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23 魔狼の呪い

「奴は断じて弱いわけに非ず。恐ラくここに来ルまでの間、相当激戦を経て、ペインを食ラったのであロう」


 倒れて震えているフェンリルを見て呆れている俺に、ゴージンが淡々とした口調で告げる。


「で、助けた方がいいのか?」


 俺が訊ねるが、ゴージンを見た限り、そんな雰囲気では無いように見える。ひどく冷めた視線でフェンリルを見ている。


「飛行兵器は我々にとって敵ですし、こちらに向かって助けを乞う時点で、あの狼も敵には見えませんが」


 と、ディーグル。


「味方になルとは限ラんゾ」


 憮然とした顔でゴージン。何かあまりよろしくない因縁がありそうだ。


「まあヘルプ出してるのに見捨てても後味悪いしな」


 そう言ってスケッチブックと鉛筆を出し、今日何度目かの飛行兵器スクラップの絵を描く。


「おお……」


 飛行兵器が破壊されるのを見て、フェンリルが驚嘆して呻いた。


「ボール兵器が壊された!」

「奇跡の絵描きまでいるぞっ。逃げろーっ!」


 乱す者達が口々に喚いて逃げようとする。

 フェンリルが乱す者達めがけて駆けだす。あっという間に追いつき、牙で、前脚で、彼等に強烈なペインを与える。


「今度会ったらタダではすまさんぞ」


 倒れた乱す者達に向かって、不機嫌そうな声で告げる。おや? 殺さないのか。つーか、現時点で十分痛い目に合わせているが。


「あ奴も我と同じゾ。命を奪うという行為を拒む者也。その理由は知ラぬがな」


 ゴージンが言う。いい奴なのかな?


「然レど油断するなかレ。あ奴の性根は歪んでいル」


 俺の考えを見透かしたかのように、そう付け加えるゴージン。


「ネムレスの神聖騎士、まずは礼を言おう。ここに来るまで六体もの玉っころを相手にしたものでな。命無きからくりの分際で、手こずった」


 フェンリルが頭を垂れる。飛行兵器に手こずる程度で神殺しなのかよと思ったが、突っ込むのは辞めた。

 そして判明しているだけで、これで合計26体の兵器が破壊されたわけか。フェンリルの言葉が鵜呑みにするなら、だが。


「何の用ゾ?」

「お前になど用は無い。俺はネムレスの神聖騎士に用があるのだ」


 訊ねるゴージンに、フェンリルがうるさそうに言う。


「用って何よ?」


 胡散臭そうに問う俺。


「簡潔に言おう。俺と共に神狩りの旅に出るぞ。乱す者などと遊ぶのも大概にしておけ」


 簡潔なのは確かだが、あまりに唐突すぎる誘い。


「そんなこといきなり言われて、はいそうですって従えるか」

「そちらがお前の本分だぞ? ネムレスから何も聞いてないというのか?」


 俺の本分? 俺はネムレスに、乱す者と戦っていろと言われているんだがな……

 いや……しかしネムレスは神々を討伐する旅どうこうとも言っていたな。ネムレスという神も、数多の神々を殺害した、神殺しの邪神として悪名高い。


「思い当たる節があるようだな。面倒なのは好かん。さっさと来い」

「脳みそ腐ってんのか、お前は。会ったばかりの他人に命令されて、どこの誰がはいそうですかと従うってんだよ。今までどんだけおめでたい人生送ってりゃ、そこまでノータリンになれるんだ? あ?」


 一方的に告げるフェンリルに、俺は思ったことを正直に口にする。これが俺の美点だよなー。


「話はシンプルに進む方がいい。俺が望む展開に、俺が望む筋書きに、思い通りに進めばそれでいい。それだけでいい」


 嘲笑混じりの声を発するフェンリル。その赤い瞳が、突然紫へと変わる。

 紫の瞳はやがて青く変化し、青は緑に、緑は黄色に、黄色は橙色に……


「見ルな! 視線の呪いゾ!」


 ゴージンが叫んだ。俺はそれが何意味するか察したし、奴が何で瞳の色を変化させていたかも理解した。


「くくく、もう遅いわ!」


 勝ち誇るフェンリルの瞳が赤に戻った刹那、俺の体に異変が起きた。

 強烈なダルさ。気持ちの悪さ。激しい発熱と寒気。眩暈。体から力が抜けて行き、レンティスに捕まってすらいられず、その身体から手を放す。

 ディーグルが即座に俺の体を抱きかかえ、落下を防いでくれたようだ。苦しみの中、ディーグルの体温と触れている部分だけ、癒されているような、そんな気がする。あと、レンティスと触れている部分も。


「お主はァ!」


 ゴージンが跳んだ。この高さからフェンリルに向かって襲い掛かる。


「アオオオーン!」


 鼻先をゴージンの爪で切り裂かれ、情けない悲鳴をあげるフェンリル。


「きっ、気が変われば呪いは解けよう! だが俺の誘いに従わなければ、呪いが体を蝕むぞ! お前に選択肢などなギャアッ!」


 ゴージンに背を向けて逃げ回りながら、フェンリルは勝ち誇りつつほざいていたが、言葉途中にまたゴージンの爪を臀部に食らい、悲鳴をあげていた。


「太郎さん、しっかり」

「ディ……グ……ル」


 俺を覗きこむディーグルを見上げ、自分でも笑えるほど弱々しい声が喉から漏れる。

 全身から汗が噴きだしている。痛みこそないが、ダルさがハンパじゃなくてとにかく苦しい。自分が存在しているという事自体が嫌になるような、そんな感覚だ。息も荒い。


「不覚。逃がした」


 ゴージンが戻ってきたので、レンティスの上に乗せる。


「太郎は……」


 ディーグルの腕に抱かれた俺を恐る恐る覗きこむゴージン。直後、レンティスが高速で飛翔した。


***


「どういう展開なのだ。これは」


 夢の中、ファンタジー風なヒラヒラした服を着て、少女の姿で現れたネムレスが、最初に口にした台詞はそれだった。


「そりゃ俺の台詞だよ。ネムレスはあいつのことを知らないのか?」

「昔、名も無い一匹の狼の魔物がいた。昔、一人の名も知れぬ神がいた」


 俺の質問に対し、昔話語りを始めるネムレス。


「神は己の名声をあげ、信仰を得るために、狼を利用しようと考えた。狼に神聖騎士としての力を授けたあげく、狼に人の世で暴れて回れと言った。狼はそれに従い人の世に災厄をもたらした。そこに主である神が現れ、狼を討伐してみせた。もろちん芝居だ。そんなことを神と狼は幾度となく繰り返した」


 その狼とやらがフェンリルなのだろうことはわかるし、何となく話の結末も一部分だけ読めてきた。


「狼は次第に不満を抱くようになっていった。己の境遇を惨めだと感じるようになった。ある日、狼の怒りが爆発し、狼は神を丸のみにして食った」


 そこんとこだけ神話そのものか。


「狼はより強大な奇跡の力を得た。腹の中に収めたままの神の力だ。腹の中の神はただ狼の力の源となるだけの存在となった。狼は神々を憎み、己が持つ力を行使し、他の神々をも食らいだした。食った分だけ狼は力をつけた。狼は神々に捨てられた地のとある星に伝わる神話に、神喰いの狼の話があるのを知り、その神話の狼と同じ名を名乗った」


 あれま、北欧神話の方がオリジナルだったのか……


「だが狼の奇跡は有限だった。奇跡を使えば使うほど、腹の中の神々は消化されていき、やがて神は死に、神の魂は狼の腹から解放される。狼が力を維持するためには、神々か、その下僕を食らい続けなくてはいけない。さらに言うなら、狼が持つ奇跡の力の大半は、神々と渡り合うための力だった。君が受けた呪いも正にそうだ。神とその下僕以外には、全く効果の無い呪いだ」


 あのフェンリル、弱いとまでは言わないが、桁外れの戦闘力があるとも思えなかった。しかし、神、神聖騎士、巫女相手への対抗手段だけは強力ってことか。


「で、どうして奴は俺に接触してきたんだ? ネムレスが神殺しをしているから、その関係か?」

「正直わからん。僕もあの卑しい狼と一応面識はあるが、あまりよく知らない。むしろ僕のあずかり知らぬ所で、前世の君と深い関わりがあったのではないかね?」


 うーん……面倒な話だな。


「呪いを解く方法は?」


 一番知りたい疑問をぶつけてみる。


「四つある。一つは放っておいても時間が経てばそのうち弱まっていくということ。だがこれはナンセンスだな。それなりの時間を必要とするし、他に解く方法もあるのだから」


 それは呪いを解く方法とは言わんだろうに……


「一つは、快楽と慈愛だ。苦痛の呪いに対抗する最も効果的な手段。そしてこれは強制的な解除にも繋がるから、呪い返しへと繋がり、呪いが解けた瞬間に呪いをかけたフェンリル自身に呪いが降りかかる」


 快楽と慈愛と言われてもなあ……具体的に何なんだよ。正直Hなことしか思いつかんけど。


「三つ目と四つ目は?」

「一つは呪いをかけられた者が、強靭な精神力ではねのけること。しかしあの狼の呪いは、君の精神力をもってしても難しいと思われる。あとはスタンダードに魔法や奇跡を用いて、儀式を執り行う解除だ。呪いが強い程、時間や労力を要する。何日もかけて、何回も行う必要があるかもしれないな。僕としては時間経過以外の方法を全てまとめて行えば、それだけ早く呪いが解けるという考えだが……」


 が……? 何だよ、まだ何かあるのか?


「正直、君に出来る事はほぼ何も無いし、君の周りが勝手に呪いを解いてくれるだろう。僕がしゃしゃり出てくる必要もなかった」


 ズコーッと、コケてみたい気分になる台詞を吐くネムレス。


「いや、あのフェンリルの素性を教えてもらっただけでも十分だ。呪いを解いて呪い自体をあいつに返せば、あいつはしばらく行動不能になって、余計なちょっかいをかけられずに済むって事だよな?」

「うむ、そうなる」


 つーか、あの犬っころはどうやって俺の居場所を突き止めたんだろ……


「もう一つ確認。あのふぁっきんワンコに、俺の力は効くか?」

「僕もその狼のことを詳しくはないが、効かないはずがない。君の奇跡の力は僕以外の全ての者に有効だぞ」


 ネムレスに効かないのは、神聖騎士や巫女の起こす奇跡の力が、所詮は主である神の借り物でしかないからだ。その気になれば、神は下僕に力を与えない事もできる。

 ふぁっく。今度会った時が、あの犬っころの運のつきだ。


***


 目が覚めるとレンティスのおっぱいベッドだった。

 この間とはレンティスの向きが微妙に違うし、俺の体勢はまるで違う。おっぱいとおっぱいの間に上半身すっぽりと挟まれて、仰向けで寝かされている。

 ひょっとしなくてもこれ、ディーグルがわざわざレンティスのおっぱいの間に、俺を押し込んで挟んでくれたのか。わかりきっていた事だが、やはりあの男は只者ではない。

 レンティスとひっついている部分はともかく、俺の体のそれ以外の部分が異常にダルい。苦しくてたまらない。発熱も全く収まっていない。呪いは継続中のようだ。


 周囲を見渡すと、飛空船の甲板だということがわかる。寝ている間に戻ってきたようだ。陽の傾き加減と明るさを見た限り、朝っぽいが。

 すぐ近くでディーグルがレンティスにもたれかかって寝ている。ゴージンの姿は無い。


「起きたか」


 しばらくして、堀内がやってきて声をかける。傍らにはランダとザンキの姿もある。

 ランダとザンキは、何やらいろいろな物を持っている。ザンキはお香にすり鉢に草に……他にもいろいろ。ランダは丸めた厚い敷布。


「俺……どんくらい寝てた……?」

「一晩だよ。話はディーグル達から聞いた。強力な呪いをかけられたそうだな」

「それじゃあ早速始めるかね。呪いを解く施術」


 堀内が答えた直後、ランダが妙なことを言いながら敷布を甲板に広げると、俺の体を抱きかかえ、レンティスのおっぱいベッドから敷布の上に移し、うつ伏せに寝かせた。


「な……何をするんだ……?」


 本能的に不安を覚える俺。


「呪いのペインを抑え、呪いそのものを解放にもっていく方法の一つは、強い快楽だ。目合が最も手っ取り早い方法だな」


 俺を見下ろした堀内がそう告げると、にやりと笑った。まさか……


「よっこらせっと」


 ランダが俺の上にまたがる。ま、まさか……まさか……


「それじゃあおばちゃん、いっちょはりきっちゃおうかねえ。おやおや、若いだけあってすべすべの肌だねえ。こうしてみると本当女の子と変わりなく見えるよ」


 俺の服をめくって背中を直に撫でまわすランダ。イヤーッ、ヤメテーッ。ちぇんじっ、ちぇんじっ、ゴージンとちぇんじっ。


「ぁ……ぅ……」


 突如俺を襲う心地好い感触に、思わず声が漏れる。うん、これはあれだ……


「まあ、これですぐ呪いがすぐ解けるって話じゃあないけどね。呪いが解かれるのを速める効果はあるから、太郎も頑張るんだよ」


 優しい声で言い、ランダは俺に巧みなマッサージを施した。

 あー、極楽じゃー……


「何でランダがマッサージ?」

「あたしは兵士になるまではそういう仕事をしていたのさ。時間はありあまってるから、いろんな技術を学んだねえ。鍼や整体の免許だってあるよ。まさか再びやることになるたあ思わなかったけどね」


 似合わない……と思ったが、口に出すと怒られそうだから言わない。


「目合がてっとり早いが、君は子供だからな。他の方法を使うと言いたかったのだ」


 済ました顔と口調で堀内が言った。こいつ~……


「アロマテラビーもいいと聞いて、香も焚いてみたが、室外だからいまいちだったな」


 堀内の言葉を聞いて、首だけ動かして横を見ると、お香が焚かれている。こんなの誰が戦場に持ってきたんだ……?

 お香の隣では、ザンキがすり鉢で何やら薬のようなものを調合していた。草? それに蜂蜜?


「ザンキは何してるの?」

「何ってお前のための薬を作っとるんじゃろーが」


 薬って……得体の知れない薬草飲ます気か……。不味くてますますペインがひどくなりそうな。いや、でも蜂蜜も混ぜるみたいだから大丈夫かね。


「ゴージンはどうしたんだ?」

「下で寝ている。昨夜はほとんど寝られなかったようだ。君を守れなかった事を悔やみ、落ち込んでいた」


 俺の問いに堀内が答えた。生真面目なあいつらしい。


「さてと、それじゃあ今日はこれくらいにしとくかね。あんまりやりすぎても効果無いしね。じゃあ次だ」


 ランダが俺の上から離れた。次って?


「じーさま、出来たのかい?」

「おう、これでいいんじゃろ」


 ザンキがランダに何か差し出していたようだが、この角度からは見えない。うつ伏せから起き上がろうとする。


「何やってんだいっ。まだ寝てな。まだやることがあるんだよ」


 ランダが強引にまた俺をうつ伏せに寝かす。


「ん?」


 次の瞬間、ランダが俺のズボンと下着を一気に下ろした。え? え?


「まあ可愛いお尻だこと。食べちゃいたいね」


 はい? え? どういうこと? 俺、尻も脚も丸出しにされてるんですが……


「それじゃあいくよ」


 尻の穴に異様な感触……こ、これは……ひょっとしなくても、さっきの薬草を肛門に注入されてるのかっ!?


「や……やめ……ぁ……ぁぅ……」

「暴れるんじゃないよ。これも呪いを解くためだ。清められた特別な薬草の寄り合わせなんだから、ありがたくいただきな」


 逃れようとする俺だったが、ランダは片手だけで俺の背中を押さえてそれを防いだ。

 正直痛いとかそういうことはなく、それどころか思わず喘ぎ声が漏れる変な心地好さがある。つーか、この世界ってウンコもオナラも無いのに、体に肛門が存在しているのは、イケない遊びや、病気の際の薬のためなのか?


 もう一つ余談だが、この世界には怪我という概念は無いが、病気はそこそこにあるようだ。あっちにあった病気がこっちには無かったり、あっちに無かった病気があったりと複雑。


「はい、全部入ったよ。後はその飛竜のおっぱいで寝てるといい。また後でマッサージと薬に来るからね」


 ぐったりしている俺にランダが満足そうに言う。


「解呪の儀式も執り行いたい所だが、解呪の魔法を行使できる者が、ここにはいない」


 と、堀内。


「一度の解呪では駄目だろうから、定期的に何度もする事になるだろうな。葉隠に帰ったら、ラクチャ神にも頼みに行った方がいい。こちらで事情を説明してアポを取ろう」

「その前に……やる事がある」


 俺は身を起こし、スケッチブックと鉛筆を出した。


「何やってんだい。無理するんじゃないよっ」


 ランダが声を荒げたが、俺は鼻で笑う。


「こんな程度……無理に入るかよ。俺は俺のやるべきことをまだ……やり遂げてない」


 昨日森の中の風景を散々描いてきた。その絵に囮の偽兵士と、偽兵士に誘導される飛行兵器という図を描きこまなければならない。

 誘導先はここだ。誘導された飛行兵器は、俺が破壊する。そういう手筈だった。

 しかし強がってはみたものの、こうして体を起こしているだけでも途轍もなく苦しい。描く量も大したことはないというのに、気が遠くなって、たった二枚描きあげただけで、倒れそうになる。


「不味い……ランダ……俺を支えていてくれ」


 ランダの方を向いてか細い声ですがるように言った後、眩暈がひどくなり、俺の体が大きく傾く。

 倒れる前に俺の体はキャッチされた。相手と触れている部分だけが心地好く、ダルさが消失している。


「ランダさんじゃなくてすみませんね。それとも今から変わりましょうか?」


 いつの間にか目覚めたディーグルが、俺の体を抱きとめてくれていた。


「この際だからディーグルでもいいや。そのまま俺をしっかり抱いていてくれ」

「気持ち悪い言い方しないでくださいよ。しかも人前で」


 何だ、こいつにもそんな羞恥心はあったのか。


「あんたらそういう仲だったのかい。不潔だねえ。おー、やだやだ」


 からかうように言うランダ。笑っているから、本気にはしてないと思うが。

 しかしこんなに衰弱しきっている状態では、筆の方を用いた奇跡は無理だな。そっちは断念するしかない。


 やがて昨日描いた森の絵全てに誘導する兵士を描ききると、スケッチブックを上げ、描きこんだ全てのページが光り輝いて、スケッチブックから分離される。


「これでいい……。ただ、すぐに来るわけじゃないから、時間がかかる。森の中を巡回する飛行兵器が、絵に描いた場所を通った時、囮兵士が動き出す」


 それだけ言うと、俺は全身の力を抜き、完全にディーグルの腕の中に身を預ける形となる。

 ディーグルはそんな俺をレンティスの元へと連れて行き、またおっぱいベッドの中へと詰めこむ。

 後は……奴等が来るまで休んでいればいいな。眠くなってきたし、寝るか。


「飛行兵器が来たら起こしてくれ……」

「いいえ、ずっと寝てていいですよ。もう十分です」


 俺の言葉に対し、ディーグルが優しい声音で、有り得ないことをぬかしてきた。


「何言ってんだ。飛行兵器が来たら俺しか対処できないだろ。しかもこの平地に……」

「太郎さん、何を自惚れたことを言っているのですか?」


 嘲笑混じりにディーグル。


「お前こそ何を……」


 言い合っている合間に、森の中から、囮の兵士が早速飛行兵器を連れてきた。早くて助かるが……


「そこでじっとしていてください」


 身を起こそうとする俺にディーグルが言い放ち、甲板から身を翻して飛び降りる。高さ10メートルくらいはありそうなんだが……


 平地を疾走するディーグルの姿を確認する。真っ直ぐ二体の飛行兵器めがけて向かっている。おいおい……

 突っ込んでくるディーグルの姿を捉え、飛行兵器がビームを立て続けに放つが、全て余裕でかわしている。

 ディーグルが立ち止まり、まだ飛行兵器との間に距離があるにも関わらず、その場で飛行兵器めがけて居合を一閃。

 衝撃波だか剣から飛び出た気の刃だから知らんが、明らかに刀が届いていないというのに、飛行兵器が横に幾重にも輪切りにされ、爆発した。


 もう一体がディーグルめがけて突っ込みつつビームを放つが、それを刀で弾く。

 刀を持たぬ手は顔の前で人差し指と中指を垂直に立て、呪文を唱えている様子。


「捻くれ坊主」


 ディーグルの前方より、太く長い肌色の塊が飛びだした。幾重にもバネ状に巻いた長い体が、まさしくバネが跳ねるようにして上空めがけて跳ぶ。

 よく見ると上の先端には人の頭部が存在し、短いが手足も生えていた。そのうえ先端だけ服も着ている。袈裟だ。ようするにこれは、僧侶もどきのオリエンタルな魔物を召喚したってことか? それにしても奇怪な姿だが。


 グルグル巻き肉バネ僧侶は、上空へと舞い上がると、飛行兵器めがけて覆い被さるように落下して襲い掛かる。

 飛行兵器の丸い胴体へと巻きつくなり、全身を使って締め上げ、やがて飛行兵器を圧壊し、爆発させた。坊主の長い体もバラバラになって消えた。おいおい……


「えっと、太郎さん。私も最近物忘れが激しくなって、太郎さんが何を言ったか忘れてしまいましたので、もう一度お聞かせ願えませんか?」


 甲板に戻ってきたディーグルが、得意満面にほざく。


「いや……もう寝るわ。任せた」


 ムカつくけど頼もしくもあり、俺は安心して瞼を閉じた。

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