第50話 始まりの村①兄妹
その大きな人が村長さんの息子さんでバーカードさんだった。
わたしたちよりずっと上かと思ったら成人したての17歳だった。うちらより2つ上でこの迫力!
ここはユオブリアのあるツワイシプ大陸よりずっと東だそうだ。ツワイシプ大陸→海→エレイブ大陸→海→ジャッコードという位置関係にある小さな島国なんだって。北と南に向かってどっちかというと細長い島で、ここは北の端の、始まりの村というらしい。
始まり? 何の? と尋ねてみたけれど、それは知らないらしい。カラカラとバーカードさんは大きな声で笑った。
最初から迫力があったけど、どうやら声が大きいだけで、威圧しているとかそういうわけではないみたいだ。
わたしたちがいきなりダンジョンで辺鄙なところに来たことを気の毒がり、町への道は教えるけれど、もう夕方なんだぞと言われた。
?
何もないけどウチに泊まればとアンちゃんが言ってくれたので、アンちゃんのウチに泊めてもらうことにした。バーカードさんが何か言いたげな顔をしていた。
アンちゃんがここよと案内してくれた。
健ちゃんと目を合わせる。
……崩れ落ちそうな家。わたしたちのテントの方が、よっぽど快適で安全かもしれない。
二間の家みたいだ。入ってすぐに居間なのかな。真ん中に囲炉裏がある。
アンちゃんはバーカードさんからもらった薪をくべ、棚の上とかの埃クズを捕まえ、それを薪の上に置いていく。引き出しから糸くずのような何かをほんのちょっぴり取り出して、それも薪の上に置いた。
「薪もらえたから火がおこせるよ。そしたら外よりはあったかいから」
アンちゃんは一生懸命火をおこそうとしている。
顔を煤で黒くしながら、なんとか火がつき、囲炉裏のそばだけ暖かい。
アンちゃんは顔の汚れを服で擦って、ニコッと笑う。
「ちょっと兄ちゃんの様子見てくるね」
そう言って奥の部屋に入っていった。
殺風景な部屋の中の物は、古くから大切に愛用されたものたちで、シンプルに暮らしているのがわかる。
「兄ちゃん、兄ちゃん!」
アンちゃんのお兄さんを必死に呼ぶ声が聞こえる。
わたしたちは、アンちゃんの入った部屋に声をかける。
「入るよ」
と強制的に入らせてもらった。
アンちゃんよりもっと大きな子。でも顔色が土色だ。
「兄ちゃん、起きて!」
その横に健ちゃんが屈んで、男の子の鼻の下に指を置いた。
安心したように息をつき、緑色のポーションをウエストポーチから取り出した。そしてそれを男の子の口元に垂らす。
2、3滴。男の子の目が開いた。アンちゃんと違って目の色は茶色だ。髪も濃い茶色。
「兄ちゃん!」
「アン」
男の子はゆっくりと起き上がる。
そしてグラッと傾ぐ。
「なんかに噛まれたか?」
「へ、蛇に」
「優梨、多分毒だ」
ポーションで元気になったのに、またすぐ具合悪くなるのは体内に毒があるからか。
「プペ、毒だけ吸い取って、ここにペッとして」
「プーペ!」
プペが触手で男の子に触れ、少しするとそれを瓶に出す。
ほんのちょっぴりだけど、毒々しい朱い液体。
健ちゃんがもう一度口元に2、3滴ポーションをたらすと、今度は瞬く間に顔色が良くなった。
男の子は呆然としていたようだけど、わたしたちに向かって頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。救っていただいて感謝します。け、けれど、ポーション代を払えるようなお金も物もなくて……」
アンちゃんも決まり悪そうにわたしたちを見る。
ああ、お金のことを気にしていたのか。
「アンも助けてもらったの」
アンちゃんがお兄ちゃんにそう報告すれば、違った意味でお兄ちゃんの顔色が悪くなる。
これは気にしなくてもいいよと言っても気にするタイプだな。
「じゃあさ、いろいろ教えてくれない? わたしたちこの島に急に来ちゃって、すっごく困っているんだよね」
「それは、もちろんですけど」
男の子のお腹がグーと鳴った。アンちゃんのお腹も。
ふたりは恥ずかしそうにお腹を押さえた。
「囲炉裏に火があるから、ご飯にしようか」
そう言うと、男の子が顔を歪ませた。
「……今日は森に行ってないから、食べ物がなくて……」
「大丈夫、わたしたち商人だから、いろいろ持ってるんだ。ね、健ちゃん」
「ああ。俺は健。お前、名前は?」
「ダレン」
「ダレン君か、わたしは優梨」
「商人って荷は持ってないですよね?」
不思議そうに言ってくる。
荷物といえば、背中のディーバッグだけだもんね。
「とりあえず、ご飯たべよっか」
囲炉裏の火を使って、具沢山のスープを作る。そしてパンを出した。
いきなりアプリで届くのはまずいかと思って、ディーバッグから野菜などの材料を取り出すフリをした。マスターさんがアイテムボックスを作ってくれた。亜空間に収納できるとても便利なアイテムだ。時間停止、そしてリストアップ機能も付いていて、アイテムボックスに思いを馳せ、取り出したいものを思い浮かべるだけで、出てくる、収納できる優れものだ。
「助けてもらったのに、本当にこれまで食べていいの?」
ダレンとアンちゃんにわたしたちは頷いた。
よそって出すと、二人とも恐る恐る手を伸ばしたけど、一口食べると美味しかったみたいであっという間に器をカラにした。
お替りを出して、パンもすすめると、こんなふわふわのパンは初めて食べたと大喜びだ。
食べていると、バーカードさんが布団を持って来てくれた。それから食べ物も。
わたしたちは一緒にご飯を食べないかと、スープを振る舞った。




