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第二話 役立たず聖女、即追放されました

――足元が、妙に冷たい。


そして、硬い。


「……?」


目を開けた瞬間、私は魔法陣のど真ん中に立っていた。


円形に刻まれた光の紋様。

高い天井。

ずらりと並ぶ人影。


……あ、これ。


「異世界召喚ってやつだ」


思わず呟いた、その瞬間。


「おおおおおっ!!」


どよめきが、玉座の間を揺らした。


「成功だ!」

「女神の召喚に応えし、聖女よ!」

「おお……なんと神々しい……!」


視線が、痛い。


正面の高い椅子には、

立派な髭を蓄えた、いかにもな王様が座っていた。


「よく来てくれた、聖女よ」


王様は満足そうに頷いた。


言葉も、日本語じゃないのに、なぜか理解できる。

これもたぶん、転生ボーナス的なやつ。


「この世界は、魔王の脅威にさらされている。

 女神の加護を受けしそなたこそ、我らの希望だ」


……なるほど。


それなら、私だって知ってる。

いわゆる、魔王討伐展開ってやつだ。


ふと、横を見る。


金色の鎧に身を包んだ青年。

きらきらした剣。

爽やかすぎる笑顔。


……これ、絶対勇者だよね?


さらに反対側には、

黒髪で涼しげな目元のイケメン。


何だろう。

わかんないけど――いわゆる騎士だ。たぶん。


二人とも、当然のように私の前で片膝をついた。


「聖女殿!」

「どうか、我らに加護を!」


どきっ。


私を見上げる、信頼に満ちた瞳――。


……正直。


ちょっとだけ、嬉しかった。


だって。

社畜人生、誰かに期待されることなんて、なかったし。


ましてや――

美青年二人に膝をつかれることなんて、あるわけなかったし。


「そうじゃな、まずは軽く自己紹介を。

 ――わしが王じゃ」


しん。


見ればわかるけど……。

もしかして、この王も雑?

ていうか、この世界の人、みんな雑?


王はじっと、何かを待つように私を見ている。


あ、そっか。


私はアニメで見たことのある聖女のように、膝をつき胸元に手を添えた。


「――きらり、と申します」


廷臣や神官たちが、ざわざわと沸く。


「おお、なんと麗しい名じゃ!」

「佇まいも一輪の百合のようじゃ!」

「……まさしく聖女……」


(よし、ちゃんと通じてる)


「僕は勇者アレンと申します」

「私は騎士レオン」


心臓が跳ねる。


やばい。ガチで眩しい。

もしかして私、このイケメンズと旅するとか?


「では、聖女よ」


王様が、声を張り上げた。


「女神より授かりしギフトを、ここで示してもらおう!」


空気が、ぴんと張りつめた。


「しょ、承知しました」


やっぱり、視線が痛い……。

こんなに注目浴びたの、就活以来かも……。


(えーと……確か……

 ああ、あの恥ずかしいやつ……)


私は小さく、深呼吸する。


「……き、きらきらりん!」


――しん。


何も、起きない。


光も。

風も。

音も。


「……あれ?」


勇者の鎧は相変わらずピカピカだし、

騎士の瞳も、普通にきらきらしている。


「……何か、起きたか?」


王様が眉をひそめた。


「え、えっと……。もう一度!」


(もしかして、発音とか?

 ☆が上手く言えてない?

 雑女神っぽく、語尾を上げて、きゅいんって感じかな?)


私は真っ赤になりながら、今度は勇者を指さす。


「きらきらりん☆」


(うわっ……☆きゅいんって……恥ずかし……)


――しん。


……変化、ゼロ。


勇者は首をかしげ、

騎士は困ったように微笑んだ。


「聖女殿……?」


背中に、嫌な汗が流れる。


女神様ぁ……。涙目。


「ま、まさか……

 でしたら、騎士様にも、よいでしょうか?」


「この身、聖女のために!」


騎士は私を見上げ、律儀に胸に手を当てる。


(どきっとしてる場合じゃない。

 きゅいん☆よっ!)


「きらきらりん☆!!」


――沈黙。


空気が、完全に凍った。


「……」

「……」

「……」


神官団が、ざわつき始める。


「おかしい……」

「女神の加護が、ない……?」

「召喚失敗では……?」


「そんなはずはない!」


白髭の神官が声を荒げた。

立派な髭に、輝く杖――この人が大神官かな?


「女神は確かに応えた!

 厳粛に、清らかな神聖語が頭に直接響いたのだ――

 『聖女送るから、よろしくね☆』と……。

 意味はわからぬが、あの美しく心を震わせる声。

 間違いなく女神は応えた――

 儀式は完璧だったはずぢゃ!」


いやいや、その女神の言葉、

神聖語ってやつみたいだけど……わかってないでしょ?


それ、厳粛でも清らかでもないし、

ただ雑なだけだからね?


それよりも――

あの女神の顔が、脳裏をよぎる。


『たぶん使えばわかるよ☆』


わからないんですけど!!


「……なんと、役に立たぬとは……」


ぽつり、と王様が言った。


玉座の間が、静まり返る。


「魔王と戦う勇者と騎士に、

 何の加護も与えられぬ聖女など――不要だ」


……え。


「お、お待ちください!」


私は思わず、一歩前に出た。


「もしかしたら、条件とか……

 対象が違うとか……!」


必死で食い下がる。


「言い訳など、いらぬ!」


王様は、冷たく言い放った。


「城を去れ。

 役立たずの聖女に、我が国の保護は不要だ」


(えええええぇぇぇぇぇ――っ!!)


いや、それ。

決断、早すぎない?


てか、雑すぎない!?

ブラック企業のリストラより雑だよ!?


「王よ、御再考くださらぬか。

 聖女なしでは、いかに勇者でも魔王には勝てませぬ」


大神官、グッジョブ!

私はうんうんと頷き、必死で王様にアイコンタクトする。


(そう、そうだよ!

 考え直して――っ!)


しかし、王は目を細め、遠くを見るだけだった。


しばしの沈黙。


「覆らぬ。王の決断は重いのだ」


私の願いも空しく、

王様はゆっくりと首を振り、大神官は肩を落とした。


(いやいや、軽く決めてたと思いますけど?

 何このモラハラ社長!

 キング オブ モラハラだよ!)


兵士に両脇をがっつりと掴まれ、引きずられる。


「ごめん。王の命には従うしかないんだ。

 でも、魔王を倒したら君を迎えに行くから」


「きっと、今ではないのだ。

 君は必ず覚醒する。

 我らが女神が、間違えることなどあり得ない!」


背後から届く、勇者と騎士の声。


(……いやいや、あの雑女神……

 いかにも間違えそうだし!)


まあ、この二人も悪い人じゃなさそうだけど……。

結局、助けてはくれない。


私の中で、

イケメンズと旅する絵面が、

がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。


(わけのわからない場所で放り出される人の身にもなってよ……!)


こうして私は。


召喚から、わずか十分で――

城を追放されたのだった。


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