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第24話 ずっと一緒さ

 すっかりおとなしくなってしまったアマンダと手を繋ぎ、プリクラの筐体横にあるスペースに入る。どうやらここでは撮った写真に落書きをすることが出来るようだ。とは言ってもさっきは撮影タイムの後半をアマンダとのキスに使ってしまった為、撮った写真を見ることがはばかられるような気持ちになってしまう。


〈写真を選んで落書きしよう♪〉

「このペンを使うのかな?」

「私は画面のこっち半分ですねー」


 落書きコーナーには椅子があり、俺が座った右横にアマンダが座る。

 やや大きめの画面の両端にはタッチするための太めのペンが一本ずつ差さっており、画面のだいたい半分の位置を境にそれぞれ落書きが出来るようになっていた。これで撮った写真にいたずら書きをしたりスタンプを押したりすることが出来るらしい。


「ん、みなさんどんな感じに書いてるんでしょう」

「ちょっと調べたらよかったかな?」

「大丈夫です。ダーリンへの愛でなんとかしてみせます!」


 アマンダは自分に言い聞かせるようにペンを取ると1枚目に撮ったピースの写真をいじり始めた。このまま待っているのも暇になってしまう為こちらは2枚目に取り掛かることにする。二人でぎゅっとしているちょっと恥ずかしい写真だ。


「う~っ」

「どうしたらいいのかな」


 何かスタンプで使えそうな物が無いかを探してみる。すると、今日の日付が書かれたスタンプが幾つも見つかった。とりあえずこれを俺とアマンダの足元辺りに配置してみる。さて、これで下の部分は寂しくなくなったが、問題は上の部分だ。出来れば中央辺りにも何か欲しい。


「ダーリンの頭にこれのっけて……えへへ……」


 隣で何やらアマンダがにやにやしながらペンを動かしている。その気になれば見ることが出来る距離にいたけれど、ここは後のお楽しみにするとして視線をこちら側に固定したままどうしたらいいかを考える。

 頭、という言葉が引っ掛かったため、帽子のスタンプが無いかを探してみた。するとやはり何種類も準備されており、その中でこのシーンに合いそうな物を探してみる。


(俺もアマンダも制服姿だからな……これにするか)


 セーラー服を着ていたアマンダには白のボーラーハット。一方、学ランを着ているこちらには昔ながらの学生帽を乗せてみた。うん、雰囲気は大変よし。何か一つ欲しい所だが……ここは真ん中に手書きで何か書くしかあるまい。スタンプも探しては見たけどしっくりくる物が無かった。


(時間は……あと150秒か。長いようで短いな)

「ん、これでいいですね、3枚目いってますよー」


 そう言えば忘れていた。これ写真が5枚あるんだった。

 真ん中に何を書くか決めないといけないな……うん、素直にここはアマンダへの想いを述べた方が良いだろう。そう、多少の恥ずかしさは我慢だ。彼女がストレートに伝えてくれているのだから、俺もそれに応えなければいけない。


「えーっと」


 アマンダへの想いを頭の中でそれなりの文章に練り上げ、なるべくきれいな文字で写真の真ん中に書き上げる。そして、隣で彼女が落書きに集中している間にこちらも2枚目に入った。その後にアマンダは3枚目に入り、残り130秒くらいでお互い最後の写真の落書きに入った。

 こちらは先程と大体同じような体で、それでもちょっとだけ種類を変えながら落書きをしていく。先程とほぼ同じ構図だから時間もそんなにかからなかった。2回目の為か真ん中に書く言葉もすぐに出てきてくれた。


「出来ましたー!」

「俺も終わりだな……残り時間は」

〈ボーナスタイムだよ!〉


 残り100秒という所でボーナスタイムが発動してカウントダウンが止まった。どうやらもう少しだけ落書きをいじることが出来るらしい。だが、さっきまでの時間でもう既に5枚分落書きは終わってしまった。

 どうしようかと思ってアマンダの方を向くと、彼女と目が合った。


「あ……」

「ダーリン……」


 アマンダは既に落書きされた5枚の写真、特に俺が落書きした2枚を見るとうっとりとした顔になって俺の右肩に頭を乗せる。


「ダーリンがこんなこと書くの珍しいですね」

「そ、そうかな」

「"お似合いカップル"……書いてて恥ずかしくなかったですか?」

「う……」


 アマンダがにやりと微笑んでこちらを見て来る。勿論恥ずかしくないなんてことは無かった。そんな俺を彼女はつんつんと人差し指でつついてくる。


「こら」

「とっても嬉しいですよ。ダーリンは照れ屋さんですから、なかなかこう言ってくれないです……こちらには"ずっといっしょ"って書いてありますね?」

「恥ずかしいんだよ……」


 お互い、赤くなったまま押し黙ってしまう。彼女は少しだけ動いて座り直すと俺の身体にぴたりとくっついて来た。なんとなく彼女の背中に右手が当たっていて、成り行きでそのまま彼女の身体を抱いていた。

 アマンダはこちらをぼんやりとした目で見つめながら、口の端をそっと上げて微笑んできた。彼女の大きな瞳が俺をじっと見据えたまま離さない。その間にも、日本人離れした彼女のやわらかい身体が太ももや腕にもちもちと当たる。


「キス、してください……ね?」


 筐体の画面に映ったカウントをちらと見るが、まだボーナスタイムに入ったままカウントダウンが再開されるような気配はない。アマンダと再び見つめ合って、彼女の言葉に実際の行動で返事をする。ゆらりと揺れた彼女の金髪からの香りが俺を駄目にしていく。


「んちゅ……はむっ、んっ……」


 アマンダと正面を向き合ってお互いの身体を抱く。胸元に当たる彼女の大きなおっぱい、腕に伝わる蠱惑的な肉の感触、口の中に広がる蜜の味。優しく動く彼女の舌と絡ませて蕩けるような時間を過ごす。


「か、身体が熱いです、ダーリン……」


 ぽかぽかと暖かい彼女の視線は一転に定まっていない。俺の目にちらと合っては胸元まで下がって、まるでジロジロと俺の身体を視線で舐め回しているようにも見える。獲物を探している顔をした彼女は身体を預けたままその手を俺の左腿の上にそっと乗せた。


「あっ、駄目です、ダーリンにいけないことしようとしてます……」

「アマンダ、それって……」

〈ボーナスタイム終了! カウントダウンが再開するよ!〉


 様子がおかしいアマンダに尋ねようとした時、筐体から飛んできた声で雰囲気が崩れてしまった。現実に引き戻された俺たちは、この中途半端に昂った感情の行き場が見つからずにせわしなく周りの様子を確認してしまう。ポケットに入ってるスマートフォン、財布、画面に映っている俺たちの写真……


「……ごめんなさい、です」


 驚いたおかげで俺たちの間には若干距離があった。さっきアマンダが発していた言葉の意味が全て分かった訳ではない。それでも目の前で申し訳なさそうに落ち込んでしまったアマンダに何かしてあげたくなってしまう。


「謝らなくていい」

「でも、私は、ダーリンに……」

「いいんだ」


 俺も慌てて彼女と距離を取ってしまった。その事を反省しながら、アマンダの頭をそっと撫でる。金髪の上を手のひらが心地よく滑る。アマンダは目を閉じたままどこか夢心地で微笑んでいた。

 その後、距離の詰め方を忘れてしまった俺たちは、結局残り時間が終わるまで何も話すことが出来なかった。それでも、その時間はかけがえのない宝物になった。


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