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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
四章・自由を手にした反逆者は得物を求めて国を渡る

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反逆者は監視者と共に報酬を受け取る

 



 ━━━━チュン、チュンチュン!




 開け放たれたままとなっていた窓から射し込んで来た陽光に加え、聞こえて来た鳥の囀りにより、ゆっくりと暗闇から意識が浮上して行くシェイド。


 久方ぶりに、碌に夢を見る事も無く深い深い眠りに就いていた彼が意識を覚醒させて瞼を開くと、目の前に広がっていたのは目を閉じていた時と変わらぬ暗闇のままであった。




 ………はて、コレは一体どう言う状態だ?まだ夜なのか?


 でも、ちゃんと日の光の暖かさは感じるし、鳥の囀ずりも聞こえて来ている。やはり朝になっているのは間違いないハズだ。


 なら、現状はどう言う事になる?もしや、失明でもしたか?可能性としては『有り得ない事では無い』と言う程度には在るのだろうが、特に原因になりそうな事には心当たりは存在しない。そもそも攻撃や魔術の類いを受けた覚えは無いから多分違う。


 そもそも、今居るここは何処だ?宿か?しかし、あの宿の内装にここまで狭いながらも柔らかくて暖かくて甘い香りのするモノは無かったハズだし、ここまで抱き心地の良くて自分から足を絡めて来るなんて良くできた抱き枕だって、無かった、ハズ……だが…………!?




 寝起きで未だに良く回らない頭のままで思考を巡らせていたシェイドであったが、自らの顔に感じる触感やら香りやら自らの腕の内部に抱き締めているモノの感触やらから、昨晩の出来事の全てが瞬時に脳裏を駆け巡る。



 …………そう、昨晩、部屋に押し掛けて来たサタニシスに、何が何やら理解するよりも先にその豊満な胸に抱き込まれ、掛けられた言葉によってそれまで澱んでいた胸の内の『澱』が決壊し、情けなく涙を流しながら彼女にすがり付く様に抱き着き、その挙げ句にそのまま寝落ちしてしまった、と言う事を思い出してしまったのだ……。



 思わず顔面が赤熱すると同時に、今現在自分が誰の何処に顔を突っ込んだ状態となっているのか、を理解した為に急いで自ら絡めていた腕を解き、多少の名残惜しさを残しながらも身体を離そうとして行く。



 …………が、それまでは弛く背中に回されていただけであったハズのサタニシスの腕に力がこもり、魅力の谷間から脱出しようと試みた彼の事をその場に引き留めようと拘束してしまう。



 普通、こう言う状況の場合、余程の間柄で無い限りは起きて気付いたらビンタの一発でも貰うか、もしくは蹴り出されるか何かするモノだと相場が決まっていること位は、シェイドも知ってはいた。


 故に、彼女がこの状況で目を覚ました場合、確実にその手の行動を取られるか、もしくは魔術の一発でも飛んで来るのが常道であるハズなのに、一体何故に身体を離す事を拒絶する様な素振りを見せるのだろうか?



 アレか?アレなのか?このまま頭を握り潰してやる、と言う無言のアピールなのか?それとも、ゼロ距離で消し飛ばしてやる、と言う何よりの意思表明では無かろうか??



 なんて事を半ば混乱しながら考えていたシェイドの頭上に、昨晩と同じ慈しみを感じさせる口調にて、ここ数日にて聞き慣れた声が彼の耳へと届いて来る。




「…………ぬっふっふっ~!どうしたのかなぁ~?昨日みたいに、お姉さんの胸の中で甘えてくれても良いんだよぉ~♪

 ほらほら~、またムギュ~っとして上げるから、ね?ムギュ~っと♪」




 …………矢鱈と慈しみに溢れ、最早砂糖に蜂蜜をぶちまけた様な甘く蕩ける声色にてそう告げつつ、優しく甘やかす様な手付きにて髪を撫でるその仕草は、最早恋人に対して向けられるであろうモノであり、これまでの人生に於いて一度たりとも向けられた事の無い類いのモノであったと言えるだろう。



 そんな、耳にしただけで脳髄が甘くドロドロに溶かされそうな言葉を耳にしてしまったが故に、このまま柔らかく心地の良い谷間に顔を埋めたまま二度寝に突入してしまいたい気持ち(怠惰)と、ここまで受け入れて近しい距離感で接して来るのであれば柔らかな身体に向けて獣欲を解放しても変わらずに受け入れるだろう、と言う健康な青年であれば毎朝発生する現象に後押しを受けた打算(本能)が暫し彼の内側にて拮抗して思考を蝕んでいたが、彼本人(理性)がその両方をギリギリの処で蹴飛ばして第三の選択肢である『心地の良い谷間(パライソ)から脱却する』を選択し、即座に行動へと移して行く。




「…………ッ!!ぬぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!?!?!?」



「え?きゃっ!?」




 ぽーん!と擬音が付きそうな勢いにてサタニシスの細腕による拘束を振り払い、ベッドの上に放り投げるシェイド。



 唐突な彼の行動により、驚きからかこれまで聞いた事の無い様な可愛らしい悲鳴が聞こえるが、それはただ単に今まで聞く機会が無かっただけか、もしくはそう言う弱みを見せても良い、と言う程に心を許されているからかは考えずに、取り敢えず自身はベッドから転がり落ちる様にして脱出して行く。



 ソレには流石のサタニシスも、今までの様な甘やかな雰囲気と空気を霧散させ、床に座り込んで荒い吐息を吐くシェイドへと向けて抗議の声を挙げる。




「ちょっと!いきなり何するのよ!?

 折角、素直になったシェイド君の事を甘やかして上げていたのに、逃げ出すなんて酷いんじゃないの?」



「えぇい、煩い!黙れ!

 昨日の事は忘れろ!アレは、一時の気の迷いってヤツだ!だから、忘れろ!記憶から、消し去れ!!」



「ぬっふっふっ~残念でした~♪

 あんなに可愛かったシェイド君の事を、お姉さんが忘れるハズが無いでしょう?しっかりバッチリ、感触から匂いまで全部永久保存で記憶してあるもんね~♪」



「▼Ω♯∞●〆仝〇▼$!?!?!?」←(言語化出来ない魂の叫び)



「ふふっ、この程度でそんなに騒いじゃって、カ・ワ・イ・イ♪

 でも、お姉さん的に忘れて上げちゃうのは勿体無い位に昨日の君も可愛かったから…………あっ!そうだ!昨日のアレが君の中で霞む位に、もっと凄い事してあげちゃえば良いんだ♪

 もう明るくなっちゃってるけど、別に良いよね?と言う訳で早速……」



「いや、やらせねぇよ!?」




 最初こそはどうにか取り繕おうとしていたシェイドであったが、艶やかな笑みを浮かべつつ、そんな言葉と共ににじり寄ろうとするサタニシスの手を回避し、必死に存在感を放っている自らの一部を宥めながら逃げ回っている内に、昨晩の事で抱いていた気まずい空気は朝の空気に霧散し、いつの間にか普段通りの振る舞いに立ち返っていたのであった。






 ******






 慌ただしくも騒がしい朝の一時を過ごした後、身支度を整えた二人は再び冒険者ギルドを目指して街中を歩んでいた。



 昨日も同じ道を通っていた為にそこまで目新しいモノは無く、また景色の類いもそう簡単に変化する事は無い為に、昨日のそれと変わらないモノであったハズなのだが、ただ一つだけ変化している処があった。



 …………そう、それこそが……




「ぬっふっふっ~♪さぁ、シェイド君?

 お姉さんと手でも繋ぐ?それとも、腕でも組んじゃう?」



「…………繋がないし、組まない」



「じゃあじゃあ、思いきってキスでもしちゃう?

 もう、周囲に見せ付ける位に情熱的なヤツを、ブッチュ~っと!」



「…………見せ付けないし、やらない」



「もう!何を何時までもそんなに恥ずかしがってるのよ!

 昨晩は、も~っとスッゴイ事を二人っきりでヤったって言うのに、このくらいはもう挨拶みたいなモノでしょう?なら、もっと思いきって欲望を開放して、お姉さんにぶつけても良いんだよ?ほれ、ほれほれ♪」



「…………だぁ!一々、誤解を招く様な事を口にしてくれてるんじゃないよ!?」



「あぁん♪」




 …………それこそが、まるで懐きに懐いた大型犬が飼い主の気を引こうとして纏わり付いて見せる様に、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらも、確実に相手に対する『好意』の類いを隠そうともせずに放ってみせながらシェイドに纏わり付いてアレコレとやらかして見せるサタニシスの、変わり果てた姿である。



 昨日もその二人組を目撃していた者や、昨晩のアレコレに参加していた者達は、アイツら一体何をしたら一晩であそこまで変わるんだ……?との疑問を抱きながら自らの目を疑うのと同時に、でもあの様子を見る限りだと何かしらを強制されている訳では無さそうだから別に良いか、と揃って視線を逸らす、と言った珍光景が繰り広げられる事となってしまっていたのだ。



 …………正直、そうやって纏わり付かれてしまっているシェイドからすれば、困惑すること仕切りである。


 お前そんなキャラだったか?と思わず突っ込みたくなる程の変貌を、たったの一晩にて成し遂げてしまった原因は昨晩のアレ以外には存在していないのだろうが、だからと言って変わりすぎでは無いだろうか?合わせて何か変なモノでも食ったのか?と真顔で問い掛けたくなるが、ここは面倒事を増やすのは得策ではない、と無理矢理判断してギルドの入り口を潜って行く。



 すると、昨日の様に訝しむ様な視線を向けられる事は無く、寧ろここの様な交易国家では小さくとも動脈にも等しい街道の一つを解放して見せたからか、何処か敬意すらも感じさせるモノとなっていた。



 そうして視線が集中する中、周囲をチョロチョロと動き回るサタニシスを手で制しつつ、受付嬢の案内で昨日と同じ『支部長室』と書かれた扉を開いて中へと入って行く。



 当然の様に、ソコには二人を待ち受けていたのであろうアルテリアが執務机に腰掛けていたのだが、入ってきた二人の様子がたったの一日で大分変化している事に目を丸くするも、取り敢えずは本題を済ませてしまおう、とばかりに懐から二枚のカードを取り出して二人へと向けて差し出して来る。




「取り敢えず、お疲れ様、と言わせて貰いますね。

 お二人のお陰で、ここ最近の頭痛の種が、一つ片付きましたよ」



「…………それで、報酬の方は?」



「えぇ、確りと。

 ちゃんと、お二人揃って昇格は済んでおりますよ。まぁ、私個人としても、このウィアオドス本支部としましても、是非ともここに籍を置いて上級以上に昇格して頂きたい処ですが、それは嫌なのでしたよね?理由を伺っても?」



「…………欲しいモノが在る。ただ、それだけだ」



「……この、交易国家クロスロードでも手に入らないモノ、ですか?」



「……あぁ、確実にな。

 何せ、まだこの世界には存在していないモノだからな」



「…………なる、ほど……ならば、仕方がないですね。

 今回は、縁が無かったと言う事で諦めましょう。

 では、こちらもどうぞ。依頼としての、本来の報酬金となっております」




 そう言って、更新された二人のカードだけでなく、ズシリとした重量を感じさせる革袋を差し出して来るアルテリア。



 中身を改めてはいないものの、やはり街道を解放した、と言う事はそれなりに大きな出来事であったらしく、かなりの額が入れられているのだろう事が察せられた。


 故に、と言う訳でも無いが、軽く笑みを浮かべながらそうして差し出された二つの両方を確りと受け取ると、彼の方からも軽く会釈を返してから、サタニシスと揃って支部長室を後にするのであった。




※悲報、ストック氏亡くなる


なので、続けられる限りは続けますが、もし定時更新が途絶えた場合は作者に万が一が起きた場合か、もしくは隔日更新に移行しつつ、ある程度ストックを作り溜めてから定時更新に戻る予定ですのでよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最っ高ですね!! いや〜今後2人がどういう関係になるのか……ぬふふ
[一言] 一体何をすれば二人の関係が変わるのか…。答えは一つ! 朝チュンですぞ! むしろ女の方が迫って来て、下手に体験したら前作の聖女(エロス)のようになりかねないのですぞ!! もしかしてサタニシス…
[一言] ストック氏があああああ あいつはいいやつだった…… って言うのはアレとして あまりご無理はなさらぬよう
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