35話 侯爵家の事情
今回は少し毛色が変わっています。
トスラト皇国の首都に来て半月。賞金首達の処理が終わって、裏社会の1時期の混乱は取り合えず収まり、今は吸収と合併作業に入っています。
他の組織も、賞金首だったトップを無くし、混乱もあっただろうが毎回俺が説明をして、最初の組織がどうなっているか見学や視察をさせたので、ほとんどの組織が入ってきました。
今のところ都市部の95%ほどの地域が管轄に入っています。
スラム街ですが、この都市の最後のスラムは東南東に有り、ここは規模的にこの都市の中のスラムで2番目の規模でした。このスラムは縫製と造園建築で大人達にがんばってもらうことにしました。子供達の制服や、警備部、職員、後の店舗の制服など全く足りないので、衣服を重点的に作ってもらいます。
情報部が思いのほかがんばっていて、貴族、官僚、騎士、商人などの違法行為の情報がかなり集まっている。
そんな中、今まで来たことの無かった、学園都市部に一人で来ています。
ここは首都の北東門を中心にして、たんこぶの様に突き出した所で、直径3kmほどの貴族や騎士、裕福な商人の子供用の学園都市で、後付で建築されたらしく、首都の城壁の外に学園の城壁がある構造になっています。
中は、学園の建物、グラウンドや施設、学生の寮、職員や関係者の住居や、高級商店、カフェ、レストラン等、何このセレブな造り。
白を基調にして彫刻や彫金のされた建物達に、計画された町並み、並んだ品物の高額さ、レストランの定食?が安くて300C(3千円)って高すぎないか。間違え無い様言って置くけど、ここは学生街で商売対象はあくまで学生です。根が庶民な俺には空気が違いすぎる。
帰ろう。
帰り際に少し気になる15歳ほどの男の子に出会う。
ほんとに何気ない事なんだけども、小物屋の前で来る時にも居たので、ずっと30分は少なくても居たのだと思う。
後ろから覗いて見ると、1つの髪飾りを見ているみたいです。価格は8千500C。服装から見れば学生で、良い所のぼっちゃんらしいのに如何したんだろう。分からなければ聞いてみよう。
「どうしたの?綺麗な髪飾りだよね。買わないの。」
「エッ、誰!」
「ごめん。結構長い間見ているみたいだから、気になって声掛けたんだけど。俺はライトって言うんだ。良かったら聞いてもいい。」
「僕はケニトス・ニーレセンって言います。気が付かなかったよ。驚いてごめん。ちょっとね。母様の誕生日にプレゼント考えてたんだけど、気に入った髪飾りが高くって、ずっと悩んでたんだ。」
おどろいた。苗字が有るって事は、この子は多分貴族だ。そして間違ってなければ、ニーレセンってたしか侯爵だったと思う。そんな家の子が平民に謝った。
この国の貴族は、皇家、公爵、侯爵、伯爵、子爵、準子爵、男爵、準男爵で、準が付いたのは名誉階級で1代限りの階級になる。更なる功績が在ると準が取れます。
そんな、皇族以外で上から2番目の家の子なのに、平民と普通に話した。
ちょと新鮮だし、貴族にも色々あるのが分かった。
「侯爵家ならこのくらい直ぐ買えると思うけど、お金足りないの。」
「うんそうなんだ、家はあんまりお小遣い貰えないから、買えないんだけど、何か諦められないんだ。」
「どの位足りないの。」
「3300C足りないんだ。どうしよう。」
「う~ん、何が出来るの?」
「勉強はあんまりだけど、騎士科だから剣術と槍術なら何とかなるけど?」
「庶民の仕事で、夜間の警備で1晩700Cってのが有るけど、やってみる?夜中ずっとだし、結構きついよ。こんなので良ければ、知り合いがやってるから紹介出来るけど。」
スラムの夜間警備の仕事を、やれるか分からないが紹介してみると。
「エッ!ほんと、やるやる!紹介して!」
なんかすごくやる気だ。貴族がやる様な仕事じゃないけど、本人がやる気なら良いか。
こうしてケニトス君に警備の仕事を紹介してあげ、本部に帰って気になる事を調べてみる。
ニーレセンという貴族。侯爵家なのに子供はお金に苦労するって、どうなんだろう。それに平民に特権意識を持っていないみたいだし。少し興味が有る。
ニーレセン侯爵家、犯罪情報今のところ無し、家族構成、祖父両親子供は3人、ケニトス君は長男で、下に妹12歳と弟8歳がいる。首都から北に300kmの近距離にニーレセンの都市が有るが、間にクアト山脈があって、回り込んで街道が有るため距離的に2千km位離れてる。
そのクアト山脈とトレスと言う直径150kmの大きな湖の間に都市部がある。
特産は山の幸と湖の魚、農産物は河川の氾濫もあって余り良くないらしい。
思い出した。盗賊退治の時、一番盗賊被害が少なくて、賞金首が1人しか居なかった都市だ。
思い出したら興味も出てきたので、転移してみる。近場の村や町に飛んだり、そこに住んでいる人達に侯爵家の話題を聞いたりしてみる。最後に都市部に行って、都市の人達に聞いたり、実際に侯爵家を見たりした。
この侯爵家の人達、思っていた通りの人達みたいです。頭は固いけど、領民思いで贅沢を嫌い、もしもの時にいつでも備えてる。領民達や騎士の人達に人気があって、慕われている。
夕方になり、自宅に転移して、ラナ、アマリー、フィース、それに自宅に保護している女性達20人で、色々相談し、話し合ってみた。話し合いは夜中まで白熱しました。
明けて翌日。
エルフの国の首都に行き、ライト商会の店舗でセミールさんに相談して、ニーレセンの都市で計画している事業の適任者で志願する人が居るか聞いてもらう事にした。多分ニーレセンではやる事が多岐に渡って色々有ると思う。
その後、ニーレセンに飛んで商業ギルドに行き、都市の中心部に大きな店舗兼倉庫付き物件を探してもらい侯爵様に面会を依頼した。
昼飯を挟んで、店舗候補を見学していると、夕方に侯爵様との面会が取れたと連絡があった。この都市の店舗は、中央の広場沿いの3階建ての店舗にしました。計画では、迷宮アイテム、装備品、魔法具はこの都市限定で販売をする事にしています。
店舗の簡単な改装と塗装を依頼して、什器や家具の搬入や手配もして侯爵邸に向かう。
侯爵邸は、この都市の南の壁際に有り、南の門の脇に大きな敷地で存在しています。ただ、今日購入した店舗の方が大きいし。
玄関で、執事さんとメイドさんの2人に迎えられ、2階の執務室に通される。中にいたのは、40歳ほどの厳つい感じの男性で、ケニトス君に良く似た外見に、落ち着いた空気を纏った人でした。
「お初にお目にかかります。ライト商会会長のライトと申します。今回はお時間をいただきありがとうございます。」
「・・・失礼した。まさか噂の商会の会長が、こんなにお若いとは思わなかった。私が聞いたのは、エルフの国、龍人の国に大商会を展開して、先ごろこの国の首都でも何か事業を開始されてる大実業家だと商業ギルドから伺っていたものですから。もっとこうお年の召した方を想像しておりました。」
「いいえ、かまいません。商人は元々本職ではなく、基本冒険者ですからしょうがないと思います。」
「ほほう、冒険者と。私も昔は冒険者の端くれだったのですよ。ランクはDランクまでしかいけませんでした。ライト殿は今ランクはいくつですかな。」
「今はSランクになります。元々冒険者として活動していて、そこでの過剰分を有効に活用しようとして動いたら、こんな大きな商会になってしまいました。」
「その歳でSランク・・・。それに、商業ギルドのランクが2S、信じられん。」
「本当です。その冒険者として活動して、この国に来た時、盗賊の多さに愕然として、3ヶ月ほど盗賊退治をしていたのですが、その時この都市が一番治安が良いのは分かりました。今回のこの都市で計画している事業は、大前提として治安が良くないと成功しません。」
冒険者ギルドのカードを見せながら、計画の全容をはなしていった。話終わった時は、すっかり日も落ちて暗くなっていたが、侯爵様は身じろぎ1つせず最後まで聞いていた。
「できるのかね、そんなことが。」
「やります。それに、これが本当に出来たら、子供達が一番喜んでくれるはずです。子供達が夢を持てる場所が国の中に1つくらい在っても良いと思いませんか。もしかしたら、大人ですら童心に帰れるかもしれません。」
「確かに。分かった。協力しよう。それに成功すれば、ここの領民達にもかなりの恩恵も期待できそうだ。」
「では侯爵様には、他の貴族の方々が横槍や利権に群がってくるのを上手くかわして下さる事と、国に対する根回しをお願いします。」
「良かろう。これからは、私の事はドニスと呼ぶが良い。遠慮はいらん。今日は良ければ、夕飯を一緒にどうだ?」
「では、ドニス殿と呼ばせていただきます。家族を3人ほど呼んでも宜しいでしょうか。」
「おお、呼ぶが良い。私の家族も紹介しよう。席は4つ用意しておく。」
「では呼んでまいります。」
御呼ばれした時に、ラナ達に念話で確認して有るので、外に出て念話で呼ぶ。呼ばれたと同時に、3人共転移してきて何時もの状態になる。・・・忘れてた。
今回はさすがに、3人は自重してくれたのか普通に食べさせてくれた。隙有ればあ~んはしようと狙っていたみたいだが、大丈夫でした。
食後俺は、ドニス殿と祖父のゲルオス殿と酒を飲みながら今後の事を話、ラナとアマリーは婦人のフロニスさんとなにやら密談中、フィースはマーシャレス(12歳女の子)とトニエス(8歳男の子)と遊んでる。
たまに婦人が赤くなった頬を押さえて、こちらをちらちら見てくる。2人は婦人に何を話してるんだろう。変な事吹き込むんじゃない。
こうして夜中に転移で家に戻りました。
明日から忙しくなるぞ。
会話をかなり入れる様にしてみました。ナレーションの1人称が好きなので、上手くいかず時間が掛かりましたが、少しずつ慣れて行きたいと思います。




