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放課後レンジャー  作者: kyo
第3章 異世界に来てみたら

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第64話 黒狼さまとダンジョン⑤いい子

 面白いな。ネズミ型の魔物なのに、ドロップは牛肉だ。

 牛型を倒したと思ったら、出てきたのは鉱物!

 自分相手で戦うのは神経がすり減ったけど、それからすると、普通の魔物に対して戦うのは、とても楽だった。



《アリスもクマもつえーな》

《黒い狼もとんでもねーぞ》



 自分の弱点を気にするようにしていたら、変なところに力が入るのか、あちこちがすぐに痛くなった。重心がずれて体勢が傾いて、本当なら魔物にやられていておかしくない場面もあった。そうならなかったのは布団叩きにプペが張り付いていたからだ。


「プペ、ありがとう」


 お礼を言えば「プペ」っとかわいく返事が返ってくる。

 黒狼もひと暴れして気がすんだみたいだ。毛繕いを始めていた。

 ドロップ品を集め、収納し、海の階へとショートカットする。

 みんなもいっぱい戦い戦利品を集めたようだ。

 あとは1階で野菜を収穫して帰ろうということになった。


 野菜をいっぱい採ってから外に出ると真っ暗。夜になっていた。

 

 暗い中、黒狼に飛んでもらうのは危ないので、テントを張り休むことにした。

 黒狼はお酒好きらしい。成人組とこれから飲むというので、そちらのテントに行った。わたしと健ちゃんは、ダレン君、アンちゃんと一緒にわたしたちのテントへと入る。

 疲れたのだろう。食事をしたあと、子供たちがうとうとしだした。

 ベッドに寝かせてから、共有部屋に戻ってきて、健ちゃんとお茶を飲む。


「俺たちも早いけど、寝るか?」


 健ちゃんが大きなあくびをした」


「あのさ、健ちゃん」


「なんだ?」


「ダンジョンに気づいた日。公園で、健ちゃん言ったでしょ。わたしにイライラするって」


 見上げると、健ちゃんがじっとわたしを見た。


「ああ、言った」


「誤魔化して逃げるって。わたし、ちょくちょく思い出して、考えていたんだけど、どうしてもわからなくて。わたしは何を誤魔化しているって思うの?」


「お前、あれからずっと悩んでたのか?」


「いつもじゃないけど。時々思い出して」


「お前、真面目だよな」


「……そういう部分はあると思う」


「俺さ、滝沢が嫌いだったんだ」


「滝沢君?」


 小学校の同級生だ。健ちゃんと仲がよかったはず。

 だった、ってことは、だったけど、友達になったってことかな?


「滝沢はさ、お前が気になってたんだよ。だけど、俺と真由としかお前は話したりしないから、それが悔しくてあんなこと言ったんだ」


「あんなこと?」


 健ちゃんはフッと笑う。


「お前、いい子ちゃんって言われるの、一番嫌いだろ? 小2の時、あいつが言ったんだよ、お前に。優梨はいい子ちゃんだからってからかった」


 え、そうだったけ?


「お前、手がつけられないくらい泣いてさ。泣き続けて。俺、滝沢と絶交したんだ」


「ええっ?」


「でも少し経ってからよく考えたら、俺は滝沢を許せなかったんじゃなくて、大泣きしている優梨を泣き止ませることもできなくて、何もできない自分が嫌だったんだ。それを気づかせることをした滝沢を、嫌いなんだと思い込もうとしていたんだな」


「……健ちゃん」


「そう気づいた時に、次に優梨が大泣きすることがあったら、絶対言おうと思っていたことがある。……その機会はなかったけどな」


「……なんて言ってくれるつもりだったの?」


「お前さ、いっつもおじさんやおばさん、希ねーちゃんの顔見て、言葉を選んでたろ? それでうまくいかなくて、なんでこんなになんでもできないんだろうって、嫌われちゃうって、嫌な子だって泣きそうな顔してた」


 目頭が熱くなって、わたしは泣かないように目に力を入れた。


「お前は何もできなくない。嫌う奴には嫌わせとけ。お前は嫌な奴じゃない。俺はお前が好きだから。他の誰に好かれなくいい。俺がいるから。それから、お前はいい子ちゃんを装っているじゃなくて、元からいい子なんだ。だからそれを卑下することない」


 じんわりと健ちゃんの言葉が染みてくる。


「お前はおじさんにもおばさんにも、希ねーちゃんにも、もっと思ったままに言っていいんだ。どう思われるかなんて気にするな。そのままぶち当たれ。お前の考えることは真っ当だ。普通のことだ。だからためらわなくていい。言わずにいて自分を傷つけるな」


 我慢していた涙が溢れ出した。


「おじさんに言いたいことは?」


「……もっと帰ってきて。お姉ちゃんをちゃんと見て。お姉ちゃんの気持ちをちゃんと受け止めて」


「おばさんに言いたいことは?」


「な、なんでお姉ちゃんの味方ばかりするの? なんでわたしばっかり我慢しなくちゃいけないの?」


「いいぞ。希ねーちゃんには?」


「バカ姉。お父さんもお母さんもお姉ちゃんには激甘なのに。愛情を注がれているのに、気づかないバカ姉。汚い言葉を使って罵らないで。その度に悲しくなるから」


「帰ったら、ちゃんと言え」


「うん。でも帰れるのかな?」


 健ちゃんに抱きしめられた。


「絶対、帰れる!」


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