表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後レンジャー  作者: kyo
第1章 だってそこにダンジョンがあったから

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/65

第19話 面白くない動画

 壁に映し出されたわたしは、盛んに耳を気にしている。

 くぐもった何かが聞こえたんだよね。


「ええと、抱負だっけ? お金のためもあるけど……。なんでダンジョンに入るって、そこにダンジョンがあったから?」


 微かに首を傾げている。

 そしていきなり、地面を指す。


「あ、クマちゃん、スライムもどき!」


 健ちゃんが小石を投げ、青い魔石が残る。

 わたしが拾い上げている。


「サシ、あるかな?」


 顔も声も違う。だから多少客観的に見ることができる。けど、このアニメ声、もうちょっとキャピキャピ声じゃないの希望。クマちゃんは落ち着いたいい声だ。いいなー。


 またスライムをみつけたようだ、石を投げている。水色の魔石を拾っている。


「そろそろ撮影してみるか」


 あれ、そうだ、この時から撮影を始めたはずなのに、とっくに撮影されていたんだ……。


「そうだね」


 わたしが上を見上げ、顔がクローズアップされる。


「ドローンさん、撮影を開始してください」


 少し待って首を傾げる。


「あれ、クマちゃん動いてるけど、反応なし」


「変だな。なんか合図とかないのかよ。撮影始めると、ボタン枠部分が青く光るとかさ」


「クマちゃん、赤が青くなった! 撮影始まったみたい」


 いや、もっと前から始まってる。


「さっきみたいにしゃべらねーな」


「そうだね」


 壁に映ったわたしは、胸の前で拳を握る。


「よし。クマちゃん、練習しよう、練習! こんにちは、アリスです。これから、新人レンジャーのわたしが、ダンジョンの探索をして、それを配信していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします」


 映像のわたしが健ちゃんを肘でつく。


「クマタです。よろしくお願いします」


 健ちゃんがドローンさんに向かってペコリとする。


 ヤバイ、笑えるくらい面白くない!


「で、どうしよっか」


「魔物倒すとこ撮るんだろ?」


「あ、そっか。じゃあ、進んでみましょう」


 ニュース番組も、ただ事件を伝えるだけの羅列じゃないんだね。

 構成下手でも、目的とか目標がないと、ブレちゃうわ。

 ただ本当に映しただけだと、たとえ編集しても配信できるものじゃない。

 そりゃぁ、最初からうまくいくなんて思っていなかったけど、これはスタート地点に立ててない感じだ。


「いました! ドローンさん寄ってください。あの辺に岩に擬態しているスライムもどきがいます。それを、クマちゃん、小石ちょうだい」


 レポーターっぽくしてるつもりも、滑ってるし。


 健ちゃんからもらった小石を投げ、半透明のスライムもどきに命中。膜が破れたようになって、中の液体が広がっていく。


「命中させて、魔石が残りました。小さいけど、きれいです」


ドローンさんに魔石を見せつけるようにしている。


「なー、これ、どこも面白くなくない?」


「えー、それ言っちゃう? ……勉強しないとだね。配信って、ただ映像撮って編集すれば形になるのかと思ってた。けど、全然違った。何すればいいのかわからない!」


 映し出されたわたしも、しょんぼりしている。


「とりあえず、撮れてるか見てみようか」


「さすがに、早くね? スライムもどき1匹じゃん、って、アリス!」


 健ちゃんに手を引っ張られ、抱え込まれる。


「一角ウサギだ」


 カメラは中型犬くらいの筋骨たくましい、長い耳とツノを持つ、ウサギと呼びたくないものを映し出す。


「なんで、この道で出んだよ」


 健ちゃんが悪態をついている。


 わたしに向かってジャンプしてきたウサギを健ちゃんが蹴り上げた。

 わたしを胸にさらに引き寄せ、ウサギから遠ざけるように体をひねる。それを同時にやってのけた。

 ウサギはキラキラと光を振りまいて消え、地面に何かを落とした。


「あ、ドロップ」


 わたしの顔が赤い。


「クマちゃん、ツノみたいのがドロップしたよ」


 赤い顔をごまかすの、下手すぎ。声を変換するなら、調子も変えてくれていいのに。それじゃあ、ドギマギして、関係ないことに話を持っていって、なんでもないって思おうとしているのが丸わかりだ!


「一角ウサギで、ドロップ、ツノってありきたりだな」


 さらりと健ちゃんが言った。

 掌サイズの魔石を拾い上げ、尋ねている。


「これも売れるかな?」


「一角ウサギが出るところに、潜れるようになってからだな」


「あ、また助けてもらっちゃった、クマちゃん、ありがと」


 やっとお礼を言えるテンションになったようだ。でもこれもバレてる気がする。


「ここでも、武器は持ってこないとだな」


「だね」


 うわー、まだ首赤いよわたし。耐性なさすぎでしょ!


「戻って、撮れてるか、見てみよっか」


 明るい声で告げ、健ちゃんもそれに答える。


「そうだな」


「ドローンさん、終了です。降りてきて」


 そこで、映像は終わった。





 最後まで見た感想は、やっぱりただ撮るだけでは、どうにもならないということだった。


「これは配信ものをもっと見て、学ばないとだな」


「だね」


 そんなことをしている間にヒカル君からLINEが入ったそうだ。

 おかげで装備を買えたと報告すると、明日アキバに入らないかとお誘いがきた。

 明日、また秋葉原のダンジョンに潜ることにした。

 そこまで決めて、健ちゃんは帰っていった。

 その後、ウサギから助けてくれたところを3回見直したのは秘密だ。

 だってすっごくかっこよかったんだもん。健ちゃんの顔じゃないし、わたしでもないんだけどさ、映像は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ