんよ」

「我は興味あル。是非とも行こうゾ」


 ゴージンがディーグルに向かって微笑みかけ、話にのった。ゴージンいい奴。つーか何する所かわかっているのかねえ……


「気は進まんが、話のネタくらいにはなるかもしれないから、付き合ってやる」


 一回行って終わりだろうなと確信している。何でディーグルはよりによって俺なんかを誘っているのか。俺にそういうのが合うわけ無いって事ぐらい、わかりそうなもんだがな。


「感謝します。お二人ならそう仰ってくださると信じていました」


 嬉しそうに笑って、ディーグルは頭を下げた。


***


 そんなわけで茶道の教室に来たわけだが。うん、普通の一軒家だな。


「服装、大丈夫なのか? 着物とかじゃなくてもいいわけ?」


 教室の前まで聞くのもどうかと思うが。つーかディーグルが何も言ってない時点で大丈夫なんだろうなと、口にしてから馬鹿な質問したと思った。


「教室によりますが、ここは人それぞれですよ」


 そう言って家の呼び鈴を押すディーグル。


「おや、ディーグルちゃん、お久しぶりぃ」


 嬉しそうに出迎えたのは、二十歳前後の小柄な女性だった。容姿は特に普通だが、笑顔がとても眩しい。一応和服姿である。この人がお茶の先生ぽいな。


「ずっと太郎さんのお守りもとい護衛で来られなかったので」


 わざと言い直したな……


「これが噂の太郎ちゃんね。まあ、こんな可愛い子が神聖騎士として乱す者と戦っているなんて、信じられないわねえ」


 俺ってすっかり葉隠市で知れ渡っているのか。そしてこの先生、見た目こそ若いが中身は相当歳いってから死んだ人だな。喋り方だけでモロにわかる。モロに昭和の女性だわ。

 中へと通される。茶室には小さな入り口から入るのかと思ったら、普通に襖からだった。ちょっと期待してたのにな。


 室内には見知った顔があった。堀内隊長だ。地味な紺色の簡素な和服姿である。


「おや、ディーグル。久しぶりだな」

「ずっと太郎さんのお守りもとい護衛で来られなかったので」


 二度言うな。しかも二度とも訂正入りだ。


「隊長もここに来ていル身であルか?」

「ここが我が家だし、この教室は家内が開いているものだよ」


 ゴージンの問いに、堀内の口から意外な言葉が返ってくる。


「どうも、堀内の家内で小百合と申します。七年前に生誕し、こちらで夫と暮らすようになりました」


 畳の上に両手を揃えてついて、頭を下げる小百合さん。つまり七年前に下界で他界してこっちにきたってわけか。


「我の名はゴージン。隊長には日頃よリ世話になリ候」


 つられてゴージンが同じように畳に手をついて、頭を下げて自己紹介する。俺も正座して軽く頭を下げる。


「隊長が死んだのって結構昔だろ。それなのにこっちに来てから一緒ってことは、ひょっとして奥さん、ずっとその間下界では独り身だったわけ?」


 野暮だとは思うが、聞いてしまう俺。


「ああ……私なんかのために、ずっと寂しい思いをさせてしまったようだ」


 物凄く照れくさそうにそっぽを向いて、堀内は言う。よしよし、このリアクションが見たかった。


「あらやだ。私がずっと独り身だったかどうかなんて、わかりゃしないのに。この人ったら勝手にそう思っていたのかしら」

「えっ!?」


 小百合さんの言葉に、堀内が大口を開けて愕然とした顔になる。堀内のこんな激しいリアクションは始めて見る。


「い、い、い今の……初耳なんだが、わ、私の思い込みだけで実際は他に……お前……」

「さてさて、それはそれとして、せっかく私の教室に初めて来てくれた方もいるのですから」


 わなわなと震えながら問う堀内を華麗にスルーして、小百合さんは部屋の奥にある扉へと引っ込む。

 引っ込んだと思ったらすぐに何かをお盆に載せてもってきた。あ、お菓子か。


「私のやり方を見て習ってくださいね。作法は全て決まっていますから」


 と、ディーグル。予想以上に面倒くさそうだな……

 正座しなおして、お盆をおいてお辞儀する小百合さん。正座して並んでいる俺らも軽く会釈。


「その紙を菓子の前に広げて、その前に菓子を取って持ってくるんだ」


 堀内が指導する。そうする意味は何なのだろう……。いや、作法に意味とか求めても仕方ないんだけどさ。いちいち紙に取らんで直接口の中に放り込めばいいじゃんかよー。

 どうも全ての所作が決まっているようで、ディーグルの動きを必死で追って真似る俺とゴージン。

 堀内の奥さんという事もあり、ほぼ知り合い同士の中での進行ということで、その点では気が楽ではあるが、ディーグルと小百合さんの動きが妙に洗練されているように見えて、自分がぎこちなく変な動きしていないかとか、どうしても意識してしまう。


 柄杓で釜の中からお湯を取ったり、名前の知らない道具でお茶をしゃかしゃかしていたりするのを間近で見るのは、中々に新鮮ではあるが。

 何をするにしてもいちいち会釈し、たまに口上を述べ、くるくる茶碗をまわしてお茶を飲む……。うん、悪いが俺には何が楽しいのかよくわからない。雰囲気を楽しむものなのか? その雰囲気も正直言って……


 小百合さんの気を悪くさせたくはないと思い、早く帰りたいオーラを出さないように必死に努める俺。いくら傍若無人な俺でもこれくらいはわきまえる。小百合さんのような何か一つの道を究めている人の前で、その人の世界の中へと入っておきながら、勝手な振る舞いをするというのは、みっともないどころの話じゃないしな。


 そして何が何だかわからんうちに時間が過ぎていく。


「どうでしたかしら? 初めてのお茶会は?」


 小百合さんがにこにこ微笑みながら聞いてくる。あー……やっと終わったのか。これで楽にしていいのか。


「趣があって楽しかったゾ。作法を学べばよリ楽しそうであルな」


 ゴージンが微笑みながらそんな感想を述べる。社交辞令で言ってるわけではないようだ。おいおい……俺一人孤立ですか……?


「太郎ちゃんは――まだ小さい子にはちょっとキツかったかしらねえ」


 と、俺をいたわる小百合さん。これでも頑張ったんだが、俺がつまらなさそうにしているのを看破していたようだ。


「ちょっと待っててね。もう楽にしていいわよ」


 小百合さんが奥に引っ込み、すぐに戻ってくる。そしてお菓子を大量に俺の前に大量に差し出す。


「頑張っていい子にしていたから、御褒美よ」


 満面に笑みを俺に向ける小百合さん。


「あ、ありがとうございます」


 礼を言ってお菓子を受けとり、作法もへったくれもなく貪りだす俺。いや、もう楽にしていいって許可もらったし、お茶の時間は終わったし、いいよな、うん。


「この礼儀知らずの小僧に、気を悪くされてはいませんか?」


 申し訳なさそうにディーグルが、小百合さんに伺う。


「お前こそ主に対する言葉遣いを学んだらどうなんだ?」


 お菓子を貪るのを止め、険悪な声で突っ込む俺。


「この人の危ない所を救ってくれた命の恩人だっていうのに、気を悪くすることなんてあるわけないじゃない。あなたがいなければ、私はまた独り身になるかもしれなかったのよ」


 堀内を一瞥して、小百合さんは言った。あー、そういえばそうだったな。堀内及び第十八部隊は、全滅一歩手前の大ピンチだったな。

 堀内は決まり悪そうにまたそっぽを向く。ったく、カミさん心配させてまで軍人続けるなんて、罪作りな男だぜ。


 そんなわけでお茶会終了。ディーグルは単に自分が茶道に出たかっただけじゃなく、堀内とその奥さんに俺らを引き合わせたかったんだろうな。そうでなきゃ俺ら連れてこないし。もしかしたら、小百合さんから言われていたのかもしれない。


「ゴージンちゃん、気に入ってもらえてよかったわ。またいらしてください。太郎ちゃんも、お菓子食べに遊びにくるだけでもいいから」


 去り際に愛想よく見送ってもらった。まあ……茶道に付き合わずに、お菓子食うだけなら来てもいいかな。


「ディーグルは堀内とその奥さんと、以前から知り合いだったわけか。俺、今までは前市長の命令でお前が御目付け役になったと思ってたけど、もしかしてお前が自ら志願したんじゃないか? いや、名目上は木村前市長の命でって事なんだろうけどさ」


 歩きながら俺が指摘した。


「お前は堀内を助けた俺の存在を知り、最初に縁ができた第十八部隊にうまいこと引き込めないかと考えていた。そうすればディーグル自身も、第十八部隊の隊員にもなれる。俺とお前、二重の意味で堀内を守ることもできる。結局お前が何もしなくても、俺の方から第十八部隊にすりよっていったけどな」


 隣を歩くディーグルは何も答えない。表情を伺うが、見事なポーカーフェイス。


「で、そのことを自分の口から言う訳ではなく、それとなく俺に気付かせるために、わざわざここに俺を連れてきたってわけか。手の込んだことをするもんだ」

「それまではテロ対策の仕事に単独の遊軍的な立場にいました。いろんなしがらみがあって、そこから抜けるのが難しくてね。太郎さんの存在を機に、こちらへと来たわけです。ええ、確かに利用しました。神聖騎士の御目付け役など、私くらいにしか無理でしょうからね」


 ようやく口を開いたディーグルが、素直にいきさつを認める。


「以前太郎さんが言った通りですよ。私は顔こそ広いですが、付き合い自体は浅く薄いものばかりです。とはいえその浅く薄いしがらみも、容易に断ち切れない性質でした。私はこう見えて、流されやすいタイプでしてね。だからこそ我の権化のような太郎さんに惹かれたのでしょう」

「お主が太郎の従者と成リしは、流さレたに非ず。己の意志であロう。また、あの夫婦を守ル事が至上というわけでもなく」


 ゴージンが口を挟む。


「ええ。きっかけがどうあれ、これまでの自分がどうあれ、今の私は太郎さんの従者ですし、その事に不服も不満もありません。太郎さんという人物に対しては、不服と不満だらけですが」


 何か必ず余計な一言入れてくると思ったら、案の定きたね。うん。


***


 その後俺ら三人は昼食を取り、適当にあれこれ買い物などをした後、ゴージンのために使い魔屋へと向かった。


「何故今まで使い魔を貰わなかったのですか?」


 ディーグルが問うと、


「どんな動物になルか知レていたが故。下界に在リし頃死したペットを思い出し、切なくなルと思って避けていたゾ」


 ゴージンは小さく微笑み、そう答えた。


「然レど、太郎のアルーやディーグルのレンティスを見ルに、羨ましいという想いと、新たな出会いを求めたいという想いが、我の中に沸き起こリしゾ」


 ふっ、俺のアルーは可愛いからな。羨ましがるのも無理はない。

 使い魔屋に入ると、今日はわりと混んでいた。最近死んだ奴が多かったってことか。待合室の椅子も埋まっている。


「時間かかるみたいだから、俺ら外でブラブラしながら待ってるわ」

「承知」


 断りをいれ、ディーグルと俺とで店を出る。


「さて、どんなのが出てくるでしょうかねえ」

「きっと巨大な尻の化け物だろう」

「相変わらず太郎さんの発想は貧困かつ下品ですね。ゴージンさんはそこまで趣味悪くはありませんよ」

「どうかなあ。それに趣味の良し悪しという物差しで計るのは、失礼なんじゃないか? ゴージンの尻へのこだわりは、文化や慣習によって育まれたものなんだから」


 ディーグルと他愛の無い雑談を交わしながら外をブラつき、二十分ほど経過した。


「あ、出てきた」


 店の側に待機させておいたアルーの視界を利用して、俺はゴージンが店から出てきたのを確認して、ディーグルに報告する。


「どんな使い魔ですか?」

「んー、ちょっとこの位置からだと死角で確認できない。小さいのか? ゴージンの掌の上にいるみたいだが」

「戻って拝見させていただきましょう」


 そんなわけで使い魔屋へと戻る二人。

 ゴージンは使い魔屋の壁に寄りかかり、足元にいるアルーと足をつつきあって戯れる一方で、左の掌の上にいる何かピンクの丸っこいものを右手の指先で撫でている。何だ? あれは。


「何それ?」


 間近でゴージンの掌の上にいるものを見て、俺は訝る。見た目は桃に酷似している。体表も桃のそれとそっくり。サイズは普通の桃よりは少し大きい程度。丸っこいが、球体というには下部分がやや大きめだ。

 桃もどきが小さく跳ねて、ゴージンの掌の上で転がった。下部分が露になる。尻だ……


「むう……太郎さんの予想が少しだけ当たっていましたね」


 俺の隣でゴージンの掌の上の桃もどきを覗き込み、ディーグルが唸る。


「これ本当に動物?」


 俺が尋ねる。尻のついた桃にしか見えん。いや、桃の下部分がやたらふくよかで、割れ目がはっきりした桃とでもいうか。


「桃蟲だ。正確には虫ではないが、我の一族と縁深き獣ゾ。愛玩用、労働用、護衛用、食用、様々な種類がいル」


 愛玩と食用はともかくとして、労働用と護衛用がいるってこたー、でっかいのもいるわけか。


「これ食えるの?」

「この種は食用に非ず。そもそも使い魔の時点で食えぬゾ」


 まあ、そうだろうけどなー。俺の言葉に反応して怖がるかのように、ゴージンの掌の上でせわしなくぴょんぴょん跳びはねる桃蟲。しかも跳びながら尻振ってるしー。


「触ってもよいゾ」


 ゴージンが俺を見下ろしてそう言ってきたので、遠慮無く触ることにする。

 まずは指先でちょんちょん。おや、柔らかい。桃のようでいて、全然桃ではない。柔肌な女に触っている感覚に近い。

 さらに掌で上側を撫で、下の尻の部分も撫でる。下の感触は面白いな。柔らかいんだが、その柔らかい脂肪の奥に引き締まった筋肉のような硬い感触がある。


「おお……結構触り心地いい……」


 顔をほころばせ、素直に感想を述べる。


「ディーグルも触ルがよい」

「はい」


 促され、ディーグルも桃蟲を撫でる。まるで猫を愛撫するかのような手つきで、尻の部分を撫でまくる。


「名前はエナイトにすルつもリゾ。生前飼っていた桃蟲と同じ名ゾ」

「この使い魔なら出しっぱなしにもしておけそうだな」


 言いながらアルーを札に戻す俺。これから例の蜘蛛嫌いのポニテ店員のいる、行きつけの八百屋へ行くからね。


***


 使い魔屋を後にした俺らは、八百屋で食品を買って帰宅した。すでに四時になりかけている。結構ゆっくりしていたんだな。

 明日からは兵舎通いか。いや、明後日には次の作戦が待っている。俺が呪われて行動不能になっていたせいで、ちょっと予定が遅れてしまっているが。


 俺は主の特権で一番風呂に入らんとして、風呂場へと赴き、風呂を焚くために魔法を唱える。一定量の水をお湯にする魔法で、風呂以外でも料理でも使う。日常系魔法の中ではちょっと高度な方だ。覚えるのもわりと後の方だった。

 しかも魔法初心者の俺だと、お湯にできる範囲が狭いんで、何回も唱えないといけないっていうね。

 面倒なら絵に描いてぱぱっとやっちゃえばいいんだが、そうすると俺の魔法の熟練度がさっぱり上がらないので、こうして日常で仕える機会に使って、無理しない程度に上達しようという試みなのだ。

 風呂焚きも食事も従者にやらせず、率先して自分で行う御主人様。それを己の修練の一環とするその姿勢。偉いね~。そんな俺の偉さが、果たしてディーグルやゴージンには理解できているのだろうか。あいつら微妙に常人と感覚がズレているからな。


 風呂焚きが終了し、風呂へ入らんと服を脱ごうとしたその時、凄まじい轟音が鳴り響き、館が振動した。


 「何だっ!?」


 思わず叫ぶ。しかもそれは一度では終わらなかった。立て続けに轟音が鳴り響き、館が激しく揺れる。

 廊下に飛び出ると、前方が爆破して俺の体が吹き飛ばされる。


「太郎っ!」


 ゴージンがやってきて、倒れた俺を抱きかかえて廊下を走る。

 どこに向かっているのかはすぐわかった。地下室だ。


「一体何が起こっている?」


 痛みに顔を歪めながら問う俺。あーあ、服がちょっと破れちまったぞ。ゴージンに見繕って買ってもらった服なのに。


「不明ゾ。家に爆弾でもしかけラレたか?」

「砲撃されているようです!」


 背後からディーグルの鋭い声がかかった。砲撃だとぉっ!?


「そのまま地下室に走ってください! 私は結界を張って時間を稼ぎます!」

「いやっ、しなくていい! お前も来い! 考えがある!」


 俺の命令に一瞬躊躇っていたようだが、すぐに指示に従う選択を取り、ディーグルもゴージンと共に地下室へと向かった。

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