第51話 始まりの村②提案
バーカードさんもかっこんで食べてくれた。
物凄い褒めてくれる。こんなおいしいものを食べたのは初めてだと。
横でダレン君とアンちゃんも大きく頷き、お茶を出すとそれも驚かれた。
貴族様だとお茶を飲んだりするものだけど、平民は水やお湯を飲むのが一般的のようだ。
「本当に商人なんだな?」
そう呟いて、わたしたちの顔を見て慌てる。
「あ、悪い。嘘をついていると思ったというか……荷を持ってないから、そう言っているだけかと思った。まだ成人してなさそうだけど、服もいいもの着てるから、貴族が偽っているのかもと思えて」
そっか。確かにマントで覆っていたからあまりわからないだろうけど、明らかに布も縫製も違う感じだもんね。
「いえ、そんな。気になさらないでください」
「ケン、ユーリ。その、どんなものを売っているんだ?」
ん?
「どんな商品をお望みですか?」
健ちゃんが尋ねる。
バーカードさんは視線を落とした。
「安い食料。それともし薪なんかもあったら嬉しいんだが。……ただ、金も十分にあるわけじゃないし、交換できるような物は何も持ってない」
深刻そうだ。
「村に何かあったんですか?」
5年前に流行病で何人もの人が亡くなったそうだ。その時にアンちゃんたちを養っていたお父さんも亡くなったという。
村は畑の作物、それから森で狩りをすることで生計を立てていた。やはりその流行病で亡くなった薬師さんの作る薬が効くと、商人がこの端っこの村まで訪れていた。
薬が作られなくなると商人はほとんど訪れなくなった。それで町まで商品を持ち込んで足りないものと交換するような生活を送っていた。
ところが去年から狩場を荒らされるようになった。なんだろうと思っていたけれど、それは強い獣だったようで、狩場を完全に乗っ取られてしまい、さらには畑にもやってくるようになり、農作物も荒らされてしまった。この冬を越せるかと深刻な問題に。
けれど、それよりバーカードさんが心配しているのは、大人たちが疲弊してしまっていることだった。村長さんも寝込んでしまっている。万策尽きたと。
少し考える。
あれ、ってことは。
「あの、狩りをされたことがある方で、動けそうな方ってどれくらいいらっしゃいます?」
わたしがそう尋ねると、健ちゃんはピンときたみたいだ。わたしをチラッと見て、バーカードさんに視線を戻す。
「5人いる。くさってなけりゃもっといるんだけどな」
その5人はバーカードさんと同年代みたいだ。
「俺たち冒険者を探しているんです」
「冒険者?」
バーカードさんだけでなく、ダレン君も声を出す。
「俺たち、冒険者ではないぞ」
「はい、わかっています。実は俺たちが出てきたダンジョンですが、1階は作物が取れるんですよ」
「さ、作物?」
目を大きくしている。
わたしたちは異界人だ。ダンジョンのことを前から知っているわけでもない。でもダンジョンに人を呼び込まなくてはいけない。だからこのダンジョンのセールスポイントを聞いたんだ。
マスターさんは考えたけれど、うーん、うんうんと考え混んだけど、そんなこと考えたことありませんよ!と怒り出した。
そしてわたしたちにダンジョンを造り替える特典を授けてくれた。
現地の方と話して、行きたくなるようなダンジョンにしていいと。
この村は作物が取れなくて困っている。狩りは……魔物なら狩れる。
だからやっぱり作物がいいんじゃないかと思って。
入ったらすぐに1階は作物が取れるように改造しよう。
「はい。ただ、ここから3日は歩きますし、途中で獣と遭遇するかもしれない。だから狩りをしたことのある方が望ましいと思います。
作物を持って、一緒に町におろしに行ってくれませんか? それでお金ができますから、それで俺たちから商品を買ってくれたらいい。
危険が伴いますので、無理にとは言いませんが」
やっぱり健ちゃんはわたしが思っていたことを、理解してくれていた。
「それは願ってもない話だ! いつ出発する?」
明日には出発することにして、バーガードさんは声をかけてくると、はしゃいだように出て行った。
「ケン、ユーリ、俺も行っちゃダメかな?」
「私も行きたい!」
ダレン君も、アンちゃんも真剣な表情だ。
「危険かもしれないぞ?」
目の高さを合わせるように屈んで、健ちゃんがふたりに尋ねる。
ふたりはとてもしっかりと頷いた。
まずはふたりの服装を。
健ちゃんとデパートや服を売っている店舗の画像を見まくって、暖かくて動きやすい服をチョイス。
家の中ではマントを脱いでいたから、バーカードさんはわたしたちがいい服を着ていて驚いたようだけど、彼らにも付き合ってもらうお礼として、マントを配給しよう。
彼らが作物をとりに行き、弱目の魔物とちょっと戦ってくれることになったらありがたいとわたしたちは思っている。戦うには適性があるから、そこは見極めて誘う必要があるけど。
わたしはアンちゃんと、健ちゃんがダレン君とお布団にくるまって眠る。
アンちゃんからいろんなことを聞きながら眠った。
隙間風が寒いけれど、アンちゃんの体温があったかくて、わたしはぐっすり眠ることができた。
朝はおにぎりやバーガーものを買い込んでバッグに入れておいた。
わたしはアンちゃんに服を着せて、健ちゃんはダレン君が服を着るところを監督している。ジッパーとかあるからね。
「あったかいし、かわいい」
アンちゃんが笑顔になった。
わたしはアンちゃんの髪をとかして、髪をポニーテールにした。
耳が寒いかとマフラーを巻きつける。
「寒くない?」
と尋ねればわたしに抱きつく。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「……どういたしまして」
妹っていたら、こんなふうだったのかな。すっごくかわいい。
昔、お姉ちゃんとわたしもこんなふうにいつも一緒だったのになと思いながら、わたしはアンちゃんを抱きしめた。




