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放課後レンジャー  作者: kyo
第1章 だってそこにダンジョンがあったから

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第24話 目的ができた(中編)

 慣れ親しんだおばあちゃんの家なのに、よそのお家みたいだ。

 いつもおばあちゃんがクルミ油で磨き上げた木の床も、くもっている。

 家の中がシンとして冷え切っているように感じた。

 一階の奥の部屋のふすまを開ける。

 部屋に入って声をかけた。


「おばあちゃん」


 いつもだったら、声をかければどこにいても振り返り、笑って「優梨、こっちにおいで」って言ってくれるのに。

 布団の上にちょこんと座っているおばあちゃんは、微動だにしない。ただ前を見ている。

 話しかけても反応はなく、お母さんはわたしたちを居間へと誘った。


 けれど、健ちゃんがお母さんを労う。

 自分たちがおばあちゃんを見ているから、少し休んだらどうかと。


「おばさん、少し休んで。俺たちばーちゃん見てるからさ」


 最初はそんな、いいのよと言っていたけれど、ふたりで勧めると。それじゃあちょっとだけ、とお客さま用の部屋へ入って行った。


 今こうして置物になってしまったかのように動かないけど、急にどこかへ行こうとしたりするので目が離せなかったという。

 お母さんがげっそりしていた理由がわかった。

 いつ、行動を起こすかわからない。この状態のおばあちゃんを一人でみるのは大変なことだと思う。お母さんも倒れてしまいそうだ。




 どれくらい、そうしていただろう。

 急におばあちゃんが高い声を出した。


「美佐江さん?」


 誰? お母さんは恵子だし、親戚にそう言った名前はいないと思う。


「美佐江さん、お水をちょうだい」


 こっちを見る。


「あら、美佐江さんは?」


「美佐江さんはいないので、お水持ってきますね」


 健ちゃんが立ち上がった。


「優梨はばーちゃんから目を離すな」


 小さい声でわたしに告げ、部屋を出ていく。

 おばあちゃんが、掛け声とともに立ち上がった。


「よっこらしょ」


「おばあちゃん、お水持ってくるよ、ここにいよう?」


「お水? 水なんていらんよ。行かなくちゃ」


「行くってどこに?」


 腕を取ると、払われる。


「行かなくちゃいけんと!」


 す、素早い!

 ふすまを大きく開け、部屋を出て、隣の部屋のふすまを開ける。

 玄関を探している?

 わたしはどうしていいか分からなくて、ただついて行く。

 おばあちゃんが玄関を見つけた。

 サンダルに足を引っ掛ける。

 サンダルを履くものだということはわかるけれど、うまく履けなくて何度かトライした結果、左右が逆だ。それでも歩き出して、ドアを開ける。


「おばあちゃん、どこに行くの?」


 わたしも靴を履いて追いかける。


「おい、優梨?」


 後ろから健ちゃんの焦ったような声。


「おばあちゃんが外に出たいみたいだから、付き合ってくる」


「……優梨……」


 おばあちゃんは一生懸命歩いている。庭の中を右に行き、左に行き、外へ行きたいのに、なかなか外に出られない。

 追いかけてきた健ちゃんがわたしにタオルを突き出した。

 そのタオルで顔を拭く。

 こっちを見たおばあちゃんが、わたしの前にやってきて、わたしの頬を手で挟んだ。


「あらあら、なして泣くけん? んー、大丈夫よ、よしよし」


 と、小さい頃みたいに、わたしを抱き寄せた。

 わたしはなんでもっといっぱい、おばあちゃんに会いに来なかったんだろう?

 なんで…………。

 急におばあちゃんが力が抜けたみたいになった。


「おばあちゃん!」


 健ちゃんがわたしごと支えてくれる。健ちゃんに指示されるままに手伝って、おばあちゃんを健ちゃんの背中に乗せた。

 疲れたのか足に力が入らなくなったみたいだ。


 玄関に入ると、お母さんが外に出ようとしているところだった。

 状況をすぐに察し、そのまま部屋へと誘導する。

 おばあちゃんをお布団に寝かせて、みんなでひと息つく。

 お母さんとわたしで、健ちゃんにお礼を言った。

 おばあちゃんの寝息を聞きながら、お母さんが話し出す。


 2年ぐらい前に、おばあちゃんは病院で認知症の疑いを示唆されていた。

 次は家族と一緒に来てくださいと言われ、おばあちゃんはパタっと病院へ行かなくなった。

 自分で老人ホームを探していたそうだ。この家は、お姉ちゃんとわたしに残すつもりで遺言状も作成し、その他の裏の畑など土地を売って資金を集め、最低限の暮らしのできるホームを探していた。賃金安ホームの入居希望者はいっぱいいて、全然順番が回って来ない。そのうち状況が深刻化してきて、何度か夜中に近所を徘徊しているのをおまわりさんに見つけてもらって、家へと届けてもらったこともあるらしい。お母さんに連絡をするというのを頑なに断ったとか。


 徒歩で15分離れたお隣の山内さんちのおばあちゃんが、おばあちゃんと仲良しで、その日もおかずを一品届けに来てくれたところ、おばあちゃんが倒れていた。転んで膝のお皿を割ってしまった。それで救急車を呼んで入院したんだけれど、その時の状態で認知症がかなり進んでいることが発覚して、お母さんに連絡がきたという。膝の状態がよくなったので退院したのだが、家でひとりで世話をするのでは目が届かないところが出てくるとわかった。それでおばあちゃんを見ながら、デイサービスやら助けを求め、試行錯誤していたようだ。

 それでお母さんは、病院かホームが決まるまで時間がかかりそうだと、情けなさそうに微笑んだ。


「美佐江さん、お水」


 おばあちゃんの目がパッと開いて、喉の渇きを訴える。

 お母さんがお水をとりに行こうとするから、わたしは持ってるよと言った。

 ディバッグからポーションを取り出して、コップについだ。

 少しでいいから元気になってくれるといい。


 コップを渡すと、おばあちゃんは一気に飲み干した。


「美佐江さんって誰?」


「お母さんも知らないのよ。家族や親戚にはいないし。でも友達にあんなお願いの仕方はしないだろうし。どなたなのかしら?」


 お母さんも首を傾げている。


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