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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
五章・得物を手にした反逆者は、試し切りも兼ねて迷宮へと挑む

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反逆者は遂に望んだ得物をその手に握る

 


 数日したら取りに来い。それまでには、仕上げておいてやる。



 工房から放り出される間際に投げ掛けられたその言葉を信じたシェイドとサタニシスは、取り敢えず二日間程を周囲の観光や買い物に当てる事で休養として使い潰し、その後にギルレインの工房へと再度訪れた。



 ………………が……




「バカヤロウ!?まだ、出来てなんてやがらねぇよ!もう何日かしてからまた来やがれってんだ!!」





 …………との言葉と共に、再度工房を追い出される事となってしまったのだ。



 流石にその態度には、先日の扱いによって沸騰しかけていたのを休養に当てる事で鎮火を図っていたサタニシスに再度の火種を投入する事となり、今度は彼女の怒りを鎮める為に冒険者として魔物狩りへと赴く事となってしまうシェイド。



 投げ付けられた言葉に従うのなら、またしてもそれなりに時間を開けて行くしか無い、との判断により、移動だけで通常ならば数日は掛かるであろう場所に居ると言う大型の魔物を狩りに行く事に決定し、即座に出立したのだ。



 彼らの足であったとしても、日帰りで赴く事は叶わない様な距離が在る場所の依頼であった為に、取り敢えず行き道で半日。調査や観光を兼ねて約一日。標的を発見して討伐するまで一瞬。汚れた身体を見つけた泉で洗ったり、日が暮れた為に夜営したら夜這いされそうになってやはりもう一日。そして帰り道でもう半日。


 計三日間を追加で過ごしたシェイドとサタニシスは、流石にそろそろ出来ているだろう、との心づもりにて三度路地裏へと入り込み、『名工(マスタースミス)』として名高い(らしい)ギルレインの工房を目指して進んで行く。



 流石に、三度目ともなれば多少入り組んだ場所であっても、先導する者が居なくとも道を間違う事無く辿って行き、工房へと到着するシェイドとサタニシス。



 前回訪れた時には、未だに金属を叩いて鍛えている音が聞こえていた(先にシェイドの得物を仕上げた上で別の仕事を受けていた、と二人は思っていた)が、今回はまるで空き家で在るかの様に静まりかえっており、既に作業は終えているのだろう、と言う事を予感させた。



 …………が、今度は逆に静かになりすぎてしまっており、まさか死んでいるのでは無いだろうか……?と思わせる程の全くの沈黙が工房を支配していた。



 流石に『大丈夫なのか、コレ?』と心配になるシェイドを横目に、今度こそは!と意気込んで肩をいからせながらズンズンと進んで行ったサタニシスが乱暴に扉を押し開け、工房の店舗部分へと遠慮無く踏み入って行く。



 その背中に続く形で店へと入って行くシェイド。


 前回は詳しく見る事も出来なかった、棚や壁に掛かる武具や道具の数々に視線を向けて鑑賞を開始しようとするも、特にそれらに興味が無いらしいサタニシスに襟首を掴まれる形にて店舗の奥へと連行(ドナドナ)されてしまう。



 半ば引き摺られる形にて奥へと連れて行かれたシェイドと、僅かながらとは言え平均よりも長身で肉付きも悪く無い彼の身体を、とてもでは無いが実現不可能に見えるその細腕にて連行して行くサタニシスの視界へと、前回も前々回も一応は通されていた鍛冶場内部の光景が広がって行く。



 …………そこには、煤で汚れた床へと転がるドワーフ族の男性が二人。


 その周辺には、砕けたガラスが散らばっており、未だに落とされていなかった炉の焔の煌めきを反射してキラキラと輝いていて、二人の煤や火花にて汚れた身体や衣服にも、一見では血液とも思われる赤いシミが広がっていた。



 二人は、互いが互いに向き合う様にして倒れており、両者の手には瓶の一部(恐らくは飲み口の辺りか?)と思われるモノが握られていた。



 鍛冶場の奥、炉のすぐ近くにて倒れて伏す二人の姿は、入り口からその光景を眺めているシェイドとサタニシスからはピクリとも動いていない様にも見えており、端から見れば『瓶を握って互いに殴り合い、その結果相討ちとなった』と言う風にも見える状態となっている。



 そんな場面を目撃したシェイドとサタニシスは




「………………さて、取り敢えず俺の得物だけは回収させて貰おうか。

 性能やら仕様に関しては……まぁ、製作者に聞けないのであれば、実際に使って試して掴むしか無いだろうな」



「まぁ、何があったのかは知らないけど、取り敢えず注文したモノが出来ていれば良いのだけどねぇ~。

 これで、完成間際にまでは漕ぎ着けていたけど結局未完成なまま、とか言う結果になられても困るけど、最悪なのは『まだそもそも出来てなかった』とか、もしくは『完成したけど盗まれた』とかのパターンだよねぇ~」



「…………それは、最悪に過ぎるな……。

 話を聞く限りでも、他の鍛冶師で完成に漕ぎ着けられるか分かりはしないし、盗まれてしまっては探しようが無い。

 そもそも、多分俺以外には使えないし、使えたとしても使い物にはならないだろうが、素材が素材で、造り手が造り手だ。芸術品の類いとしての価値もかなりのモノになるだろうからなぁ……」



「私の本来の立場としては、貴方が強大な武具を手にしなくて胸を撫で下ろせば良いのだろうけど、お姉さん個人としては、やっぱりソレを求めて苦労したんだし、そもそもソレを手にした方が後々()()()()()()()()な気もするから、どうにかして残ってくれていれば良いのだけど……流石に厳しいかしら……」




 そう言って、倒れているゾンタークとギルレインの事を丸っきり無視して、自分達が注文した得物の姿を求めて鍛冶場の内部へと視線をさ迷わせる二人。



 軽く見回しただけでは見付ける事が出来なかったらしく、終いには鍛冶場の内部へと踏み込んでモノを探し始めてしまう。



 どうやら、二人が倒れている、と言う事を丸っきり無視するつもりであるらしく、特に現場を保存する、と言う事に頭を回す様な事をする素振りも見せず、生存の確認すらも碌にするつもりは無い!と言わんばかりの様子にて、積極的に二人の身体を跨いで更に奥側へと踏み込んで行く。



 …………すると、流石にそこまでされては看過出来なかったのか、床に倒れ伏していたハズの二人が飛び起き、シェイドとサタニシスへと向けて煤と埃と土汚れにまみれた顔のままで抗議をし始める。




「こら、お主ら!

 この工房の主が倒れていたっつうのに、何無視して家捜しなんて始めてやがる!?せめて、助けようとする素振りくらい見せやがれよ!?」



「いや、流石に完成したばかりのテンションから来た悪ふざけだった事は認めるし、悪いとも思ってるけど、取り敢えずは生死の確認位はしておこうぜ?

 でないと、色々と不味い事になるだろうがよ?」




 軽く、自分達の発案によるお芝居でした、と言う事をネタバレするギルレインとゾンタークの師弟コンビに対してシェイドは、半眼にてジトリとしながらも温度を感じさせない程に冷たい視線を二人へと送り付けながら口を開く。




「そんなの、鍛冶場に入った時から分かってたわ。

 死んでる訳じゃないのは、鼓動が聞こえていたから分かってたし、呼吸のリズムだとか魔力の反応だとかで起きてるだろう事も最初から分かってたんだよ、こっちは」



「そうそう!ソレを理解した上で、半分意趣返しのつもりでこっちも悪ノリさせて貰ってたのよ!

 それに、そもそもこのドッキリが成功するハズが無い、って事は、状況を見れば嫌でも理解できたハズなのだけど?」



「…………え?いや、そんな一目でバレる様なミスなんて……」



「いや、何処の世界に酒瓶握り締めたままくたばるドワーフが居て、何処の世界にドワーフの石頭をかち割れる程に頑丈な酒瓶が在るんだよ?

 しかも、服の赤いシミってそれ匂いで分かってたけど、どうせワインだろ?何処の世の中に、酒を浴びて死ぬドワーフが居るんだ?普通、逆に回復するだろうがよ」



「…………なんでぇ、最初からバレバレだった、って事かよ。ちっとは驚くかと期待してたっつうのに、なんもありゃしねぇじゃねぇか!仕掛けるだけ仕掛けて、お主らの驚く顔を拝めるとばかり期待してたが、とんだ無駄足になっちまった。

 …………まぁ、良い。取り敢えず、注文の品はこっちだ」




 驚かなかった事に不満マシマシでありながらも、取り敢えず作品を引き渡してしまおう、と二人を手招くギルレイン。



 ソレに従って奥へと行くと、専門に拵えられた台座に一振りの長剣が納められていた。



 …………全長にして、約一m。長剣にしても、片手剣の通常よりも長く拵えられた刀身は、彼の注文の通りに片刃の直刀となっており、僅かに付けられた湾曲によって引き斬る事を目的とされている様にも見てとれる。


 一見只単に真っ直ぐとなっている様にも見える刀身は、オリハルコンの特徴である鈍い銀色に染まっており、吊るされているランプの光を反射する事で虹色にも見える不思議な煌めきを放っていた。



 刀身と交差する形で作られている鍔の部分には、装飾と兼任して加工された魔石が嵌め込まれており、その周囲を囲みながら柄へと延びている木製の素材は、恐らくは世界樹の枝から削り出されたモノなのだろう。


 軽くでしかなかったが、先に測られた時に取られていた手の形に合わせて柄の部分にも削りが入っているらしく、一目で『使いやすい』と感じさせる程のモノとなっていた。




「…………おう。取り敢えず、お主からの要望は全部詰め込んでおいてやったぞ。

 魔力を込めると、一定の処から刃を魔力の膜が覆って切れ味が抑えられる様になってる。だが、ソレ以下の量や、更に上の量を流し込むと解除されるから注意しろよ。

 それと、簡単にだが発動体としての機能と、ある程度のリミッターとしての機能も付けてある。取り敢えず、咄嗟に放って焼け野はら、って事態は防げるんじゃねぇのか?多分だが。

 あと言うとするんなら、取り敢えず頑丈さに極振りしておいた。当然、一級品処か特級品としての刃を付けてはあるが、基本手にひたすら頑丈に作ったヤツだから、斬れないモノがあったとしても文句は…………って、おい!聞いてんのか?」




 長々と説明しているギルレインの言葉を半ば聞き流し、視線をその一振りへと固定しながら進み続けたシェイドは、震える手でソレを掴み上げ、ゆっくりと自らの魔力を流し込んで行く。



 すると、以前の得物やゾンタークの傑作が耐えきれなかった値を遥かに超え、未だに試した事の無い域までびくともせずに平然と耐えて見せている。



 そして、流石に戦闘で使うにしてもここまでか、と言う量を注いだその時には、それまで銀色に鈍く煌めき、虹色の光を反射していた刀身は黒く染まり、そこに在るだけで空間を歪める程の圧力と存在感とを放つモノへと変貌を遂げていたのであった……。






「…………く、くはは、あはははははははははっ!!!

 流石だ、流石『名工(マスタースミス)』だ!これ程のモノを、期待以上のモノを造り上げてくれるとは、正に『思ってもみなかった』ぞ!


 これが、これこそが!俺の求めていた一振りだ!!」





最終破壊兵器、爆誕?


次回、突撃!となりの迷宮!(……?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 死んだフリしてドッキリ仕掛けるとか2人ともお茶目だなwしかし中々の業物が出来ましたな。頑丈さ極振りで作ったから斬れない物があるかも知れないって言ってたけどぶっちゃけシェイド君には(斬れないの…
[一言] そのまま寝込んでいたら、シェイド氏は勇者になっていましたかな? 家探ししたり、初代魔王がドラゴンの方の…
[一言] 解除させちゃったかぁ...というか限界突破?
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