エピローグ 洗濯屋きらりは、今日も大繁盛です!
玉座の間。洗濯完了の後。
二つ目のお願い――
それは、看板の意匠。
もう全身きらっきらの王様は、
「うむ、わし自身の戒めじゃ!」と二つ返事。
やがて完成した洗濯屋きらりの看板には――
土下座した王様と、その上に山盛りの男たちの意匠。
王都の誰もが二度と忘れないように。
そして――
《洗濯屋きらり ☆いつも、きらきら☆》
《仕上げまで、心を込めて洗濯します》
私は、満足げに頷く。
(うん、最高)
***
空を飛びながら、ポチの頭を撫でる。
今日は、隣国の王都まで。
前には、マイクさん。
後ろには――
なぜか勇者(王子)と騎士も。
「なんでついて来るの?」
「外交だから」
「外交です」
「馬車で行けばいいじゃん!」
「いつも洗濯屋殿の傍に」
「洗濯屋殿の安全確保が騎士の務め」
無駄に熱血。無駄に正論。
思わず笑いが込み上げる。
(なにそれ)
「ちゃんと洗濯手伝ってもらいますからね」
「はい!」
「もちろんです」
「よろしい」
マイクさんが肩を震わせてる。
(ちょっとマイクさん?
他人事じゃありませんからね?)
そう思いながら、つんつんと彼の背中をつつく。
「ねえ、マイクさん?
戦いが終わったら話すって言ってたこと。
まだですよ?」
大きな肩がびくんと震えた。
ちょっとドキドキしながら彼の返答を待つ。
「あ、いや……落ち着いたらな……」
ふーん。そう来るんだ……。
私は少しだけ意地悪に。
「だめです。今がいいです」
「……え? 今、ここで!?」
「はい、今、ここで」
彼の首筋が汗ばむ。
沈黙。
後ろの勇者と騎士が息を呑む気配。
ポチは、くーんと鳴く。
――しばらくの沈黙の後。
マイクさんは、ぽつり。
「……その……君を一生……って……」
やばい。心臓が……。
でも、努めて冷静に。
「――あの。聞こえないです。
私を一生? なんですか?」
ちゃんと言わなきゃ許さないんだから。
「……見守りたいって……」
「……っ!」
(はあ? 見守る? 守る、じゃないの!?
何その中途半端な告白!?)
やっぱりこの人……ただ鈍感なだけじゃない。
ずるい。
私は前を向いたまま、頬を膨らませる。
「……マイクさんはずるいです」
そう言うと、彼は振り向いて言った。
「見守りたい。……いや、違うな。
お前の隣にいたい。 ただ、それだけだ」
どきっ。
やばい……隣にいたい?
胸がきゅーっとする。
確かめたい。
「ねえ、それって……」
ですよね?
そういうことですよね?
勇者と騎士が再び息を呑んだ。
けれど、マイクさんは苦笑いして、また鼻を掻いた。
「……また、落ち着いたらな」
ほんと、ずるい人だ。
(もうっ! 知らない!)
心の中で舌を出す。
でも、きっといつか……。
すると――
「僕も、あなたを尊敬してます! ずっと見守ります!」
「私も、永遠の忠誠を捧げます! 見守らせてください!」
おい……イケメンズ。
それでいいのか?
でも。今は、これでいい気がする。
だって。
『なんとかなるなる☆』
ですよね? 女神様☆
空は、どこまでも青い。
それは、もう、逃げなくていい空。
「……こんなスローライフも、悪くないかもね」
ポチがまるで同意するように、くうん、と鳴く。
けれど。
次の洗濯物は何だろう――
そう思うと、実際のところ、わくわくする私がいる。
社畜だった私が異世界で見つけた仕事――
洗濯屋は、きっと私の天職だ。
「じゃあ、行きますよ。
ちょいと世界を洗濯する旅に――」
私は拳を上げた。
「しゅっぱーっつ!」
「おお――!」
青空の下、ポチの背に乗って。
空飛ぶ洗濯屋の一行は拳を振り上げる。
転生聖女、白星きらりの洗濯屋は――
今日も、大繁盛です。
(完)
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