目的地に辿り着いた反逆者は、目的を果たす為に動き出す
読者の方から寄せられた意見により、これまで
『隊商荒らし』
としていた表記を
『隊商荒らし』
へと変更致しました
なので、今回の更新からそうなっていますが間違ってはいないのでご了承下さいませm(_ _)m
「………………で、結局あの野郎襲って来なかった訳だが、一体何を考えてやがると思う?」
「そんな事聞かれても、お姉さんあの手の自分にとって都合の悪い事は現実じゃ無い、って思い込んじゃうタイプはあんまり好きくないから、流石に考えまでは分からないかなぁ……。
まぁ、案外と何処か別の処で、何かしらの用事で足留めを食らっていた、って感じだったりするんじゃないかな?意外と、世の中そんなモノだよ?」
「…………そんなモノか?」
「そうそう、そんなモノそんなモノ」
「……まぁ、だからと言って、納得したからと言って、このモヤモヤが晴れてくれはしないんだが、な……」
二人がそんな会話をしながら歩いているのは、レオルクスの首都である『マーレフスミス』の大通り。丁度、冒険者ギルドのレオルクス本支部であるマーレフスミス支部の真ん前である。
何故、この都市に到着して間も無い彼らがそんな場所に居るのか、と言えば、それは達成した依頼の報酬金を受け取る為、である。
…………少し前まで、当の依頼人本人と間近に接していたと言うのに、何故にわざわざこうしてギルドの方まで出向かなくてはならなかったのか?と疑問に思う者も多く居るだろうが、これは公平かつ確実に報酬を冒険者達が手にする為に作られた仕組みの一つなのだから仕方が無い、と言えるのだ。
そもそもの話として、基本的に冒険者に寄せられた依頼の報酬金は、一旦ギルドに預けられ、ソコから手数料として一定の割合で徴収された残りの金額が、報酬として掲示板に貼り出される依頼書に記載されている額となる。
なので、討伐や採取の場合は討伐証明部位や採取した現品を、今回の様な護衛依頼の場合は依頼主からの達成証明書をギルドに持ち込む事で、預けられていた報酬金を現金として受け取る事が出来る様になっているのだ。
これは、何もただ単に手間を増やしている訳でも、ギルドの方で確実に中抜きを行う為に組まれた仕組みである、と言う訳でも無い。
寧ろ、彼ら冒険者が依頼人である海千山千の経験豊富で老獪な商人達との、あの手この手で行われる執拗な値引き行為(思っていたモノでは無かった、もっと上質なモノだと期待していた等々)を回避し、彼らが直接のやり取りをしなくても済む様に、保護する目的で施行された制度なのだ。
その制度のお陰で、冒険者側は最初に提示された金額を、キチンと定められたモノを納める事で確実に手にする事が出来、依頼人側も後で面倒な交渉をする必要が無くなる他に、粗暴な冒険者相手に万が一の場合にの事を心配しながら対面する必要が無くなる為に、難癖を付けて不当に報酬金を引き下げたい狙いを持っていた一部の商人達を除いた全方面から、多大な支持を得ている制度であったりするのだ。
…………まぁ、引き取りに行く手間が増えた、と言う点に関しては少し前の彼と同様の不満も昔から多少出て来ていたらしいのだが、ソコは他の面でのメリットによって封殺したらしい。
とは言え、別段そう言うシステムになっているからと言って、依頼人と良好な関係性を築く必要性は無い、と言う訳では無い。
今回の彼らの様に、危険を未然に防ぎきって見せたり、依頼人とある程度親しくなっていたりした場合、次の依頼を指名で貰えたり、追加報酬、と言う形で報酬金の上乗せが発生したりする場合も在るからだ。
…………と、そんな訳で、達成した依頼の報酬金を受け取ると同時に、護衛依頼初日にて遭遇して取り逃がした例の『隊商荒らし』に付いての報告を行っておいたのだが、やはりあまり芳しい効果を得られる結果となった、とは言い難い状況に在る。
確実に自供した上に、襲われたと言う事実も在るのに、何故?と思われるかも知れないが、ソコは彼の『実績』と『信用』が共に不足している為に仕方が無い、としか言えないのだ。
…………実は、今回の様な訴え自体は、ソレなりに頻繁に行われていたりするのだ。真偽問わず、大小様々な訴えが、日々ギルドへと寄せられている。
ソレは、今回の様な個人の素質と能力に起因した放置していると大事件に発展しかねない、と言う訴えから、特定の冒険者によって不利益を被った、寧ろその冒険者によって依頼を横取りされて死にかける事になったから資格を停止させて欲しい、と言った要請まで様々だ。真実からの情報もあれば、只の嫉妬や僻みから被害者面をして寄せられる嘘の報告まで、本当に日々多くのモノが寄せられるのだ。
もし、それらを『全て聞き届けて』対応していてはギルドの業務は停止してしまうし、冒険者の大半は資格停止に追い込まれてしまう事となる。
逆に、『全て聞き届けない』でいれば、中に紛れている本当に重大な情報や、本当に危険な行為や卑劣な横取り行為を行っている冒険者を取り締まる事も出来なくなってしまう。
その為に、そうして寄せられた情報は、寄せて来た側が上げて来た『実績』と、依頼を達成して来た事によって得られる『信用』によって事が真実なのかどうかを一時審査的に判断するのだ。
今回に関しては、辛うじて同行者にして依頼人でもあったガウォルクからの証言によって情報として受け入れられはしたものの、告発者の立場に在るシェイドの『実績』と『信用』が低すぎた為に、優先度は低く設定されてしまう事となっていた、と言う訳なのだ。
とは言え、魔物の群れをけしかける事を可能とするだけでなく、人の精神や心に対して直接強制的に介入する手段を持った稀人であり、その上でそれらの力を私欲の為に振るう事に躊躇をしない性格である、と言う情報は中々に強烈なモノであり、現在は方々に連絡を取って確認をしている段階であったが、彼ら以外からの証言が幾つか寄せられる事となれば即座に資格停止の上に賞金を掛けられた上で指名手配されて『賞金首』に堕ちる事は確定だろう、と言う状態にはなっていたりするのだが。
そんな事を終えたばかりで、直ぐに対応されるとは思ってはいなかったものの、ここまで後手後手な対応をされたことで胸中に溜まっていたモノが晴れず、未だにモヤモヤとした状態にて退出する羽目になり、現在に至る、と言う訳なのだ。
ここに来て、カートゥにて起こした冒険者ギルドとのいさかい(実態としては一方的な蹂躙であったが)や強引な換金による実績としてカウントされない貯蓄(必要に駆られたからやった、後悔はしていない(byシェイド))に、所属を縛られる事を厭ってのランク制限等が響いて来たか、と若干の後悔に駆られる事となってしまったシェイド。
しかし、よく考えて見れば、そうして寄せられた情報を正しく使わずに被害が出たとしたのならば、その責任は事を実行した『隊商荒らし』と、ソレを未然に防ぐ事をしようとしなかったギルドにこそ在れども、善意(と多大なる悪意)によって情報を寄せて警戒を促した彼が負うべき責務では無い、と言う事に思い至り、取り敢えず目の前に出て来て遭遇する様な事態になるまでは放置で良いか、と憂鬱を振り切って当初の目的を果たすべく、ギルドの前から移動をし始める。
「それで、何処に行くつもりなの?」
「…………あん?何処に、ってそりゃ、一つしか無いでしょうよ?
そもそも、俺がここを目指していた目的を忘れたのか?流石に色ボケが過ぎるんじゃないのか?」
「違いますぅ~!色ボケなんてお姉ちゃんしてません~!そもそも、そうやって色ボケ出来る様な事一切してくれないのは、何処のどなたでしたっけ~?
…………と、まぁ、冗談はこのくらいにしておくとしても、そんな事私が忘れるハズが無いでしょう?
貴方の得物を手にする為
それくらい、ちゃんと覚えているわよ」
「…………途中のアレからの温度差が酷すぎるが、そうやって覚えているのなら、一体何がそんなに不思議なんだ?
行き先なんて、鍛冶屋の処以外に無いだろう?」
「その鍛冶屋を何処にするのか、って聞いてるのよ!」
さも『当然だろう?』と言わんばかりの表情にて返答するシェイドに向かって、こちらも『当たり前でしょう!?』と言った顔で応えるサタニシス。
そんな彼女の様子に、予め聞いていた鍛冶屋の集まる地区へと足を進める事を止めずに首を傾げるシェイドと、イマイチ理解していない様子の彼へと半眼になってジトリとした視線を向けるサタニシス。
「…………ねぇ、シェイド君?
貴方、予定している得物の素材って何が在るって言ってたっけ?」
「……?
『オリハルコンのインゴット』と『世界樹の枝』、それと『百年竜の魔石』だが?」
「そうね。貴方の魔力やら何やらに耐えられる程の得物を作ろうと思ったら、そう言うレベルの素材から必要になる、って事は理解出来るわよ?
…………でも、そんな素材を加工して、しかも貴方の力に耐えられるだけの逸品に仕上げられる職人が、この街にどれだけ居るのか把握している訳?」
「………………え?まさか、出来ないのか!?
工匠国なのに?ドワーフなのに!?」
「出来るハズが無いでしょうが!?
シェイド君、貴方一体この国を何だと思っていた訳!?」
「…………いや、どのみち人族じゃ無理っぽそうだったから、半ば助けて貰う位の気持ちでこっちに来たからなぁ……工匠国なら、この程度は『多少難しい』とか『少し面倒』位のノリで引き受けてくれるモノだとばかり……」
「いや、流石に私でも『ソレは無い』って分かるわよ!?
そんな、加工難易度最高級の素材のオンパレードなんてされた日には、幾ら鍛冶狂いの職人ドワーフでも、あまりの難易度に手出し出来なくて悔しさのあまりに発狂するか、もしくは狂喜乱舞しながら失敗した時の事なんて考えもせずに手を出そうとするかのどっちだからね!?」
「…………なん、だと……!?
てっきり、あのクソオヤジの持ってた魔剣だとかをポンポン打っていたから、この程度は普通だとばかり……」
「………………いや、ソレは貴方のお父さんと、ソレをやらかしていた職人が異常だったってだけだから……。
と言うか、そうやってポンポン魔剣を打たせるだけの財力と素材を持ち合わせているお父さんって一体何者……?」
最終的に、鍛冶屋が集う地区の入り口にて地面に項垂れる事になったシェイドと、何処か畏れる様な視線にて首を傾げるサタニシス、と言う組み合わせにより、道行く人々から遠巻きにされてしまう二人。
周囲からは変人を見るような視線を向けられ、ヒソヒソと何やらを囁かれる事となってしまい、中には『不審だから』と言う理由から騎士団の派出所へと走ろとする者まで現れてしまったその時。
「………………あれ?あんた、あの時の人か……?」
との声が、掛けられる。
それに釣られて項垂れていた顔を上げたシェイドの視線の先には、以前何処かで出会った事が在った様な気がする、ドワーフ族の男性が不思議そうなモノを見る様な視線を向けてきていたのであった……。
果たして、このドワーフは一体?
一応、過去に登場しているキャラクターだったりします




