第56話 始まりの村⑦実力
お金もできたし。
冬に必要なものを町で買って、町を出た。
買う際に、わたしたちから買った方が安いものは弾いた。
主にこちらの世界でしかないものを買ってもらった。
そして、町を出て、1時間ぐらい歩いたところで、それは起こった。
「なんだ、お前たち?」
バーカードさんはそう声を荒げたけど、これ、どう見ても盗賊じゃない?
《唐突に始まるな! え、これ人じゃん。それも悪役顔!》
《この間の子がいる!》
《あり得ない髪の色》
「懐、ずいぶんあったかくなったんじゃねーか? すべて出せ。そしたら命は助けてやるよ」
《凝ってるなー、何語だよ?》
《字幕でいいからつけて……》
真っ赤な髪をポニーテールにした男の人が、ナイフを出してわたしたちに突きつける。
これが、元の世界でナイフなんか突き出されたら震え上がってしまったと思うんだ。それに魔物と戦ったことはあるけれど、人とは真剣で交えたことはない。
だけど、魔物と戦いレベルが上がってくると、対峙した時に、相手の力量がだいたいわかるんだ、だいたいなんだけどね。自分より強いか、弱いか、ざっくりなんだけど。
で、目の前の派手な色した5人は、わたしたちの敵ではなかった。
ただ小さい子がいるから、怖い思いはさせたくないし、安全にいこうと思ったけど。
健ちゃんと目が合う。健ちゃんも同じことを考えているんじゃないかな。
「金を渡す気はない」
「それじゃあ、命で払ってもらおうか」
うわー、ベタなセリフ。なんかこちらが恥ずかしくなる。
「お前たちの中で一番強いのは誰だ?」
健ちゃんも気恥ずかしい気持ちを抑えている感じだ。
気怠そうに盗賊を見遣る。
「あん?」
「別に俺はお前たちの命なんか欲しくない。かといって負けないと認められないだろ? だから戦ってやるよ、俺たちは強い」
「バカいってんじゃねー」
赤毛ポニーテールが健ちゃんにナイフで突っ込んできた。
健ちゃんは難なく払う。
赤毛はすぐに身を翻してまたナイフを振るう。健ちゃんは簡単にそれを払った。
見た目もほんと軽い感じで払っただけなんだけど、ナイフはすごい遠くまで勢いよく飛んでいき、変な角度になった右手を赤毛が押さえて呻いている。
《クマ、強い!》
《すげーな》
《アリス、危ない!》
近寄ってきていたのはわかっていた。
だから布団叩きで叩いてやった。
切るのはやめておいた。血が出るのは見たくないから。
派手に転がる。
そこまで強くはやらなかったのに、大袈裟な。
きっとわたしを弱そうと思って、見定めてきたんだろうなと思うと腹立たしい。
《素早い動きで見えなかった》
《ああ、ダンジョンの魔物が相手だとアリスとクマの強さがわかりにくいけど、本当に強くなったな》
「捕まえて町に引き渡しましょう」
バーカードさんが言って、近づこうとすると、座りこんでいたそいつは、掴んだ土をバーカードさんに投げて、逃げ出した。
全員、全速力で逃げていく。
「プーペ?」
小さな声でプペが鳴く。捕まえる?と言っている気がする。
わたしは首を横に振った。
「いっぱい換金して、目をつけられたかもしれないです」
ひとりが沈んだ声を出す。
ああいうのは諦めが悪そうだからなー。
それに彼らは、バーカードさんたちが村出身だと知っている。
村に何かされるかもしれない。
何か対策を立てたほうが良さそうだ。
そういえばアンちゃんと初めて会った時、お金はないとか言ってなかったっけ。それもわたしたちを町の人だと思って。
町の人となんかあったのかな?
そのことを聞いてみると、みんな顔を見合わせている。
村が流行病から衰退してきていることを、町の人たちは知っている。ほとんどの人は気の毒に思い、そして明日は我が身と思っているようだけど、一部だけ、ほんの一握りの人が、マウントをとってくるみたいだ。それに意地悪も。
物がないのをわかっているのに、要求してきたり、物々交換を渋ったり。
そういう人とはどんどん疎遠になっている。疎遠になればなったで、村人がくると不運が感染りそうだから来ないで欲しいとまでいう人もいるそうだ。
なんなんだろうね、その嫌がらせは……。
ダンジョンに戻ってきたので、入り口の設定をお願いした。
ほんの少し地下一階で魔物と戦ってもらう。
今度は子供たちが活躍した。
アンちゃんも石を投げて倒した!
これは彼女の努力の結果だ。
彼女は紐で石を縛りつけ、それを的にあてる練習を毎夜やっていたのだ。
アンちゃんはダレン君と一緒に森に出られるようになりたいそうだ。
幼くても助け合う心があるふたり。じーんとしてしまった。
わたし、この年の時何していただろう?
お父さん、お母さん、お姉ちゃんの顔色をうかがうことしかしてなかったよ。
外で遊ぶのが好きだったけど、お父さんが女の子らしく家の中で大人しくしているのがいいというから、外で遊ぶのをやめた。
お母さんがレースでフリフリの服を着せたがるから、わたしもかわいい服が嬉しいと言った。わたしはズボンで飾り気のない物が好きだったけど、『こういうのが好きでしょ?』と言われれば必ず頷いていた。
お姉ちゃんには、わたしのそんな〝嘘〟が見えていて、だからわたしを嫌いになったのかもしれなかった。




