反逆者は隊商に参加するも、件の存在と遭遇する
結局、特に人格的に反感を買う様な事にもならず、その上で実力的にも問題は無さそうだ、と判断された二人はそのまま護衛として隊商に同行する事に決定した。
主な仕事は、『移動中の周辺の警戒』並びに『実際に襲撃を受けた際の襲撃者の排除』と『夜間の周囲警戒』が基本となる。
一応、彼らと同じ様に依頼を受け、その上でガウォルクによる面談にて『不可』を出される事無く承諾されたパーティーがもう一組いるらしく、夜間の周囲警戒に付いてはそこのパーティーと交代で行う事になっているらしい。
そうして色々と打ち合わせをしていると、どうやら出発の為の準備が整ったらしく、作業をしていたメンバーの内の一人がガウォルクへと報せを持ってきた。
実際に出発するに当たって、リーダーであるガウォルクが号令を掛けなくてはならない事も多いために、彼らへと断りを入れてそちらへと向かって行ってしまう。
取り敢えず、契約は済んでいるし、仕事も明白である事もあり、周囲に待機していた隊商のメンバー達に挨拶をしつつ、護衛の待機場所として指定されていた馬車を目指して隊商内部を進んで行く。
すると、屋根を残して壁を取り去り、その上で屋根の上にも席を取り付けて座れる様にしてあると言う、謎の改造を施して在る馬車が視界に入ってきた。
ソコには、槍と剣を手にした男性二人と、弓と杖を手にした女性二人が待機しており、雰囲気や空気感からあからさまなまでに『冒険者です』とアピールしていた。
そんな四人組に対して、特に気配や姿を隠す事もせずに近付いた為に向こうも彼らの事を発見し、その上で雰囲気的に冒険者であると言う事を見抜いたからか、槍を小脇に抱えていた中年男性が軽い感じで手を掲げて見せた。
続いて、長剣を腰に差して盾を手にしている青年(シェイドよりは年上に見える)と杖を手にした少女が軽く会釈をし、屋根の上に腰掛けていた弓を手にしている女性が笑顔で手を振って来た。
ソレに対して、それぞれで黙礼したり手を振り返したりして返事をするシェイドとサタニシス。
向こうのパーティーは、外見や年齢等にてマウントを取るつもりは無いらしく、取り敢えずちゃんとやることはやってくれればそれで構わない、と言うスタンスらしく、特に彼らに絡んで来る事も無く平穏無事に顔合わせは終了する事が出来ていた。
そうこうしている内に、どうやらガウォルクが出発の準備を整えて隊商全体に向けて合図を出したらしく、周辺に停められていた馬車が次々に動き始めて行く。
慌てて壁の無い馬車(但し天井は付いている)に乗り込むと、ソレに合わせる形で隊商のメンバーの一人が御者席に素早く座り込んで手綱を握り、馬車を走らせて行く。
今回同行する彼らはあくまでも『仕事で』帯同させて貰っている立場であり、かつ彼らの仕事は隊商の『護衛』となっている。
なので、一際背の高くなっている天井に常に一人は配置して周囲に気を配り、異常が実際に発生した場合は残りの面子がそこへと急行する、と言う手段を取る為に、彼らは隊列の真ん中付近に陣取る事となっていた。
普通、護衛と言えば周囲に散らばるモノじゃないのか?ともシェイドは考えていたのだが、手綱を握る御者との雑談によると、どうにも今回の護衛は彼らのみであるらしい。
ソレに唖然とした一同は、流石にリーダーであるガウォルクに対して抗議しようとかとも思ったが、下手をすれば百人近く。確実に数十人はいるこの隊商、流石にそうやって意識を逸らしたり目を離したりしてまで守りきれる自信は無かったし、事を知ったのは既にウィアオドスを発った後の事であった為に、取り敢えず口をつぐむ事にしたシェイド達は、揃って頭を抱える事となってしまう。
「…………なぁ、正直な話として、この隊商の持ち主の商会って、そこまで悪どく儲けていたりする様な処な訳で?」
「……へ?いやいや、そんな訳無いでしょうよ冒険者さん。
むしろ、俺達の商会は地元の人々に愛される、安全安心低価格をモットーにしている訳なんですから、それで怨みを買う様な事になんて、あっしはてんで見当も付きやしませんよ!」
「じゃあ、何でこんなに護衛が少ないんだ?
この規模の隊商なら、後少なくとも十人位は護衛として冒険者を雇うなり、自分達の隊商や商会から腕利きの専属護衛を引っ張ってきたりするなり、何なりとするハズなんじゃないのか?
幾ら冒険者の方が、荒事に慣れている割には低予算で使えるからって、これは流石に手を抜きすぎじゃ無いのか?流石に、ソレなりの規模の盗賊団とかに襲われたら、隊商を守りきる事は難しいと思うんだが……」
「……あぁ、そう言うこってすか」
何故か得心が行った様に相槌を打つメンバー。
それに対して、直接質問をしているシェイドを含めた、会話に聞き耳を立てている他の冒険者達(屋根の上の女性含む)が揃って首を傾げる中、まぁそう思われても仕方がないよな、と言わんばかりの苦笑を浮かべながら再度口を開いて行く。
「いえ、ね?実は、元々もっと大規模に護衛を雇って行く予定ではあったんですよ?
でも、これから使う予定の街道で、最近一番厄介な問題だと噂されてた盗賊団が急に壊滅する事になりやしてね?
誰がやってくれたのかは存じやせんが、そのお陰で危険度もぐんっと下がりやしたので、人数としてはこの程度に抑えて、後は冒険者の中でも腕っこきの方々に何人か入って頂こうか、って話になったんですよ。
で、そうなったんで、皆さんで依頼を締め切らせて頂いた、って訳なんでさぁ」
「あぁ、だから俺達と彼らしか居なかったって訳かい?
てっきり、彼らがとんでもない凄腕二人組だから、たまたま先に入ってた俺達以外の連中が軒並み不要になったのかと、内心ヒヤヒヤしてたんだけど、そう言う訳でも無かったって事で良いんだよな?」
「まぁ、事情としてはそんなモンですが、お二人が腕っこき、って事に関しちゃ本当ですぜ?旦那。
何せ、ここの街道を通れる様にしてくれたのは、お二人って話でしやしたからね。そうでしょう?」
「…………あぁ、なんだか見覚えの在る方に向かってるな、と思ってたら、あの街道だった訳か。道理で」
「まぁ、とは言っても、この街道自体はそんなに歩かない内に、連中の本拠地探して森に入っちゃったからねぇ~。
この辺はまだ見覚えは在るけど、もっと進んじゃうと流石に見覚えも無くなっちゃうんじゃないのかな?」
「あぁ~それは、盗賊団討伐の依頼受けてるとアルアルだよねぇ~!
ドコドコの街道を解放した!だとか、ドコソコに巣食っていた盗賊団を壊滅させた!とか言われても、後日その辺を通って説明を受けて漸く『…………あっ、ここの事だったんだ?』ってなるよねぇ~?」
「…………いや、流石にソレはお前だけだろう?
流石に、普通はある程度は覚えているハズだぞ……?」
「そう?ワタシも、地形見て漸く、って事は良くあるけど?
ワタシ達にとっては『仕事の一つ』でしか無い訳なのだし、やっぱり地元の人達とは感慨ってモノが違うんじゃない?
…………それと、どうやら厄介なお客さんみたいよ?」
シェイドと御者を務めるメンバーとの会話に、最初に槍使いの中年が、次いでサタニシスが、それに続く形で長剣使いの青年、杖を持った少女、屋根に座る弓使いの女性、と言った順で参加して来たのだが、その最後に言葉の雰囲気を変えながら弓使いの女性が警告を報せて来る。
それに咄嗟に反応し、一息の間に自ら屋根へと登って彼女が向いている方向へと視線を走らせる。
すると、視線を向けた方向である隊商の先頭から少し離れた処では、小柄な人影が街道の真ん中にて両腕を広げながら何かしらを叫んでいる様にシェイドには見てとれていた。
流石に、それなりに距離がある為に、その叫びを聞き取れるレベルで聴力を強化してしまうと周囲の音も大きく拾い過ぎてしまう為に、視力だけを強化して街道の真ん中にて仁王立ちしてとうせんぼしようとしている人影の口元を注視して読唇して行く。
『お願いします!ボクも、その隊商に参加させて下さい!
必ず役に立って見せます!実績だって、今まで参加させてくれた隊商で上げて来ました!
確かに、ボクはまだ低級の冒険者でしかなく、商人ギルドの方からも隊商に参加する資格はまだ得られていません!でも、それは制度の方が拙いだけであって、ボクの実力が低いからではありません!
ですので、どうか!ボクを隊商に参加させて下さい!お願いします!!』
…………どうやら、こんな感じの事を、先程から延々と叫び続けているらしく、先頭付近の馬車のスピードに鈍りが見え始めている様にも思える。
おまけに、そこに指示を出そうと移動したと思われるガウォルクが、困惑した様であり、困った様な仕草にも見える様子にて、どうしたモノか……と顔をしかめている風に見て取れた。
ソレによりシェイドは、あの人影がもしかして例のアレなのか?と判断した為にその場で馬車から飛び降りると、自らの身体能力を強化して地面を駆け、先頭付近のガウォルクが乗る馬車へと追い付くと
「…………一応確認しておく、アレが、例の輩で間違いないと思うか?」
と問い掛ける。
すると、いきなり現れた彼の存在に驚愕しながらも
「あぁ、間違いねぇ!
手口が聞いてたのとソックリだし、何よりあそこまで怪しいガキが他に居て堪るかってモンだよ!!」
と、それまで感じていたらしい不安を吹き飛ばす様にして怒鳴り返して来る。
ソレを受けたシェイドは、僅かに笑みを浮かべながら
「じゃあ、排除しても構わない訳だな?」
と一応の断りを入れてから、更に速度を上げて隊商の先頭へと躍り出ると、未だに街道のど真ん中にて両手を振り回しながら都合の良い事だけを宣ってくれている人影の足元に対して魔術を放ちつつ、停められた隊商を背後に庇いながら、極めて冷たい声色にて呆然と尻餅を突いている人影へと向けてこう告げるのであった…………。
「…………お前が、何処の誰だろうと、どんな実力を持っていようと、どんな知識や見識を持っていようと関係無い。
俺の雇い主は、お前を排除すべき害悪だと判断した。故に、このまま引かず、通行の邪魔を続けると言うのであれば、力ずくで排除させて貰う。
これは、警告であると同時に最終通告だ。確りと考えてから、口を開く事を推奨する」
内側から崩されると言うのならば、内側に入れなければ良いのですよ(極論)




