第59話 始まりの村⑩宴
場所を移して、わたしたちは森の主人様だという黒狼と話をした。
わたしたちは、とても異質な存在だという。
人族の本来の器よりパワーアップしているらしい。
そんなことってあるの?
それで、その力でこの世界に何かするつもりがあるか?って真っ直ぐに聞かれた。
わたしたちは元の世界に戻ることが目的で、ダンジョンを活性化させるためエナジーを貯めたい。そのためにダンジョンの魔物を積極的に倒すつもりだし、この世界の人が、ダンジョンを攻略してくれた方がエナジーがたまるので、ダンジョンを布教しようと思っている。その流れで何かと戦うことになることもあるかもしれないという話はした。
すると黒狼はガハハと笑う。
「おねーちゃん」
ん? 後ろから小さい声でアンちゃんに呼ばれる。
「どうしたの?」
「森の主人様に、心ばかりではありますが、食事を用意しましたのでって」
ああ、なるほど。
でも、今この村は、バーカードさんたちが持ち帰ったお肉やそのほかの食べ物を買ってきたけれど、それは冬ごえのためだったはずで……。
黒狼はのそりとゆっくり腰をあげた。
『そうか。では馳走になろう』
広場に村人総出で作った、ご馳走が並んでいた。
お肉も野菜も、ダンジョンで取ってきたものだ。それにこの量、とってきたぶん、全部使ってしまったのでは?
健ちゃんと目が合う。
村長代理というバーカードさんは、黒狼の前で膝をつき平伏す。
「森の主人さま、いつも見守っていただき、ありがとうございます。心ばかりではありますが、食事を用意いたしました。どうぞ、お召し上がりくださいませ」
黒狼は、では馳走になろうかと大きな声で言ってから、どれも一口ずつ口にした。
そしてうまかった。ほら、お前たちも食べなさいと誘った。
子供たちとかよだれ垂らしてたもんね。
黒狼には、この村が豊かではなくて、けれどできる限りの物を用意したってコトがわかったんだね。
言葉はわたしたちが通訳した。
子供たちは大人たちを探るように見て、バーカードさんが頷くと、すごい勢いでご馳走に手を伸ばした。
ちなみに、黒狼の好きなものは何か聞いたら、お酒だというので、アプリで買ってみた。お酒のことはほとんどわからないけど、度数の高い、日本酒とウィスキーなるものを。
黒狼は食事よりも、そっちの方が好みだったみたい、ご機嫌だ。
子供たちが喜びそうな食べ物もデリバリーしてみた。
子供も大人も喜んでくれている。
冬のための肉や野菜を取りにまたダンジョンに行かなくちゃだなーと思って、そんな話になった。
酔っ払ったからなのか、闘争本能に火がついたのかはわからないけれど、黒狼のダンジョンへの食いつきがすごい。
一緒に行きたいという。
一緒に行くのは全然いいんだけど、そのサイズだと入り口から入れないんじゃないかな?と伝えた。
『では、小さくなれば良かろう?』
目がうつろになった黒狼はそういって、大型犬サイズまで縮んだ。
かわいい!
「かわいい!」
思わず飛びつくと、目を白黒させている。
健ちゃんに襟首を掴まれて下げられる。
「お前、森の守り神に軽々しく抱きつくな!」
怒られた。
『ケン、神ではない! 我は聖なる方に仕えている』
うん?
よくよく聞いてみると、神から遣わされているのは神獣、黒狼は聖なる方から遣わされている聖獣で、一緒にしてもらっては困ると憤慨している。
でも目的は森を守るころで一緒みたいだから、似たようなものじゃないかと思うけど。
あれか、宗教名とか間違えられたら嫌なやつかな。
ま、そうだよね。わたしたちは納得した。
見たこともない、そして食べたことのなかったおいしいものを惜しみなく出したわたしたちは、村で神扱いをされた。
村の中にテントを張ってもいいかと尋ねたところ、どこにでも好きなようにということなので、アンちゃん家の近くにテントを張った。
アンちゃんの家にアンちゃんたちを寝かせるのは、今にも崩れそうで恐ろしかったので、テントに呼んだ。黒狼にも小さくなって一緒に眠ろうと誘えば、酔ってかなりハッピーになりながらもテントに入ってきた。
酔っ払っていてもさすが聖獣、空間をいじっているのを感じ取り、尋ねられた。そうだといえば、何かゴニョゴニョ言っていた。話は起きてからにしようと、わたしとアンちゃんと一緒に眠った。アンちゃんが黒狼を抱きしめて嬉しそうにしている。大型ワンコだもんね。嬉しいよね、抱きつけて。
次の日、黒狼がどうしてもダンジョンに行きたいというので、ダンジョンに行ったことのあるメンバーで行くことになった。
4日かかると言ったところ、背に乗せてくれるという。
ポニーテールたちの搬送も手伝ってくれた。
町に訴えに行く人と罪人たちを乗せ、第一陣で町まで運んでくれた。
あっという間に帰ってきて、ダンジョンに行こうと急かされる。
どんだけ行きたいんだ?
黒狼の背中に乗って、ダンジョンまで。
空を駆け上がる。飛ぶとはまた違った。
風の中を走り抜けていく感じ。ビュンビュン風を切る音がする。
なんだろう、このスピード怖いとも思うのに、気分が高揚する。
もし、自分でこんなふうに空を好きに駆け上がれたら、どんなに素敵だろう。
黒いゴワッと見える毛はビロードのようで触り心地もいい。
と思っているうちに下降して、もうダンジョンの前だった。
空からダンジョンがわかったんだ。すごいなーと思っていると、ダンジョンって魔力が炎のように燃え盛っているように見えるんだって。




