反逆者は監視者と共に盗賊団の拠点を襲撃する
アルテリアから依頼を投げられたシェイドとサタニシスは、手にした資料を交互に目を通しながら、一階受付にて正式に依頼を受諾して行く。
最悪、さっきのアレコレは『只の口約束でしょう?』と言う事で流されかねないし、依頼の方も『君達が勝手にやっただけでしょう?』と言われかねない状況に近しい状態である、とも言えた為に、そうさせない様にする為の予防策として実際に受諾した、それはギルドマスターからの指示であった、と言う記録を残しておく為だ。
ソレを知ってか知らずか、まだ依頼を達成していなければ向かってすらもいないと言うのにも関わらず、既に顔色を明るくして浮かれ調子で手続きを進める受付嬢を二人揃って微妙な思いで眺めて時間を潰していると、サタニシスの初期登録と依頼の手続きが終わったらしく、シェイドは提出していたカードを、サタニシスは登録費用と引き換えに新品のカードをそれぞれ手にしてギルドを後にする。
本来であれば、ここで装備品の類いを取りに戻ったりだとか、旅路で消耗した物資を補給したりだとか、そもそも到着したばかりで疲労が残っているのだから実際に動くのは明日以降にして宿に戻る、だとかをするのだろうが、シェイドとサタニシスの二人はそのどれをするでも無く、普通に依頼の現場へと向かうべくウィアオドスの通用門を目指して街中を進んでいた。
基本的に、必要なモノは全て『道具袋』にしまっている上に、まだまだ内部には食料の類いは残されて居るし、本人達の疲労もまだ一つ依頼をこなす程度ならば楽勝、と言った程度には残されている。
その為に、面倒臭い依頼は先に片を付けておいて、それが終わってからゆっくりと休んで英気を養う、と言う方針を取る事に決めたのだ。
故に、面倒事をサクッと終える為に移動を開始した二人であったが、その道中にて
「そう言えば、何で上級冒険者への昇格は断っていたの?上に上がれるのなら、そうしておいた方が良いんじゃないの?」
と、サタニシスが疑問を口にする。
どうやら、シェイドとアルテリアのやり取りをギルドにいた時から気にしていたらしく、二人きりで暇な移動中に思いきって聞いてしまえば良い、とでも判断したのだろう。
そうして寄せられた質問に対してシェイドは、足を止める事はせずに顎を揉む様にしながら少し考えた後、彼女から向けられた言葉に対しての返事を口にして行く。
「…………あぁ、そう言えば、お前さんは冒険者に対しての知識だとかその辺が丸ごと欠けてるんだったっけか」
「……な~んか、そこはかと無くお姉さん馬鹿にされてない?コレ。
まぁ、元々あんまり興味の在った仕組みでも無かったから、否定は出来ないんだけどさぁ~」
「拗ねるで無いよ。
で、俺が上級への昇格を蹴った理由だけど、冒険者に対する規約で、上級冒険者以上は固定で何処かの支部に所属しないとならない、って決まりが在るんだよ。
それと、上級以上になってくると、ギルドその物から発効される『緊急依頼』と個人を指定して出される『指名依頼』から逃げられなくなるんだよ」
「…………ん?私の理解不足かい?
前者は、多分アレだよね?今回みたいに、急ぎだけど難易度が高いから誰にでも投げる訳には行かない、みたいなヤツだよね?
で、後者は『こいつなら行けるハズだ!』『この人にこそ任せたい!』って場合に使われるヤツなんじゃない?名前的に。
それが、そんなに逃げなくちゃならない位に面倒な事になる訳?」
「それが、なるんだなぁコレが。
前者に関しては、取り敢えずそう言う分類になったらソイツにぶん投げておけ、ソレが義務だろう?と対応が雑になりがちだし、そもそもこちらの事情や予定を加味してくれやしないからな。後、断れない、って言うのも俺的には気が進まない点の一つだ」
「…………あぁ、無理矢理やらされている感がして嫌なんだ……」
「否定はしない。
それと、後者に関してもそう言う事をしてくれる様な連中って言うのは、どいつもこいつも変にプライドが高い連中ばかりだ。だから、以前アイツの依頼を受けたのならば今度はこっちのを、ソレが終わったらアイツのよりも難易度の高い依頼をこなして来い!だとかのしがらみやら軋轢やらから逃げられなくなる。
正直、貴族家やら豪商やらのマウントの取り合いの駒にされるのは面倒に過ぎるし、何より俺が不快に過ぎる」
「…………うわぁ~、スッゴい分かるソレ~。
うざったくて皆殺しにしたくなるよねぇ~」
「で、更に言うと、上級冒険者以上がしなくちゃならない『特定の支部に所属』ってヤツは、言い換えれば『基本的にそこでだけ活動する事になる』って話だよ。
最上級に近い戦力が何処にいて何時動かせるのか、って事を緊急時に迅速に把握する為の制度らしいけど、今はほぼ風化している様なモノだし、そうやって所属で縛られると、例え依頼であったとしてもソコから長期間離れる様な事も禁止される様になるから、なおのこと俺が受ける訳に行かないのは分かるだろう?」
「あ、やっぱりそう言う口だった訳ね?
そうでないと、君なら他のは無視出来なくは無いハズなのに、何でそこまで厭うのかなぁ?と思ってた処だったからね~っと、もしかしてここかな?」
「そうっぽいな。
じゃあ、さっさと行って片付けるか」
サタニシスから向けられていたギルドの制度についてのアレコレに対して応えつつ、そこはかと無く『もしかしてコレって情報漏洩の類いだったりしないかしらん?』と思いながら道を進んでいると、資料に出ていた目標の連中が良く仕事に使っていると言う小さめな街道へと到着する二人。
団の規模が大きく無いのか、それとも発覚を少しでも遅らせたかったからなのかは定かでは無いが、こう言った小さめな街道を通過する、規模も小さくて護衛も少ない隊商ばかりを襲って皆殺しにし、荷物を強奪していたとの事だ。
世界的に見ても、比較的魔物の被害も多く地形的な問題で道が崩れる事も多いために、被害届が出される事自体が遅れる事と相成って、こうして事が発覚するのが遅れた訳なのだが、そのお陰でこの二人が派遣される羽目になったので、あまり企みが上手く行ったお陰、とは言えないのかも知れないが。
資料に記された地形や、襲われたと思わしき隊商が最後に目撃された村の位置等から鑑みて、恐らくはこの辺りで襲われており、ソコから逆算すると多分この辺に拠点として使っている塒の類いが在るハズだ、と見当を付けて街道を離れ、鬱蒼と生い茂る森の中へと踏み入って行くシェイドとサタニシス。
恐らく、まだ盗賊団の警戒地域に触れてはいないだろう、とは思われるが、警戒するのに越した事は無いだろう、との考えから、素早く移動しながらも、大きく藪を動かしたり枝を折ったりする事はせず、二人で連れ立っていながらも驚く程に静かに進んで行く。
流石に、小さいとは言え街道を一本丸ごと仕事場としてくれている盗賊団の拠点を、おいそれと容易く見付ける事が出来る訳も無く、初日は日が暮れ掛ける事となる、
そろそろ、頃合い的にウィアオドスに戻るか、もしくは野営の準備に移る為に手頃な場所を探す必要に駆られる時刻になってきた為に、二人で『どうするのか?』を話し合って行く。
「どうするよ?
戻るか?残るか?」
「う~ん……流石に、そろそろ柔らかいベッドでグッスリと眠りたい処だけど、イチイチ戻って来てを繰り返す事になるのも面倒だしなぁ……」
「一応、帰りは行きほど周囲を気にしなくても良いからそこまで時間は掛からないし、残るにしても道具も食料も持ち込んであるから気にしなくても構いはしないだろう。
だから、どちらでも行けるぞ…………って、ん……?」
「でも、やっぱりお風呂入ったばっかりでこう言う処での野営はなぁ……お姉さんとしては、効率考えると戻るのは面倒だけど、それでもねぇ…………って、きゃっ!?」
唐突にサタニシスとの距離を詰め、その身体を抱きすくめながら口元を押さえるシェイド。
何の兆候も無く行われた蛮行に対してサタニシスの方も、普段の彼をからかう様な言動とは裏腹に身体を強張らせながらも、何処かソレを予期していたような、何かを諦めた様な色を瞳に浮かべると、徐に普段は抑えている魔力を解放し始める。
そんな彼女に対してシェイドは、周囲を窺う様子を見せながらも耳元へと口を寄せると、囁く様にして言葉を放つ。
「…………しっ!
いきなりで済まんし、不躾だとは理解しているが、騒がずに静かにしてくれ。
気配を捉えた」
「…………!?
それって、もしかして例の盗賊団の?」
「あぁ、多分な。
街道から離れた処で、複数人で固まって移動してる事を鑑みると、確率としてはそれなりに高いと思う。
今は、割りと近くにいるから、このまま通り過ぎるのを待ってくれ。バレたくない」
「………………別に、出会う端から殲滅しちゃっても構わないんじゃないの?」
「ソレだと面倒じゃないか?
なら、バレない様に追跡して、本拠地を掴んでから一網打尽にしてやった方が楽に片付くだろう?だから、今は静かに」
「…………へいへい。お姉さん的に、どうとも思われて無いみたいなのは癪だけど、今は君の方針に従いますよ~っと」
…………何故か若干拗ねた様な口調にて、彼と同じく囁く様にして言葉を返したサタニシスも耳を澄ませて行くと、シェイドが捕捉したのと同じであろう集団の気配を察知する。
案外と近くにまで来ていた事に驚きつつ、気配を隠してその場に待機し、集団が行き過ぎるのを待ってから二人揃って音や気配に気を付けながらその後を追いかけて行く。
すると、追跡していた集団は案の定盗賊団の分隊であったらしく、多数の気配を内包した入り口に篝火を炊いている洞窟へと到着する事となる。
「…………さて、こうして本拠地と思わしき場所を抑えた訳だけど、どうするよ?
一応、場所を見付けた、って事でギルドに報告する事も可能だと思うが……」
「いや、面倒臭いし、私と君なら幾らでもやり様は在るんだから、さっさと殺っちゃっても構わないんじゃない?
どうせ隊商を襲った時なんかに人殺しもしているんだろうから、別に慈悲を掛けてやる必要は無いでしょ?」
「…………まぁ、それもそうか。
じゃあ、サクッと片付けてさっさと昇格しちまうか」
「そうしましょ」
そうして、軽い感じで言葉を交わした二人は、特に警戒する様子を見せる事もせず、軽い感じで隠れていた茂みから姿を現すと、真っ直ぐに洞窟を目掛けて進んで行くのであった……。
次回、ジェノサイド




