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18 ディーグルvsゴージン

 葉隠市の同時多発テロから五日目、第十八部隊はやっと休暇を得た。


 で、俺はまたあのラクチャの元へと赴いた。どうしても聞きたいこと、そして可能ならお願いしたいことがあったのだ。

 こないだは市長の口利きという形で、すぐに謁見が可能だったが、今回は他の参拝客の列に並び、たっぷり二時間半は待つこととなった。これでも朝一で行って、列のかなり前に並んでいたんだがな。


「この間は大活躍だったね。神もびっくりの奇跡を起こすとは、流石ネムレスの神聖騎士」


 俺の顔を見るなり俺の頭を撫でながら、ラクチャが俺をねぎらう。


「ラクチャのじっちゃんも老体に鞭うって頑張ってたろ。おつかれさままま」

「それで今回は何の用だね? というか君なら先に予約をとっておけば、時間を空けておくのだがね」

「いいや、これは個人的なお願いだから、他の参拝客押しのけて特権行使とか、するわけにはいかない」

「ほほお」


 俺の言葉に、ラクチャは感心したような声をあげる。

 別に感心する部分でもないんだぜ。筋をきっちり通さなきゃ気が済まない不器用な生き方なんて、誰も得しねえんだ。


「俺、子供の体じゃん。で、これをもう少し成長できないものかと思って。じっちゃんに可能なら成長させてほしいんだけど」


 レアケースで成長した例もあるという話を聞いて、藁にもすがる思いでここへと来た俺。

 様々な文献を見てまわったが、噂としては外見が変化したという話も幾つかあったが、具体例はほとんどない。数少ない具体例は、神々が関わった逸話だけだった。


「いやあ、それは無理だよ。神だって何でもできるわけではない。その姿が君の一番の望みの姿であるはずなのに、どうしてそれが嫌なんだい?」


 ラクチャの言葉に、がっくりと肩を落とす俺。


「だってエロいことできないじゃん……。つまり俺はこの世界にいる限り、永遠にHできないってことか?」

「ま、そうなるかね」


 笑いながらあっさりと言うじっちゃん。


「せめてHできる年齢じゃないとやだーっ。一番の望みは十六歳前後くらいだーっ。」

「おかしいねー、本人の一番望む年齢にならないなんて。あ、そうだ。精神年齢が幼いと、自然と子供になっちゃうらしいよ。きっと君はそのパターンだ。潜在的にはその姿が一番の望みという事だよ。うん」


 その台詞、一体今まで何人に言われたことやら……


***


 時間だけ潰して、結局何の成果も得られず……と。

「ペイン無く、楽に死ぬ方法無いかな……。もう俺、地獄の方行く。生まれ変わってやり直してえ……」


 ラクチャの神殿を出て、そう呟く俺。


「何故そのような事をお主は思うか?」


 護衛という名目の元に同行したゴージンが、不思議そうに尋ねてきた。もちろんディーグルもいる。


「だからぁ、Hできないんだよ、この体じゃーっ。なのに永遠に子供のままだから、永遠にHできないだろーっ」

「この間、ディーグルの使い魔とHしていたゾ?」

「あれは違うのっ。ちょっとHなだけなのっ。その先のすっごいHがしたいの! しまくりたいの!」

「お主の口にすルこと、よく意味がわかラぬ……」


 腕組みして小首をかしげるゴージン。

 もしかしてこいつ処女か? ネンネなのかーっ?


「なあ、興味本位で聞くけど、ゴージンは死ぬ前と今の姿、一緒?」

「同じであル。良い思い出ではないが故、語ルには躊躇わレルが」


 俺の質問に、珍しく暗い面持ちをモロに見せるゴージン。これは地雷話題か。


「すまんこ。やっぱり子供の時に死んだのか。俺は死んだ時は大人だったからなー」

「我の年齢は子供か? そして大人の太郎など、想像し難きものゾ」

「想像するだけでおぞましくて鳥肌ものですから、断じてそんな姿を見たくはありませんね」


 真顔で言うゴージンと、ニヤニヤ笑いながら言うディーグル。こいつら……。


「さてと、結構時間が空いたなー」


 懐中時計を見ると、まだ午前十一時だ。


「ディーグル、話があル。太郎も聞いてくレ」


 唐突にゴージンが立ち止まり、真剣な眼差しでディーグルを見上げて言った。何だ何だ?


「ディーグル、お主は太郎と二人きリになル時があロう。だが我と太郎の二人という組み合わせは非ず。我を信じて任せてもラえぬものか?」


 なるほど。自分も俺の護衛役だというのに、ディーグルの下という扱いになっているのが、気に入らないというわけか。

 その件は俺も触れようとしていたから丁度いいな。


「お断りします。私と貴女、どちらが強いかは歴然でしょう? 彼の身を確実にガードする義務が私にはあります」

「う……」


 きっぱりと言い放つディーグルの言葉に、ゴージンは一言小さく呻いてうつむき、そのまま押し黙る。むう……可哀想かつ可愛い仕草だ。


 ディーグルにゴージンが訓練で勝ったことは一度もない。それはゴージンもわかっているから、それ以上反論できない。

 ただ、本気で戦い合えば話は別になってくる。何しろゴージンはディーグルが本気で殺しにかかっても死なないほどで、最初のエンカウントでは、ディーグルが息を乱すほどだった。


「ディーグル、少し頭を柔らかくした方がいいぜ」


 俺がゴージンに助け舟を出す。

 正直俺は、ゴージンに対するディーグルの接し方に反感覚えているし、ゴージンの肩を持ってやりたくもなる。ただでさえ口下手で、それでいて潔い性格のゴージンを封殺するディーグルの言い方は、ちょっとどころじゃなく大人げないぜ。


「ゴージンはペインに耐えられる性質があるから、盾役としてはうってつけだ。文字通り身を張って俺を守れるという利点がある。だから俺は、護衛としてはゴージンが必ずしもディーグルに劣るとは思わない」


 俺がこんなこと言うとディーグルが機嫌悪くなるかと思ったが、ディーグルは俺を見て面白そうににやにや笑っている。何だ、こいつ……嫌な予感がするぜ。


「では一つゲームをしてみるというのはいかがでしょう? ゴージンさんの護衛が本当に頼れるものであるかどうかを計るためのね」


 なるほど、そういう悪だくみだったか。いや、悪だくみは言い過ぎか。ゴージンに全く希望が無いわけでもないんだから。

 だが失敗すれば、ゴージンは今後ずっと予備護衛ポジションな扱いが続くだろうし、ゴージンもそれをわかっているだろう。


「のルゾ。それで我が勝ったラ、ディーグルは我の力、認めてくレルのだな? 我一人にも太郎の護衛、任せてくレルのだな?」


 ゲームの内容を聞く前に、嬉しそうに承諾するゴージン。前向きなやっちゃ。


「もちろんです。ゲームの内容はこうです。今日一日、太郎さんには徘徊老人のように街をふらついてもらい、ゴージンさんはその護衛をしていただきます。私は襲撃者として無力で虚弱な太郎さんを襲いますので、頑張って防いでみてください。ゴージンさんが三回以上防げなかったら、私は太郎さんの護衛をゴージンさん一人に任せる気にはなれません。二回までに留めたなら、ゴージンさんの力を認めましょう。もし本当に刺客が現れたら、ゲームは中断します」

「三回も機会はいラぬ。一度たリとも太郎に触レさせぬ所存ゾ」


 挑みかかるような眼差しで見上げるゴージンに、ディーグルは笑みを消す。


「心構えは立派ですが、私を甘く見ない方がいいですよ? 制限時間は四時までとします」


 そう言うと今度は俺の方を見て、にたりと笑う。うわぁ……すげーいやらしい笑顔。


「太郎さんとしては、今後、私とだけではなく、女の子と二人の行動をお望みなのでしょうが、そうはさせません」


 ちっ、やはり見抜いていたか……


「今日だけはデートを楽しませてあげますよ。時々私が襲ってくるデートですけどね。それもまたいい思い出になるでしょう」


 そうほざくと、ディーグルは足早にその場を立ち去った。後には俺とゴージンの二人が残される。今からゲームスタートってわけか。


「太郎、お主の意志を確認もせず、勝手に話を進めてしまったこと、申し訳ない」

「俺はお前をフォローしてただろ。お前の味方だ」


 すまなさそうな顔で頭を下げるゴージンに、臆面も無く言ってやる俺。


「何だったらラクチャの所にまた戻ればいいしな。あそこじゃ抜刀禁止だし。ずっとあそこに引きこもってりゃ、ゴージン楽に勝利できるじゃん」

「そのような小細工をしたのでは無意味ゾ。正々堂々とディーグルに実力を示してこそ、この勝負は初めて意味を成すもの也」


 俺の提案をあっさり却下するゴージン。むー、固いやっちゃなー。


「まあそれはそれとして、せっかくの休日を楽しもうぜ」


 せっかく邪魔者も消え失せてくれたことだしね。


「うむ。気合いを入レて護衛に臨むが故、太郎は安心して楽しむがよいゾ」

「ゴージンも楽しめよ。いくら護衛するといっても、ずーっと気を張ってたら疲れるだろう? 少なくともディーグルは、いつもは気を抜いているぞ。何かあれば瞬時に戦闘モードに移行できるみたいだけど」


 その辺がゴージンとディーグルの差だと俺は思う。


「難しいゾ。気を抜いて護衛など……」

「いつも気を張っていると、その分精神的にも消耗するだろ。他のことに意識も向けづらいしさ。何かあれば自然とすぐ反応できるようになればいい」


 実はこれ、回避訓練の際にディーグルから習った受け売りなんだけどね。


「難しくない。俺にさえできるんだから、ゴージンが出来ないわけがない。だから俺と一緒にいる時、できる限り普通にしていてくれればいい。例えば俺が買い物楽しむ時は、ゴージンも護衛しつつ一緒に楽しんでくれればいい」

「承知した。努力してみようゾ」


 素直に頷くゴージン。


「じゃあ早速……」


 買い物に行こうと言おうとしたら、ディーグルが物凄い勢いでこっちに駆けてきた。おい、早いって。


 ゴージンが瞬時に俺を後方に押しのけて、立ち塞がる。だが……


「いてっ」


 思わず額を押さえる俺。ディーグルの放った礫が、俺の頭を打っていた。


「まず一本、と」

「あー? 駄目だ駄目だ。今のは認めん。こっちはまだ打ち合わせ中で、ゲームスタートしたと思ってもいないから、今のはノーカンな」


 勝ち誇って微笑むディーグルに、俺が両手をぱたぱたと振って却下する。


「何を言ってるんですか? 君は。私が先程離れた時点でゲームスタートに決まってるでしょ」

「らーめええぇぇっ。認めまっせーんっ。お前とゴージンのスポンサーである俺が、駄目だと言ってんだから、駄目に決まってんだろ。ああ?」


 鼻白みながらも抗議するディーグルだが、俺は断固として認めぬ方針。


「いや、スポンサーは違うでしょ。私もゴージンさんも葉隠市に雇われているという立場で、そこからお給料貰っているんですから」

「でもお前らの主人は俺だから、ルールは俺が決めるのっ!」

「……ならば、スタートの号令を太郎さんがくださいよ」

「今スタートとか言ったら、お前速攻で俺に向かってくるだろ?」


 俺の指摘にディーグルが言葉を失くす。おやおや、図星ですかー。


「十分後にスタートな。で、一回攻撃したら、十分は休憩ルール。制限時間はお前が提示した四時まででいいや。以上。ほら行った行った」


 手をぱたぱたと振り、ディーグルを追い払う俺。


「太郎、今のは完膚なきまでに一本であルゾ。私はディーグルの攻撃が来ルのをわかっていながラ、飛び道具に反応できずにいた」


 ディーグルが消えてからゴージンが言ったが、俺は首を横に振る。


「俺はあいつが最初に襲ってきたら、今の台詞を言うつもりでいた。あいつが一方的にルール決めるのもおかしいからな。審判は主である俺。それは譲れない」

「お主のその押しの強さは、一つの武器ゾ」


 ゴージンが微笑みをこぼす。


「四時までっていう制限時間がキモだな。あいつ、最後のアタックは時間ギリギリにやってきそうだ。もちろんそう見せかけて早める可能性もあるが。あいつの性格を考えると、最初二回とっとと襲撃に来て、最後の一回を粘りそうだな。もちろん理想としては、一回目で防げばいいけどさ」


 一度でも防げばゴージンの勝ちになる。しかしその一度が至難である事は承知のうえだ。


「気遣い、感謝すル。然レど公正に非ず。それ以上助言は不要であル」

「はきちがえるな。俺はお前の主だ。主の立場としては、俺を守るために少しでも強くあってほしいし、ほぼ戦闘の素人である俺ですらわかっていて、お前にわかっていなさそうな事があれば、口に出すのは当然だ。目先の勝負の事だけ考えているわけじゃないからな。その先だってあるんだ。そっちの方が重要だし、ディーグルとの勝負は、お前の成長のための試練としても利用できる」

「そ、そうか……。確かにそうであルな。よく考えていル。承知した」


 厳しめな口調で言われ、ゴージンは驚いたように俺を見ながらも、納得する。しかし自分で言っておきながら、自分の偉そうな物言いに呆れちまうな……


「然レど太郎よ。お主は戦の素人と謙遜すルが、戦の理、よく心得ていルゾ」


 まあ、あっちにいた時は散々ネトゲしまくったしなー。結構それで鍛えられた。


「さてと、どこ行こうかね」

「決まラぬのであレば、我の望み、聞いてはくレぬか? よけレば服を買いに行くことを所望すル」


 今度は俺が驚かされる番だった。いつも控えめなゴージンであるが、ディーグルに要望を述べた事を皮切りに、今日は大胆モードにシフトしているのかねえ。


「ああ、いいよ」

「感謝すル。我がお主の服、見繕ってやロう」

「え……俺の?」


 これはちょっと予想外だった。ゴージンの買い物に付き合うんじゃないのかよ。


「太郎の服装、常に変化乏しく気になっていたゾ」


 面食らう俺を見て、ゴージンがやけに尖った犬歯を見せて笑う。


 うーん……嬉しいような怖いような……。ゴージンのセンスを疑っているわけじゃないが、俺は異性に服選んでもらう事に、いい思い出がない。

 最初に付き合ったあの女……あれに酷い目に合わされたからな。まあ、あんなのと比較してゴージンを疑うのはやめておこう。


「わかった。行こう……」


 少し逡巡してから、俺は了承した。


 ゴージンと並んで中央区の繁華街へと向かうため、長距離高速歩道に乗り、移動魔法を使用する。

 高速歩道で移動中は、流石にディーグルも襲ってはこないだろう。が……


 高速歩道から降りた先で、ディーグルの姿を確認する。ゴージンが身構える。もう十分経ったのかと懐中時計を見たら、十分経つ三十秒前だ。

 カウントしてやろうかと思ったが、ゴージンがまたフェアじゃないと言いそうだからやめておいた。ここは信じて任せよう。

 俺がわざわざディーグルに見えるように、懐中時計とディーグルを交互に見る仕草を取る。まあこんなことしなくても、奴がルールを破る真似はしないと思うが、一応ね。


 ディーグルがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。手出しさえしなければ、接近してはいけないというルールも無い。

 十分経過の五秒前には、もう数メートルまで迫っていた。ディーグルが仕掛ける気配は無い。薄ら笑いを浮かべて、俺とゴージンを見据えている。


 十分経過と同時に、ディーグルが弾かれたように動き、ゴージンもそれに呼応したかの如くディーグルめがけて飛びかかった。

 ゴージンが右の鉤爪を振るうも、空を切る。一気に俺に突っ込むと見せて、ディーグルが足を止め、上体を反らしてかわしていた。

 ゴージンがもう一歩踏み込み、左の鉤爪を振るうが、こちらはディーグルが鞘から半身だけ抜いた刀によって阻まれた。


 その後のディーグルの動きは正に神業だった。

 鉤爪と刀で鍔迫り合いの如く、軽く押し合う両者。いや、ディーグルの方から刀で鉤爪を押したので、ゴージンもほぼ反射的にそれを押し返していた。

 鉤爪と刀の交差した場所を支点として、ディーグルが体を大きく回転させて、ゴージンの左サイドへと回りこむ、そのはずみで押し返す力をいなされて、ゴージンは前のめりになって体勢を崩した。まるでディーグルの回りこんだ動きに、ゴージンの体が巻き込まれたかのように見えた。

 それで勝負は決まった。ゴージンが体勢を立て直して、振り返った時には、ディーグルは俺の喉元に切っ先を突きつけていた。もちろん切っ先は全く揺れていない。


「まず一本」


 切っ先を突きつけたまま、ゴージンではなく、俺を見つめてにやりと笑うディーグル。ふぁっく。この野郎……

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