15 ここが天竺……いや、ソードパラダイス
さらに四日間滞在した後、俺等は羅刹の城を後にする。ちょっとゆっくりしすぎたわ。一応ネムレスにソードパラダイスに来いと言われているんだし、その目的を果たさねーと。
ソードパラダイスから一番近いと思われる場所を選んで、魔雲の地に入ったものの、途中の道草あれやこれやで、予定よりすっかり遅れちまっている。
ちなみにアーゼーは羅刹の城にまだ当分はいるということ。優助も納得いくまで修行を続けるために、羅刹の城に残った。あの寂しがり屋の軟弱ボーイが逞しくなったものよ。とはいっても。優助は非常に辛抱強く、努力家でもあるんだが。
試練の聖道を抜けちまえば、ソードパラダイスはもう目と鼻の先かと思ったが、わりと歩かされた。途中に小さな宿場も三つほどあったし。
ゆるやかな山道を一週間ほど歩いた所で、大きな変化が訪れた。
「晴れたっ」
思わず声に出してしまう俺。ずーっと雲に覆われていたのに、とうとう陽の光が現れたのだ。
魔雲の地にもたまーにだが太陽が射すとは聞いていたが、すっかりそんなこと忘れていた。一体何日ぶりに見る青空とお日様だろうか。
「この先は普通に晴れの日も多いよ」
「え?」
感動して天を仰いでいた俺だが、ドロカカの言葉に振り返る。
「ソードパラダイスとその周辺はな、魔雲の影響を受けないのさ。賢者院の連中が天候を操って、天候をできるかぎり自然な状態にしようとしている」
「脳筋全開な名前の都市のくせして、魔法文明も発展しているってわけか」
「うむ。しかし基本的には武を尊ぶ国だぞ。支配しているのが四人とも剣を司る神だからな。名だたる戦士というだけで、政治家や高官をも凌ぐ発言力があるほどだ」
やっぱり脳筋だな。うむ。
それからまた歩くこと半日。空が夕焼けに染まる中、山道が下り道へと変化すると同時に、眼下になだらかな平野が広がった。そして平野の先には、建造物が地平の果てまで建ち並び、平野を埋め尽くしていた。
とても魔雲の地とは思えぬ光景だ。ここがソードパラダイスか。
「やっっっっっと着いたか」
喜びと安堵が混じった声をもらし、自然と顔が綻ぶ俺。
「久しぶリにネムレスと会えルのが楽しみゾ」
ゴージンも喜んでいるようだ。俺は久しぶりどころか、生ネムレスと会うのは初めてなんだが。俺も会うのは楽しみで仕方無い。早くあのおっぱいに顔を埋め、太もも撫でまわしたい。
しかし目的地が見えたからといって、着いたわけではなく、山岳地帯を抜けて平野に降りて、そこからえっちらおっちら平野を歩いていて、気がついたら夜になっていた。平野を歩いて、ソードパラダイスに着くまでの間も、距離がある。
「頑張れば今夜中には着くかもしれませんが、どう考えても深夜になりますよ? 一眠りした方が良いと思いますが」
ディーグルが提案し、俺も諦めて足を止めた。うーん、残念。あとちょっとで到着なんだがなあ。しかし到着しても夜中じゃ確かに面白くない。無理してもしゃーない。
ソードパラダイスの都市外縁部では、葉隠市同様に農業地帯となっている。あと、牧場。ラマ属の動物の群れが放牧されているようだ。そこかしこにぽつぽつと家が建っており、その中には空き家もあったので、そこで一泊した。
空き家が何で空き屋になったのか、ふと考えてしまう。元々住んでいた人はどうしたのか。自殺したのか。自然消滅か。以前シリンに聞いた話をまた思い出す。単に引越ししただけかもしれねーけどな。
***
翌朝。再び歩き出す四名。
道を歩いているとは、俺達とは反対に歩いていく旅人の姿がチラホラと。まあ山道でも何度か見かけたが、これらは皆ソードパラダイスから出てきた者達だろう。
平和で便利な大都市を離れて、何の目的で旅をしているのだろうと、ふと考えてしまう。明らかに行商人ぽい人も結構いたけどね。あるいは冒険者っぽいのとかも。
まあそれはともかく、太陽が高いところにきた辺りで、ようやく俺達はソードパラダイスの門をくぐった。
あれだ。石畳の街。建造物は全て石造りで西洋風。西洋風と言っても――随分と古めかしい建物が多い。
和風建物がメインな葉隠市にも西洋風な建物はあったが、あの都市の西洋建築は、現代でもヨーロッパに旅行すれば御目にかかるようなそれだ。しかしこの都市にひしめく建物は、同じ西洋風でも、かなり旧いもののように感じられる。そのうえ飾り気も無く簡素。あまり建築物の知識は無いから、うまく説明できんが。
石壁もひび割れていたり苔むしていたりと、古めかしい雰囲気だ。宿場にも石造りの建物は結構あったが、ここよりは綺麗だし新しかったな。都市そのものが古い歴史があるってことか?
山岳地帯から双眼鏡で、都市の主要施設と思しき場所も見てみたが、そちらにはデザインの凝った大きな建物がちゃんとあった。ゴシック建築とかそういうのか? いや、わからんけど。
居住区の建物や配置は、微妙に乱雑さが見受けられる。綺羅星ほどひどくはないが、あまり考えて都市開発されていなさそうな印象。都市郊外だからなのかもしれんが。
綺羅星町と違って、道幅は広い。馬車がわりと通っている。あと、ラマ属っぽい動物が荷物引っ張って歩いている。
「ネムレスがどこにいるのか、わかっているのですか?」
ディーグルが問う。
「図書館ぽい所にいると思うんだよなあ」
「図書館と言われても、葉隠よりもさらに人口の多い巨大都市国家ですよ? 図書館の数も無数にありますし、それら全部を当たるのは大変でしょう。それだけで一ヶ月近くかかりかねないですよ」
「そ、そうか……」
ネムレスは夢の中で図書館にいるようなことをよく口にしていたが、具体的な場所は教えてくれなかったんだよなあ。
「賢者院をあたってみるのはどうかね。俺としては今更どの面下げて――という感じで、あまり顔出したくはないんだが」
ドロカカが顎鬚を撫でながら提案した。
「厚顔無恥なドロカカにも、そんな感情あったのか」
「ははは、厚顔無恥な俺でさえ躊躇うんだから、察してくれ。しかし顔を見せて知り合いにも会って話をしたいという気持ちもあるから、複雑なものよ」
からかう俺に、笑いながらドロカカは言う。
「賢者院と何かあったのですか?」
ディーグルが尋ねる。
「特に何かしでかしたわけじゃあない。保管すべき知識を持ち出して、そのまま行方をくらましただけだ。あのモリノに追われてな」
それは十分にしでかしているんじゃないかと……逮捕されるんじゃねーか?
「ここから賢者院はかなり距離があるぞ。歩いていくなら下手すりゃ一日以上かかる」
「馬車を借りるか、メカホース作るか」
ドロカカの話を聞いてげんなりする俺。葉隠や他の都市には高速移動歩道が所々にあったが、今の所、この都市には見かけられない。つーか、文明レベルがちょっと低いのか? 建物見てもそんな感じだけど。
「メカホースとは何だね?」
興味を抱くドロカカ。よし、こうなったらメカホース出すしかねーな。
スケッチブックを出し、絵を描く俺。
「何度見ても面白いものよの」
スケッチブックから紙が切断され、空に浮かび上がって光る様を見て、ドロカカが顎鬚をいじりつつ笑う。
「何ゾ、こレは?」
出現した金属製の二頭の馬と、キャラバンタイプの馬車を見て、ゴージンが問う。
「いや、だからメカホースだよ。メカの馬」
魔雲の地も当初はこれを使おうかと思ったが、馬車が通れるスペースのない狭い道が多いという話なので、断念した。
「こんなのが街中を走っていたら、目立って仕方有りませんよ」
またディーグルがケチつけてくる。いつもケチつけるのはこいつなんだー。ふぁっくーっ。
「確かに目立つかもしれないが、敵が現れたら人型に変形して戦えるし、ミサイルやビームも搭載してるんだぞ。しかも二頭で合体してパワーアップもできるんだ。それでも文句あるってのかよっ」
俺が粘り強く説得したら、ディーグルは深く溜息をついて、納得してくれたようだった。ふふふ、やはり男子たるもの、戦う変形合体ロボには心躍らせるもの。わかってくれると思っていたさ。
そんなわけて俺達は幌の中へと入り、俺が御者となってメカホースを走らせる。
「おい、俺に操縦させてくれよ」
ドロカカが目を輝かせて要求してきたので、代わってやった。ふふふ、物の価値のわかる男よ。
そのままドロカカが御者を務めてくれたので、俺はキャビンの中でゴージンの横にくっついて昼寝していたのだが……
「太郎、起きルがよい。何かあリきゾ」
ゴージンに起こされると、馬車が停まってる。
「一体今まで何やっていたんですか!? 貴重な遺物を持っていなくなるなんて!」
「占い師になった噂は聞いてないか? まあいろいろあって、ずっと逃げていたのだ。星の位置が変わった故に、こうして無事帰還したので、よしとしてくれ」
ドロカカが誰かと言い合ってるようだ。会話内容からすると知り合いっぽい。
「賢者院の方とばったり出くわして、揉めているようです」
ディーグルが解説してくれた。あー、なるほどねえ。
「お取り込み中、失礼っと」
幌の中から顔だけ出して、ドロカカの前にいる人物に声をかける。小奇麗な白いローブに身を包んだ人間の青年だ。なるほど、いかにも賢者様って感じだな。腰から剣を下げているのが違和感だが、ソードパラダイスの住人の中で要職にある者の大半は、帯剣が半ば義務だと聞いた。
「賢者院の人? そちらにネムレスいない? 俺ネムレスの神聖騎士なんだけど」
「は?」
藪から棒な俺の質問に、賢者青年は啞然とする。
「本当だよ。俺が保障しよう」
ドロカカがフォローしてくれた。
「ネムレス様なら、賢者院管轄の高等図書館におられます」
おー、ビンゴか。
「ありがとさままま。ドロカカ、ゴー」
「あいよ。じゃあな」
「あ、ドロカカ様っ、ちゃんと賢者院に戻ってくださいよ!
馬車を走らせると、青年が後ろから念押しするように叫んでいた。
「ドロカカ、たまには役立つな。そして相当問題児みたいね」
ドロカカの隣に座って話しかける俺。
「まーな。しかし気が重い。賢者院に入れば、捕まって根掘り葉掘り聞かれまくるのが、わかりきっているからな」
「大賢者廃業して占い師までやって、知識の持ち逃げしたのは、モリノの注意を自分だけに引くためか?」
俺の言葉に、ドロカカは照れ笑いを浮かべた。
「野心を完全に失ったわけでもないがな。あわよくばこの知識を独り占めできる方法も無いかと、考えていたよ。くくく……」
正直に己の野心を口にするドロカカ。ディーグルがその辺を警戒していたな。
それから数分程の移動で、周囲の風景が変わった。
それまでは居住区で、かなり古臭い西洋風の家ばかりだったが、どうやら重要区間に入ったようで、でかくて立派な建物ばかりが建ち並んでいる。デザインも新しくなって凝っている感じだ。バロック建築とかゴシック建築とかそういう奴か? あるいはルネッサンス建築とか。まあ名称は知れど、区別はつかん。
「おい、ゴージン。外見てみなよ」
俺が促し、ゴージンが幌から顔を出すも――
「何ゾ有リし?」
「いや……周囲の建物が変わったから、それの報告」
不思議そうな声を出すゴージンに、俺は声をしぼませた。余計なことだったか。
「景色の変化を教えてくレきか。太郎は本当に子供なのであルな。可愛いものゾ」
ゴージンが御者席の方にやってきて、笑いかけながら俺の頭を撫でる。何だろう、すごく嬉しくない。
「着いたぞ。ああ……懐かしいな」
立派な外壁にある立派な門をくぐりぬけながら、ドロカカが嫌そうな声を出す。
門をくぐった先はやたら広い庭園。大きな建物がぽつぽつと建っている。先程と同じ白いローブ姿の者が行き来して、メカホース馬車を物珍しげに見ている。あるいはドロカカを知っていると思しき者が驚いている。
ここが賢者院てわけか。昔の俺なら絵の一つでも描きそうなくらい、綺麗でいい場所だ。
「高等図書館はここだ。で、俺は本院に行ってるから、用があったら来てくれ」
建物の一つの前に止まり、ドロカカが言った。
「ん? ドロカカはどうするんだ?」
「俺は本院に顔出して経緯を話してこなくちゃならん。ネムレス神も興味はあるが、まずは十年間死守したお宝の解析だな。賢者院には来たくなかったが、ここの優秀な解析士を使えるってメリットはある」
どこまで本気かわからん言い草のドロカカ。
「俺が側にいないとこのメカホースは動かないから、歩きで行ってくれ」
「おやおや、そいつは不便だな」
そんなわけで俺等はドロカカと別れ、三人で図書館の中へと入った。
***
「ドロカカは言うことがころころ変わって、何が本音かさっぱりわからんな」
「全くです」
俺の言葉に、日頃からドロカカを警戒気味なディーグルが同意を示す。
「へーい、ネムレスいっちょーっ」
図書館の受付に俺が声をかける。
「失礼。私ウィンド・デッド・ルヴァディーグルと申す者ですが、ここにいる二名はネムレス神の縁の者ですので、ここにネムレス神が御滞在でしたら、問い合わせていただけませんか? このちんちんくりんはこう見えてもネムレスの神聖騎士。そしてここにいるのはネムレスの弟子の不沈戦士ゴージンという方です」
俺に代わって丁寧かつ余計な挨拶をするディーグル。
「そちらのお子様のお名前は?」
受付が俺の方に向かって尋ねてきた。どうやらネムレスから話がついているようだ。
「新居太郎でございまーす」
「ネムレス様から話は承っています。地下六階のレベル4禁書区域の三番個室におられます」
地下六階もあるとか、どんな図書館だ。
やたら古めかしいデザインのエレベーターに乗り、地下六階へと降りる三人。稼動する時にキリキリと派手な音がしている。
いよいよネムレス本体と御対面かと思うと、嬉しい反面、ちょっと緊張する。ここに至るまで、本当に長かったからな。
早くネムレスに抱き着いておっぱいに顔を埋めたい。期待に胸を膨らますも、股間は膨らまず。嗚呼、ふぁっく。
レベル4禁書区域の三番個室とやらの前まで歩き、盾の後ろに二本の剣が交差したデザインのドアノッカーに向かって手を伸ばし、俺はノックした。
「遅かったな。入りたまえ」
部屋の中から男の声が響く。俺は怒りに任せて乱暴にドアを開けた。
長く艶やかで綺麗な黒髪。大きな目。ぺったんこの胸。
「ふざけんなーっ! 何で男なんだよ!」
扉を開くと、中の広く豪華に部屋のソファーに、果たしてネムレスが本を読みながら腰かけていた。
「やっと会って第一声がそれか。全く……」
ネムレスが苦笑して溜息をつくと、体のラインが女性のものへと変化する。顔の変化は……正直あまり変わっていない。一応女っぽくはなっているけどさ。
「うん、くるしゅーないっ。俺の前ではずっとそのままでいるようにな」
「何様だ、君は」
満足そうに頷く俺の方に、ネムレスが歩いてくる。
「長旅御苦労。ついでに何人かの心を失った神の始末や改心も、御苦労だった」
そう言って俺の頭を撫でるネムレス。また例のオーラかっ。
「だっこ。あとぱふぱふ」
そう言って両手を広げる俺。
「久しぶりだな、ゴージン。大分腕をあげたようだな」
「うむ。会えて嬉しきゾ。ネムレス。後ほど稽古をつけてもらいたし」
俺の脇をすり抜けて、ゴージンのことを抱きしめるネムレス。こいつは許せねーな。
「そちらは神殺しのウィンド・デッド・ルヴァディーグルか。お初に御目にかかる」
「はじめまして、ネムレス。お会いできて光栄です」
胸の前に手をかざし、優雅な仕草で一礼するディーグル。
「こちらこそ。太郎から話はよく伺っている。私の神聖騎士と弟子が散々世話になったようで。申し訳ないのとありがたい気持ちでいっぱいだ。特に前者がな」
「全くです。ゴージンさんはともかく、太郎さんに関しては、ここまで世話のかかる子も珍しいです。これでも調教していたのですが、恥ずかしながら私にはこの程度が限界でしたので、ネムレスの方から是非」
「できるかぎりはしてみよう。しかし期待はしないでくれ。理由はわかっているとは思うが」
二人がかりでぼろくそに言われてる……。俺ってそんな問題児か?
「取りあえず楽にしてくれたまえ。今、茶を淹れる。ここはあまり良い茶が無いのが難点だな。シャンペニアには良い茶があったのだが」
「そ、そうですね……。あそこは茶だけは……良い所ですね」
何か悪い思い出があるのか、ネムレスが口にした名称に、ディーグルが苦虫を噛み潰したような顔になっていた。
「さて、太郎をここに呼んだ理由だが……。当初はのんびりと、心を失った神の討伐でもしていこうかと思っていくつもりだったが、そうもいかなくなった。もちろん見つけたらそれらも実行していくつもりではあるがね。フェンリルにもそれを言ったが、神殺しをメインに据えないと告げたら、不貞腐れてしまったようだ」
「あ奴と馴れ合いたいとも思わぬかラ、その方がよいゾ」
そういやゴージンはフェンリルと昔何かあったんだったかな。
「何か悪い事態が?」
「リザレの事だ。私が約二ヶ月半前、魔雲に入るまでの間、彼女と共に行動していた」
深刻な表情でリザレの名を出すネムレスに、俺は強い不安を抱いた。
「最悪の可能性だが、リザレが私の敵に回るかもしれない。彼女の心の闇は転生を繰り返しても晴れず、それどころか今回の生誕前の人生の影響で、別のベクトルで闇が深まってしまった」
不安的中。そういや乱す者になっていると言ってたしな。そしてネムレスは乱す者の存在を認めつつも、同時に警戒もしている。
「何で敵に回るんだよ。つーか、ネムレスや俺が説得してどうにかできないのかよ。つーか、俺の体をちんちんが機能するまでの歳に成長させろ。リザレがどんなに闇堕ちしようと、俺のデモニックおペニペニさえ解放されてきちんと機能すれば、説得する自信が俺には有る」
「口で説得できるようなら、私も悩まん」
「だからちんちんで説得すると言ってるだろ……」
「リザレは転生しても記憶を失わない術を身につけた。それが悪い方に作用している」
俺の絶対的解決提案を無視して話を進めるネムレス。こいつは俺の下半身の威力を知っているはずなのに、何故だっ。
「まあ転生しても全ての記憶がリセットされるわけではないのは、前にも言ったが、元々魂に闇を抱えていた所に、地獄で十五年間、病気でまともに動けなかったおかげで、歪な野心が強くなってしまった。冥府を総べる姫になるだとか、わけのわからんことをぬかして、世界征服をしようとしている。実際幾つかの都市も無血で支配化に置いた」
「流石は太郎の恋人ゾ……」
ゴージンが感心の声をあげる。俺は別に驚かない。あいつならそれくらいやっても不思議じゃない。
「問題は、だ。世界征服が妄言のままではなく、実現しうる知識を彼女が仕入れてしまったことだ。リザレは解放の塔の謎が記された禁断の知識を見つけてしまったのだ」
その話は実は優助から聞いて知っている。俺にだけ教えてくれたんだ。
「リザレが解放の塔を見つけたら……もしそのシステムを支配下に置いたら、冗談でも妄言でもなく、彼女はこの世の支配者となれるぞ。何しろ塔の試練など無視して、自由に神としての力を与えることが可能になるのだからな」
大真面目に語るネムレスに、俺達三人はしばらく言葉が出せなかった。ネムレスも喋らないので、数秒ほど沈黙が続いた。




