反逆者は監視者と共に、盗賊団の本拠地を殲滅する
「…………ん?まだ誰か残ってたか?
でも、あんなヤツ見た覚えが…………べっ!?」
洞窟の入り口の脇に立ち、周囲を篝火で照らしていた見張りに対し、特に警戒する素振りも見せずに堂々と近寄って行ったシェイドとサタニシスは、声を上げられるよりも先に魔術を放って首から上を消し飛ばしてしまう。
ソレにより、大声を挙げる様な事をさせず、安全に見張りを処理する事に成功するが、力を失って崩れ落ちる身体によって篝火が倒されてしまい、小さくない物音と共に煙が周囲へと発生する事となってしまう。
思わぬ事態に互いの顔を見合わせる事となってしまうが、下草は払われている為に延焼の心配は特には無いし、物音で寄ってくるのであればわざわざ炙り出す手間も省けるから別に良いか、と互いに肩を竦めて無造作な足取りにて洞窟へと近寄って行く二人。
未だに襲撃に気付いていないのか、それともどんな相手に襲われたとしても返り討ちにしてやる!と言う自信が在るのかは定かでは無いが、特に慌ただしい雰囲気が在る訳でもなく、内部からは騒がしい空気のみが伝わって来ていた。
流石に、反響しやすい洞窟の入り口にて声を出して会話する事は憚られる為に、視線と素振りにて会話して行く二人。
『どうする?ここから魔術の一発でもぶちこんで、洞窟ごと潰しちまうか?』
『でも、そうすると後片付けとか面倒じゃない?
それに、ギルドにどうやって報告するの?何かしらの証拠が必要になるんでしょう?』
『あー、確かに。
ここのボスの首なり、今まで奪われた荷物の一部なりを回収する必要と、後は全滅を確認する必要も在ったわ。
そう言う意味合いだと、さっきの見張りを問答無用で殺したのはちと不味かったな……』
『そう言えば、想定してなかったけど人質がいた場合はどうするの?一発投げ込んだ場合、そう言うのがいたら一緒くたに死ぬ事になるだろうけど、そう言うのは助けないと不味いんじゃないの?』
『いや、その辺は割りとどうでも。
その方が評価は上がるかも知れないけど、ぶっちゃけそこまでしてやらなきゃならない理由も義理も無いから、気にしなくても大丈夫だ』
『ふぅん?そう言う処って、意外と人族って冷淡って言うか、淡白って言うか、そんな感じなんだ?
てっきり、どうなってでも助ける!とか言うのかと思ってたけど?』
『ハッ!そんなご立派な考えしてるんだったら、そもそも俺はこんな処にいやしねぇよ!
それとも、絶対助ける!とか言うつもりか?』
『まぁ、ソレもそうね。
私としても、別に敵対種族の数が減ろうがどうしようがねぇ……って感じだから、そんな事言うハズが無いでしょう?』
『ソレもそうか。
取り敢えず、一気に殲滅するのはダメっぽいから、多少面倒でも一匹一匹潰して行くとするかね。
それで、中に入って行くのと、出口を抑えて逃げ道を塞ぐのと、どっちが良いよ?』
『じゃあ、私が見張り役やっておくよ。
戻って来たヤツ、逃げて来たヤツらは片付けておくから、思う存分殺っちゃってくれて良いんだよ?』
『おう。じゃあ、サクッと殺って来るわ』
僅か数秒にて、しかも手振りと視線のみにてここまでの意志疎通を終えたシェイドは、サタニシスにこの場を任せた、と最後に手振りで示して見せた後、足音を潜めて洞窟を進んで行く。
自身が放った魔力の反響により、この洞窟が不自然な迄に整った一本道であり、その途中に後から掘って着けた様な小部屋が幾つも在る、と言う構造である事を把握すると、若干警戒を弛めて徐々に反響の強まって行く洞窟内部を進んで行く。
程無くして、入り口から一番近くに在った小部屋へと到着するシェイド。
小部屋と言ってもソレなりの広さが在り、多少不便であったとしても数名程度であれば寝起きをするには十分な広さが在り、その上で何人かが屯している事が、内部から聞こえてくる声と気配にて察する事が出来た。
情報収集も兼ねて、入り口付近にて気配を殺しながらシェイドが聞き耳を立てて行く。
「…………はぁ~、ったく。今日も親分と兄貴達はお楽しみか。
いい加減、俺達参加したいモンだぜ」
「仕方ねぇだろうがよ。
俺達はまだ新入りだぞ?碌に仕事もしてねぇんだから、お楽しみにだけ参加できるハズがねぇだろうがよ」
「いや、それは分かるけど、だからって俺達だってちゃんと働いてるんだぞ?
アイツと俺達で夜番は回してるし、獲物が掛かるかどうかの見張りも俺達だ。それに、襲撃の時も、ちゃんと参加して殺しだってもうやってる。なのに、お楽しみだけ参加できない、なんて理不尽だと思わないか?」
「んな事言ったって、どこ行っても新入りがその手の雑用担当だなんて事に代わりなんざありゃしねぇだろうがよ!
下らねぇ事抜かす暇があったら、夜番アイツと代わってやったらどうなんだ?あぁ?」
「…………はぁ、仕方ねぇなぁ~。
まったく、三十人規模の盗賊団だからやりたい放題し放題だ、って思って参加したけど、結局こう言う扱いか。やってらんねぇよ……」
「どうせもうすぐ新入りが入ってくるんだから、それまで辛抱すれば良いだけだろうがよ。それまで待てば、俺達だって━━」
「はい、残念。お前らが『お楽しみ』とやらに参加する事も、新入りが入ってくる事も、もう在りはし無い」
「あ……?」
ベシャッ!グジュッ!?ゴキゴキゴキッ!?
聞きたかった事は全て聞けた為に、苛立ちのままに殺意を剥き出しにした状態で部屋の中へと飛び込むと、内部にいた盗賊共を手当たり次第にぶち殺して行くシェイド。
既に隠密行動を取る必要性を感じていなかった為に、多少物音を立ててしまったとしても特に気にする素振りも見せず、近いヤツから順に素手で力任せに屠って行く。
壁へと投げ付けて汚ならしいシミへと変え、頭部を熟れすぎたトマトの様に握り潰し、魔力を解放した事による圧力にて全身の骨をバラバラにへし折る。
遠慮も呵責も無く盗賊を処理し、部屋の中を血みどろの地獄絵図へと変貌させる。
先程耳にしたのが本当であれば、最低でも残りはまだ二十人強残されているハズだが、もうそんな事はどうでも良い、と言わんばかりに気を昂らせながら部屋を後にして洞窟を奥へ奥へと進んで行く。
…………別段、義憤に駆られて、と言う訳では無い。有り得ない。
そう言った殊勝な感情が彼の内に残されており、その上でソレに従う様な性分をしていたのであれば、彼はこうして自らの事情を最優先してアルカンシェル王国を離れる事も、魔王討伐の任務を拒絶する事も無かったハズだ。何せ、そうすることが『義憤に駆られて人類を守護せんと行動を起こす』と言う事に他ならないのだから。
故に、彼の内に、知らない誰かが犠牲になったから、と怒りを覚える様な情動は残されていないし、寧ろ『だからどうした?』と言った感慨しか抱く事は無い。
彼がその様な衝動に駆られるとすれば、それは身近な『誰か』が、彼の目の届かない様な場所にて理不尽な暴虐に晒された場合に限るだろう。
…………では、何故彼はここまでの感情を励起され、小部屋を発見する毎に内部へと踊り込んで内部に屯す盗賊共を皆殺しにしているのか?
答えとしては、至極簡単な事だ。
それは、不快感。
誰かを虐げる事を良しとし、自らが楽な生活を楽しみたいが為に他者を貶め、嬲り、奪い取って破壊する事を嬉々として行う様な性根の持ち主共に対して、かつて無い怒りを抱いてしまっていたから、だ。
かつて、自身が置かれた心境に、自身の愉悦の為だけに他人を置く事を良しとする者に対しての憎悪が、彼をここまで掻き立てている、と言う事なのだろう。
そんな、正義感、とも呼べない様な衝動に従いながら洞窟内部を移動し、発見した小部屋を片っ端から真っ赤に染めつつ奥へ奥へと進んで行くと、とうとう洞窟の最奥へと到着する。
が、そこは洞窟へと踏み込んだ当初の様に馬鹿騒ぎの会場では無くなっており、殺気だった連中が得物を手にしながら目を血走らせ、入り口から入ってきたシェイドへと向けて視線を放っていた。
流石に、洞窟の構造上ここまで派手に殺していれば襲撃も伝わり、態勢を整えられるだけの時間を与える事になったか、と思う一方で、まともに迎撃する必要が在る、と判断できるだけの頭が在った、と言う事に少なくない驚きの感情を抱いていた彼に向かって、一際体格が良く、それでいて展開している盗賊達の背後にいた髭親父が言葉を投げ掛けて来た。
「…………おう、テメェ!俺様達が、悪名高きジェノス盗賊団だと知ってのカチコミか!?
そのクソ度胸だけは認めてやるが、この人数相手にして生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!!
それとも、今すぐソコで土下座でもしてみるか?そうすりゃ、少し痛い目を見て貰うが、その代わりに俺様の手下にしてやっても良いぞ?俺様は、テメェの腕っぷしだけは大したモンだと思ってるか━━「黙れ」━━らなけぇ!?」
バチュンッ!!!
…………が、当然の様に彼がそんな言葉に耳を貸すハズも無く、偉そうに自身が死ぬだなんて事を一切考慮に入れずに高説を垂れ流しにしてくれていた、自称『ジェノス盗賊団』の頭目と思わしき髭親父は彼の魔術によって、胸から下を水風船をバットで叩き潰した様な状態にされて絶命する事となる。
そして、数で勝っている自分達が負けるハズが無い。死なずに殺してまた奪い取って楽しく遊び暮らす事になるに違いない、と認識していたらしい盗賊団の連中の顔や身体を頭目の血潮が汚す事で自分達の認識が甘かったのだ、と言う事を悟ったらしく、必死に命乞いをし始める盗賊団員達。
「た、頼む!命だけは助けてくれ!」
「俺は、脅されて無理矢理やらされていただけなんだ!信じてくれ!」
「俺には家族が居るんだ!だから、見逃してくれ!」
自分達は自分達の愉悦の為だけに他人を害し、虐げておきながら、自分達は死にたくないから、守らなくちゃならない身内がいるから、とまるで助かって当然と言わんばかりの態度にて平気で命乞いをしてくる団員達の姿に、彼の中での憤怒が急激に膨れ上がって行くのが感じられた。
そうして彼は、外見上は命乞いをしているが、その実としては得物から手を離してすらいない連中に対して
「何故、俺がお前ら程度を助けてやらなくちゃならないんだ?」
との言葉を送ると共に、恐怖によって顔をひきつらせて行く盗賊共を魔術や拳を使って皆殺しにして行くのであった……。
好き勝手して他人を虐げる事を良しとする様なクズに対して掛ける情けは存在しないとです




