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放課後レンジャー  作者: kyo
第1章 だってそこにダンジョンがあったから

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第23話 目的ができた(前編)

 日曜日。

 爽やかな朝だ。今日も気温がグンと上がりそう。

 真っ青な空を見て、そう思った。

 帰りのチケットも購入済みだ。健ちゃんのアドバイス通りに。

 同じ歳だし、ひとりで遠出したことないはずなのに、物知りだし行動力もあって凄いな。

 時間通り、健ちゃんはやってきた。

 白地に青のボーダーの長Tにジーンズだ。わたしもボーダーの長Tに、デニムのミニスカートだ。計らずもふたりとも同じディーバッグで、ペアルックみたいになってしまった。

 レンジャー初心者パックで売られていたバッグ、使い勝手が思いの外良くて。いっぱい入るし、新品だし、お出かけにもいっかと思ったのは、わたしだけでなかったみたいだ。ふたりして顔を見合わせて笑ってしまう。


 駅までの道も、緊張する乗り換えも、健ちゃんと一緒だと不安がどこかへ去っていく。お弁当を買う余裕があったぐらいだ。

 わたしだけなら、指定席にたどり着けるか心配で、席につけばついたで、次の心配事ができて、ハラハラし通りだったと思う。

 買い物していたら、時間がギリギリだったみたいで、健ちゃんに手を引っ張られる。一番近いドアに滑りこみ、指定の車両まで歩いた。

 繋いだ手が、昔と違っていて、とても大きくて厚い手だった。

 意識してしまったことが、なんだか気恥ずかしい。

 健ちゃんはチケットの指定席を探すのに一生懸命なのか、もう引っ張らなくても大丈夫なのに、手を繋いでいるのを忘れたままだ。

 顔が赤くなっていそうで、ただついていく。


 電車が静かに走り出す。

 席を見つけ、窓側を譲ってくれた。えへへ。

 朝ごはんを食べていなかったので、乗る前に買い込んだお弁当を食べた。

 お母さんの分と、食べられるかわからないおばあちゃんの分は、日持ちするものを買った。

 お土産も買おうと思ったけど、食べられるものに制限があるかもしれないから、買わずにきた。

 わたしは軽いものと思ってサンドイッチにしたんだけど、健ちゃんのステーキ弁当がおいしそうで。見ていたら、お肉をひとつくれた。わたしもサンドイッチをひとつあげる。


 食べ終わると、ケータイで検索を始めた。何を見ているのかと覗き込む。


「不思議の国のアリス?」


 健ちゃんと不思議の国のアリスが結びつかない。


「ちゃんと読んだ訳じゃねーから知らないだけなのかと思って、検索かけてんだけどさ、優梨は読んだことあるか?」


「小さい頃にね。だから、続編とか、ちゃんとした小説は読んだことない」


「だよなー」


「何調べてるの?」


「アリスっていったらウサギだろ? ウサギならまだわかるけど、なんでクマなんだ?」


「え?」


 どうやら健ちゃんはドローンさんの名前変換の「クマちゃん」が不服なようだ。

 勝手に変換してくれていたけれど、言われてみれば、アリスといって連想するのはウサギなのに、なんでクマなんだろう?

 不思議ではあるけど、わたしは気にならないことだったので、健ちゃんが調べずにいられないぐらい気になっていたと思うと、おかしくなってきて笑ってしまった。


 4組の佐藤さんが英語の和田生生にたてついたらしいとか。

 サッカー部の部室で異臭騒動があったんだけど、原因はロッカーの間に挟まっていた靴下だったらしいとか、学校の噂話をとりとめなく話した。

 あくびをかみころすと、寝ていいぞと健ちゃんが言った。

 でも乗り過ごしちゃったら困るしと気にすると、降りる時間ちょい前にアラームしとけば平気ってアラームをセットしてくれた。

 健ちゃんも眠くなったら寝るそうだ。

 爆睡しちゃった。

 起きると、健ちゃんに思い切り寄りかかっていた。というか、もたれかかっていた。


「ご、ごめん、重たかったでしょ。眠れなかったんじゃない?」


「寝た寝た」


 と言いながらあくびをしている。


「健ちゃんの隣だと、すっごく安心しちゃってさ」


 いつの間にかすっごく広くなった肩幅とか。大きい手とか。まず、健ちゃんの匂いだとか思ってしまったことを気取られちゃいけないと思って、ドギマギを隠すようにいうと、健ちゃんはガックリとうなだれた。


「な、何? どうしたの?」


「なんでもねー。けど、優梨。俺はお前の兄貴じゃねーからな?」


「えー、うん、知ってるよ」


 残念ながら、わたしにお兄ちゃんはいない。





 朝早くに出たのに、おばあちゃんの家の最寄り駅についたのは11時34分だ。3時間半……。

 健ちゃんが付き合ってくれたので、びっくりするぐらいリラックスしたまま来ることができた。

 駅からはタクシーだ。

 住所を告げ、向かってもらう。


「おばさんに連絡したのか?」


「……今からする」


「今から?」


「なんか止められそうと思ってさ」


 健ちゃんは微妙な表情だ。

 15分ぐらい走ると覚えている道に出た。

 懐かしい。最後に来たのは、一昨年の夏休みだ。

 受験の年は、お父さんから行くのを禁止されてしまったから。

 左に曲がれば、おばあちゃんの家で、門の前にお母さんが立っていた。

 健ちゃんが降りて、お母さんに挨拶している。お母さんがタクシー代を手渡してきた。わたしはありがたくもらって、それを運転手さんに渡す。お釣りと領収書をもらいお礼を言って、タクシーを降りる。


「いらっしゃい」


 お母さんの表情は、いろいろと言葉を飲み込んでいるようだ。

 そして顔色が悪い。


「健ちゃん、ありがとうね。ここまで来てくれて……。優梨は本当にひとりで何もできないんだから」


「そんなことないですよ。ただ、心配だから俺はついてきただけです。ばーちゃんとも会いたかったし」


 お母さんの表情がさらに陰る。


「あのね、中に入ったら驚くと思うわ。大丈夫な時もあるんだけど、悪くなる時もあって……」


「おばあちゃんは何の病気なの?」


 お母さんは、わたしたちをじっくりと見た。そして言った。


「認知症って知ってる?」


 え……。


「今までのことが認知できなくなっていくもので、いろいろな症状があるんだけど、おばあちゃんの場合は、……けっこう進んでいて、優梨のことわからないと思う。お母さんのこともわからないの。健ちゃん、せっかく来てくれたのにごめんなさいね」


 時々、思い立ったように出掛けたくなるそう。けれど、どこかに行ってしまうと、帰ってこられなくなってしまう。だから目が離せないそうだ。

 お母さんひとりで看るのはとても難しく、ディサービスを申し込み、手続き中だそうだ。そういった施設への入居も申し込んでいるけれど、入りたい人はいっぱいいて、順番が来るまでに時間がかかるというのが現状なようだ。


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