22 FantasyにScience Fictionを混ぜないでください
第四、五、七、十一部隊の隊長もしくは副隊長が集まるテントに、俺、ディーグル、堀内、ザンキの四人で入る。ゴージンはテントの外で見張りだ。
まあ彼等が今日までどう戦ってきたかを聞いたわけだが、悲惨の極致だった。
主な武器は網と投石、倒木。原子時代かよと思うが、これが現在最も有効なんだと。
木々の間を高速移動する自動無人兵器は、突然木々の間に網を張られれば、対応できずに絡めとられる。で、動きが鈍った隙をついて、予め狙いを定めて配置してあるカタパルト数個がかりで至近距離から投石しまくり、さらに木を倒して押し潰すとのこと。
そのためには、兵士が命がけで誘導するらしい。おいおい堀内さ~ん、ここの人達、まさにあんたが避けようとしていた事を実行していたじゃないか……。
七節戦線では、ずーっとそんな戦い方をして、乱す者の無人兵器を少しずつ減らしてきたらしい。
一方で乱す者達も、ハイペースでは兵器を量産する事が出来ないらしい。彼等にとっても、兵器を破壊されるのは結構痛手と思われるが、それでも戦線を維持できるくらいには、新たに兵器を作って投入し続けているとの事だ。
葉隠軍は命を散らし、乱す者は時間と労力と財を減らす、実に無為ないたちごっこ。それがこの七節戦線の状況だ。
彼等のノウハウとやらを第十八部隊にやらせた所で、戦況が好転するとも思えんぞ。人手が増えた分はマシになるかもしれんが。第十八部隊の兵士達も、たっぷりと死にまくりそうだ。
俺は話の途中に、無理矢理堀内とザンキをテントの外に連れ出した。堀内も俺の気持ちを察したようで、素直に従ってくれた。
「まさかとは思うが、奴等の戦法に付き合うわけじゃないよな? そうなら俺は第十八部隊を隊長も含めて全員拘束して、無理矢理船にぶちこんで葉隠に帰るぞ」
敬いとか礼とか微塵も無い態度で、堀内に食ってかかる俺。
奴等の戦法自体が完全に悪だとは言わん。それしか有効な手が思いつかなかったのだろう。実際有効ではある。だがもっと良い戦法で戦っていると期待しすぎていた。
「君はもう少し軍隊という物を学んだ方がいいが、確かに愚かしいのは事実だ。ランダや君が言っていた通り、君を主力にする戦法に戻すべきだな」
嘆息して認める堀内。
「自分と太郎とゴージンを飛竜に乗せて、七節戦線全域を飛び回り、無人兵器を見つけ次第破壊という方法でも、ある程度は戦果をあげられるでしょう」
ディーグルが意見する。
「しかし、この七節森林の全域を飛び回るというのも、相当に時間がかかると思われます。また、向こうも巡回しているのでしょうから、全域を飛んだからといって全ての兵器を潰せるわけでもありません。入れ違いになる事も多いでしょう」
「二つほど考えがある。いや、手段が三つある」
ディーグルの話の区切りを見計らって俺が発言し、スケッチブックを取りだす。
「スケッチブックの力は、実際にこの目で直に見た物しか有効に働かない。対象に直接作用する力であれば、その対象を一度でも視界に収める必要がある。生誕した時にやった連続爆破のように、特定の場所に発生させる事象に巻き込む形であれば、その風景を描く必要がある」
話しながら一枚の絵を描き、堀内達四人に見せた。
ちなみに直にと言ったが、使い魔を通じて見たものなら一応有りだ。すでに実験済みである。絵で作ったカメラを仕掛けて確認ではアウトだった。
今回の絵はただの説明のためで、実際に奇跡を起こすためのものではない。一枚の紙に四コマ漫画のように区切りを入れた、四つの絵。
一つ目は森の中に潜む偽兵士達の絵。
二つ目は飛行兵器に反応して偽兵士達が立ち上がり、挑発して兵器を引きつける絵。
三つ目は偽兵士達がビームを食らいながらも走り回り、兵器を誘導する絵。四つ目も誘導する絵だが、注釈として誘導の完了と書き込んでおいた。
「森林地帯を飛びまわりながら、これと同じ絵を描きまくって、偽兵士を作って、兵器を一ヶ所に誘導する。誘導先に俺がいて、兵器がやってきたらスクラップだ。この絵の場合、俺は風景そのものを視界に収める必要がある。俺が直に見た風景を予め描いておき、後から偽兵士が誘導する様を描きこめば、飛行兵器に反応して絵に描かれた動作を行う偽兵士が、絵の風景の場所に出現するっていう寸法だ」
「絵の地雷を仕掛けるというわけか」
俺の話を聞いた堀内がにやりと笑って言った。流石はあちらでの戦争体験者だけある。いい解釈だ。
「地雷っちゅーなら、そんなことせんでも、風景を描いておいて、飛行兵器が来たら勝手に爆発して、爆破に巻き込む仕掛けじゃいかんのか?」
ザンキが問うが、俺は首を横に振る。
「木々が爆破に巻き込まれるのが不味いんだ。どうやらある程度育った木はペインを感じるらしい。加えて言うとそのやり方じゃ、味方の兵も巻き込みそうだ。今、この七節戦線にはあちこちに葉隠軍の兵士が散らばっているし」
「何と……エルフ共が主張する、植物もペインを感じる説は本当じゃったか。ふぬー」
ザンキがディーグルを一瞥して呻く。
「二つ目の手段は、これを使う」
スケッチブックを消し、筆と画板と水彩紙を出す俺。
「こっちは俺のパワーアップした奇跡だ。俺が見てないもの、俺が知らないことですら、描く事が出来る。他人の記憶と想いを利用して奇跡を起こせる。今、この森林地帯に散っている兵士達が遭遇し、戦っている最中か、戦ったことのある飛行兵器であれば、俺が見ていなくても遠隔攻撃でスクラップに出来る。ただしこの力を使うと、俺も結構疲労するから、やるとしたら最後だなー」
「それなら第十八部隊も投入して、飛行兵器の捜索に当たらせた方がいい」
堀内が主張する。そう言うと思った……
「ただ視界に収めただけじゃ駄目だ。記憶だけではなく、想いも必要なんだ。ここで散々奴等と戦い、仲間を失い、苦渋を舐めた兵士達の想いがな。着いたばかりの第十八部隊が、たまたま見ただけじゃ駄目なんだよ。この筆と画板の力の源が何かというと、悲しみや苦しみや怒りといった、人々の負の心なんだ」
「悲しみを癒す力であリ、恨みを晴ラす力であルな」
ゴージンが口を挟み、俺は頷いた。
「で、三つ目は何です?」
ディーグルが問う。
「手段は三つだから、ディーグルが提案した、飛竜で飛び回って遭遇した兵器を絵に描いて破壊も含まれているよ。それも合わせて三つだ」
俺が答える。
「なーなー、それだとワシらは何もすること無くないんじゃないかのー?」
不服げにザンキ。
「何もしない方が理想じゃん。危険も無い」
「つまらんのー。ワシら何しに来たんじゃ」
俺の言葉に、ザンキは露骨に顔をしかめた。
「まだ出番が無いとも限らぬよ。敵は無人兵器だけではない。一応乱す者の兵も潜んでいるので、その掃討もある。それをも太郎に任せっきりというわけにはいくまい」
と、堀内。
どうも堀内の話を聞いていると、堀内は俺主体の戦法に頼りきることに、ずっと抵抗を抱いているように感じられる。何かというと兵士達を使いたがるというか。俺はその逆だが。
「俺が思いつくのは以上だけど、他にいい案はあるか?」
「こちらも無人飛行兵器を絵で作って、対抗するというのは無理ですか?」
ディーグルが提案したが、俺は首を横に振る。
「俺のイメージの領域外だから無理だな。自動操縦どころか、手動操縦の機械ですら、俺には作れないぜ。ジェット式の飛空船だって、空を飛ぶ船の詳しい仕組みに関してはノータッチだ。俺のイメージの力で飛んでいる、奇跡の産物だ。どうしてあれが空を飛ぶのか、物理的根拠は無い。だからあれは俺しか操縦できない。例えば自転車みたいに、走る仕組みが俺にもわかっている物を描いて現出すれば、それは誰にでも使えるけどな」
「何言っとるかよーわからんが、堀内とディーグルは理解できたんかのー?」
俺の説明に、ザンキがおどけた声で問う。
「感覚的に理解できましたよ。ああ、そういうものなんだとね」
「私もそんな感じだ」
ディーグルと堀内が続け様に答える。
「作戦が固まったなら、今すぐにでも早速取りかかれ。私は太郎の作戦を彼等に話してくる」
堀内がさっき出てきたテントを一瞥して命じ、使い魔の白猫を俺に渡した。俺もアルーを呼び、使い魔無線のために堀内へと渡す。
「ディーグル、レンティスを」
「承知しました」
俺の命を受け、ディーグルが己の使い魔――女体と植物が混ざった飛竜レンティスを呼び出す。
「こレはまことに美麗ゾ。我も乗リてよいのか?」
初めてレンティスを間近で見るゴージンが、その美しさに心を奪われ、惚けたように見上げる。
「ええ、三人までなら問題有りません」
ディーグルが了承すると、ゴージンが嬉しそうに顔を輝かせた。
***
三人を乗せたレンティスが、七節森林の中へと飛翔する。
レンティスはかなりのスピードで、木々の間を器用に抜けていく。時々体を大きく斜めに傾けて木を躱すのが怖い。しっかり掴まってないとヤバい。
数10メートル級の巨樹が立ち並ぶ、鬱蒼とした七節森林。
森の中を高速飛翔しながらも、時々視界に入る物がある。地面に落ちている球体飛行兵器の残骸。
まだ新しい物もあれば、すでに酸化が著しい物やコケだらけの物もある。いずれも網がかかった状態で破壊されている。周囲には激しい投石や倒木の痕跡が見られた。
そしてその何十倍もの武器や防具や服が、森のあちこちに落ちているのも確認できた。死体は残らない世界だが、死者の痕跡ははっきりとわかる。一つの兵器を破壊するのに、一体どれだけの命を散らしているのだろうか。
レンティスの速度が急激に落ちた。それが何を意味するか、わからないわけがない。
前方から二体の飛行兵器が飛んでくる。こいつら必ずペアで行動なのかねえ。
スケッチブックと鉛筆は呼び出した状態だ。しかし高速で飛びながら描くってのは、流石に無理がある。
レンティスの姿を確認した飛行兵器が、こちらに猛然と向かってきて、二体同時にビームを放つ。それをよける動作で、俺の鉛筆の動きが少しブレたが、絵に支障は無い。
「ばいばいだ」
絵を描き上げ、俺が一言発する。描かれた絵が光り輝き、スケッチブックから解き放たれて宙に浮かぶ。
光が強まった直後、球体飛行兵器は縦真っ二つに両断され、地面へと落下して爆発した。
「ディーグル、少しレンティスを止めてくれ。ここいらの風景を描いておく。どうやら奴等の巡回区域らしいからな」
「はいはい」
ディーグルの返事と同時に、レンティスがホバリングする。よし、ぱぱっとやっちまうか。
「ちょっと太郎さん……絵を描くんじゃなかったですか? というか、そんな趣味があったんですか?」
「は?」
絵を描きだした俺の方にディーグルが振り返り、嫌そうな顔で抗議してきた。何の話だ?
「すまぬ。今のは我ゾ。ついうっかリ……」
ゴージンが片手を上げ、もう片方の手を口元にあてて、気恥ずかしそうな表情をする。
「我の一族の風習なのだ。本当にすまぬ。他意はない」
風習って……まさかゴージン、ディーグルの尻触ったのか?
「突然すぎて驚きましたが……」
それ以上どうコメントしていいかわからない様子のディーグル。
「ていうかお前、何で真っ先に俺を疑ったわけ?」
「言わずもがなです」
絵を描きながら問う俺に、ディーグルは間髪置かずにそうぬかした。
「で、ゴージンは風習風習って言うけど、ついやっちゃうってことは、単に風習ってだけではなくて、ゴージン自身にもそういう欲求があるって気がするんだけど」
忘れろと言われていたが、ついうっかり突っ込んでしまった。
「風習と欲求、セット也。我の一族は、男女の区別なく、親しくなリし者の尻を撫でル。その感触にて互いの体調や、気分も量ル。挨拶程度の軽い意味合いもあル」
羨ましいような、鬱陶しいようなスキンシップだなあ……女の尻触ったり女に尻触られたりはいいけど、男女の区別無くってこたー、同性同士でもだろ……?
「で、ディーグルの尻はどうだった?」
「良い尻ゾ。我の判定ではAマイナー也。いや……いまぬ。忘レてくレ」
ふざけて訊ねる俺に、ゴージンは大真面目に答えた後、決まり悪そうにそっぽを向いた。判定基準なんてあるのかよ……。ゴージンの一族、何だかすげー。
尻触り風習の事は置いといて……。その場の風景を描き終えると、またレンティスで飛び立つ俺ら。
そして飛行兵器発見、破壊、飛行兵器の巡回場所として風景だけ絵に記しておく。この繰り返し。
ずーっとこの地味な作業で時間が過ぎていく。だがその間も、ゴージンは全く警戒を緩めない。ディーグルはエルフらしく、森の中にいる事でリラックスしている感じだった。
「この前も言っただろ。常時気張りながら警戒は疲れるって。適度に気を抜けよ」
ホバリングしての風景画モードに入った際に、ゴージンに向かって俺は言った。
「む……指摘さレルまで気付かず」
ゴージンは俺の指摘に驚いたような顔をする。
「ついつい気持ちが入りすぎてしまうタイプですか。それは太郎さんの言う通り、余計な消耗となりますね。帰ったら、リラックスしながらでも、危険な気配を感じたら即座に対応できる訓練、ゴージンさんに施してあげましょう」
「感謝すル。よろしく頼むゾ」
微妙だったディーグルとゴージンの仲も、こないだのゲーム以降良い感じになっている気がする。
***
陽が落ちてきて、森の中がかなり薄暗くなってきた。上空は葉で覆われているが、葉の隙間から夕陽が射しこんでいる。
まあ……ずーっと同じこと延々繰り返し作業。午前十時半辺りに始めて、今は午後六時前か。この森広すぎ。一日中ほとんど飛びまくり。いい加減げんなりしてきた所である。
これまで遭遇した球体飛行兵器は、全部で9セットの18体。一時間に一回遭遇があるかどうかといった感じだった。たまに一時間内に二回遭遇する事もあれば、一度も遭遇しなかった事もある。
「これ終わったら戻ろうぜ」
周囲の風景を描きながら、俺は言った。
戻ったら今まで描きためた風景画に、囮の偽兵士を描きこむ。描いた風景に飛行兵器が通ったら、偽兵士が森の外まで連れてくるわけだが……
時間配分誤ったなー。帰ってすぐにそれやっちまうと、いちいちやってくる飛行兵器を俺は待ち続けなくてはならない。最悪、今夜は眠れん。描くのは明日にしよう。うん。
順番を変えて、筆で涙を濯いで絵を描く方を先にしよう。本当は一日のうちに全て済ました方がよかったんだがなー。今日一日で飛行兵器を散々破壊しまくったし、明日になったら乱す者達が警戒して、何かしら手を打ってくる可能性もある。
「うわあああーっ!」
「逃げろーっ!」
「コボルトのボール兵器はまだかーっ!?」
絵を描きえ終えたその時、無数の悲鳴やら怒号やらが森の奥から響く。
ディーグルに頷き、悲鳴のした方へレンティスを飛ばしてもらう。
「乱す者じゃん」
そこには、必死の形相で何かから逃げ惑う、乱す者の兵士達数名の姿があった。一体何があったんだ?
答えはすぐにわかった。
彼等が逃げてきた方向から、巨大な黒い影が凄まじい勢いで跳躍し、彼等の頭上を飛び越えて前方へと周りこんだ。
現れたのは、全身を漆黒の毛で覆われた巨大な狼だった。その優美なる威容に、俺は一瞬目を奪われる。おそらくはレンティスよりも一回りはデカい。瞳は鮮血の如く真っ赤で、牙の間からは殺戮の痕跡である服や鎧の切れ端が幾つか垂れている。
「フェンリル……何故ここに?」
巨狼の姿を目の当たりにしたゴージンが呻いた。
北欧神話に出てくるあのフェンリルか? どうせこっちがオリジナルで、地球に伝わっているのは、魂の記憶の欠片から生じた妄想とかいう話なんだろうが。
「フェンリルって、うちらの星だと神話で伝わっている存在なんだけど、こっちではどんな扱いなんだ?」
「北の地――魔雲の中を活動の場とするという、神喰いの魔狼ですよ」
俺の質問に、ディーグルが答えた。大体一緒だった。
「ふう……ようやく見つけたぞ。ネムレスの神聖騎士よ」
狼がこちらを見て喋った。しかも流暢に。イメージ通り、渋い声だ。
そして……俺を知っている? いや、俺を探しに来た?
「では共に……」
フェンリルが言葉を続けようとしたその時、二体の飛行兵器が飛んできてビームを放つ。狙いはフェンリルだ。
「グルルル……鬱陶しいっ!」
不機嫌な声で、犬っぽく唸った後で叫び、身を翻して跳躍するフェンリル。
跳躍したフェンリルにビームが何発も浴びせられる。黒い毛が、血肉が飛び散る。しかしフェンリルはそれでも球体飛行兵器の一つにかぶりつく。つるつるして丸い球体飛行兵器ではあるが、フェンリルの巨大な口はその材質不明な外壁の一部をかみ砕いていた。
とはいえ、本当に一部だけで、兵器はショートしつつもまだ飛んでいる。決定的なダメージになってはいない。フェンリルが地面に降りた所をもう一体の飛行兵器が、ビームを何発もフェンリルに浴びせた。
「キャイーン!」
弱々しい悲鳴をあげ、横向きに倒れるフェンリル。おいおい……
「おいっ、ネムレスの神聖騎士! それにゴージン!」
ホバリングして観戦していた俺等の方を向いて、フェンリルが声をかけた。ていうか、ゴージンと知り合いかよ。
「ぼーっと見てないで助けろ!」
「はあっ?」
予想外の台詞に、俺は驚きと呆れが入り混じった声をあげてしまった。何だこいつは……? 何しに来たんだ……?




