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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
五章・得物を手にした反逆者は、試し切りも兼ねて迷宮へと挑む

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反逆者は『地下迷宮街』巡りながら頭を悩ませる

 


 サタニシスに手を引かれるがままに階段を下りきり、都市の雑踏へと足を踏み入れるシェイド。



 そこに見える人々の大半が戦装束に身を包んだ者達となっており、冒険者かそうでないかは置いておくとして、確実にこの『迷宮』へと富と名声を求めて挑みに来ている者達である事が窺えた。



 未だに浅い階層しか探索していない二人はまだ遭遇していないが、稀に現れると言う魔石以外の素材も落として消滅する希少な魔物や、階段を守る階層主や通路の奥に設置されている宝箱から得られるお宝、更に言えば最奥に鎮座している『迷宮核』を砕く事で魔物が大量発生する事を防止し、安全な文字通りの『宝の山』へと変貌させる事で得られる名誉を求めて集う彼らの目は欲でギラギラと輝きを帯び、どうしても手に入れる、と口以上に物語る様に一様に血走っていた。



 当然、目的からして違う彼ら(得物の試し切り兼奥の方の階層での採掘目的)は纏う空気からして温度差が在る上に、立ち振舞いがそこらに転がっている様な凡百な冒険者のソレとは異なる為に、何をする訳でも無く道を歩いているだけで自然と注目を集める事となってしまう。



 彼らの雰囲気から察して、別格の存在だと覚る者。


 彼らの装備を目の当たりにし、どうにかして奪い取れないか?と画策する者。


 彼の隣を歩む彼女をモノにしてやろうと、口笛を吹きながら舌舐めずりする者。


 彼らから思わず視線を切り、ソレを以て『虚仮にされた!』といきり上がる者。


 逆に、彼らの佇まいから『只者では無い』と見抜いた為に、『迷宮』完全攻略の為の戦力としてスカウト出来ないか、と考える者。



 三者三様ならぬ、十人十色な反応を見せて行く地下都市の住人達であったが、唯一共通している点としては、誰からも彼らに仕掛けようとはしていない、と言う点だろう。


 寧ろ、彼から放たれる妙な威圧感とそこはかと無い『嫌な予感』によって、揃いも揃って仕掛ける事も声を掛ける事も出来ず、ただただ彼らが揃って進んで行く様を見送る事しか出来ていない、と言うのが正しい現状だと言えるだろう。



 勘の良い者達であれば、その状況は彼によってコントロールされ、故意的に作り上げられている、と察する事も出来ただろうし、柔軟な思考の持ち主であれば、彼らが不用意な介入を厭っているが為に行っている、と理解する事も出来ただろうが、そこまで思考の回る者であればこんな場所には直接赴く様な事は滅多にしていないであろう為に、若干以上にアウトロー気味な気質の持ち主達は、彼らに対して暗い感情を煮え立たせる事となってしまう。



 が、そんな事は関係無い。襲ってくる様であれば、逆襲して皆殺しにする迄だ、と割り切っているシェイドがそれらの気配を見逃すハズも無く、周囲へと仕掛けていた威圧を一層強めながらサタニシスと共に露店や屋台を覗き込んで冷やかして行く。




「…………おいおい、このサイズの砥石が、銀貨行くだと?地上なら、もっと上質で大きなヤツが買える値段だぞ?」



「なら、地上まで買い出しに行くこったな!

 ここで直ぐに欲しいなら、ここで売られてる値段で買うこった。コレでも、この辺りじゃ割りと良心的な値段だぜ?」



「…………ねぇ?じゃあ、こっちの一束で銅貨五枚の『干し肉』って何なの?重要な食料のハズなのに地上で売ってるヤツよりも安いし、『干し肉』としか書いてないけど……?」



「そりゃ『干し肉』だよ。見ての通りに、な。

 ただ、誰が、何を使って、どうやって作ったのか、そこら辺が一切『不明』なだけの、怪しさ満点の干し肉さ。食えればソレで良い、腹さえ満ちればソレで良い、って連中向けの人気商品さ。

 どうだい?あんたも、試しに買ってみるかい?」



「……遠慮しておくわ。紫色してる干し肉だなんて、食べたら身体に悪そうだしね」



「ソイツは残念なこって。

 処で、そうやって覗いたのに一向に買いやしないって事は、懐でも寂しいのか?だったら、何かしら買い取ってやっても良いぜ?

 特に、その腰に差してるヤツなんか、ソレなりの値段で買い取ってやっても良いんだがなぁ?」




 二人が覗いた屋台の店主が、彼らが物を買おうとしていない事から文無しだ、と判断したのか、彼が手にしたばかりの得物を、さも慈善事業でもあるかの様に『買い取ってやっても良いぞ?』と口にして来る。


 …………が、ただ単に覗いただけでしか無く、本当に特に欲しいものが在った訳でも無い上に、特に財布が寂しい訳でも無いシェイドからしてみれば、ただただ失笑ものなその交渉に、鼻で笑って




「悪いけど、遠慮させて貰うよ。

 何せ、最低でも白金貨レベルでの支払いが必要になる逸品なんでな。まだ、人の血や脂で汚したく無いんだ。分かってくれるよな?」




 と、言外に




『奪おうだなんて考えるなよ?バラバラにされたくは無いだろう?』




 と含まれた言葉を投げ付ける。



 その言葉を受けた上で、相対していたハズなのに、いつの間にか鍔を親指で押し上げて鯉口が切られた状態となった得物の、僅かに覗いた刃の煌めきを目の当たりにするまで気付く事が出来ずにいた店主は、相手がその気であったならもう自分は死んでいた、と言う事実を理解し、冷や汗を顔面一杯に滴らせながら必死に首肯して見せる。



 …………どうやら、この近辺ではそれなりに顔の売れていた存在であったらしい店主の様子を目の当たりにしたからか、それまで彼らの周辺で屯っていた無数の気配が、まるで漣が引くかの様にして一様に周辺へと散って行く事に、狙っていたとは言え上手く行って良かった、との意味合いも兼ねて大きく息を吐くシェイド。


 そんな彼の横で、未だに僅かながらに表に見えている刃を覗き込み、人差し指で鯉口の部分をツンツンと突っつきながらサタニシスが彼へと問い掛ける。




「…………処で、この子の試し切りってどんな感じ?一応、第一階層で似たような事は出来ている訳なんだから、もう大丈夫と言えば大丈夫なんじゃないの?」



「………………あ~、それに関してなんだが……ちょっと、なぁ…………」



「…………え?どうかしたの?」




 危ないから止めなさい、と彼女を遠ざけながら、何故か言葉を濁して言い澱むシェイド。


 そんな彼の様子と予想外の返答に、思わず前のめりで聞き返してしまうサタニシス。



 思ったよりも接近され、いつぞや並みに顔と顔が近くなってしまった為に、多少顔を赤らめながら彼女の肩に手を置いて若干ながら距離を取らせながら口を開いて行く。




「…………いや、さ?

 ここの第一階層って、出てきた奴ら強く無かったじゃん?」



「……ん?まぁ、そうね?

 ハッキリ言っちゃえば、雑魚も良い処だったと思うけど?」



「でさ?

 俺本人の視点でしか無いけど、俺ってそれなりに剣術だけは得意でさ?それなりの腕前だって言う自負は在る訳なんだよね?」



「…………まぁ、横で見てる限りでも、結構なお手前の綺麗な剣術だったとは思うけど……?」



「ソイツはどうも。

 …………で、今試し切りしてるコイツって、絶世の切れ味を誇り万物を両断する魔剣!って訳では無いにしても、結構な切れ味を誇ってる訳でしてね?」



「………………何となく、何が言いたいのかは理解できたと思うんだけど、間違っていたら嫌だからハッキリ言って貰っても良いかな?ねぇ?ねぇねぇ?」




 焦れったがる様な、それでいて『オチ』は読めているのだからさっさと吐いてしまえ、と迫る様な声色にてそう告げるサタニシスに対してシェイドは、若干おどける様な素振りと表情にて




「じゃあ、結論から言おうか。

 第一階層程度の相手だと、刃が鋭すぎる上に敵が弱に上に柔らか過ぎて、丸っきり試し切りになりませ~ん!

 ぶっちゃけ、粘土でも切ってる方が、まだ斬り応えが在るんじゃないの?って言う位に手応えが無かったんで、コレじゃもっと固いヤツか強い奴らに当たるまで潜らないと、試し切りにならないみたいなんだよねぇ……」




 と、告げて行く。



 声色と口調こそは『何て事は無いけれど』と言わんばかりの雰囲気であったが、この一月程度とは言え付き合いの在ったサタニシスからしてみれば、割りと本気で困っているのだな、と言う事が窺える素振りであり、確実に空元気の類いなのであろう事が察せられた。



 まだまだ奥まで、下まで潜らなければならない。


 下手をすれば、目的の鉱石が採掘される階層よりも尚深くまで。



 そんな言葉が聞こえた様な気がしたサタニシスは、若干呆れた様な顔をしながら、視線を逸らして頬を掻いていたシェイドの手を掴むと、半ば強引に引きながら『安全地帯』の外であり、下へと続く階段が在るハズの奥へと地下都市の内部を突き進んで行く。




 …………既に一緒に居ると選択したんだから、一々そうやって済まなさそうにしないで欲しい。




 言葉には出されず、行動のみによって示された彼女の想いを覚り、初めは呆然としてしまうシェイド。



『そんな想いをぶつけられるのは初めてだ』『勘違いだったら嫌だな……』『でも、だったとしても居てくれるのだから別に良いか』



 そんな思いが自身の中で渦巻き、嬉しいのやら恥ずかしいのやら緊張するのやら、抱いている本人ですらイマイチ理解しきれてはいなかったものの、それでも抱いているこの感情は間違ってはいないハズだ、とかつて凍り付かせたハズの心に再び火を点し始めた彼は、それまで引かれるがままであった手に自ら力を込め、彼女の手を握り返す事で感謝と謝罪の気持ちを伝えて行くのであった……。




…………おっと?

思ってた以上に糖度高めになったみたいだぞぅ?(血涙を流しながら首を傾げる作者)

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― 新着の感想 ―
[良い点] だんだんと絆されていますな。 コレは将来、本当の意味での朝チュンも近いですな! [一言] 粘土を切っていたほうがマシ… せめて木材と言いませんかな…?
[気になる点] なるほど、実は主人公はお姉さんの方で、シェイド君はチョロイン枠だったと(違 まぁ、彼の今までの扱われ方を鑑みれば致し方ない……のか?
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