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放課後レンジャー  作者: kyo
第1章 だってそこにダンジョンがあったから

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第20話 ツノがドロップ

 次の日、大荷物になった。

 着替えと武器を持つと、とんでもない量だ。

 乗り換えの駅のトイレで着替え、アキバダンジョンのロッカーに荷物をしまい込む。ロッカーは300円で借りることができ、24時間以内の利用なら、お金は戻ってくる。


「健太、優梨!」


「ヒカル君!」


 健ちゃんが着いたとLINEを入れるより前に、ヒカル君に会えた。

 そこに紺谷さんがわざわざ挨拶をしにきてくれた。

 紺谷さんはヒカル君とも面識があるようだ。


「3人で入るのですか?」


 わたしたちは頷く。


「大丈夫、1階しか行きませんよ」


 紺谷さんの表情が〝心配〟に占められていたからか、ヒカル君が言った。


「ああ、すみません、健太と優梨は2回目だから、ちょっと心配で」


「あ、健太、優梨。顔スタンプにするからさ、配信に出てくれる?」


「え、配信に?」


 わたしと健ちゃんは顔を見合わせる。

 あ、でも、人のやるのを生で見ていたら、勉強になるかもね!


「うん、いいけど。わたし配信じたいもあんまり見たことなくて、どうすればいいとかわからないんだけど」


「特にリアクションとかしなくていいよ。初心者ならではの動きを撮りたいだけだし。後で編集もするから、嫌なとことかは配信しないし」


 それなら、いっか? と健ちゃんと頷き合って、わたしたちはヒカルチャンネルに出演することが決まった。




 ヒカル君に、付けてと渡される。インカムだ。テレビドラマでハイテク捜査系で使われているのを見たことがある。

 早速、耳に掛けて装着。


「なんでこれするの?」


「声を拾うのもそうだけど、ドローンと繋がるためだよ」


 健ちゃんと顔を合わせる。

 ドローンさんにはインカムなんてついてなかったけど。でも、ちゃんと撮れてたな。昔のと仕様が違うのかな。

 紺谷さんに行ってきますと行って、ダンジョンへと入った。



 背中にはディバック。手にはハンマーを持っている。健ちゃんは和兄からもらったというショートソードを武器とするそうだ。


「ヒカル君はコンテを切ったりするの?」


「最初の頃はやっていたんだけど、その通りに行かないことが多くてさ。それがストレスになって。ダンジョンの中で考え事するのまずいから辞めたんだ。一応、目的とターゲットは決まっているけどね。あとはゆる〜くいってる」


 ふぅん、なるほど、そういうのもアリだね。

 中へと入り、最初の少し開けたところで、ヒカル君はドローンを離す。

 ヒカル君は何かを呟く、それからドローン目線で口上を述べた。


「ヒカルチャンネルのヒカルです。今日もよろしく!

 今日はアキバダンジョンに来ています。同い年の、健太と優梨。新人レンジャー。今日はふたりを交えて、ダンジョンを探索します。

 気にいったら、チャンネル登録よろしくね!

 さて。健太」


 ヒカル君が健ちゃんを見る。


「こんにちは、健太です。よろしく」


 健ちゃんはドローンに向かって頭を軽く下げた。


「はい、お次は優梨」


「優梨です。よろしくお願いします」


 ドローンさん目線で挨拶しておく。


「お、幸先がいい。入ってすぐなのに、ちょっと色薄いけどスライム君きました。ふたりの実力を見せてもらおうかな。健太、倒してくれる?」


 健ちゃんはすっと屈む。ごつい石を拾ったかと思うと、それをスライム目掛けて投げた。見事命中し、スライムは煙となる。


「おーー、あっという間。パワーの勝利かな。石で……とは考えたね? あれ、入るの2回目だよね? レベルいくつ?」


「2」


 すまして健ちゃんが答える。ちょっと嬉しそう。


「お、また、スライムだ。優梨、行ける?」


 わたしは返事をする。

 よし、このハンマーで。

 狙いを定め、振り上げ、振り下ろし、ついでにハンマーを落とした。

 落下によりスライムは潰れ、魔石となった。

 マットだけど、青い線がいくつか入っている。


「優梨、……ハンマーは石と違って投げなくていいんだよ」


 知ってる!


「……手が滑ったの!」


「グローブしてるのに?」


 うん、とヒカル君に頷く。

 ハンマーと魔石を拾う。


「今日は1階の魔物が騒がしいな、モノモノ草が群生してるよ。来るぞ!」


 途中からヒカル君の声が真面目になった。

 モノモノ草が伸ばしてきたツルを、ヒカル君は剣で切った。


 健ちゃんは引っこ抜いたり、ショートソードで切ったりした。

 わたしも根本をハンマーで叩きまくった。

 叩くうちに、そこからなぜかスライムが湧き出てきた。

 な、なんで? 生まれたてみたいに小さいのばっかりだけど、これだけワラワラいると……。


 わたしたちは無言になり倒し続けた。振り上げる手が痛くなってきた頃、1階にいた人たちが集まってきて、倒すのを手伝ってくれた。

 数が尋常じゃなかったから。

 ダンジョンの入り口100メートル以内でこんなに魔物が湧いたのは初めてだという。わたしたちは額に汗が浮かんでいた。


 やっぱり安全と言われようがダンジョンはダンジョンだ。何が起こるかわからないものだね。

 それにしても……と、みんな魔石をじっくり見ている。素人目で見ても状態の良いものらしい。


「これは報告した方がいいかもしれないな」


 若いスマートなお兄さんが言った。


「そうだな、こんな入り口で魔物が湧くなんて。たとえスライムでも……」


 それよりもう少し年嵩の人が言って、ひとりが入り口に向かって歩いていく。


「どうする、ここまでにする?」


 ヒカル君が首を傾げる。


「ヒカル君だけだったらどうした?」


 尋ねると、ヒカル君は引き返すと言った。何か異変を感じた時は絶対に深追いしないことにしているそうだ。

 量は半端ないがスライムの魔石とモノモノ草の魔石ばかりで、必要経費の補充には届きそうもなかったけれど、先輩レンジャーのいうことはもっともだし、と、わたしたちも引き返すことにした。


 ヒカル君がドローンを回収し、わたしたちもインカムを返した。

 その時、後ろでざわっと何か気配があって、わたしは振り返った。


「一角ウサギ!」


 わたしはわたしに向かって牙を向いた一角ウサギに向かってハンマーを振り下ろした。


「な、なんで1階で一角ウサギが!」


 誰かが叫んだ。

 地面に倒れこんだウサギだったが、そこから方向転換して健ちゃんへとジャンプした。

 健ちゃんが腕で払った……と思ったら、ウサギの足を持っていて、地面に投げつける。

 一角ウサギがキラキラ光を振りまいて消え、ツノと魔石が残る。


「一角……ウサギのツノがドロップ……」


 誰かが呟いて喉をごくりと鳴らした。


「優梨、怪我してないか?」


「わたしは平気。健ちゃんこそ、大丈夫?」


「ああ」


 ヒカル君が呟いた。


「き、君たち、何者?」


 え?

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