反逆者は監視者と共に鉱脈へと到達し、そのついでに最深攻略階層の更新を決意する
刃が翻り、魔術が迸り、手足が振るわれ、魔物が轟音と共に穿たれ、切り裂かれ、粉砕されて行く。
二ヶ所から発せられ続けていた戦闘音は、暫しの間第九階層内部を騒がしく反響し続けていたが、それもそれほどしない内に静まり返り、響き渡っていた反響が収まった後には、天井から滴る水滴が水溜まりを叩く音が響いてくる程の静寂に支配される事となっていた。
そんな中、周囲へと響いて行く音が二組。
双方共に一定のリズムを刻みながら通路を移動しており、互いに時に近寄り、時に離れながらも第九階層内部を移動し続けて行く。
そして、とある通路同士が交わる交差点にて、その音を発していた者同士が一点に合流する。
「…………あ!シェイド君!お疲れ様!
私の方は、この通り無事に片付けられたけど、そっちはどうだった?ちゃんとヤれた?」
「ご心配無く、キチンと片付けて来たよ。
倒して出てきた魔石を拾うついでに、同じく出てきた素材だとか、宝箱だとかを乱獲してきたから時間掛かったけど、そっちは?同じくらい時間が掛かってたって事は、何かしら見付けたのか?」
「ふっふ~ん!
そうなんだよ~。お姉さんも、バッチリ確り見付けてきたんだよ~!
偉い?偉いでしょう!?さぁ、とっても偉いお姉ちゃんの事を、誉めてくれても良いんだよ~!?!?」
「………ワーソウダネエライエライ」
それまでキリッ!とさせていた美貌をデレッと緩めたサタニシスは、まるで人に良く懐いた大型犬の様に合流を果たしたシェイドの周囲をチョロチョロと回りながら、自らも言葉に出して『誉めろ!』とストレートに彼へと向けて要求して行く。
それに対してシェイドは、若干ながらも遠い目をしつつ、棒読みにも聞こえるセリフにて一応は要求に応えて見せながら、その紫色をしている長くて美しい髪に無造作に手を突っ込んでワシャワシャと撫で回して行く。
自らが求めたモノであり、かつ求めた際の行動からソレを連想され、その結果犬の様な扱いを受けている為に流石に抗議の一つでも寄せられる事になるかな?と覚悟を決めたシェイドであったが、チラリと視線を彼女の表情に向けて見れば、正しく人に良く懐いた大型犬が、良く懐いた相手に撫で回されている時と似た様な表情を浮かべており、自ら行った事ではあったものの『コレで良いのか……?』と内心で呟きつつも、取り敢えず嫌がってはいないのだから、と暫しの間そうして撫で続けて行く。
…………暫しそうして撫で続けていたシェイドであったが、謎のトリップをキメていたサタニシスが現実へと戻って来た事により、彼女が見付けて来たと言う『何かしら』について問い質して行く。
「…………それで?一体、何を見付けたってか?」
「……ふっふっふ!それは、着いてからのお楽しみ♪ってヤツだよ、シェイド君!
さぁ、お姉さんに着いて来なさい!」
「…………へぃへぃっと」
自身の言葉の通りに、先頭に立って通路を突き進んで行くサタニシス。
その様子には自信が満ち溢れており、足取りに戸惑いの類いも感じられない事から、取り敢えずはソレに従う形で着いて行くシェイド。
少し前まで溢れる程に存在していたが、既にその大半処か殆んどを二人で駆除してしまった為に、魔物と遭遇する事無く時折通路を曲がったりしながら進んで行くと、唐突に鉱脈が露出している一角へと到着する。
洞窟の様な内装になっても、変わらずに設置されている松明の光に照らされる事でキラキラと光を反射するか、もしくは逆に吸収して行く鉱石の結晶を目の当たりにしたシェイドは、その圧倒的な光景に暫しの間言葉すらも失って魅了される事となってしまう。
大自然が作り出した絶景に見惚れているシェイドの横顔を、飽きる事無く眺めていたサタニシスであったが、流石にこのまま放置しているのは宜しく無いだろうし、何よりコレを見付けて来た自分の事をもっと誉めて然るべきだ!との思いから彼の肩を叩いて正気へと戻すと、目の前に広がる光景の一角を指差して行く。
「多分なんだけど、あの辺りの緑色してる一帯がそうなんじゃないの?
確か、お姉さんの記憶が正しければ、サンプルとして預かっていた小石も、あんな感じの色合いだったと思うんだけど?」
「…………確かに、記憶してる限りだと、あんな感じの色合いだったな……。
ちょっと待て、今取り出して確認してみる」
そう言って、腰にぶら下げていた『道具袋』から小指の先程の欠片を取り出して見せるシェイド。
それこそ、先の会話でも出てきた、今回の依頼の依頼主であるギルレインから預かっているサンプルのアンテライト鉱石であった。
松明の光を受け、暗い緑色の光を放って見せるアンテライト鉱石。
小指の先程の大きさしか無く、それこそその辺の小石と同じ程度のモノでしか無いのだが、その外見からは予想だに出来ない程の重さを持っており、既にズシリとした重量が彼の右手に掛かっていた。
精製すればアダマンタイトとなるそのアンテライト鉱石の最大の特徴は、やはりその独特な色合いと見掛けに依らぬ重量に在る、と言えるだろう。
それらは、共に『アダマンタイト』として知られる希少金属の性質そのままであり、同時に最大の特徴である『何よりも硬い』と言う特性を支える要素である、とも言えるのだ。
そんなサンプル品を手に持ったまま、件の一角へと歩み寄り、無造作に拳を振るって露出した鉱脈を殴り付けるシェイド。
魔力によって強化と保護を同時に行われている彼の拳は傷付く事は無く、一方的に轟音を立てながら露出した鉱脈の一部を破砕して行くが、精製後の特性とも相まって思ったよりも砕けた量が少なかったらしく、彼の顔には苦い感情が浮かび、足元には少量の鉱石が落ちるのみとなってしまっていた。
…………が、そうして少量とは言え比較する為のサンプルを手に入れる事が出来た為に、拾い上げて光に翳し、右手持つ正規のソレと様々な角度から見回して照合するシェイド。
時折取り出した小型のハンマーで叩いたり、ルーペの様なモノで拡大して確かめたりと言う事を繰り返していたシェイドであったが、どうやら目当てであったアンテライト鉱石の鉱脈である、と判断したらしく、携帯している『道具袋』から特製のツルハシ(刃先?の部分がアダマンタイトでコーティングされたモノ)を取り出すと、化け物染みた身体能力にモノを言わせて轟音を立てながら凄まじき勢いにて掘削して行く。
精製してアダマンタイトへと変化させる前の状態であっても、変わらずにバカみたいに硬い、と言う事で一部界隈では有名なアンテライト鉱石を、複数人数で行うよりも遥かに素早く、大きな効率にて轟音と共に採掘するシェイドの横で、手を耳の横で側立てながら首を傾げる動作を見せるサタニシス。
普段からして多少言動がアレな彼女であるが、無駄な事をわざわざする様な性格では無い、と言う事を把握してはいるシェイドは、重機並みの速度にて掘削しながらサタニシスへと言葉を掛ける。
「…………ソレで、どうしたってか?
耳を側立てながら首なんて傾げて、なにか変な音でも聞こえたのか?」
「……………う~ん、どうなんだろう?
多分、変な音、って訳でも無さそうと言えば無さそうなのよねぇ。
これまでの経験から察すると、多分階段かなにかだと思うんだよねぇ~」
「…………そうか。登りのヤツ、と言う訳では無さそうなのか?」
「いや、位置的にはたぶん降りの方が正解だと思う」
「…………ソレって、ここからは割りと近い風味だったりするのか?」
「多少離れ気味、かな?って程度には近いと思うわね」
「なら、覗くだけ覗いて見るか?
一応依頼に関しては達成出来るのは間違いないし、ソレ以降に関しては特には『アレをしなくちゃならない』なんて事にはなっていないからな」
「え、良いの!?
じゃあ、私と君とで、この『迷宮』の攻略記録の更新でもしちゃう!?丁度、そこの階層主を倒せば第十階層へと進出する事になるから、私達で記録更新する事になるよ!?
どう?どうどう!?」
「………………まぁ、それはそれでアリ、か?
取り敢えず、必要量は採れただろうから、覗くだけ覗いてみるか」
「うんうん!行こう行こう!!」
何故かテンション高めにはしゃぎながら、掘り起こした鉱石を袋に詰め、ソレを『道具袋』へとしまっていた彼の手を引いて通路の奥へと誘導して行くサタニシス。
突然の行動に抗議しようとするシェイドであったが、その顔に浮かべられた無邪気な笑顔に充てられて、結局文句の一つも口にする事は無く、ただただ苦笑いを浮かべながら引かれるがままに着いて行くのであった……。




